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流動性供給、Impermanent Loss、高APYの仕組みから、ファーミングのリスクリターンを正しく理解する

2021年04月16日

目次

  • 前提
  • 1.AMMと流動性供給の仕組み
  • 2.Impermanent Lossの仕組み
  • 3.高APYのリスクリターンの計算
  • 4.総括

前提

本レポートでは、初心者にUniswapを始めとするAMM(Automated Market Maker)の仕組みと、「価格が変わると損するのはなんとなく知ってる」という人が多いImpermanent Loss(価格変動損失、以下IL)について図でわかりやすく説明し、また初心者が陥りがちな高APY(Annual Percentage Yield: 年間利回り)のリスクについて説明します。
2021年にはPancake Swapを始めとするDeFiが流行っており、高いAPYに惹かれて仮想通貨を入れる人が多くなっていました。ただ儲け話ばかりが先行して仕組みがわからないまま始め、結果的に損をした人も多いと思います(ここでは暗号資産よりなじみのある言葉として仮想通貨を使っています)。
実際にTwitter上のアンケートを見ても、DeFiに触れていて資産を減らした人も一定数存在しています。

このレポートでは高い年利に魅力を感じている初心者に対して、AMMへの流動性供給のリスクとリターンを正しく理解してもらうことを目的にしています。

また今回のILのようなAMMでの取引時のリスク以外のDeFiリスクについては以下の関連レポートで詳述しています。
関連レポート:DeFi(分散型金融)に内在する10のリスク それぞれのリスク対応の考え方

1.AMMと流動性供給の仕組み

まずはAMMとは何かという部分から理解していきましょう。AMMとはAutomated Market Makerの略で、一定のルールの元で取引を自動的に成立させる仕組みです。より詳細が知りたい方は以下のレポートで触れていますのでご参照ください。

※関連レポート:AMMの概要及びBancor、Uniswap、Balancerによる2020年4月時点の動向
AMMが提案された背景として従来の取引所は色々な問題を抱えていました。運営が難しくなったという理由で資金の持ち逃げ疑惑があったFCoinという取引所では日本人も多く被害にあいました。またCoinbaseでは職業を理由に資金を引き出せなくなった事例もあります。
Uniswapを始めとするAMMはこのような中央集権的な課題の解決を目指して作られました。Uniswapの立ち上げについて書かれたブログにも、Ethereumの下記ポリシーに共感したと書かれています。
  • 誰にも止めることができず(検閲耐性)
  • 特定の誰かにコントロールされることなく(分散性)
  • 誰にでも使うことができ(使用許可が不要)
  • 誰でも内部を確認できる(透明性)
出典:初期のUniswap


このAMMに必要なのが仮想通貨をプールに入れてもらうこと、つまり流動性供給です。流動性供給とは何かを理解するために、まずは流動性とは何かというところから考えてみましょう。
AMMの仕組みを簡単に言うと、仮想通貨を集めてプールを作りその中の通貨を使って交換を行います。例えばあなたが「①ETHとDAIのペアをUniswapのETH-DAIプールに入れる」ことで、この中の通貨を使って第三者が「②ETHをDAIに変える」ことができます。この①を取引するための流動性を供給することを流動性供給と呼んでいます。

この流動性が小さいと多額のETHを入れられた時に十分なDAIを返すことができず、ETHに対して変換できるDAIのレートが悪くなります。これをスリッページと呼んでいます。
スリッページの仕組みを詳しく見てみましょう。Uniswapを例にすると、Uniswapの価格は x * y = kの式で求められます。xとyの価格が変わってもプールの合計金額は変わらないという意味です。
これをグラフにすると下記のようになります。y = k / x という2次曲線の式の方がなじみがある人もいると思います。ここではx=ETH、y=DAIとしています。ここでETHを売ってDAIを買うと、売られた分ETHの在庫は増え、買われた分DAIの在庫は減ります。

次にこのプールでy=1 ETH, x=1,500 DAIと仮定します。ここで0.01 ETHでDAIが買われると下図のようにプールが変化し、1 ETHで買えるDAIの数が1,470に減少します。

次に先ほどの10倍の0.1 ETHでDAIを買ったとしましょう。すると1 ETHで買えるDAIの数が1,350まで減少します。このようにプールが十分ではないとプール内の通貨を買う効率が悪くなってしまいます。これをスリッページと言います。
スリッページが起こるとユーザーには使われにくくなるため、AMMはユーザーに多くの流動性を供給してもらう必要があります。そのために流動性供給した人に対しての報酬として、取引の手数料や$UNIや$CAKEなどのガバナンストークンの配布を行っています。この仕組みはやさしいDeFiのYouTubeで詳しく説明されています。
また逆に言うと、このプール内のETHは1 ETH=1,350 DAIと市場価格の1,500 DAIより安く買えるために、アービトラージによって適正価格に調整されます。
このスリッページを抑えるために改良されたUniswapのV3では、流動性提供する価格帯を選べることでより効率的な仕組みにしています。詳細は以下の関連レポートで紹介しています。

※関連レポート:Uniswap v3の概要 流動性提供範囲の指定によって実現する機能
一部のAMMで極端に高い年利になっているのは、ガバナンストークンの配布数が多いためです。このガバナンストークンというのは、プロジェクトの方向性を決めるための投票権のようなものです。ただ高い年利を提供しているプロジェクトの多くはガバナンス用には使われず、すぐに売却されるために価格も下落傾向にあります。

2.Impermanent Lossの仕組み

この流動性提供で発生するのがImpermanent Loss(価格変動損失、以下IL)です。一言でいうと、最初にプールに入れた時の価格からの変動に比例して損失が生じます。この詳細を図を使って説明します。
この計算はこれらの式で求められます。難しければ飛ばしてもらって構いません。yをプールに入れたETHの額、xをDAIの額とすると、xとyは同じ価値でプールに入れる必要があるためにETH価格は下記の式で求められます。
ETH価格 = x(プールに入れたDAIの額)/ y(プールに入れたETHの額) 
この式と最初に説明したx*y=kを使うと、式をこのように変形できます。
x(プールに入れたETHの額) = √(プールの合計金額 k * ETH価格)
y(プールに入れたDAIの額) = √(プールの合計金額 k / ETH価格)
この式を使うと、価格変動での損失がこのように計算できます。
1.25倍の価格変動 = 0.6%の損失
1.50倍の価格変動 = 2.0%の損失
1.75倍の価格変動 = 3.8%の損失
2倍の価格変動 = 5.7%の損失
3倍の価格変動 = 13.4%の損失
4倍の価格変動 = 20.0%の損失
5倍の価格変動 = 25.5%の損失
これをグラフで表すとこのようになります。
出典:Binance Academy
またここでの価格変動は、プールに入れた時のxとyの価格差になる点に注意してください。例えば今回のケースでは、ETH価格がDAI価格よりも+300%となっています。その場合のILは20%です。
https://yieldfarmingtools.com/tools

しかしプールに入れた通貨が両方とも+300%となった場合はILは0%です。入れた通貨の価格差がILに影響します。
https://yieldfarmingtools.com/tools

ILは価格が上昇した時だけでなく下落した時も発生するため、下落時は大きな痛手となります。またILを避ける手法も存在しており、下記レポートが参考になります。

参照レポート:デルタを取らないDeFi運用手法

3.高APYのリスクリターンの計算

ここまでILについて説明してきましたが、ILは価格が2倍になった場合に5.7%の損失など、割合としては大きくありません。初心者の方に気を付けてほしいのは高い年利に釣られてマイナーな通貨のペアを大きく持つべきでないという点です。
その理由を説明します。まずここまででILのリスクを説明してきましたが、ILは流動性供給を行うことで得られる手数料でカバーできることが多いです。まず過去の傾向の一例としてETHとMKRを流動性供給した場合と、そのまま保有していた場合の差を見てみましょう。赤の線が手数料収入、青の線がIL、黄色がその合計を示しています。これを見るとILを考慮しても安定して8%以上のリターンが得られていることがわかります。
出典:Uniswap ROI(Uniswap V1の結果のみを表示しています)
また最新の傾向をLiquidity Folioを見ると、ILを考慮してもほとんどのペアで手数料収入でプラスになることがわかります。
ここで表示しているようなETHやWBTCのペアであれば、どちらも価格変動の方向が似ているため比較的リスクは少ないです。またETHとステーブルコインも代表的なペアで、取引で使う人が多いためにETH-WBTCのペアに比べて手数料収入が多い傾向にあります。
しかしDeFiは儲けると聞いて始めた人は、情報を十分に調べないまま高い年利のペアに流動性提供を行う場合があります。これは資金を失うリスクが高いためにお勧めできません。
ここで例としてBSC(Binance Smart Chain)のAutoFarmで最も年利の高いペアを見てみます。年利(APY)は6,800%と非常に高いです。しかし1日あたりで見ると1.25%の利子となっている点に注意が必要です。
年利が高い理由は複利を入れて計算しているためです。複利の効果は後半に多く出るため、最初の30日間を切り取ると45%の増加にとどまります。

しかしペアとなる$EGGの直近30日間の価格を見ると76.7%も下落しています。ILの-3.8%も追加すると80%上の下落です。これは$EGGを入手した人がすぐに売却するためで、ファーミングでの収入ではとてもカバーできません。このように高い年利は複利効果によるもので短期では期待できず、逆にペアとした仮想通貨の下落により損失が出る可能性が高いためお勧めできません。

4.総括

本レポートではAMMと流動性提供が必要な理由とそれによって起きるILを説明し、仕組みを正しく理解したうえで複利による高APYのリスクについて説明しました。仕組みを正しく理解してからリスクを自分の頭で理解することで、自然と得られるリターンも高くなると思います。

また2022年時点ではAPYは軒並み下がっていますが、この状況下でも収益機会は存在しており、下記レポートは参考になると思います。

参照レポート:論考・効率化されるDeFi市場 これからも残される高いAPYの収益機会とは

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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