「アルゴリズミックステーブルコインを弔う」特集

目次

  • 「アルゴリズミックステーブルコインを弔う」特集

「アルゴリズミックステーブルコインを弔う」特集

「阿鼻叫喚」、ここ数日のUST、LUNAをめぐる巷の騒動はまさにそのような言葉で言い表される。
USTという名の猛火でその身を焼かれた人々の呻き声はSNSを通じて人々の記憶に強い印象として残るであろうし、そこから得られるいくつかの教訓は今後の糧になるところもあるでしょう。とはいえ一方で、かつてのTITANがそうであったように、それがアルゴリズミックステーブルコインとは何かを表す代名詞であるかのように印象付けられてしまう場合もあるのではないかとも危惧します。
今回の特集では「印象としての」アルゴリズミックステーブルコインと「実態としての」アルゴリズミックステーブルコインのズレを認識することを目的に、かつてのアルゴの弔いという名目で、これまでの実験的な歩みを振り返りたいと思います。
なお、今回のUSTのデペグの理由については以下のレポートで考察を加えて解説をしています。本特集では触れませんので、興味のある方は以下のレポートをご参考ください。

アルゴリズミック・ステーブルコインはなぜ生まれたのか

アルゴリズミック・ステーブルコイン、つまり過去に一度終焉を迎えたBasis(Basecoin)をはじめとする無担保型、シニョレッジ型ステーブルコイン群のことを指し、(以下省略)
※引用レポート:アルゴリズミック・ステーブルコインの動向(1) マルチトークンモデル「Basis Cash」「Empty Set Dollar」の仕組み概説
アルゴリズミック・ステーブルコインの走りとして印象に残るプロジェクトとしてBasis(元Basecoin)が挙げられます。プリンストン大学の卒業生数名で立ち上げられたプロジェクトであり、ハイパーインフレへの耐性をもつ中央集権型管理から脱却した新しい通貨システムを主に謳って開発を進められたプロジェクトです。AndreesenHorowitzやPolychain CapitalのようなVCからICOを通じて$133Mを調達したことで大きな注目と期待を一身に受けましたが、米国の証券規制への適用が困難であることを理由に2018年末ごろに開発が中断されてしまいました。
ステーブルコインは、2019年6月にFacebook(現在Meta)がLibra(後にDiem)を提案したことで、広く認知されました。ドルやユーロを含む不換紙幣のバスケットに固定されるグローバル通貨として期待されましたが、そのデザイン設計から世界各国の規制当局から厳しい批判を受け、2022年始めにプロジェクトが終了。暗号資産業界では象徴的な事件となりました。(1) 同時にLibraは、世界中の規制当局を動かすきっかけとなり、ステーブルコインの研究や国際統一基準の策定に向けた取り組みが広がっていきました。(2)
※引用元レポート:米国ステーブルコイン規制の最新事情
上記引用レポートにある当局が規制対象として議論しているステーブルコインとは、発行体を特定可能なDiem(元Libra)のようなプロジェクトを指しており、分散型で管理されるステーブルコインは執筆時点では議論の対象外です。今後DAO管理によるステーブルコインを規制するための動きは出てくる可能性はありますが、不特定多数の主体が管理するステーブルコイン、より広く捉えるならば分散型で機能するインターネットファイナンス全体の規制はそう容易いことではなく、アルゴリズミック型をステーブルコインとしてなのか、暗号資産の一種としてなのか、どちらの認識でどう規制していくのかを見守る必要があるでしょう。
2020年はこのアルゴリズミック・ステーブルコインの実験が本格的に再開した年でもあり、AmpleforthやLien、Basis Cash、Empty Set Dollar、Reserve、Fraxなどのプロトコルやそれらをフォークしたコピープロジェクトが多く生まれています。現時点では価格安定性のなさ、持続可能性に対する懸念からただの投機対象として見られがちではありますが、執筆時点での法定通貨担保型に対する米国の規制強化の流れ(※関連レポート参照)は、世界に波及する可能性もあり、今後オンチェーン上で成立するステーブルコイン開発がより注目されるのではないかと筆者は考えています。
※引用レポート:アルゴリズミック・ステーブルコインの動向(1) マルチトークンモデル「Basis Cash」「Empty Set Dollar」の仕組み概説
アルゴリズミックステーブルコインのリバイバルが起きたのはDeFi市場が大きく成長し始めた2020年あたりからであり、実需が見込めるフェーズでリバイバルが起きたという印象です。分散型を志向しつつもDAIのような過剰担保型ステーブルコインの資本効率の悪さを解消することを主に説きながら、その存在意義、必要性を謳って開発が進められていきました。

弔われるアルゴと弔うにはまだ早いアルゴ|アルゴリズミックステーブルコインの多様性

2020年以降のアルゴリズミックステーブルコインのリバイバルは正解が未だない信用を担保とする新たな通貨システムを求めた欲望と好奇心がひしめき合う実験場であり、そのような中でBasis CashやESD、Ampleforth、Terra、Frax、Fei、UXD、Beanなどの多様なシステムを生み出してきました。
これらはそれぞれに同じジャンルとして取り扱われますが、その仕組みは個々に異なります。上向きの価格乖離は基本的に投機熱の収まりとともに解消されますのでそこまで気にする必要はありませんが、下向きの価格乖離をどう防ぐのかは各プロジェクトごとに過去の失敗を元に試行錯誤を行なっている過程であり一様ではありません。
Basis CashやESD、TITAN、Bean、UST(Terra)のように何かしらのインパクトを受けてデペグし、デススパイラルに陥ってしまったものもあれば、FraxやFei、UXDのように米ドル価格とのペグを中長期で維持しているものもあります。そしてAmpleForthのように奇妙なほど上下に価格が推移するものの、そのシンプルかつ美しさすら感じる解法ゆえの脱力系ペグを実現しているシステムもあります。
アルゴリズミックステーブルコインは未だ実験過程ではあるため、執筆時点でもどれが正解なのかは未だわからないというのが筆者の正直な感想ではありますが、USTのように中長期でペグを維持していたとしても、潜在的に抱えているリスクがある以上は、少なくとも何をどうしたらペグが外れるのか、という弱点を把握した上で自身のとるポジションを冷静に判断することが肝要でしょう。もちろん予測できない突発的なイベントをきっかけにシステムが破綻することもありますので、全てを理解することはできないという前提のもとでリスクを見積もり、適切に分散させる必要があります。

【紹介レポート一覧】

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。