2028年・機関投資家参入に向けた金融機関のターニングポイント——「今動ける役割」と「待つ役割」

この記事を簡単にまとめると(AI要約)

はじめに:スケジュールは知っている。問題は「自社はどこにいて、何をするか」

暗号資産に関して、2027年7月頃とされる改正金融商品取引法(以下「金商法」という。)の施行、2028年1月を目標とする申告分離課税という日程は、日本の金融機関の間ですでに広く共有されています。にもかかわらず、「では、いま自社は何をどのように準備すべきか」という問いにクリアに答えられ、実装を進められている法人は、多くありません。
その理由は、金商法を例に出すと、府令の改正案がこれから出ること、金融庁のガイドラインもこれから変わり得ること等、「要するに、詳細が固まるまで動けない」ということのように思います。ただし、この判断を全業態に一律で当てはめてしまうと、見落とすものがあります。制度の確定をどれだけ待つ必要があるかは、その金融機関が担う役割によって大きく異なるからです。
現に、「詳細が固まるまで動けない」と多くが構えるなかでも、すでに動き出した主体がいます。2026年6月には、SBI新生信託銀行が国内初の信託型円建てステーブルコイン「JPYSC」を発行し、SBI VCトレードがリップル系のRLUSDを国内初の「第4号電子決済手段」として取扱い開始しました。問われているのは「動けるか」ではなく、「自社のどの役割が動けるか」です。
本レポートが扱うのは、大きく①暗号資産(現物・ETF)と②トークナイゼーション(証券のトークン化=デジタル証券(ST)、および法定通貨のトークン化=ステーブルコイン)の2つです。これらについて、金融機関の役割を「いま動けるか/何を待つか」で地図化し、自社がどの位置にいて、今何を実行し、何を確定後に回すべきかを仕分ける見取り図を提供します。意思決定する立場の皆様——銀行・証券・信託・保険・運用会社など、金融機関の経営層・事業責任者——が、自社の座標をまず掴み、そこから具体的な準備項目へ降りていけるよう構成しました。なお、日本の金商法改正と機関投資家参入の全体像は、香港出張報告①でも整理しています。

第1章 制度スケジュールを読む——段階と、二層の制約

(1) 確定しているタイムライン

骨格となる日程は、すでに政治的な確実性を帯びています。暗号資産の資金決済法から金商法への移管は、2026年4月10日に改正法律案として閣議決定され、同日国会へ提出されました。その後、2026年6月11日に衆議院本会議で可決され、本レポート執筆時点では参議院で審議中です。
図表1|暗号資産・デジタル証券をめぐる制度スケジュール。出所:内閣法制局・参議院議案情報・金融庁および令和8年度税制改正大綱に基づきHashHub Research整理。成立・公布以降は本レポート執筆時点(2026年6月)の見込み(図:筆者作成)
施行日は「成立から」ではなく「公布の日から起算して1年を超えない範囲内」で政令により定められます。成立から約1年で施行される慣行に照らせば、施行は2027年夏ごろ(7月頃)になるとの見方が有力ですが、具体的な月は政令の指定を待つ段階です。
日程に関わる制度は三つあり、役割が異なります。金商法改正は暗号資産を「金融商品」と位置づける土台で、インサイダー規制や情報開示を整えます(2027年見込み)。投信法施行令の改正は、投資信託・ETFが組み入れられる資産に暗号資産を加えるもので、これが暗号資産ETF・公募投信の組成・販売を解禁します(2028年が最有力)。申告分離課税は、暗号資産の利益にかかる税を、現在の総合課税(最高約55%)から株式等と同じ分離課税(約20%)へ移す税制改正です(2028年が目標)。後者の二つは連動しており、令和8年度税制改正大綱は分離課税の適用を投信法施行令の改正を前提として位置づけています。いずれの時期も金商法の施行に続くものとして見込まれており、現時点では確定していません。

(2) 金融機関の制約は二層で見る

金融機関が暗号資産に関わる制約は、①法令上の参入の可否(業法・監督指針)と②保有の経済性(バーゼル規制)の二層で捉えると、見通しが良くなります(図表2)。
図表2|暗号資産の自己勘定保有を阻む二層の制約。出所:金融審WG報告(2025年12月)・バーゼル委員会の枠組みに基づきHashHub Research整理(図:筆者作成)。暗号資産掛け目の国内告示への反映時期は要確認。
①をクリアしても、②——裏付けのない暗号資産はグループ2に分類され、ヘッジ認識基準を満たすグループ2aにも保守的な市場リスク規制が、基準を満たさないグループ2bには1,250%のリスクウェイトが適用される——が残るため、メガバンク(国際統一基準行)の自己勘定保有は当面、重い選択です。この二層のどちらにどれだけ縛られるかが、次章で見る役割ごとの「今やる/待つ」を分けます。

(3) まだ確定していないこと

業態別ガイドライン(銀行・保険などが暗号資産をどの条件で「適格資産」として扱えるか。本体保有の可否は金融審WG報告が方向性を示した段階です)、ETFの組成・販売規制の具体的要件、カストディの監督基準は、いずれもまだ公表されておらず、これから固まります。金商法施行令・金融庁告示といった下位法令も、法成立後に整備される建て付けです。重要なのは、これら未確定の項目にどれだけ依存するかが役割ごとに違うという点であり、次章でその違いを一枚の見取り図に落とし込みます。

第2章 主体と役割の見取り図

ここまでは制度の側を見てきました。同じ制度に対して、金融機関の側がどう構えるかは、業態を一点で塗るほど単純ではありません。一つの金融機関が、暗号資産交換業の保有、自己勘定での保有、ステーブルコインの発行、ETF・投信の組成や販売、カストディ、トークナイゼーションへの備えといった複数の役割を同時に担い得るためです。
そこで、縦軸に主体(金融機関の種別)、横軸に役割をとり、各役割が「今動けるか/何を待つか」を一望できるよう整理しました(図表3)。
図表3|金融機関の種別×役割で見た「今動ける/待つ」の見取り図。出所:金融審WG報告および各社一次開示に基づきHashHub Research整理。状態は相対評価(図:筆者作成)。※保険会社は別途、暗号資産関連保険の「組成・引受」という動ける役割を持つ(本図の役割列には含めていない)。
この見取り図から読み取れるのは、先行できるかどうかは業態の看板ではなく、役割ごとの依存関係——制度の確定や運用会社の動きに、その役割がどれだけ縛られるか——で決まるという点です。たとえば信託銀行は、発行体・カストディのように依存の浅い(自社の判断で着手できる)役割を複数抱えるため動ける範囲が広く、証券会社は役割によって今動けるもの(ST対応)と待つもの(ETF販売)が割れます。次章で、主体ごとに役割を分解して仕分けます。

第3章 役割単位で「今やる/待つ」を仕分ける

図表3を主体ごとに読むと、動ける役割の多寡がはっきりします。要点は次のとおりです。

銀行(メガバンク)

動ける筆頭はステーブルコインの発行で、三菱UFJ・三井住友・みずほの3行は2026年6月に信託型ステーブルコインの共同発行に向けて基本合意し、3行を委託者・信託銀行等を受託者とする形で、2026年度中の実取引開始を目指しています。一方、本体での暗号資産の自己勘定保有は前述の二層の制約で当面重く、本体での取得可否自体もWG提言段階です。暗号資産交換業も、現行制度では本体だけでなくグループによる取扱いも許容されておらず、子会社・兄弟会社・関連会社による参入は、金融審WGが制度改正後に認めるべきと提言している将来の方向性です。そのため、参入設計や内部体制の整備は現在から着手できますが、実際の参入は法令・監督指針の改正待ちという位置づけになります。

証券会社

役割で最も割れます。ETFの「販売」は運用会社の組成を待つ受動的な役割(後発)である一方、ST・トークナイゼーションへの「備え」は今から動けます。株式トークン化が本格化すれば、裏付け株式の保有や自らのプラットフォーマー化(米ロビンフッドが先行例)も視野に入り、その意味は請求権の所在で変わります(トークン化株式の類型化レポート)。交換業でも野村が米OCCから信託銀行設立の条件付き承認を取得し、国内交換業は準備段階、自己勘定保有は制度待ちです。なお自己勘定での保有は、大手証券(最終指定親会社)にはバーゼル規制がかかるため、銀行と同様に経済性の面で重い選択になります。

信託銀行

動ける役割が最も多い位置にあります。発行体として、SBI新生信託が2026年6月24日に国内初の信託型円建てSC「JPYSC」を発行しました(資金移動業型と違い100万円上限がなく、大口投資家・機関投資家も活用可能)。カストディでは、三井住友トラストとbitbankがデジタルアセット信託会社(JADAT)の設立準備を進め(2022年基本合意・管理型信託業の免許取得段階)、NEC×Crypto Garageもカストディシステムを共同開発しています。ETFのカストディも担い得ますが、ブラックロックのIBITやモルガン・スタンレーのETFでは、現物の保管をコインベース、現金部分をBNYメロンが担う形がとられており、信託銀行が担い得るのは主に現金・管理の側です。

保険会社

暗号資産関連保険の「組成・引受」も、保険会社が独自に動ける役割です。暗号資産のカストディ保険は早くからロイズやBitGoが市場を開き、足元でもデジタル資産事業向けにD&O保険の補償を明確化する動き(2026年6月)など、商品化が続いています(国内では三井住友海上が交換業者向けサイバー保険を手がけました)。自己勘定保有は制度を待つ位置です。

運用会社・その他機関投資家・暗号資産交換業者

運用会社(AM)は「設計は今・申請は確定後」(申請は資産運用業協会のガイダンス待ち)ですが、海外ではフランクリン・テンプルトンが仮想通貨運用部門を新設するなど、体制づくりは先行しています。年金・生保等の機関投資家は受託者責任から慎重なのが基本ですが、国内の企業年金基金が2026年度に資産の約1%を暗号資産へ配分する方針を示すなど、需要側でも動きが出始めています。需要側が動けるかは、受け皿となるガバナンスと保管(カストディ)を供給側がどこまで先に用意できるかに左右され、両者の準備は表裏一体です。
そして、暗号資産交換業者は、ここで挙げたほぼすべての役割に隣接する「超当事者」です。発行・カストディ・販売の結節点にいる一方、銀行・証券が交換業を取り込み、運用会社がETFを組成する世界で、自らがどの機能で価値を出し続けるかが問われます。垂直統合によって機能を広げてきた米コインベースのような姿が、ひとつの参照点になるのではないでしょうか。

第4章 準備を急ぐ根拠——市場規模と、「待つこと」のコスト

(1) 2つの市場が立ち上がる——だから役割の準備を急ぐ

準備を急ぐのは、捉えるべき市場が、いままさに二方向で立ち上がりつつあるからです。一つは暗号資産の側で、その入り口となるETFは、海外ではモルガン・スタンレーのビットコインETFが上場初週で約1億ドルを集め、国内でもJPXが早ければ2027年の上場に言及するなど、現実味を増しています。もう一つはトークナイゼーションの側で、証券のトークン化であるデジタル証券(ST)は不動産や社債を裏付けに発行を積み上げ、マネーのトークン化であるステーブルコインも、前章で触れたJPYSCのように、すでに発行が始まっています。
では、どれほどの規模になるのか。手がかりは米国の先行例です。米国の現物ビットコインETFは、2025年10月のピークで残高が約1,700億ドルに達し、調整を経た2026年6月でも約780億ドルを保っています。日本の将来の残高は、資金の出どころを三つに分けて積み上げ、試算しました。一つは既存の暗号資産保有者からの移行で、国内交換業者の預かり残高(2026年4月末で約3.2兆円、解禁時には約5兆円規模を想定)の1割前後がETFへ移るとみます。二つ目はNISAや証券口座を通じた新規資金で、年約19兆円の投資フローのうち1.5%、認知が広がる2030年には4%が向かうと置きました。三つ目が、富裕層・法人・テーマ投資層からの追加配分です。これらを合わせると、解禁を2028年とした場合、暗号資産ETFの残高は初年度で約1.1兆円、2030年末には約4.8兆円に達する見込みです。国内ETF市場(2026年5月末で約132兆円)の0.8%から3.6%に当たりますが、この比率はあらかじめ置いたものではなく、積み上げた結果として現れた水準です(当社試算。資金流入ベースで、価格変動は織り込んでいません。図表4)。
トークナイゼーションの側も、Progmatが2026年に発行累計5,225億円超と見込むSTを起点に置きました。不動産STを中心とする年0.3〜0.55兆円の新規発行を積み上げると、2029年末には発行累計で約1.8兆円規模に届くと試算します。ステーブルコインは、規模を競う市場というより、トークン化された証券のオンチェーン決済(DvP)を担う清算レールです。規制の整備で信託型(JPYSC等)が登場し、ETFとSTの両者を足元から支える存在になりつつあります。
図表4|暗号資産ETF残高とST発行累計の推計(当社試算)。暗号資産ETFは解禁を2028年と置いた資金流入ベースの積み上げで、価格変動は織り込まない。国内ETF市場(約132兆円、2026年5月末)比では0.8%→3.6%。出所:国内交換業預託はJVCEA、STの起点はProgmat、国内ETF市場は投資信託協会「数字で見る投資信託」に基づきHashHub Research試算(図:筆者作成)
重要なのは、この需要を解禁初年度から取りに行けるのは、前章で見た「今動ける役割」を先に整えた金融機関に限られるという点です。市場の大きさは、役割の準備を急ぐ理由そのものになります。

(2) 「待つこと」のコストは、平時には見えない

市場が立ち上がるとしても、「ガイドラインが出てから動けば横並びで始められる」という前提は、一度立ち止まって検討すべきものです。理由は2つあります。
ひとつは、制度確定後に一斉スタートする後発の金融機関が、最初の1〜2年を体制整備に費やすことになる点です。教育・技術基準・法務精査といった準備はガイドラインの有無にかかわらず時間を要するため、確定後に着手すれば、その分だけ商品提供やノウハウ蓄積の開始が後ろ倒しになります。もうひとつは、この差が平時にはほとんど見えない点です。ETFの販売や自己勘定での保有のように制度確定を待つ役割では、現在どの金融機関も本格運用を始められていないため、準備の進度差はまだ事業成果に表れません。差が顕在化するのは解禁初年度であり、そのとき初めて「動ける役割を先に整えた金融機関」と「確定後に着手する金融機関」の分岐として表面化します。

結論:先行できるのは「業態」ではなく「役割」

2028年の解禁を「スタートライン」と捉えるか、「すでに準備が終わっているべき時点」と捉えるかで、金融機関としての競争力は変わってきます。ここで働く力学はシンプルです。大多数の金融機関が「未確定だから待つ」を選んでいる現在だからこそ、依存の浅い役割から先行して準備を進める金融機関が、相対的な優位を取れます。
旧来の発想では、信託銀行や証券会社といった「業態」を先行ゾーンとして括りがちでした。しかし本レポートで見てきたとおり、同じ金融機関の中にも今動ける役割と待つ役割が同居しており、先行優位は業態の看板からではなく、役割ごとの依存関係を見極めて動ける役割から着手することによって生まれます。ガイドライン確定の有無にかかわらず着手できる役割(人材・教育・技術基準・法務精査・発行体準備・カストディ開発)から始め、確定後に動く役割(申請・販売体制・商品最終化)と明確に分ける——この役割単位の仕分けを自社の見取り図に照らして設計できるかどうかが、2028年以降に先手を取るための実質的な競争優位の源泉になると考えています。

モニタリング指標

  • 金商法改正の成立・公布・施行政令(施行日の確定)
  • 投信法施行令・金商法施行令の改正、金融庁告示・パブリックコメント
  • 銀行・保険の監督指針改正(本体保有・子会社の交換業)
  • バーゼル暗号資産規制の国内告示への反映
  • 暗号資産ETFの組成・販売規制の具体的要件、カストディ監督基準
  • トークン化証券の国際的な上場・流通基準の整合(海外市場インフラとの相互運用)
  • 機関投資家の運用ガイドライン・適格資産認定(保険・年金等の需要側の条件)
  • 暗号資産サービス仲介業(2026年6月施行)の登録・媒介業務の動向

(付録)規模試算の前提

図表4の試算の内訳です。いずれも当社試算で、資金流入ベース(価格変動は織り込まず)。前提により変動し得ます。
暗号資産ETF残高(兆円)
ST発行累計(兆円)
前提:既存保有者の母数は解禁時点で約5兆円と想定(2026年4月末実績は約3.2兆円)。国内ETF市場は約132兆円(2026年5月末、投資信託協会)。
想定シナリオ:暗号資産ETFは、話題が先行する初年度(2028年)から、証券口座の一商品として定着する段階(2029年)を経て、ポートフォリオのオルタナティブ資産として小口配分が進む段階(2030年)へ移ると想定しています。この普及の深まりを、NISA経由の流入比率の上昇(1.5→3.0→4.0%)に反映しました。STは不動産STを中心に、2028年以降は社債・ファンド持分など不動産以外の裏付けにも徐々に広がると置いています。

データソース・参考文献

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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