オンチェーン株式取引マーケットxStocksの概要、金融機関における活用可能性
2025年07月02日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- はじめに
- 発行・運用主体:BackedFiの概要とコンプライアンス体制
- xStocksの技術的・運用的仕組み:オンチェーン株式の裏側
- リスク分析
- 商品ラインナップと市場での展開
- 金融機関におけるユースケースと考察
- 結論:xStocksの将来性と金融市場へのインパクト
本レポートでは、このRWAトークン化の最前線で「Invest in the US stock market onchain.」というビジョンを掲げる「xStocks」に焦点を当てます。
https://xstocks.com/
スイスを拠点とするBackedFiが発行するこのトークン化証券は、法規制への準拠と技術的な透明性を両立させることで、機関投資家の参入を視野に入れた新たな金融インフラを目指しています。
スイスを拠点とするBackedFiが発行するこのトークン化証券は、法規制への準拠と技術的な透明性を両立させることで、機関投資家の参入を視野に入れた新たな金融インフラを目指しています。
エグゼクティブサマリー
- xStocksがスイスのDLT(分散型台帳技術)法に準拠した「台帳ベース証券」として設計され、リヒテンシュタインで承認された目論見書を持つなど、革新性とコンプライアンスを両立させようとする明確な法的枠組みは注目に値する
- 技術面では、原資産がFINMAライセンスを持つスイスの銀行に分別管理され、その裏付けがChainlinkのProof of Reserve(PoR)によってオンチェーンでリアルタイムに検証可能である点は、高い透明性を確保する上で特筆すべき
- カウンターパーティリスク(発行体、カストディアン)、そして何よりスマートコントラクトの監査レポートが公に開示されていない点は、技術的信頼性を評価する上での重大な懸念事項
- 二次市場の流動性はまだ発展途上であり、規制の不確実性も依然として残る
- 結論として、xStocksはDeFiとの親和性が高く、24時間取引や担保資産としての活用など、金融機関にとって新たな機会を提供する可能性を秘めいるが、本格的な採用には、これらのリスクに対する徹底したデューデリジェンスと、市場のさらなる成熟が不可欠であると評価する
DeFiユーザー / 暗号資産投資家
- 対象者: 普段から暗号資産やDeFiサービスを利用しており、資産の多くをブロックチェーン上で保有している投資家。
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抱えている問題:
- 資産の分断: 米国株などの伝統的な金融資産に投資したい場合、一度暗号資産を法定通貨に交換し(オフランプ)、証券会社の口座に入金する必要がある。このプロセスは時間がかかり、手数料も高く、税金の問題も発生します。
- 機会損失: 保有している暗号資産(ステーブルコイン等)は、DeFiプロトコルに預けて金利を得ることはできても、その価値を使って直接、株式市場の成長を取り込むことができません。
- 時間の制約: 従来の株式市場は取引時間が平日の日中に限定されており、24時間活動するDeFiの世界とはリズムが合いません。
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xStocksが提供する価値:
- シームレスな資産交換: 暗号資産(USDCなど)を法定通貨に交換することなく、分散型取引所(DEX)で直接xStocksに交換可能。これにより、手数料、時間、税務上の手間を大幅に削減します。
- 資本効率の向上(マネーレゴ): 購入したxStocksを、DeFiレンディングプロトコルの担保として預け入れ、別の暗号資産を借りることができます。また、DEXの流動性プールにxStocksを提供して取引手数料(利回り)を得るなど、単に保有するだけでなく資産を有効活用できます。
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24時間365日の取引: 市場が閉まっている夜間や週末でも、いつでも思い立った時に米国株へのエクスポージャーを持つポジションを取ったり、解消したりすることが可能です。
2. グローバル投資家(特に米国外)
- 対象者: 米国以外の国、特に自国の証券会社では米国株へのアクセスが限定的だったり、手数料が高かったりする地域の個人・機関投資家。
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抱えている問題:
- アクセスの障壁: 国によっては、利用できる証券会社が限られていたり、口座開設が煩雑だったり、最低投資額が高かったりします。
- 高額な手数料: 国際送金手数料、為替手数料、取引手数料などが幾重にもかかり、リターンを圧迫します。
- 不便な取引時間: 米国市場の取引時間は、アジアやヨーロッパの投資家にとっては深夜から早朝にあたり、リアルタイムでの取引が困難です。
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xStocksが提供する価値:
- グローバルで平等なアクセス: インターネットと暗号資産ウォレットさえあれば、世界中のどこからでも米国を代表する株式へアクセスできます。
- コスト削減: ブロックチェーンを利用することで、従来の中間業者を削減し、各種手数料を低く抑えられる可能性があります。
- 時間的制約からの解放: 居住地のタイムゾーンに関係なく、いつでも取引に参加できます。
3. 金融機関 / プロのトレーダー
- 対象者: 常に新しい収益機会や業務効率化を求める銀行、ヘッジファンド、マーケットメイカーなどの金融機関やプロトレーダー。
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抱えている問題:
- 非効率な決済プロセス: 従来の株式取引では、約定から決済完了までに1〜2営業日(T+1/T+2)かかり、その間はカウンターパーティリスクに晒されます。
- 限定的な裁定取引: 市場が閉まっている時間帯は、価格の歪みを利用した裁定取引(アービトラージ)の機会が失われます。
- 商品開発の限界: 複雑なロジックを持つ金融商品を開発・自動化するには、大規模で高コストなシステムインフラが必要です。
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xStocksが提供する価値:
- 決済リスクの劇的な削減: ブロックチェーン上の取引は、支払いの完了と資産の移転が同時に行われる「アトミックスワップ」により、ほぼ瞬時に決済が完了します。これによりカウンターパーティリスクが大幅に低減します。
- 新たな収益機会: 24時間市場は、これまで存在しなかった時間帯でのマーケットメイクや裁定取引の機会を生み出します。
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プログラマビリティによるイノベーション: スマートコントラクトを利用して、「特定のニュースが出たら自動で売買する」「複数のxStocksを組み合わせたポートフォリオ商品を組成し、自動でリバランスする」といったプログラム可能な金融商品を容易に開発・運用できます。
はじめに
RWAトークン化の市場規模は、今後数年で数兆ドル規模に達すると予測されており、その中でも株式や債券といった証券のトークン化は、金融市場の効率性を根底から覆すポテンシャルを秘めています。
従来の証券取引が取引所の稼働時間や国境、複雑な決済プロセスに縛られていたのに対し、トークン化証券は単一のグローバルな台帳上で、ほぼ瞬時に、24時間365日取引を完結させることが可能です。
この変革の中心に位置するのが、xStocksのようなプロダクトです。xStocksは、世界で最も流動性の高い市場の一つである米国株式市場へのアクセスを、ブロックチェーンのオンチェーンで実現しています。
これは単に既存の株式をデジタル化するだけでなく、レンディング、デリバティブ組成、自動ポートフォリオ管理といったDeFiプロトコルの構成要素(マネーレゴ)として株式を利用可能にすることを意味し、金融商品設計の可能性を大きく広げるものです。
発行・運用主体:BackedFiの概要とコンプライアンス体制
xStocksの信頼性を評価する上で、その発行・運用主体の理解は不可欠です。
会社概要と法的構造
xStocksのスキームは、スイス法人Backed Finance AGとジャージー島法人Backed Assets (JE) Limitedという2つの主体によって構成されています。
- Backed Finance AG(トークナイザー): 2021年にスイスのクリプト・バレーであるツークで設立。トークンの発行・償還、スマートコントラクトの開発・管理、プラットフォーム全体の技術的運用を担います。
- Backed Assets (JE) Limited(発行SPV): 金融商品発行に事業目的を限定したジャージー島籍の特別目的事業体(SPV)。法的にトークンの発行主体となり、投資家との契約当事者となります。
この発行体(SPV)と運用者(トークナイザー)を法的に分離する構造は、「破産リモート性」を確保することを主目的としています。万が一、運用主体であるBacked Finance AGが経営破綻しても、発行体が保有する原資産は法的に隔離され、投資家の資産が直接的な影響を受けるリスクを低減させる設計となっています。
規制準拠の枠組み
BackedFiは、規制のサンドボックスではなく、既存の法規制の枠組みの中でプロダクトを設計している点が特徴です。
- 準拠法(スイスDLT法): トークンは、2021年に施行されたスイスDLT法が定める「台帳ベース証券(Registerwertrechte)」として法的に構成されています。これにより、トークン自体が証券としての法的権利を内包し、ブロックチェーン上の移転が法的な権利移転として認められます。
- 規制当局からの承認(リヒテンシュタインFMA): 欧州経済領域(EEA)の規制に準拠した目論見書を作成し、リヒテンシュタインの金融市場監督庁(FMA)から承認を得ています。これにより、EEA域内での適格投資家への提供(パスポート)が可能となります。
- コンプライアンス(AML/KYC): トークンの一次発行・償還は、厳格なAML/KYC(マネーロンダリング防止/顧客確認)手続きを完了した適格投資家や認定参加者に限定されており、コンプライアンスを重視する姿勢が伺えます。
xStocksの技術的・運用的仕組み:オンチェーン株式の裏側
xStocksの価値は、その裏付け資産の安全性と透明性にかかっています。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。