Ethereumの2025年以降のロードマップの概観|The Scourge & The Verge
2024年12月02日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- MEVの概要
- The Scourge
- MEV対策としてのPBSとAPS
- インクルージョンリスト
- 暗号化mempool
- 課題とトレードオフ
- ステーキングエコノミクス
- The Verge
- ステートレスな検証
- コンセンサスの有効性証明
- Beam Chain(提案された次世代コンセンサスレイヤ)が与える影響
- 総論
前提
本レポートでは、Ethereumの2025年以降のロードマップについて、Vitalik Buterin(ヴィタリック・ブテリン)が2024年10月頃に自身のブログで公開した「Possible futures of the Ethereum protocol」シリーズに沿って解説します。このシリーズは高度な専門用語を多く含んでいますが、本レポートではできる限りわかりやすく噛み砕いて説明します。
「Possible futures of the Ethereum protocol」シリーズは全6部構成であり、本レポートも3本に分けて順次公開予定です。残りのレポートはこちらからご覧いただけます。
また、以前公開されたロードマップには、今回説明するThe Scourgeは入っていません。より詳しく違いを知りたい方は、2022年に発表された2023年以降のロードマップについての以下のレポートを参照してください。
Ethereumは、分散性やセキュリティを維持しつつ、システムのスケーラビリティ(拡張性)を高めることを目指しています。Ethereumのロードマップは、こうした目標達成に向けて解決すべき課題を段階的に分け、それぞれの課題に対するアップグレードを段階的に進めることで最終的なゴールを目指しています。
まずは、全体のロードマップの概要について説明します。
- The Merge: 2022年9月に完了。EthereumはこのアップデートによってPoS(プルーフ・オブ・ステーク)への移行を達成し、エネルギー消費量を大幅に削減しました
- The Surge: ロールアップやEIP-4844の導入を通じてスケーラビリティの向上に焦点を当て、秒間100,000件の取引処理を目指す段階です
- The Scourge: 経済的な中央集権化のリスクを低減し、バリデータノードの管理やブロック検証プロセスの改善に取り組みます
- The Verge: レイヤー1のガスリミットを増やすことなくブロック検証効率を高め、ネットワークのスケーラビリティをサポートすることを目的とします
- The Purge: プロトコルを簡素化し、技術的負債を削減することで、ネットワークへの参加コストを抑える取り組みです
- The Splurge: エコシステム全体の成長やEthereumユーザーコミュニティの拡大に重点を置き、より広範な開発の促進を図ります
以前、ブロックチェーンのコンセンサスにおける主な懸念点は「中央集権化」でした。しかし、最近ではMEV(Maximal Extractable Value)に関する理解や研究が進んできており、MEVによって得られる利益がどのように正しく公平に分配されるべきかという問題も新たな課題として浮上しています。さらに、バリデータの分散化を促進するために、Ethereumチェーンにおける検証作業を効率化する手法として「ステートレスな検証」も注目されています。
Ethereumが長い間稼働するにつれて、今まではだれも気付かなかったEthereumの側面が明らかになりつつあります。さらに、進化を続ける暗号技術を駆使して、ウェアラブル端末でのチェーン検証を実現することが目指されています。こうした未解決の課題に挑むEthereumの取り組みは、他のブロックチェーンが直面していない問題に対する解決策を提供する可能性があり、その解決策を学ぶことは、Ethereumへの投資判断や他のブロックチェーンの課題解決においても重要な参考となるでしょう。
本題に入る前に、まずは事前知識としてMEVとは何かについて簡単に説明します。
MEVの概要
MEV(Maximal Extractable Value)とは、ブロックを構築するマイナーやバリデータが、トランザクションを選択したり、その順番を任意に並べ替えることで得られる最大の利益を指します。
EthereumはThe Merge以降、ETHの供給量が大幅に削減され、流通量も減少しています。一般的に、ブロックチェーンのブロック作成に携わるバリデータは、トークン発行による報酬をインセンティブとして動いています。しかし、ブロック生成報酬が大幅に減少したにもかかわらず、Ethereumのバリデータが正常に稼働し続けている理由は何でしょうか?
その理由は、バリデータがMEVを活用することで、ユーザーから集めた資金を収益に変えているからです。MEV自体は悪い行為ではなく、トランザクションを自由に並べ替えたり選択したりできるバリデータにとって、利益を最大化するために任意の順番でトランザクションを含めることは十分なインセンティブとなります。
ただし、Ethereumとしては、MEVの中でもユーザーから過剰に価値を奪うような悪質な行為を排除し、MEVの分散化を進める必要があります。
MEVについてさらに詳しく知りたい方は、以下のレポートをご覧ください。
The Scourge
本セクションでは、EthereumにおけるMEVとステーキングプールにおける中央集権化リスクをどのように最小化していくか、また過剰なMEVを抑制するための具体的な方法について解説します。
MEV対策としてのPBSとAPS
MEV対策の基本方針は、ブロックに含めるトランザクションの選択や順番決定というタスクを分割することで、特定のアクターが過度な権限を持つことを防ぎ、過剰な利益の抽出を制限することです。
現在、MEV-Boostを活用して**PBS(Proposer-Builder Separation)**を部分的に実現しています。PBSとは、バリデータがブロック提案の機会を得た際に、ブロックの内容の選定を「ビルダー」と呼ばれる専門のアクターにオークションで委託する仕組みです。この分離により、バリデータはトランザクションの順番を決めたり、どのトランザクションを含めるかを選択したりする権限を持ちません。ビルダーは、その選択を通じて収益を最大化することができます。
ブロック内容を選択して収益を最大化する作業は、規模の経済に強く依存しています。ビルダーは特定のアルゴリズムを使用して、オンチェーンの金融ガジェットや関連するトランザクションから最大限の価値を引き出します。バリデータはただ入札を開いて、ビルダーからの最高入札を受け入れる役割です。
ブロック内容を選択して収益を最大化する作業は、規模の経済に強く依存しています。ビルダーは特定のアルゴリズムを使用して、オンチェーンの金融ガジェットや関連するトランザクションから最大限の価値を引き出します。バリデータはただ入札を開いて、ビルダーからの最高入札を受け入れる役割です。
他にも、APS(Attester-Proposer Separation)というアプローチもあります。APSは、実行ブロックに関連するトランザクションやデータの処理に適用され、PBSとは異なり、ブロック全体の構築をビルダーが行い、バリデータはそのブロックの検証のみを担当します。つまり、バリデータはブロックの提案や構築プロセスから完全に切り離され、ビルダーが作成したブロックをそのまま提案する形になります。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。