インドにおけるブロックチェーン技術の進化と主要動向(2018年~2025年7月)──CBDCから資産トークン化まで
2025年07月24日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 1.中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルルピー」の導入状況
- 1.1.パイロットプログラムの開始と段階的導入
- 1.2.ユーザー数、取引量の推移と課題
- 1.3.オフライン利用、プログラマビリティ、クロスボーダー決済への拡張
- 1.4.CBDCが預金保険や金融システムに与える影響に関する議論
- 1.5.CBDCまとめ:インドにおけるCBDCパイロットの現状と方向性
- 2.トークナイゼーションに関する取り組み
- 2.1.不動産トークナイゼーションのパイロットと規制動向(GIFTシティを中心に)
- 2.2.預金トークンとその他の金融資産のトークナイゼーション
- 2.3.ロイヤルティポイントのトークナイゼーション
- 3.国際送金・貿易金融など、金融サービス分野におけるブロックチェーン活用事例
- 3.1.銀行間決済と国際送金
- 3.2.貿易金融におけるブロックチェーンの利用
- 3.3.マイクロファイナンス、BNPL、保険シンジケーションへの応用
- 4.総括
インドは、ブロックチェーン技術が持つ社会・経済構造の変革ポテンシャルに早くから着目し、国家戦略としての導入と制度整備を積極的に進めてきた国の一つです。HashHub Researchでは、2019年および2020年にもインドの先進的な取り組みを紹介してきましたが、それ以降も同国は、公共部門・民間部門を問わず、実証実験から商用化に至る多様な事例を積み重ねています。
本稿では、2018年以降から2025年7月現在に至るまでの動向の中でも特に、以下の3点に焦点を絞り、その主要動向を整理します。
- 中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルルピー」の導入状況
- トークナイゼーションに関する取り組み
- 国際送金・貿易金融など、金融サービス分野におけるブロックチェーン活用事例
本稿が、インドにおけるブロックチェーン政策の全体像と方向性を把握し、今後の制度設計や事業展開を検討する際の一助となれば幸いです。
※なお、本稿は2018年から2025年7月時点までの主要な動向を中心に取りまとめたものであり、すべての関連プロジェクトや技術的進展を網羅するものではありません。巻末には、本稿作成にあたって参照した主な資料とその簡単な解説を添えていますので、あわせてご参照ください。
※関連レポート
◾️背景解説①:政府の初期戦略と国家フレームワークの構築について
インド政府は、ブロックチェーン技術の可能性を認識し、その活用に向けた国家戦略を策定してきました。2020年1月には、スマートガバメント国立研究所(NISG)が国家ブロックチェーン戦略の草案を公開し、中央銀行デジタルルピー(CBDR)と国家ブロックチェーンの導入を提唱。2021年12月には、インド電子情報技術省(MeitY)が、5年間のロードマップを含む国家ブロックチェーン戦略を正式に発表し、国家ブロックチェーンフレームワークと分散型BaaS(Blockchain as a Service)ホスティングインフラの整備が計画されました。2024年9月には、インド電子情報技術省が国家ブロックチェーンフレームワークを正式に発表し、政府機関向けのソリューション開発プラットフォームと、研究者や中小企業向けの試作プラットフォームを提供しています。
◾️背景解説②:ブロックチェーン技術に対する政府のスタンスと規制動向について
インド準備銀行(RBI)は、ブロックチェーン技術には期待を寄せる一方で、暗号資産に対しては一貫して慎重または禁止的な姿勢を維持しており、2019年には、RBI総裁が民間デジタル通貨に強く反対し、政府委員会が全ての暗号資産の禁止を提案する法案を提出しています。
2020年3月、インド最高裁はRBIによる暗号資産取引禁止の通達を覆しましたが、RBIは銀行システムへのリスクを懸念して控訴を計画し、その後もインド政府は暗号資産禁止法案の検討を継続。2023年5月には、RBI副総裁がCBDCの推進と暗号資産の「制限」を提言し、G20の副議長として主要準備通貨からの多様化を提案しています。直近一年前の2024年8月には、インド財務省が暗号資産の販売・購入を直接規制する計画はないとしつつも、仮想デジタル資産サービスプロバイダー(VDASPs)をAML(マネーロンダリング対策)の報告対象機関としています。
インド政府は、ブロックチェーン技術の潜在的利益を最大限に活用しつつ、金融安定性へのリスクを厳しく管理するという、非常に慎重かつ戦略的なアプローチを採用しています。
1.中央銀行デジタル通貨(CBDC)「デジタルルピー」の導入状況
インド準備銀行(RBI)は、中央銀行デジタル通貨(CBDC)である「デジタルルピー」の導入に積極的に取り組んでおり、金融包摂の促進、決済システムの効率化、そして国際決済の迅速化・コスト削減を主要な目標としています。
1.1.パイロットプログラムの開始と段階的導入
インド準備銀行(RBI)は、2018年8月にルピーに対応するデジタル通貨(CBDC)の導入可能性を検討する専門グループを設置しました。同年の年次報告書では、各国の中央銀行でもCBDCの検討が進んでいることに触れつつ、民間のデジタルトークンの台頭や現金(紙幣・硬貨)の製造コストの上昇を背景に、デジタル通貨の必要性を示唆しています。この年が、インドにおけるCBDC検討の本格的な起点といえます。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。