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イーサリアム公共財の持続的資金調達:Gitcoin Rekhan氏の3段階ロードマップをを読み解く

2025年05月19日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

導入:イーサリアムの「公共財」とは何か、なぜ今、資金調達が課題なのか?

イーサリアムは、暗号資産(仮想通貨)の世界でビットコインに次ぐ大きな経済圏を形成し、DeFi(分散型金融)やNFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)といった革新的なアプリケーションの基盤となっています。しかし、この巨大なエコシステムを支える根幹技術、すなわちコアプロトコルや開発ツール、研究といった要素は、誰のものでもなく、誰もが利用できる「公共財」としての性質を持っています。この公共財の持続的な発展なくして、イーサリアムの未来はありません。本稿では、GitcoinのSejal Rekhan氏が提案した、この公共財への資金調達の持続可能性を高めるための段階的なロードマップ「A Roadmap for Funding Ethereum’s Open Source Infrastructure」について、その内容をわかりやすく解説し、イーサリアムが直面する課題と未来への展望を探ります。

イーサリアムを支える縁の下の力持ち:「公共財」の解説

イーサリアムは、特定の一企業が開発・運営している商用プロダクトとは異なり、その核心部分はオープンソースソフトウェアとして開発が進められ、誰でも自由に利用・改良できる「公共財」としての性格を強く帯びています。一般的な公共財の定義は、ある人が利用しても他の人の利用可能性が減らず(非競合性)、特定の人を排除することが難しい(非排除可能性)ものとされています。例えば、私たちが呼吸するきれいな空気や、誰もが使える公園、道路などがこれにあたります。イーサリアムにおけるコアプロトコル、クライアントソフトウェア、開発者向けツール、セキュリティ研究なども、まさにこの公共財に該当すると言えるでしょう。Sejal Rekhan氏の提案は、これらのイーサリアムエコシステムに不可欠な公共財への資金提供を持続可能なものにすることを目的としています。
イーサリアムの基盤技術が「公共財」であるという認識は、その開発と維持に対するアプローチを根本から問い直すものです。しかし、イーサリアムの共同創設者であるVitalik Buterin氏がブログ「We should talk less about public goods funding and more about open source funding」にて指摘するように、「公共財」という言葉は、しばしばその定義が曖昧なまま使われがちです。例えば、政府が提供するサービスがすべて公共財であるかのように誤解されることがあります。このような定義の曖昧さは、資金調達に関する議論を不必要に複雑にし、真に価値のあるオープンソースプロジェクトへの支援が適切に行われない一因となり得ます。Rekhan氏の提案は、この「公共財」の範囲をイーサリアムエコシステムにおいてより具体的に捉え、支援対象を明確化しようとする試みとしても重要な意味を持ちます。この公共財の概念を正しく理解することが、なぜRekhan氏のような新たな資金調達の仕組みが必要とされているのかを把握する上での出発点となります。

「タダ乗り」問題と持続可能性の壁

公共財は、その性質上、対価を支払わなくても誰もが恩恵を受けられるため、開発や維持のためのコストを誰が負担するのかというインセンティブが働きにくい「フリーライダー問題」を構造的に抱えています。Vitalik Buterin氏は、たとえ多くの人々が恩恵を受けるプロジェクトであっても、一人ひとりが受ける利益が小さい場合、誰も率先して資金を提供しようとしない可能性があると前掲のブログのなかで指摘しています。これは、イーサリアムのコア開発ツールやプロトコル研究といった、エコシステム全体にとって不可欠でありながら、直接的な収益を生み出しにくい分野が直面している典型的な課題です。Rekhan氏の提案の背景には、このような「共有されている依存関係に対する資金不足という、目前に迫った危機」への強い問題意識があります。
さらに、現在の公共財への資金調達のあり方についても課題が指摘されています。Vitalik Buterin氏は、公共財への資金提供はしばしば厳密な評価基準に欠け、「社会的な好ましさのバイアス」によって、つまり、実質的な効果よりも聞こえの良いプロジェクトやアピールの上手いプロジェクトが資金を獲得しやすい傾向があると述べています。これにより、本当にエコシステムの基盤を支える重要なプロジェクトが必要な支援を受けられず、見過ごされてしまうリスクが生じます。
このような状況は、資金調達が実質的な価値よりも、人間関係やプレゼンテーションの巧みさといった「社会遊戯(ソーシャルゲーム)」の得意なインサイダーに有利に働く危険性を示唆しています。Rekhan氏が提案するロードマップ、特に後述するフェーズ2のダッシュボードによる透明性の向上や、フェーズ3の依存関係に基づいた資金提供の仕組みは、このような属人的な要素を可能な限り排除し、より客観的で透明性の高い資金配分メカニズムを構築しようとする試みと解釈できます。これは、単に資金不足を解消するだけでなく、資金配分の「質」そのものを改善しようとする意欲的な取り組みと言えるでしょう。イーサリアムのような巨大で分散化されたエコシステムにおいては、一部の有力者や声の大きなプロジェクトに資金が偏るリスクが常に存在するため、公平性と透明性を担保する仕組みの重要性は計り知れません。

図1.イーサリアムの「公共財」とは何か、なぜ今、資金調達が課題なのか?(出所:筆者作成)
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