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2023年の暗号資産・Web3業界の10の予想

2023年01月07日

目次

  • 前提
  • 1.マーケット環境は引き続き厳しい
  • 2.クリプトファンドは苦しく、スタートアップも資金調達は困難
  • 3.L1やL2も選別が進む、独自ブロックチェーンは増える
  • 4.GameFiは一度成功して、踊り場も経験する
  • 5.NFTはインターネットの新しいツールとして緩やかに一般に浸透する
  • 6.DeFiのCeFiに対するシェアは高まるものの、持続性は引き続き課題
  • 7.これまでと異なる事業環境
  • 8.規制は厳しい目線が注がれながらも、決定的な枠組みは生まれず優柔不断な状態が続く
  • 9.ステーブルコインの競争環境
  • 10.AIとWeb3
  • 総括

前提

本レポートでは、筆者の2023年の暗号資産・web3業界の10の予想を述べます。
2022年は、世界的なインフレーションの高まりを受けて、多くの主要国の中央銀行が金融引き締め政策に転換しました。
加えてロシアによるウクライナ侵略といった地政学リスクの高まりを受け、投資家はリスクアセットを回避、結果、暗号資産やNFTなど関連するアセットクラスは大幅な価格下落に陥りました。
そして、それらを引き金としたTerraUSD(UST)、3AC、Celsius、FTX の破綻などの負のスパイラルが業界全体を襲いました。暗号資産の歴史10年超を俯瞰しても、これほど痛みを経験した年はなかったと振り返れます。
一方で、EthereumのThe Mergeの成功、世界的なビッグブランドやラグジュアリーブランドあるいはコンテンツホルダーがWeb3業界に参入したり、勢いは短期間で失われたもののStepnなどが新しいブロックチェーンのコンシューマアプリケーションの可能性を見せたなど、悪いニュースと比較するとやや霞むものの、業界の進展ももちろん見られました。

今回は、これらを経て2023年はどのような年になるか、筆者の視点で予測します。ただし予め免責として、私の予想に限らず年始の予想というのは大抵外れたり、全く予想外のことが起きるものです。特にマーケットに関わる予想ほどあてにならないものもありません。また金融市場も事業環境も刻一刻と変わっていくことから年初という特定の時点での予想は、エンターテイメント以上の役割はあまりありません。それでも私が年始予想を書くのは、エンターテイメントとしては面白いことと、私も読者として他者の年始予想を読んでそれ自体ではなく、そこから「少なくとも皆はこう考えているから、ここに資金が向かうかもしれない、競争が激しくなるかもしれない」というような二元的思考をすることには意味があると感じるためです。また本予想は、HashHubを代表する予想ではなく、あくまで筆者個人の予想であることも免責しておきます。
予想は、マーケット・ビジネス環境・技術トレンドの分野は問わず、10の要点で纏めています。

また挨拶が遅れましたが、本年もどうぞ宜しくお願い致します。

1.マーケット環境は引き続き厳しい

マーケット環境は引き続き厳しいことが予想されます。一時的なリバウンドは経験しても、2023年内に強気相場に戻ることは考えづらいでしょう。2023年内は利上げが一巡するものの、インフレーションは通常、一過性でないことが多く金利はある程度の水準で高止まりすることは大まかなコンセンサスになっています。
またもし暗号資産の購入を検討している巨大なスマートマネーが存在するとするならば、往々にしてそういった資金の担い手は、他のプレイヤーが売らざるを得ない時に、安値で買うことを好みます。売らざるを得ないような局面に陥る可能性を持つレバレッジをかけたポジションを保有するプレイヤーは業界内にまだ存在します。担保入れした借り入れや社債でBitcoinを購入するMicro Strategyや、マイニング機器を融資で調達してマイニングする事業者です。個別のプレイヤーのデフォルトを予想することは決してありませんが、こういったプレイヤーを残している以上、年始時点でまだチャートはまだボトムに到達していない可能性を考慮すべきというのが私の意見です。
さらなる大きな下落に見舞われずに、2024年の半減期を期待する相場まで業界が耐えられるかに筆者は関心を持っています。

2.クリプトファンドは苦しく、スタートアップも資金調達は困難

第二の予想として、クリプトファンドは苦しく、スタートアップも資金調達は困難という点です。
FTXやTerraUSD(UST)の直接的な影響を受けていなくても、クリプトファンドはビジネス継続性の困難に直面するはずです。
2022年上半期以前に高いバリュエーションでトークンを投資を実施していたファンドはほとんどのポジションで減損処理を迫られるでしょう。トークンが未上場で市場価格が洗替えされていない場合は、今期の減損はされないかもしれませんが、厳しいパフォーマンスが徐々に明るみに出るはずです。
ファンドはまだ投資余力(ドライパウダー)を残しているものの、トークンの市場価格のアップサイドを見込むことが以前より困難になっているため、その投資は限定的な規模で行われることが予想されます。また2022年のクリプトファンドの厳しい成績を顧みて、新しいクリプトファンドが組成されることは少ないでしょう。つまりドライパウダーが新しく増えることもありません。
また、より悪いシナリオを考えるならば、ファンドは運営継続や顧客への償還のために、流動性が十分でないにも関わらず保有トークンやスタートアップの株式を売却せねばならず、その売却が市場をさらに引き下げ、後続の資金調達のバリエーションをさらに傷つける可能性も想定されます。

3.L1やL2も選別が進む、独自ブロックチェーンは増える

2022年の厳しい市場においても、L1やL2のいわゆるスマートコントラクトプラットフォームは比較的、人気な投資先でした。
多くのサードパーティーを巻き込むスマートコントラクトプラットフォームのネイティブトークンは必ず二次流通市場が誕生して、成功した場合においてはEtheruemやBNB ChainあるいはかつてのSolanaのように大きな時価総額になる可能性があるセグメントであり、期待値の観点で投資家から好まれてきた背景があります。しかしながらそのプラットフォームの数はもはや膨大になり、明確に選別のフェーズに入るでしょう。新規での投資も以前ほど見られていません。
またマーケットの状況からDeFiなどのトランザクションは少なく、ブロックスペースの需要がピーク時より大幅に減少していて、少なくとも今日時点においてはレイヤー2や高速なブロックチェーンの必要性は後退しています。そういった状況の中で繁栄するプラットフォームが絞られるはずです。現時点では、BNB Chain、PolygonやAvalancheが一定の差別化をできています。
ブロックチェーンというプラットフォームは、その性質上、完全に停止や閉鎖することはほとんどありませんが、競争に負けたプラットフォームはゴーストタウンのような状態になるでしょう。またその段階では、シード投資をしたファンドはロックアップが解除されるごとにネイティブトークンを売却することになります。
またCOSMOS SDKなどをはじめとしたフレームワークによる独自ブロックチェーン型アプリケーションは2023年も増えるはずです。背景は、開発プラクティスの浸透(モジュールの増加)・IBC(inter-blockchain communication protocol)の実用化などが挙げられます。そして何より起業家・開発者にとっては、発行トークンにステーキングの用途を持たせることで、ネイティブトークンが汎用ブロックチェーン上で構築する際と比べて価格がつきやすい傾向にあります。 そうした期待値も開発者の独自ブロックチェーンの移行を推し進めています。dYdXなどがその代表例ですが、他にも様々なプレイヤーが独自ブロックチェーンの開発を初めています。

4.GameFiは一度成功して、踊り場も経験する

2023年中にブロックチェーンゲームやGameFiは大きな進展をするのではないかと予想しています。国内外でゲーム業界のビッグプレイヤーが参入を既に発表しています。こういったプレイヤーが実際にゲームをリリースするのが今年の上半期です。既にSTEPNやAxie Infinityの失敗要因はある程度研究されていて、そのうえでゲーム事業者として経験値があるプレイヤーからゲームが複数リリースされることが見込まれています。
ゲーム事業者にとっては、NFTやマーケットプレイスを組み込んだゲームは、新たな課金モデルとして定着するはずです。
一方、2023年中に一定レベルの成功を経験する可能性もありますが、同時にNFTの販売手法が社会問題のようになって踊り場を経験する可能性も十分にあると予想しています。これはモバイルゲームの黎明期に起きたことを、少し形を変えて繰り返すのではないかという懸念です。

5.NFTはインターネットの新しいツールとして緩やかに一般に浸透する

NFTはインターネットの新しいツールとして緩やかに一般に浸透するはずです。コンシューマブランドは新しいユーザー獲得手段としてNFTを用いてそれが一般ユーザーに触れたり、TwitterやInstagramでNFTを保有証明や送付することもより容易になるはずです。まだブランドやコンシューマ企業はこれまでNFTに片足を突っ込んでも、その効果を十分に引き出せていません。現在目立つのはNIKEですが、その他のプレイヤーもさらに学習と実験を進めて、顧客への価値に組み込んでいくでしょう。
NFTプロジェクトも引き続き増えることが予想されます。NFTプロジェクトは、生産コストが低く、成功したときは一定の収益が生まれるという性質上、新規プロジェクトの数は後が立たないでしょう。その過程では、NFTプロジェクトの売上の立て方や成功確率の上げ方も、より体系化されることが予想されます。その点では一時期のキュレーションメディアの事業環境のような立ち上げ→収益化→EXITを繰り返すようなプレイヤーも現れるのではないかとも思われます。
NFT自体はより一般的になるものの、数千万円や1億円以上の高価格帯NFTの価値はさらに縮小するのではないかとも考えています。あまりに高価格帯のNFTはその価値の正当化ができず、引き続きバブルの処理のような期間で、金利上昇による資産価格の下落の影響も得るでしょう。

6.DeFiのCeFiに対するシェアは高まるものの、持続性は引き続き課題

DeFiのCeFiに対するシェアは高まるものの、持続性は引き続き課題になることが予想されます。FTXをきっかけとしてCeFiの信用が下落したことで、DeFiの利用は拡大するはずです。特にほとんどの国で規制されている高レバレッジの無期限先物はDeFiがCeFiを上回ることも予想されます。この分野はdYdX、GMXなどが牽引しています。またCeFiレンディングとは異なる運用手段も考慮すると、オプションVaultなどの分野も成長する可能性があります。
一方でDeFiプロジェクトの持続性は引き続き課題です。トークンの希薄化をせずに流動性を集めることは困難で、かつプロジェクトリリース前のシード期においてDeFi分野の資金調達は集まりにくいです。これは例えば、十分に成長をしてトークンモデルも革命的だったと評価されるCurveの時価総額が$350M程度(2023年1/6時点)に留まっていることなどが表しています。成功していると言えるプロジェクトのセカンダリーでの評価がまずまずであることから、シード期での投資も厳しい状態になっています。
起業家はこういった状況の中でプロダクトをデリバリーして、流動性を構築する必要があり、それを達成できるプレイヤーは一部に留まるはずです。

7.これまでと異なる事業環境

クリプト・Web3業界に限らずですが、事業環境は大きく変容するでしょう。直近10年、その中でも直近2年は特に顕著だったお金がコモディティとして扱われていていた時代は幕を閉じて、資本のコストは増大しました。結果として、投資家と事業家の関係は後者が強すぎた以前の状態は是正されます。
また奇しくも低資本コスト時代と同時期に、ソフトウェア大成長時代も終わりを迎えようとしています。この10年成長をしたGAFAMは成熟産業になり、IT業界における人材獲得競争も一巡しています。従業員が容易に転職をして転職をすることによって給与が上がるというようなサイクルは少なくともアメリカでは終わっています。当初より人材の層が薄い日本においてその流れがどの程度反映されるかは今のところ分かりませんが、影響が全くないということはないでしょう。
またパンデミックの期間に緩んだ仕事の規律も是正されるのが2023年であると予想しています。コストカットや仕事への徹底した効率化が求められる状況も重なり、自宅勤務からオフィス勤務に転換する企業は既にかなり目立っています。
クリプト業界においては、一定のレベルでオフショア地域からオンショア地域への回帰が進むでしょう。シードでの資金調達額が下がっていることでプロダクト黎明期の段階で移転コストを拠出する妥当性が生み出せなくなったり、FTX事件によってオフショア地域の企業への信頼が低下したことが挙げられます。

日本においては自社発行トークンがバランスシートにあっても課税されない方針が発表されたことで、オフショアに拠点を移さなければいけない代表的理由が一つなくなったことも記憶に新しく、この動きを強めるでしょう。

8.規制は厳しい目線が注がれながらも、決定的な枠組みは生まれず優柔不断な状態が続く

FTX事件以降、「暗号資産には厳しい規制が施行されることになる」という意見は大方コンセンサスになっています。筆者もそれ自体は同意ですが、2023年中に決定的な枠組みは生まれず優柔不断な状態が続くとも考えています。部分的に決定される動きも考えられますが、業界の動向に決定的なまでに影響を与える規制は今年中に定まることはないのではないかと考えています。
その理由は2024年は大統領選挙を控えているためです。すでにアメリカ人は多分に暗号資産に投資をしており、その損失を拡大させるようなことはなるべくしたくないとも想像できます。
一方で2023年中に、FTXの債務整理と関連の裁判や、RippleとSECの裁判の進展がする可能性はあり、これらの判例が今後のトークン発行や暗号資産ビジネスに影響を及ぼす可能性は十二分にあります。

9.ステーブルコインの競争環境

暗号資産の時価総額が縮小する中でステーブルコインの流通残高も2022年を通して下落しました。一方でUSDTやUSDCなどの発行事業者は、金利上昇の恩恵を受けてその収益を伸ばしていることは想像に難くありません。破綻したレンディング事業者やFTXなどへの影響を受けていなければ、ステーブルコインの発行資産残高に対して3-4%の金利を米国債から享受しているはずです。恐らく、2022年が過去で最も高い収益を得たのではないかとも推測されます。Binanceはこの過程で、BUSDの発行を強化してベアマーケットにビジネスラインを整えたことは当時話題になりました。
2023年はBinanceなどの事業者がどのようにしてさらにステーブルコインのシェアを拡大するか、またUSDCの代表的な発行体であるCircleがこの高収益ではあるものの流動性問題が浮き彫りになりやすい事業環境をどのようにマネジメントするかに注目されます。
同時にDeFiプレイヤーにおけるステーブルコインの競争も新たなフェーズの突入します。DeFiの代表的なプロジェクトであるソフトペグトークン向けDEXのCurveと、レンディングプロトコルのAaveがそれぞれ新しいステーブルコインを発行します。いずれも元々のプロジェクトが持つポジショニングや仕組みを活かして新しいステーブルコインのモデルを提案しており、新興ステーブルコインとしてはその拡大可能性に一定の期待を感じます。
また、昨年はDAIを発行するMakerDAOはDAOが管理するトレジャリー資産から米国短期国債へのアロケーションを開始しました。今後ステーブルコインの担保資産が米国債になるような展開も起こりうるでしょう。ステーブルコインに限らず、DeFiとリアルワールドアセットの結合はさらに進む一年になるでしょう。理由は単純で高金利の市況においては、そのほうが資金効率性が高いからで、かつDeFiの収益性の減少がその流れを加速させています。
2023年末にはステーブルコインの勢力図にも変化が生じているでしょう。

10.AIとWeb3

2022年下半期は、人間のように、かつ汎用的な回答結果をもたらすAIチャットのChat GMTが大きな話題を呼びました。また、その少し前には、入力されたテキストをもとに画像を生成するAIモデルのDiffusion Modelを搭載した画像生成AIである Stable Diffusionも注目されました。
これら訓練されたモデルによって新たなオブジェクトやテキストを生成するAIである、Generative AIは大きな技術テーマになっています。特にシリコンバレーにおいては、最もホットなテクノロジーバズワードは既にWeb3からAIに置き換わったように思います。コード生成もこなして将来的にエンジニアの仕事を奪うとも話題になっており、それは一定の事実を含むと言えるでしょう。少なくとも簡易的なSQLや、ノーコードツールをより強力にするポテンシャルを秘めています。
最も現時点では非常に大きな可能性を秘めた玩具ですが、Web3とも交わって実験や遊びは多々行われるでしょう。ジェネラティブ・アートはその先駆けであると言えます。
またAIあるいは機械学習の進化は暗号資産業界の個人と企業人の仕事の仕方にも影響を及ぼすはずです。例えばプロジェクトのサマリーを纏めるだけや、翻訳するだけであれば、それはその分野の低クオリティな仕事をする人間をAIが上回る可能性が十分にあります。もっともたとえクオリティの高い仕事をしていたとしても、そういった便利な道具が一般に普及する以上、その影響は免れないでしょう。

総括

本レポートでは、2023年の暗号資産・Web3業界の10の予想について、筆者の私見を述べました。答え合わせは時間が経過しないと分からないものの、現時点における私の大局観を纏めたつもりです。
様々な予想をしたものの、未だ暗号資産業界はブラックスワンを抱えている可能性は否めず、生き残ることが優先事項とされる1年になるでしょう。しかしその中で様々なプロダクトや技術の発展が確実に行われるのも事実です。もし意見や感想があれば、Twitterや会員向けSlackでの反応を楽しみにしています。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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