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Astar Network・Shiden Networkの概要 Polkadot経済圏で稼働するスマートコントラクトプラットフォーム

2021年11月05日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • Astar Networkの概要
    • クロスバーチャルマシン(略称X-VM)
    • コンセンサスメカニズム
    • dAppsステーキング
    • マルチチェーン志向
    • レイヤー2
  • Astar Networkの歴史やエコシステム
  • Astar NetworkのネイティブトークンであるASTRの概要
  • 総論

前提

本レポートでは、Astar Network、およびShiden Networkの概要について解説します。
Astar Network・Shiden NetworkはそれぞれPolkadot・Kusama経済圏で稼働する汎用的なスマートコントラクトを実行できるパブリックブロックチェーンです。
Polkadotは複数のブロックチェーンを相互接続するネットワークです。Relaychainという中心的なネットワークが核になり、各々が独自に機能するParachainがそれに接続して、相互運用性を持つというコンセプトです。
参照:https://wiki.polkadot.network/docs/en/getting-started
Polkadotについて基本的な解説は下記のレポートなどを参照ください。
Astar Network・Shiden NetworkはいずれもParanchainとしてPolkadot・Kusamaに接続することを計画しています。様々なブロックチェーンがPolkadotに接続されることが想定されますが、Astar Network・Shiden Networkは汎用的なスマートコントラクトプラットフォームとして開発されています。開発者はAstar Network・Shiden Network上で、DappsやDeFiアプリケーションの開発ができます。2021年10月時点でShiden NetworkはKusamaのParanchainのスロットを獲得済です。2021年11月時点でAstar NetworkはPolkadotのParachainスロットを獲得するため、オークションに参加しています。
今回は同ブロックチェーンの概要やエコシステムについて解説します。次節から同プロジェクトをAstar Networkと呼称することとします。Shiden NetworkはAstar Networkに対して姉妹ネットワークの関係性でほとんど同様のコードベース・スペックで機能していますが、こちらはKusama Networkに接続されます。本レポートにおいては、Polkadotに接続されるAstar Networkを主要なネットワークとして取り扱うこととします。

Astar Networkの概要

Astar Networkは、シンガポールを拠点とするStake Technolosies PTE. LTD.が開発するパブリックブロックチェーンです。同法人はシンガポールを拠点としていますが、創業者の渡辺創太氏は日本人です。また、元々の名称はPlasm Networkでしたが2021年9月にリブランディングされ、Astar Networkに改称されました。
Polkadot自体もブロックチェーンですが、PolkadotはあくまでParachainを接続することに特化しており、スマートコントラクトのデプロイや実行をするために設計されていません。Astar Networkはその部分を担う汎用的なパブリックブロックチェーンで、PolkadotのエコシステムにおけるDAppsハブというコンセプトです。
Astar Networkの主な特徴は以下の通りです。

クロスバーチャルマシン(略称X-VM)

Astar Networkはクロスバーチャルマシンです。
Ethereumのスマートコントラクトを実行できるEVMを備えています。これまでEthereum上で開発していた開発者は大きなリファクタリングを行わずにAstar Networkにアプリケーションを移植できます。またAstar NetworkはEVMだけでなくWASMでも開発ができ、Rustでアプリケーションが実装できます。2022年Q1に対応予定される予定で、加えてEVM、WASMそれぞれに対応する形で開発されたコントラクトは、相互にコミュニケーション可能になる予定です。
Astar Network以外でも最近はより開発の柔軟性が高いWASMを実装するブロックチェーンが増えていますが、Astar NetworkにおいてはEVMとWASMの両方を備えています。

コンセンサスメカニズム

ローンチの初期においてはPoA(Proof of Authority)で稼働して、その後安定を確認してからNPoS (Nominated Proof of Staking)にシフトします。

dAppsステーキング

Astar Networkの重要な機能としてdAppsステーキングがあります。この機能はAstar Networkのネットワーク内でDAppsを増やすために開発者向けインセンティブを継続的に生む仕組みです。
Astar Networkの毎ブロック報酬の半分がdAppsステーキングのためにアロケーションされます。ネイティブトークンASTR保有者はバリデーターをノミネートするだけでなく、DAppsのスマートコントラクトに対してノミネートすることができます。このノミネートされている量に応じてDApps開発者はブロック報酬を受取ることができます。毎ブロック新規で生成されるうちの半分がdAppsステーキングに割当されて、そのうち開発者とASTRをステーキングしたユーザーに4:1の割合で配られ、DAppsに対してノミネートをするユーザー側にもインセンティブがあります。
DAppsの開発者はマネタイズが困難なケースも多々あり、Ethereumなどではファウンデーションがグラントを拠出していますが、Astar Networkではこのようなインセンティブ設計がもともとプログラムされています。とはいえ、執筆時点でノミネート対象になるプロジェクトはホワイトリスト制であり、ファウンデーション型グラントとユーザーの支持によって配当額が決定される仕組みの掛け合わせとも評価できるかもしれません。
参照:https://docs.astar.network/build/dapp-staking
パブリックブロックチェーンにおいてはいかにアプリケーションがユーザーを呼び込み、さらにアプリケーションを増やすという観点でのネットワークエフェクトが重要です。dAppsステーキングはそのネットワークエフェクトを推し進めるとされています。
ステーキング報酬を求めて多くの開発者がプロダクトを作り、彼らがホルダーに対してステーキングを求めます。このステーキングにより多くのトークンがロックされると市場流通量が減り、トークン価格が上昇しやすくなります。このトークン価値を求めて更に開発者が入り、ステーキングを求めます。Astarではこのような好循環を目指しています。

マルチチェーン志向

Polkadotは相互運用性がありますが、これはあくまでSubstrateというParityが開発するブロックチェーンフレームワークに基づいたブロックチェーンのみが対象になります。
Astar Networkは複数のブリッジを実装する予定で、EthereumやBSC、SolanaなどSubstrateで作られていないブロックチェーンとPolkadotエコシステムを繋ぐ役割を担い、Polkadotに留まらない、マルチチェーンのdAppのハブになるという志向を持っています。
参照:https://astar.network/

レイヤー2

Astar Networkはレイヤー2の実装に対して積極的です。PoSであるため、2021年現在のEthereum等と比較してトランザクション性能は高いですが、将来的にはPoSであれレイヤー1だけでスケーリングすることは困難なためです。
Web3 Foundationからグラントを受け取り、EVMとWASMのどちらでも使えるZK Rollupsの開発を行っています。

Astar Networkの歴史やエコシステム

本節ではAstar Networkの歴史やエコシステムについて触れます。
開発会社であるStake Technologiesは2019年に創業された企業です。日本で創業され、後にシンガポールに登記地を移転しています。移転理由としては、トークン発行体に対して非常に不利な暗号資産を期末評価して課税する日本の税制を主因として挙げています。Astar Networkの十分な分散化を確立次第、株式会社としてのStake Technologiesは解散(清算)をする予定であると公言しています。
Stake Technologiesは過去にはPolkadotエコシステム内で最多となる全7回の助成金を、Polkadotの開発主体であるWeb3 Foundationから獲得しています。2021年1月には世界で初めてPolkadotのテストネット接続に成功し、一環してPolkadotのエコシステムに関わってきています。
Stake Technologiesはこれまで複数の資金調達ラウンドで$12.4M を調達しています。主要な投資家としては、Binance、Huobi、OKEx、Fenbushi Capital、Hypersphere Ventures、Gumi Cryptos Capital、TRG Capital、AU21 Capital、Digital Strategies、Sub0 Capital、SNZ Holdings、Altonomy、East Ventures、出井伸之氏、内山幸樹氏、坂井豊貴氏などです。
2020年にはトークン配布イベントであるLockDropを行い、当時の価格で約65億円相当のETHがスマートコントラクトにデポジットされました。このトークン配布イベントはトークンの販売ではなく、単純にロックしてコミットメントを表明して、ロック期間に応じてAstar Networkのネイティブトークンを受け取れるイベントです。
2021年10月にはCommonwealth LabsとWebb Technologiesとの協業も発表し、コア開発チームを強化しています。Commonwealth LabsとWebb TechnologiesはPolkadotの初期からParachainの開発をしていたグループで、これらのチームをエコシステムに引き入れることができているのはAstar NetworkのPolkadotコミュニティでのプレゼンスの高さを示しています。今後は、Commonwealth LabsとWebb Technologiesが主にアメリカ市場を開拓し、様々なプロジェクトをAstar Network上に展開させていくことが予想されます。
Astar Networkはローンチ前の段階で、ChainlinkやAPI3などのインフラストラクチャー系プロジェクトが対応を発表、Acalaなど他のParachainプロジェクトとも連携が発表されています。
参照:https://speakerdeck.com/astarnetwork/astar-network-introduction-2021-july?slide=10
他には、$30Mのエコシステムファンド日本マイクロソフトと連携した支援プログラムなどを実施して、今後のエコシステム拡充に精力的です。
2021年11月にはPolkadotにおけるParachainオークションが行われる予定で、Astar NetworkはこのオークションでParachainのスロットを獲得することを目指しています。DOTトークン保有者はオークションに参加(DOTのロック)をすることでASTRを受け取れます。

Astar NetworkのネイティブトークンであるASTRの概要

Astar NetworkのネイティブトークンはASTRです。
使用用途としては以下が想定されます。
  • ブロックチェーンのアップデートに関わるオンチェーンガバナンス
  • トレジャリーの用途を決定するガバナンス
  • バリデーターに対するノミネート
  • DAppsオペレーターに対するノミネート(dAppsステーキング)
  • Astar Networkのトランザクション手数料
  • Astar Networkのエコシステム上での利用(DeFiの担保資産など)
  • Layer2ソリューションの利用・デポジット
トークンアロケーションは以下の通りです。
参照:https://docs.astar.network/learn/token-economics/token-allocation
バリデーター・DAppオペレーター・ノミネーターに対する報酬として毎年10%のインフレーションをします。トランザクション手数料の一部はバーンされ、トレジャリーの一部もガバナンスによりバーンされます。実際に、Shiden Networkがローンチしてから2021年10月までに蓄積されたトレジャリー(367,237.728SDN, 日本円換算約1.5億円)がオフチェーンガバナンスによってバーンされました。
初期のトークンアロケーションにインサイダー(コア開発者、初期投資家)が少なくユーザーへの配布配分が多い設計になっていることが特徴です。これはコア開発者が持ちすぎず、コミュニティに多く配分することで、DAOに移行しやすくするためと語っています。

総論

本レポートでは、Astar Network、およびShiden Networkの概要について解説しました。
Polkadotは2021年末から2022年にかけて本格的に稼働する予定で、その中でAstar Networkも注目されると想定されます。一方、Polkadotのエコシステムの中では類似性のあるスマートコントラクトプラットフォームも複数存在します。Ethereumとの互換性を強く打ち出すMoonbeamや、DeFiのユースケースに力をいれるAcalaなどがそれにあたり、Astar Networkの競合であると言えます。
基本的にはスマートコントラクトプラットフォームは乱立状態であり、競争の基本はエコシステムの拡大競争です。MoonbeamはChainlinkやGraph Networkなどのインフラ系に加えて、C.R.E.A.M、DODO、SushiSwap、FraxなどEthereum上でもトラクションのあるDeFiアプリケーションをデプロイすることを表明しています。
エコシステムの拡大、つまり各アプリケーションがどれだけユーザーを惹きつけてくるかは提供されるインセンティブにも大きく左右されます。この点でAstar NetworkはdAppsステーキングがあり、アプリケーションレイヤーが各アプリトークンのインフレをせずに拠出できるインセンティブがあるのはアプリケーションにとって魅力的です。ひいてはこの点はAstar Networkのエコシステム拡大に有利に働くでしょう。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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