はじめての「DeFiにおける無期限先物取引」|基本概念・仕組み・種類・攻撃対策まで一挙解説
2025年06月03日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- I. 無期限先物取引(パーペチュアル・デリバティブ)とは?
- II. 無期限先物取引を理解するための重要キーワード解説
- III. 無期限先物取引プロトコルの種類と特徴
- ①流動性の供給源による分類
- ②流動性の管理方法による分類
- ③市場のタイプによる分類
- IV. 無期限先物取引プロトコルにおける攻撃事例とその対策
- 攻撃手法①:オラクル操作攻撃 (Oracle Manipulation Attack)
- 攻撃手法②:ビジネスロジック攻撃 (Business Logic Attacks)
- 攻撃手法③:保険基金攻撃 (Insurance Fund Attack)
- 攻撃手法④:オーダーブック操作攻撃 (Orderbook Manipulation Attack)
- 攻撃手法⑤:フロントランニング・サンドイッチ攻撃 (Frontrunning and Sandwich Attack)
- V. 総括
I. 無期限先物取引(パーペチュアル・デリバティブ)とは?
暗号資産取引では既に定着している「無期限先物取引」ですが、最近のDeFiプラットフォームの進化、特にHyperliquidなどの影響で、改めて関心を持つ方が増えています。本稿では、そうした方々に向けて、DeFiにおける無期限先物取引の全体像を、基本から応用まで分かりやすく整理して紹介します。。
◾️無期限先物取引の基本的な定義と目的
無期限先物取引の最も基本的な特徴は、満期日(有効期限)が存在しない先物契約の一種であるという点です。従来の先物取引では、例えば「3ヶ月後に特定の商品を特定の価格で売買する」といったように、必ず決済日が定められています。しかし、無期限先物取引にはこの「いついつまでに必ず決済しなければならない」という期限がありません。そのため、理論上はトレーダーが望む限り、そのポジション(持ち高)を保有し続けることが可能です。
では、このような金融商品が何のために存在するのでしょうか。主な目的は、資産価格の変動を予測(投機)し、利益を得る機会をトレーダーに提供することです。「投機」と聞くと少し難しく感じるかもしれませんが、要は「この暗号資産の価格はこれから上がるだろう」と予想すれば「買い」のポジション(ロングポジション)を取り、「下がるだろう」と予想すれば「売り」のポジション(ショートポジション)を取る、という取引を指します。予想が的中すれば、その価格変動分が利益となり、外れれば損失となります。
例えば、ビットコインの価格が今後1ヶ月で大きく上昇すると強く信じる場合、ビットコインのパーペチュアル契約でロングポジションを建てることで、実際に価格が上昇した際に利益を得ることができます。逆に、下落を予想するならショートポジションです。この「満期がない」という特性は、特にDeFiの24時間365日稼働する市場環境と相性が良く、トレーダーにとってはより柔軟な取引戦略を可能にする要素となっています。
◾️DeFiにおける無期限先物取引の役割と魅力
無期限先物取引は、特にDeFi(分散型金融)という新しい金融の世界で急速にその存在感を増しています。DeFiとは、銀行や証券会社といった伝統的な金融仲介機関を介さずに、ブロックチェーン技術とスマートコントラクト(自動実行される契約プログラム)を基盤として、様々な金融サービスを個人間で直接(P2P)提供・利用しようとする試みです。
このようなDeFiの文脈において、無期限先物取引はいくつかの重要な役割と魅力を持っています。
第一に、アクセスの容易性です。伝統的な金融市場でデリバティブ取引を行おうとすると、証券会社に口座を開設し、複雑な手続きや審査が必要になることが一般的です。また、取引時間も限られています。しかし、DeFi上の無期限先物取引の多くは、インターネット環境と暗号資産ウォレットさえあれば、基本的に誰でも、24時間いつでもアクセスし、取引を開始することが可能です(一部、地域による制限等がある場合もあります)。
第二に、仲介者の排除(非中央集権性)です。多くのDeFiプロトコルは、スマートコントラクトによって取引の執行や資金管理が自動的に行われるため、特定の企業や組織が中央集権的に運営する取引所に比べて、カウンターパーティーリスク(取引相手の破綻リスク)が低減されると期待されています。
第三に、新しい投資機会の提供です。従来の金融市場ではまだ取り扱われていない新しい種類の暗号資産や、特定のテーマに連動する指数など、多様な対象資産に対する価格変動リスクを取る機会を提供できます。これにより、高いリターンを求めるアクティブなトレーダーや、保有資産の価格変動リスクを相殺(ヘッジ)したいユーザーにとって、新たな選択肢となっています。
しかし、このような革新性や利便性の裏には、新たな課題も存在します。無期限先物取引の普及は、DeFiエコシステム全体の金融商品としての多様性を飛躍的に高め、市場参加者により多くの取引戦略と機会を提供し、DeFi市場の成熟度を高める一因となっています。その一方で、本稿の後半で詳述するように、スマートコントラクトの脆弱性、価格情報を取得するオラクルシステムの操作リスク、あるいはプロトコルの設計上の欠陥を突いたビジネスロジックの悪用といった、DeFi特有のセキュリティリスクも顕在化させています。また、高いレバレッジを利用した過度な投機が市場の不安定性を増幅させる可能性も指摘されています。これは、金融イノベーションが常に利便性の向上と新たなリスクの発生という二面性を持つという普遍的なテーマを、DeFiという新しい舞台で明確に示していると言えるでしょう。プロトコル開発者や利用者は、この「新しい機会」と「それに伴うリスク」を常に天秤にかけ、慎重な判断を下す必要があります。
II. 無期限先物取引を理解するための重要キーワード解説
無期限先物取引の仕組みをより深く理解するためには、いくつかの専門用語を知っておく必要があります。ここでは、特に重要なキーワードを分かりやすく解説します。
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