カンボジア中銀デジタル通貨Bakong その導入背景を探る
2020年06月26日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- Executive Summary
- カンボジア中央銀行(NBC)既存決済システムの再評価とその社会背景
- カンボジアの社会背景
- 既存NBC決済インフラの現状
- 民間の電子決済サービスの現状|電子決済サービスの乱立と相互運用性の課題
- まとめ
- Bakongプロジェクト概要
- 総論
前提
本レポートは、カンボジア中央銀行(以下NBC)によるデジタル通貨(CBDC)プロジェクトBakongを概説します。
本レポートではBakongの簡単な説明と部分的にアーキテクチャについては触れますが、主にDLT(分散型台帳技術)ベースのCBDC採用に至る条件であるカンボジアの社会背景、既存決済インフラ、民間決済サービスの現状と課題に焦点を当てています。カンボジアでなぜCBDC導入が採用されたのかを理解し、それらを他国のCBDC案と比較、または考える材料とすることを目的とします。
CBDCについては過去にいくつかのレポートを配信しておりますので、そちらをご参照ください。
【関連レポート】
米国CBDC、デジタルドルの方向性概説
https://hashhub-research.com/articles/2020-06-14-cbdc-digital-dollar-outline
https://hashhub-research.com/articles/2020-06-14-cbdc-digital-dollar-outline
Executive Summary
- カンボジアは銀行口座開設率が非常に低く、また携帯電話普及率が118%(2018年度)と非常に高い。そのため口座を必要としない電子決済サービスが拡大・乱立
- 【金融包摂の促進】銀行口座を持たないことにより、アクセス可能な金融サービスが限定されている。金融包摂を促進するために銀行口座を普及させる必要性
- 【電子決済サービスの相互運用性欠如】執筆時点のカンボジアでは相互運用性のない電子決済サービスが乱立している。ユーザー視点にたてば、利便性を欠くことであり、キャッシュレスの普及が阻害されているとも言える。また特定の決済事業者による顧客の囲い込みが進めば、市場競争が弱まることも懸念される。一方で事業者の視点では、相互運用性のなさは独自の代理店網などへ投資することで「顧客の囲い込み」効果が得られる競争領域であり、悩ましい問題。これは日本でもQRコードの統一規格が浸透し難い同様の現象が起きており、CBDCを考える際に考慮される課題
- 【カンボジアの通貨リエルよりも米ドルの方が信頼されている】自国通貨が他国通貨より弱いということは、中銀が金融政策を行い難いということとほぼ同義だとも言える。DLTをベースとしたトークン型のBakongにより、リエルの即時高額決済が可能になるが、それでこの問題が解消されるのかは不明
- 【NBC既存決済システムの課題】エンドユーザーのリアルタイム決済が可能であるなど発達はしている。しかし、ホールセール決済には銀行間決済の調整にともなうタイムラグが発生することや、手数料が課題。また民間の電子決済事業者が中銀の決済システムにアクセスは許可されても、既存銀行並みのシステムやコンプライアンスが課されるため、それが重荷となり、必ずしもフィンテックの普及促進につながるわけではない
- 【民間の電子決済サービス】口座やIDを必要としない送金サービス「Wing」やQRコード決済「Pi Pay」など複数の決済サービスが乱立している。KYC/AMLの課題や不正リスク、また相互運用性の欠如といった課題がある
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。