Ethereumの2025年以降のロードマップの概観|The Merge & The Surge
2024年11月19日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- The Merge
- The Mergeによる変更点
- The Merge後の改善点
- Beam Chain:次世代コンセンサスレイヤの提案
- The Surge
- L2の必要性
- データ可用性サンプリング
- 信頼可能なL2の証明システム
- L2同士のインターオペラビリティ
- 総論
前提
本レポートでは、Ethereumの2025年以降のロードマップについて、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が2024年10月頃に自身のブログで公開した「Possible futures of the Ethereum protocol」シリーズに沿って解説します。このシリーズは高度な専門用語を多く含んでいますが、本レポートではできる限りわかりやすく噛み砕いて説明します。
「Possible futures of the Ethereum protocol」シリーズは全6部構成であり、本レポートも3本に分けて順次公開予定です。残りのレポートはこちらからご覧いただけます。
- 未公開
- 未公開
また、以前公開されたロードマップとの違いを知りたい方は、2022年に発表された2023年以降のロードマップについての以下のレポートを参照してください。
Ethereumは、分散性やセキュリティを維持しつつ、システムのスケーラビリティ(拡張性)を高めることを目指しています。Ethereumのロードマップは、こうした目標達成に向けて解決すべき課題を段階的に分け、それぞれの課題に対するアップグレードを段階的に進めることで最終的なゴールを目指しています。
まずは、全体のロードマップの概要について説明します。
- The Merge: 2022年9月に完了。EthereumはこのアップデートによってPoS(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を達成し、エネルギー消費量を大幅に削減しました
- The Surge: ロールアップやEIP-4844の導入を通じてスケーラビリティの向上に焦点を当て、秒間100,000件の取引処理を目指す段階です
- The Scourge: 経済的な中央集権化のリスクを低減し、バリデータノードの管理やブロック検証プロセスの改善に取り組みます
- The Verge: レイヤー1のガスリミットを増やすことなくブロック検証効率を高め、ネットワークのスケーラビリティをサポートすることを目的とします
- The Purge: プロトコルを簡素化し、技術的負債を削減することで、ネットワークへの参加コストを抑える取り組みです
- The Splurge: エコシステム全体の成長やEthereumユーザーコミュニティの拡大に重点を置き、より広範な開発の促進を図ります
現在、PoSへの移行は完了し、The Mergeは成功裏に実施されました。しかし、The Merge完了後の2022年頃から現在にかけて、Ethereumのロードマップは進化を続け、細かい部分でいくつかの変更が加えられています。ただし、年を追うごとにその変更差分は小さくなってきているため、現時点のロードマップを明確に理解することが、Ethereumの将来的な方向性を把握する助けとなります。
Ethereumのロードマップを理解することで、Ethereum自体への投資判断はもちろん、他のブロックチェーンが同様の課題に対処する際の参考としても役立てることができます。
The Merge
ここでは、EthereumがPoSへの移行を達成した「The Merge」について、その変更点や運用を経て明らかになった改善点と解決策を紹介します。
The Mergeによる変更点
The MergeはEthereumにとって重要な転換点であり、これによってネットワークのコンセンサスアルゴリズムがProof of Work(PoW)からProof of Stake(PoS)に大きく変更されました。この変更により、従来のPoW方式で必要だった膨大な計算資源を使うマイニングが終了し、代わりにバリデーターと呼ばれる参加者がETHを「ステーキング」することでブロックが生成されるようになりました。この移行の結果、Ethereumのネットワーク全体のエネルギー消費が劇的に削減され、従来と比べて約99.95%のエネルギー節約が達成され、環境への負荷が大幅に軽減されました。
また、The MergeはEthereumのセキュリティモデルにも大きな変革をもたらしました。PoS方式では、バリデーターがネットワークに参加する際に、自らのETHを担保としてステーキングします。不正が発生すると、ステーキングしたETHが没収される(スラッシュされる)ため、バリデーターには誠実にブロック生成を行う強いインセンティブがあります。この仕組みが導入されたことで、ネットワーク全体のセキュリティが向上し、Ethereumの信頼性がより高まりました。
The Mergeは単なるコンセンサスアルゴリズムの変更にとどまらず、持続可能なEthereumの未来に向けた重要な一歩といえます。さらに、今後計画されるシャーディングの導入準備としての役割も果たしており、Ethereumのさらなる発展の土台となるアップデートとなりました。
The Merge後の改善点
課題:ブロック確定時間と最低ステーク量
現在、Ethereumのブロック確定には2~3エポック(最大約15分)を要し、また、バリデーターとしてステークするためには最低32ETHが必要とされています。これは、PoSによって生じるトリレンマのバランスをとるためです。
ブロックの確定に2,3エポックかかっているのは、すべてのバリデータが2つのメッセージを署名して安全にブロックを確定させるためです。結果として、署名を短時間で処理できるような高性能なノードが必要とされます。
ブロックの確定に2,3エポックかかっているのは、すべてのバリデータが2つのメッセージを署名して安全にブロックを確定させるためです。結果として、署名を短時間で処理できるような高性能なノードが必要とされます。
ステーク量を32ETHから引き下げた場合、より多くの参加者がバリデーターになれるため、バリデーター数を増やすことが可能です。しかし、その分合意を得るまでに時間がかかるようになり、さらに高性能なノードが必要とされるため、ノード性能やセキュリティ要件がより厳しくなるという課題が生じます。
さらに、Ethereumでは、安全なファイナリティ(取引の不可逆性)を実現するために「成功した攻撃にも高いコストを攻撃者に課す」ことを目指しています。バリデーター数が増えることで合意にかかる時間も増加し、ブロックの確定時間が長引く可能性があります。よって、セキュリティを強化しつつも効率的にブロックを確定するための工夫が必要になります。
そこで、以下の2つの目標が示されています。
- シングルスロットファイナリティ:1スロット(12秒)でブロックを確定させ、より高いセキュリティを確保する
- 1 ETHからのステーキング:最低ステーク量を32ETHから1ETHに引き下げ、より多くのバリデーター参加を促す
シングルスロットファイナリティにより、トランザクションが確認されると同時に確定され、より速く、安全な取引が可能になります。また、ステーク量の引き下げは、参加者数を増やし、ブロック選定の民主化にも貢献します。しかし、これではノード性能への要求が高くなるため、いくつかの解決策が提案されています。
シングルスロットファイナリティを実現するための解決策
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。