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暗号資産ハッキング被害トレーダーのための『緊急措置&復旧ガイド』

2025年05月20日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

はじめに

本稿は、暗号資産トレーダーがサイバー攻撃によるコンピューター侵害という緊急事態に直面した際に、パニックに陥ることなく、迅速かつ的確な対応をとることで被害を最小限に抑え、資産を保護し、状況からの回復を図るための一助となることを目的としています。本ガイドを通じて、取るべき具体的なステップを理解し、冷静に対処できるよう準備してください。

セクション1:侵害発生時の即時対応:被害を最小限に抑えるために

自身のコンピューターがサイバー攻撃によって侵害された、あるいはその疑いが濃厚であると判断した場合、パニックに陥らず、迅速かつ冷静に対応することが被害を最小限に抑える鍵となります。

1.1. 鉄則:即座にオフラインへ

最も重要かつ最初に行うべき行動は、侵害された疑いのあるコンピューターを直ちにインターネットから切断することです。具体的には、Wi-Fiをオフにし、有線LANケーブルを抜線します。その後、コンピューターの電源を完全にオフにしてください。これは、攻撃者による遠隔操作やさらなる情報窃取、マルウェアの拡散を防ぐための絶対的な鉄則です。

1.2. 安全なデバイスからの情報アクセス

侵害されたコンピューターは、それ以降、問題が解決されるまで一切使用してはいけません。必要な情報収集や関係各所への連絡、本ガイドのようなインシデント対応手順の確認は、必ずスマートフォンや別のクリーンな(侵害されていない)コンピューターから行ってください。侵害されたデバイスを再び起動したり、インターネットに接続したりすることは、攻撃者に活動再開の機会を与えることになりかねません。

1.3. なぜ即時対応が重要なのか

即座にオフラインにし、安全なデバイスへ移行することが極めて重要な理由は、攻撃者がリアルタイムでシステム内部を探索し、機密情報を外部へ送信したり、マルウェアをシステムのより深部に潜伏させたり、他のアカウントへのアクセスを試みたりする活動を阻止するためです。侵害されたコンピューターがインターネットに接続されたままであると、攻撃者はユーザーの行動を監視し、さらに多くの秘密情報を盗み出し、より多くのアカウントを乗っ取ることが可能になります。
現代のマルウェア、特にRAT(リモートアクセス型トロイの木馬) )のような高度なものは、一度侵入するとシステム内部に潜伏し、外部の指令サーバー(C&Cサーバー)と持続的かつ隠密な通信チャネルを確立しようとします。インターネット接続を切断することは、この通信を遮断し、攻撃者の活動を一時的にでも停止させる効果があります。また、「電源をオフにし、再起動しない」という指示は、マルウェアがシステムの起動プロセスやネットワーク接続検知時に自動的に活動を再開することを回避するための措置です。

緊急対応チェックリスト

侵害が疑われる場合に取るべき初期行動を、以下のチェックリストにまとめます。緊急時にはこのリストに従い、冷静に行動してください。

セクション2:暗号資産の保護:新しいウォレットの作成と資産の移動

侵害されたコンピューター上に秘密鍵やシードフレーズが存在した可能性のあるウォレットは、もはや安全ではありません。直ちに安全な環境で新しいウォレットを作成し、資産を移動させる必要があります。

2.1. 新しい安全なウォレットの作成

  • 安全なデバイスを使用: 新しいウォレットは、必ず侵害されていないスマートフォンや別のクリーンなコンピューター上で作成してください。侵害されたデバイスで新しいウォレットを作成したり、パスワードを設定したりする行為は、新たな情報を攻撃者に渡すことになりかねません。
  • 信頼できる提供元から入手: ウォレットソフトウェアは、必ず公式サイトなど信頼できる提供元からダウンロードしてください。

2.2. 新しい秘密鍵(シードフレーズ)の管理

新しいウォレットを作成したら、その秘密鍵(シードフレーズ)を安全に管理することが極めて重要です。
  • オフラインでの厳重保管: シードフレーズは紙に正確に書き写し、物理的に安全な場所に保管してください。2枚の紙に書き、別々の場所に保管することも推奨されます。デジタルデータ(テキストファイル、スクリーンショット等)としてコンピューターやスマートフォン内に保存することは避けてください。
  • クラウドストレージやパスワードマネージャーへの保存の危険性: Appleメモのようなクラウド同期されるメモアプリや、パスワードマネージャーにシードフレーズを保存する行為は、これらのアカウントが侵害された場合にシードフレーズも同時に漏洩するリスクがあるため、避けるべきです。

2.3. 資産の優先順位付けと移動戦略

資産を新しい安全なウォレットへ移動させる際には、以下の点を考慮してください。
  • 優先順位付け: まず、最も価値の高い資産や、最も頻繁にアクセスするアカウントに関連する資産から移動を開始します。MetaMask、Rabby Wallet、Frameなどのソフトウェアウォレットに保管されていた資産を優先的に移動させましょう。
  • トークン移動の順序: ウォレットから資産を移動させる際、一般的にはトークン(ERC-20トークンなど)、NFT、DeFiポジションを、そのブロックチェーンのネイティブアセット(例:イーサリアムネットワークにおけるETH)よりも先に移動させることが推奨されます。これは、トークンやNFTの移動にはガス代(取引手数料)としてネイティブアセットが必要となるためです。先にネイティブアセットを全て移動させてしまうと、残りのトークン等を動かすためのガス代が不足し、救出できなくなる可能性があります。
    (ただし、ネイティブアセットが資産の大部分を占めるなど救済する優先度が高い場合は、その他を移動させるためのガス代を残した上で優先的にネイティブアセットを移動させた方が良いでしょう。)
  • 情報が必要な場合: もし、侵害されたデバイスから何らかの情報(例:古いウォレットのアドレスなど)を取得する必要がある場合は、そのデバイスをインターネットから切断した状態のまま操作してください。インターネットに接続すると、攻撃者があなたの行動を監視し、さらに情報を盗み出したり、アカウントを乗っ取ったりする可能性があります。

セクション3:アカウントセキュリティの復旧と強化

暗号資産ウォレットだけでなく、関連する全てのオンラインアカウントのセキュリティを直ちに見直し、強化する必要があります。

3.1. パスワードの変更

以下の種類のアカウントについて、安全なデバイス(スマートフォンやiPadなど)を使用して、直ちにパスワードを強力かつユニークなものに変更してください。
  • パスワードマネージャー
  • Telegram
  • X(元Twitter)
  • ビジネス/会社のログイン情報
  • 中央集権型取引所(CEX)
  • Googleアカウント
  • Apple ID/iCloud
  • 銀行口座/登録されているクレジットカード・デビットカード情報
  • Discord、その他のソーシャルメディアサイト
新しいパスワードは、長く(例:12文字以上)、大文字・小文字・数字・記号を組み合わせた、推測されにくいものにしてください。パスワードマネージャーを利用して、各アカウントに固有の強力なパスワードを生成・保存することを推奨します。

3.2. 多要素認証(MFA)の有効化と見直し

全てのアカウントで、可能な限り強力な多要素認証(MFA)を有効にしてください。
  • 推奨されるMFA方法:
    • Google Authenticatorなどの認証アプリ(クラウド同期オフ): 時間ベースのワンタイムパスワード(TOTP)を生成するアプリです。認証アプリのシード(秘密鍵)がクラウドにバックアップされる機能はオフに設定してください。
    • Yubikeyなどのハードウェアセキュリティキー: 物理的なキーで、フィッシング攻撃に対する耐性が非常に高いです。
  • 避けるべきMFA方法の無効化:
    • SMS認証やメール認証は、それぞれSIMスワッピング攻撃やメールアカウント侵害のリスクがあるため、可能な限り無効にし、より安全な認証アプリやハードウェアキーに切り替えてください。
    • 侵害されたデバイス上の2FAコード: もし侵害されたデバイスに2FAコード(認証アプリのシードなど)を保存していた場合は、安全なデバイスを使用して、それらのアカウントの2FA設定を直ちに変更(再設定)する必要があります。

3.3. アカウント復旧設定の無効化

多くのアカウントには、復旧用のメールアドレスや電話番号が設定されています。攻撃者がこれらを悪用する可能性があるため、一時的にこれらの復旧オプションを削除することを検討してください。

3.4. アクティブセッションの管理

各サービスのアカウント設定から、現在アクティブなセッション(ログインしているデバイスやブラウザ)を確認し、現在の安全なセッション以外の全てのセッションを強制的にログアウト(削除)してください。

MFAタイプ別比較:セキュリティ強度と利便性

セクション4:ソーシャルメディアとコミュニケーションツールの安全確保

TelegramやTwitterなどのアカウントが乗っ取られると、さらなる被害拡大や、あなたの名前を騙った詐欺行為に繋がる可能性があります。これらのアカウントのセキュリティを直ちに確保してください。

4.1. Telegramのセキュリティ対策

  • 二段階認証(2FA)の有効化または再設定: Settings > Privacy and Security > Two-Step Verification から、強力なパスワードと安全な復旧用メールアドレスを設定してください。
  • 電話番号のプライバシー設定の見直し(電話番号を非表示に設定): Settings > Privacy and Security > Phone Number から、「Who can see my phone number」を「Nobody」または「My Contacts」に、「Who can find me by my number」を「My Contacts」に設定することを検討してください。

4.2. Twitterアカウントの保護

  • パスワード変更とMFA強化: 強力なパスワードに変更し、可能な限り認証アプリやハードウェアセキュリティキーによるMFAを設定してください。
  • アクティブセッションの確認と終了: 不審なセッションがないか確認し、あれば終了させてください。※Twitterの設定画面(通常、「セキュリティとアカウントアクセス」や「アプリとセッション」といった項目)で、現在アクティブなセッションの一覧(どの端末から、いつ、どこでログインしているか)を確認できます。この中で怪しいものがあれば、それを選択して強制的にログアウトさせることができます。

セクション5:情報共有とインシデント報告

被害の拡大を防ぎ、コミュニティ全体の安全に貢献するために、関係者への情報共有と適切な機関への報告が重要です。

5.1. 関係者への迅速な通知

  • 近しい連絡先(友人、家族、同僚など): あなたのアカウントが乗っ取られた可能性があることを伝え、あなたのアカウントから不審なメッセージが送られてきても警戒するよう注意喚起してください。特に暗号資産業界の連絡先には、標的型攻撃のリスクを伝えることが重要です。
  • 職場: 侵害されたデバイスが業務用にも使用されていた場合や、職務に関連する重要な情報にアクセスできるアカウントが危険に晒された場合は、速やかに所属企業や組織に報告してください。

5.2. 公表の検討

状況によっては、ソーシャルメディアなどを通じて、自身のアカウントが侵害された事実を公表することも検討してください。これにより、あなたが直接知らない人々にも注意を促すことができます。

5.3. 盗難資産の記録と報告

万が一、暗号資産が盗まれた場合は、以下の情報を記録し、関連機関へ報告してください。
  • 被害状況の詳細な記録:
    • 資産が盗まれたオンチェーンアドレス(あなた自身のウォレットアドレス)。
    • 資産が盗まれた主要なトランザクションハッシュ(どのブロックチェーン/ネットワーク上の取引か、またはブロックエクスプローラーへのリンクを明記)。
    • 盗まれた資金が最初に送金された先のアドレス。
    • 詐欺師のソーシャルメディアリンクやユーザー名(該当する場合)。
    • 誘導されたウェブサイトのURLや、ダウンロードした悪意のあるアプリケーションの名前(該当する場合)。
    • その他、アカウントに関する不審な活動や異常な点。
    • 何が起こったのか、あなたの視点からの簡潔な概要と時系列。
      • (例)2024年10月22日、XXXというハンドルのユーザーからTelegram経由で連絡があった。投資家を名乗り、電話会議を求めてきた。予定された通話日に、彼女はURL へのリンクを送ってきた。通話のためにウェブサイトに行ったが、エラーが表示されタイムアウトしたと表示された。「____」にTelegramでこれを伝えたが、彼女はあまり驚いていなかった。問題を解決するためにいくつかのコード/「スクリプト」を実行するように言われた。そうしたが問題は解決しなかった。通話を再スケジュールした。彼女が実行するように送ってきたコードはこれだ:。2024年10月23日、自分のアカウントから資産が盗まれていることに気づいた。合計で約20万ドル相当の暗号資産が盗まれた。これが私の最初のアドレス:。これが私の他のアドレス:。USDTが5万ドル相当盗まれた取引の一つがこれ:____。2024年10月23日、ハンドル名@_____のTelegramアカウントからもログアウトされた。アカウントにアクセスできていない。2024年10月23日、Twitterアカウント@_____からもログアウトされた。そこにもログインできていない。2024年10月24日、誰かがIPアドレス____で私のBitgoアカウントにログインしようとしたが、できなかった。

  • 必要に応じて関連機関へ報告:
これらの詳細な情報は、資金の流れを追跡し、攻撃者を特定するために役立ちます。

セクション6:侵害されたデバイスの対処法

侵害されたデバイスを再び安全に使用するためには、徹底的な措置が必要です。

6.1. フルファクトリーリセットまたはデバイスの交換

  • フルファクトリーリセット: デバイスを安全に再利用するためには、ハードディスクの完全な再フォーマットを含む、フルファクトリーリセット(工場出荷時の状態に戻す)が必須です。
  • 専門家による対処: 自分自身で自信を持ってこれを行えない場合は、最寄りのApple Store(Macの場合)またはコンピューターストア(Windowsの場合)にデバイスを持ち込み、マルウェアによって侵害されたことを説明し、専門家にデバイスのワイプ(初期化)を依頼してください。
  • バックアップからの復元の禁止: Time Machineや同様のバックアップからデバイス全体を復元しないでください。マルウェアやバックドアを再インストールするリスクがあります。必要なファイルは、クリーンな環境で個別にスキャンした上で、手動で移行することを検討すべきですが、ユーザーフォルダ全体をコピーするような包括的な復元は避けてください。
  • 新しいデバイスの購入: 場合によっては、新しいデバイスを購入する方が簡単で確実です。
いずれにしても、新しいまたはワイプされたデバイスは、クリーンな状態から始めることになります。

セクション7:今後の監視とセキュリティ強化

緊急対応後も、引き続き警戒を怠らず、セキュリティ体制を強化していくことが重要です。

7.1. 不審なログイン試行の監視

アカウントへの不正なログイン試行や、新しいログインに関する通知に常に注意を払ってください。これは、まだどこかに侵害が残っているか、あるいはパスワードが依然として危険に晒されている可能性を示唆しています。デバイスを本当にオフラインに保ちましたか?全てのパスワードを本当に変更しましたか?再度確認してください。

7.2. セキュリティ対策の再強化

今後の安全のために、以下のセキュリティ対策を徹底してください。
  • MFAの再確認と強化: Google Authenticator(クラウド同期オフ)やYubikeyなど、強力なMFAを全ての重要アカウントで設定・再確認します。
  • パスワードマネージャーの本格利用: まだ使用していない場合は、信頼できるパスワードマネージャーを導入し、全てのパスワードを強力かつユニークなものに置き換えます。
  • ハードウェアウォレットの導入と適切な使用: LedgerやTrezorのようなハードウェアウォレットを導入し、その正しい使用方法を習得・実践してください。これは、将来の資産保護において非常に有効です。
  • TwitterおよびTelegramアカウントのさらなるセキュリティ強化: 各プラットフォームが提供する最新のセキュリティ機能を活用し、設定を見直してください。

おわりに:冷静な対応と継続的な警戒が鍵

本ガイドでは、サイバー攻撃による侵害が発生した際に、暗号資産トレーダーが被害を最小限に抑え、資産を保護し、回復するための実践的な手順を解説しました。秘密鍵の厳重な管理、強力なパスワードとMFAの導入、デバイスの適切な処理、そして関係者への迅速な情報共有といった主要な対策の重要性を再度強調します。
このような困難な状況においては、冷静さを保ち、順序立てて対応することが何よりも重要です。そして、一度セキュリティ体制を再構築した後も、継続的な警戒と学び続ける姿勢が、将来の脅威から自身を守るための最大の武器となります。本ガイドが、皆様の安全な暗号資産取引環境の回復と維持の一助となれば幸いです。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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