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はじめてのDAO【後編】|DAOの類型とつくり方

2021年07月17日

目次

  • 前提
  • 3.DAOプロジェクトの類型
  • 4.DAOの作り方
  • 総論

前提

「はじめてのDAO【前編】【後編】シリーズ」ではDAO(自律分散型組織)をこれから学びはじめたい方、ある程度知っているけれど大まかな全体像や役割を理解したい方、どうやってつくるのかを知りたい方を対象に「1.DAOとは何か」「2.DAOの歴史と現状」「3.DAOの類型」「4.DAOの作り方」を順に解説します。
今回はその後編であり、「3.DAOの類型」「4.DAOの作り方」に焦点を当てて解説します。
本シリーズで個々のDAOのビジネスモデルを説明することはありませんが、DAOの基礎的な理解を通じて、どこに組織としてのバリュードライバーがあり、どのような価値創造を行なっているのかを捉えられるきっかけになればと思います。
なお、はじめてのDAO【前編】は全文一般公開しています。後編は「3.DAOプロジェクトの類型」を基礎講座シリーズとして一般公開致します。「4.DAOの作り方」は有料会員限定コンテンツとなります。

3.DAOプロジェクトの類型

DAOの基本となる型は前節までで説明した通りですが、その具現化した姿は一様ではなく多種多様です。
代表的なものとして前述したInvestment DAO、Grant DAOのような投資や助成金を提供する分散型ファンドが挙げられ、暗号資産プロジェクト全般を対象するものや、Ethereum2.0を対象としたもの、アート作品の所有権として表されるNFTを対象とするものなどInvestment、Grant DAOだけでも多様性があります。
DAOの類型はどの側面で切り取るかによって変わり、ある枠組みに収めて分類することは困難ですが、Cooopahtroopa氏がDAO LANDSCAPEとしてカオスマップを作成していますので、本レポートではこちらを参照してDAOの類型を順に紹介していきたいと思います。
出典:https://coopahtroopa.mirror.xyz/_EDyn4cs9tDoOxNGZLfKL7JjLo5rGkkEfRa_a-6VEWw

Investment DAO

あるプロジェクトに共同出資することを目的にした営利目的のDAOです。
法的な制約が存在するため、パーミッションレスな性質は犠牲になっていますが、「経済資本」中心にして利益を生むことを目的に参加者が集まりますので、Grant DAOと比較すると資金が集まりやすくWeb3.0界隈プロジェクトへの影響力が大きくなる可能性のあるDAOと言えます。
モデルとしては既存の中央集権型ファンドの分散モデルと言えますが、ファンドが蓄積してきたノウハウや関連プロジェクトとの連携ネットワーク構築のような経済的支援以外の側面で投資先プロジェクトをサポートできるのかは今のところ未知です。支援してきたプロジェクトから得たインサイト、言い換えると経験値を広くコミュニティに伝搬することはできても、知識や経験値を平等に蓄えることは困難です。伝搬対象をコアメンバーに絞ることや、もしくはそもそも蓄積は行わず、柔軟に入れ替わる個々のメンバーの集合知でこれまでのファンドができなかった支援方法を提供するのか、その実態は不明ですが興味深いポイントの一つです。
例)GenesisDAO、The LAO、MetaCartel Venture、Flamingo、Komorebi、Udacity Fund、BitDAO、Free Company、Duck DAOなど
【Investment DAOのレポート】

Grant DAO

DAOの起源はInvestment DAOですが、最初のユースケースとして正式稼働したのはGrant DAOです。
コミュニティは資金をDAOに寄付をして、その資本の使途をガバナンスを通じて決定するという仕組みです。譲渡不可能なトークンとして参加者にガバナンストークンを配布していたこともあり、「経済資本」中心にではなく、「社会資本」中心に集まるメンバーで構成される傾向にありました。つまり、経済的な利益ではなく、共通の社会的課題解消に動機付けられたメンバー構成である点が特徴です。この点に関する筆者考察を【コラム④】「社会資本」中心と「経済資本」中心のDAO比較として後述しています。
例)MolochDAO、MetaCartelDAO、Uniswap Grants、Audius Grants、Mint Fund、Seven Foundation、Compound Grants、Aave Grants
【Grant DAOの関連レポート】

Protocol DAO

DeFi Protocol群を中心に発展しているDAOです。Protocol DAOはコアチームからコミュニティにProtocolの権利を徐々に移行させ、将来的にはコミュニティ主導で自律的に運営される理想的なDAOを目指す傾向にあります。Maker DAOがまさにそれを早期から謳い、取り組んできたプロジェクトと言えます。
ガバナンストークンの保有者はプロトコルを管理するためにトークンを用いて、基盤となるメカニズムの変更提案や投票、実装を推進することが理想とされます。
これまでのDAOと決定的に異なるのは譲渡可能なERC-20(BEP20なども類似)としてガバナンストークンを発行していたことであり、エアドロップやある行動に対する動機づけを行うための報酬としてガバナンストークンを配布するというマーケティング手法で注目を集めました。フェアローンチやファーミング、流動性マイニングといった言葉はこのProtocol DAO群が2020年、2021年に生んだ業界内の流行語と言えるでしょう。
ガバナンストークンの新奇性は別途【コラム⑤】ソーシャルガバナンスの文脈にみるガバナンストークンの価値で後述しています。
(例)DeFiプロトコルについては事例に枚挙がありません。DeFi以外ではAudiusやOcean DAOなどがこのProtocol DAOに含まれます。
【Protocol DAOの関連レポート】

Service DAO

DAOの特徴として語られる要素の一つに「働き方の変化」が挙げられます。理想的なDAOに共通する特徴ですが、Service DAOはこの要素だけを抽出してDAO化している点が特徴です。
Service DAOを一言で表すと分散型ワーキンググループです。インターネットを介して様々なタレントが特定のプロジェクトを遂行するために集い、クリエイティブな作業やマーケティング活動、開発、財務管理など個々のタレントに応じて働き、対価としてトークンを受け取るというものです。
例えばServiceDAOのRAID GUILDでは参加するために事前に自身の経歴をフォームを記入し、申請登録、協議を経て採用の如何が決まります。つまり、今のところは自己申告の経歴ですので、検証コストは従来通り掛かり、体験としてはクリプトネイティブな環境でのワーキンググループという印象を受けるのみです。仮に個人の活動による評価がクレデンシャル(VCのようなもの)として発行され、個々のアドレスに紐づいて蓄積されていくということが実現するのであれば、従来の自己申告による職務経歴書が抱えていた検証コストを抑えた高効率な働き方が実現する可能性はあります。このクレデンシャルをNFTで代替するような発想もありますが、該当アドレスから移転できない工夫は必要でしょう。
また複数のDAOが微生物のように自律的に機能するのであれば、相互に関係しながらMesh Networkのような概念(言い換えるならホラクラシー組織の拡張版)を構築するということも連想できるでしょう。この文脈ではService DAOの今後の成否が大きく影響する可能性はあり、スマートコントラクトと暗号資産を介したインセンティブ設計が注目されるDAO群です。
(例)RAID GUILD、DXdao、PartyDAO、MetaFactory、DAO Hausなど
【DAOでの働き方に関連するおすすめレポート】

Social DAO

Social DAOはGrant DAOの社会資本中心の性格を抽出したDAOと言え、共通の関心を持つメンバー間で価値感を共有するDAOです。その意味で従来のソーシャルネットワークと同様なのですが、唯一異なるのはそのコミュニティへの参加の証としてコミュニティが発行するトークンを保有しなければならないという点です。
ソーシャルネットワークと同じという意味では、他のDAOもソーシャルネットワークではないかと疑問に思うかもしれませんが、Social DAOとは初期のコミュニティ参加者がコミュニティを盛り上げて参加者規模を大きくすることで、その分だけトークンの需要が増え、トークン価格が上向き、初期のコミュニティ参加者はコミュニティトークンによるキャピタルゲインを得ることができる。というものですので、投資対象がコミュニティの外ではなく内(コミュニティそのもの)に向いています。ですので、Social DAOのメンバーはコミュニティネットワークの価値を上げるために活動する動機はあり、それゆえに自律性を有しやすいと解釈することもできます。ただし、フリーライダー問題はあるため、個々のメンバーに寛容さを求めるか、コミュニティ内の評価システムを設ける(中央集権型に寄せる)か、報酬システムを設けるかなどの工夫は必要になります。
Social DAOに含まれるものとしてはFrinds With Benefits(FWB)Seed Clubなどが挙げられます。上記のカオスマップではRadicleもこのSocial DAOに含まれていますが、Radicleをソーシャルネットワークとして捉えるならばSocial DAOに含まれますし、Media DAOのBankless DAOなどもここに含むこともできます。Radicleについては以下の関連レポートを参照ください。

Collector DAO

Collector DAOは何かを収集するために結成されたDAOです。その何かは多くの場合NFT(ノンファンジブルトークン)です。NSA内部告発者として著名なスノーデン氏が鋳造したNFTを525,000ドルで購入したPleasrDAOがCollector DAOとしては有名でしょう。執筆時点ではPlaesrDAOがNFTを担保にローンを組んだことも話題になっています。
Collector DAOは特定のアーティストやプラットフォーム、シリーズものなどを集める傾向にあり、NFTを価値づける主要プレイヤーとして機能していると言えます。

Media DAO

Media DAOはニュースレターなどのコンテンツを提供するメディアをDAO化したプロジェクト群です。Fore Front(FF)DAOBankless DAOのように暗号資産、ブロックチェーン領域でもディープなニュースレターを配信していた中央集権型メディアが分散モデルを志向した形です。
FF DAOの仕組みを簡単に紹介すると、優れたコンテンツを提供するライターに対して報酬としてFFトークンを与えるというものです。FFトークンはガバナンストークンですので、DAOの所有権の一部を与えると解釈することもできます。重要なポイントはコミュニティから提案された全てのコンテンツが採用されるわけではなく、優れたコンテンツをコアチームやコントリビューターが審査して採用の如何を決めているという点です。つまり、DAOであったとしてもコンテンツに対するブランディング戦略がなされているわけです。これはBankless DAOでも同様の傾向を示しており、曖昧さを排除したい機能についてはコミュニティ内にヒエラルキーを設けて意思決定方法を効率化していると解釈できます。

【MediaDAO関連ポート】
本筋からは脱線しますが、FFの支払いにはSablier Financeと呼ばれるマネーストリーミングサービスが利用されているようです。つまり、コンテンツ提供した時点で報酬支払いが完了するのではなく、30日間をかけて徐々に支払いが実行され、採用から30日後に権利が確定する仕組みです。Sablierについて以下の関連レポートを参考ください。
【関連レポート】
参照:DAO Landscape

【コラム④】「社会資本」中心と「経済資本」中心のDAO比較

Grant DAOは現在のDAOの中では比較的従来のオープンソースプロジェクトに近い性格を持つプロジェクト群であると筆者は考えています。
Genesis DAOやDeFi Protocol DAOは「経済資本」を中心にしたインターネットコミュニティであるという点でこれまでのオープンソースプロジェクトとは異なる性格を持っています。一方のGrant DAOはDAOトークン(ガバナンストークン)が譲渡不可能なものとして設計され、かつ営利目的ではなかったために経済的な動機づけでコミュニティを形成しづらく、共通の価値観を持つなど社会的な関係性によって強く動機づけられたメンバーで構成される(あくまで傾向です)という性格を持っています。つまり「社会資本」を中心にするインターネットコミュニティであるという点で、Genesis DAOやDeFi Protocol DAOとは異なる性格をもつDAOです。この点を一度整理します。
【経済資本中心】
  • メリット|経済的インセンティブによって参加者が集まるため資本形成が容易
  • デメリット|共通の社会的課題を持つメンバーのみで必ずしも構成されるわけではないため、自律性を持つ有権者は相対的に少なく、民主主義的なガバナンス投票で方針を決めることが非効率になりやすい。
【社会資本中心】
  • メリット|共通の社会的課題をもつメンバーで構成されるため、DAOとしての意思決定や参加者のコミットが強くなる傾向にあり機敏に働く傾向にある
  • デメリット|経済的なインセンティブが弱いため、参加者が限定され資本形成が困難
DAOは「スマートコントラクトの集合体」ではありますが、一方でその枠組みの中に価値観の異なる人々が集まって形成されるコミュニティでもあります。Genesis DAOにしても、DeFi Protocol DAOにしてもですが、金銭的な外的要因に動機づけらて集まるコミュニティは資本が集まりやすいという利点はある一方で、共通の社会的課題を持たないメンバーが相対的に増える傾向にあります。この結果ガバナンス投票への参加率が少ないという問題であったり、関心の低い有権者で構成されてしまうために美人投票となりやすいという問題が生じたり、フリーライダー問題であったり、分散型コミュニティの非効率性がより強調されやすくなることは否めないでしょう。
一方のMoloch DAOのような社会資本で強く繋がったDAOは、その活動実績を見る限りにおいて、価値観が共通するためか意思決定が比較的迅速であるような印象も受けます。
参照:https://molochdao.medium.com/moloch-2019-year-in-review-eb6f53dc035
視点を変えて、社会資本中心と経済資本中心のコミュニティの違いをオープンソースプロジェクトの特徴に照らして一度見てみましょう。オープンソースプロジェクトの性格は古典的エッセイ「伽藍とバザール」で描かれています。伽藍形式とバザール形式の特徴を大まかに整理すると以下のようになります。
【伽藍】|不透明ながら効率性を追求したモデル
  • 緻密な計画、堅牢な設計
  • 中央集権
  • 長いリリース期間
【バザール】|透明性重視で非効率を許容するモデル
  • 状況に応じた柔軟な計画と設計
  • 自律的な小集団
  • 細かく手早くリリース
DAOは分散型であるという点でバザール形式の血を引き継いだプロジェクト群と言えます。しかし、初めてのDAO 【前編】 コラム③で説明したように実態としてのDAOは中央集権型(伽藍)と分散型(バザール)の間の子であるため、個々のDAOの性格にはグラデーションがあります。
例えば社会資本を中心とするDAOは主に「情報」にもとづいた分散型コミュニティと言い換えることができ、この意味では従来考えられていたオープンソースプロジェクトに近く、比較的バザール形式に近い性格をもちやすいと言えます。
一方の経済資本を中心とするDAOは「情報」に加えて「金銭的価値」にもとづいた分散型コミュニティと言い換えられ、内的要因で動機づけらたメンバー以外も含む、より多様な価値観をもつ不特定多数のコミュニティとなりやすく、より複雑なガバナンスモデルを必要とする可能性があります。
伝統的なソーシャルガバナンスモデルで価値観の異なる不特定多数のメンバーを同じ方向に進めるには、伽藍形式(中央集権型)で対応する方が効率的であり、ゆえに現状の経済資本中心のDAOは伽藍形式がもつ性格を一部内包するような形となっているものもあります。
一部内包すると記載しましたが、コアチームだけで物事を決める伽藍形式とした方が効率的になるパターンもあると言うことです。なぜならトークン所有者という枠組みでは全てのコミュニティメンバーは平等ですが、これらのメンバーは外的要因、内的要因のいずれの動機で参加しているかで大きく二分することができ、前者が従来の株式会社で言うところの株主なのに対して、後者は社員のような立ち位置であると言え、それぞれの役割が異なるのにこれらの区分けを曖昧にしてしまうと組織としての意思決定が非効率になりかねないからです。

分散モデルとはそもそも非効率性を許容する組織モデルであることを忘れてはならず、その非効率性をどのように許容し、どのように解消するかを問うモデルでもあります。それゆえに、この点を疎かにしたDAOはただの烏合の衆になりかねないということは意識しておかなければなりません。
ただし、この社会資本と経済資本の区別を緩やかにでも行えるのであれば、コアチームを分散モデルで展開することもできますし、実際にそのような方向性を志向しているDAOも存在します。ですので、経済資本中心のDAOは分散モデルにはなり得ない、という訳ではありません。
明らかに新しいモデルはDeFi Protocol DAOのような経済資本を中心にした分散コミュニティであり、伝統的なソーシャルガバナンスモデルとは異なる新奇性のあるアプローチが模索されています。この点は後述の【コラム⑤】ソーシャルガバナンスの文脈にみるガバナンストークンの価値で言及します。
Moloch DAOのより詳細な情報は以下のレポートで解説しています。
このレポートは有料会員限定です。
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