Gas先物は誰のための金融商品なのか? ――「投機」ではなく「原価固定装置」として見たときの、現実的な位置づけ

2025年12月12日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
VitalikのGas先物構想

最近、VitalikのGas先物構想をめぐって、「そんなものに実需はない」「ただの投機商品になるだけではないか」「そもそもGasはプロトコルで安定させるべきだ」といった否定的な意見が否定的な意見が数多く出ている。実際、過去にもGas先物やGasトークンに類する試みはいくつも存在したが、CHIをはじめ、その多くはEthereumのプロトコル更新によって役割を失い(注1)、市場としても定着しなかった。
※注1:CHIはガスが安いときに仕込んで高いときに使う「Gasヘッジ=Gas先物の原始形態」に近い仕組みだったが、(1)価値のないストレージを大量に積み上げるステート肥大化、(2)本来は混雑時の利用抑制シグナルであるBase Feeバーンを「ガスが高いときほど得する」インセンティブに反転させてしまうEIP-1559(Base Feeバーン)との設計衝突、(3)先物化と組み合わさることでの経済的DoS攻撃リスクが問題視され、EIP-3529(Gasリファンド削減)でプロトコル健全性の観点から無効化された。
この歴史を踏まえるなら、

「Gas先物はすでに一度“否定された設計思想”である」

という批判は、極めて正当である。
現在のEthereumは平常時のGasが十分に低い
また、現在のEthereumは平常時のGasが十分に低く、L2のDAコストも落ち着いており、少なくとも“今この瞬間”において、L2運営者、AA事業者、清算Bot、MEV事業者がこぞってGasヘッジに殺到している状況にはない。実際、「2年作ったが自然発生的な需要はなかった」「必要なのは極端な混雑時だけで、その他の時間は市場が死ぬ」という実務寄りの証言も少なくない。
GAS先物に需要はないという実務寄りの証言
この点において、

「Gas先物はいまの時点では不要」

という評価は、極めて現実的である。
さらに、Gas先物は他のコモディティ先物と比べて、構造的な弱点も抱えている。巨大な資本を持つ主体が、先物市場でポジションを構築したうえで、あえてオンチェーンに混雑を“作り出す”ことができてしまう点だ。石油や電力の供給は個人が簡単に操作できないが、GasはTXスパムによって比較的低コストで混雑を人為的に発生させられる。この「先物市場が現物市場を作れてしまう逆転構造」は、Gas先物が本質的に抱える最大級のリスクであり、単純な金融商品としての成立を難しくしている。
ここまでを正直に認めたうえで、それでもなお「Gas先物という発想が完全に的外れか」と問えば、答えは必ずしもそうではない。
重要なのは、

Gas先物を誰のための、どの時間軸の金融装置として位置づけるか

である。
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