クリプト企業は「城」ではなく「都市」を作る|Baseから学ぶ垂直統合の先のネットワーク戦略
2026年08月19日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- なぜBaseは「Baseを使わせる」のをやめるのか
- 垂直統合はクリプトでも強い
- 成功すると垂直統合そのものが制約にも
- なぜこの現象がクリプトでは特に起きやすいのか
- BaseとRobinhoodは、2つの異なる答えを試している
- 「垂直統合 → ネットワーク」という成長曲線
- 考察|クリプト企業は「城」ではなく「都市」を作る
- 総括
- 参考文献
前提
2026年8月9日、Baseは公開メインネットのローンチから3周年を迎えました。2023年にCoinbaseがEthereumのL2として立ち上げてから、もう3年が経ったことになります。
この3年間を振り返ってみると、Baseの立ち位置は少しずつ変わってきました。立ち上げ当初は、Coinbaseが持つユーザーや資産、プロダクトを足場にしながら、Ethereum上に大きなオンチェーン経済圏を作ることが主な狙いでした。ただ、最初からCoinbaseの中だけで完結するチェーンを目指していたわけではありません。Baseは自らを閉じた「島」ではなく、Ethereumや他のチェーンにつながる「橋」と表現していました。Coinbaseの強い顧客基盤を使って立ち上がりつつ、その外からも人や資産を呼び込む。振り返れば、この考え方は初期から一貫しています。
その後、2025年にはCoinbase WalletがBase appへ刷新され、ウォレットという枠を越えて、取引や決済、ソーシャルなどをまとめた入口へと役割を広げました。さらに2026年に入ると、Baseはグローバルな市場、ステーブルコイン決済、開発者向け基盤といった金融寄りの領域へ重心を移しています。
そして3周年を迎える直前、その流れを象徴するような話が出てきました。Base appを率いるCobieは、今後はBase上の資産だけにこだわらず、他のチェーンにある資産や機能も扱える取引アプリを目指しています。Jesse Pollakも、今後のBase appは以前より「less Base-centric」になっていくと話しています。さらに興味深いのは、Base Chainについても、Coinbaseのアプリから利用を与えられる存在ではなく、資産の質や流動性、約定品質で他のネットワークと競争していく必要があるという考えを示していることです。
自社でアプリもチェーンも持っているのであれば、普通に考えれば両者を強く結びつけたくなりますし、Base appからBase Chainへユーザーを送り、そこで取引してもらった方が、Coinbase全体としては効率が良さそうに見えます。それでもBaseは、少なくともアプリ側については、自社チェーンへの囲い込みを弱めようとしています。
ここが今回、個人的に面白いと感じたポイントです。
Baseが自社チェーン戦略を諦めたというより、垂直統合を使ってネットワークを立ち上げる段階から、その外側にある資産や流動性まで取り込み、ネットワーク全体を大きくする段階へ入ってきたのではないでしょうか。そう考えると、クリプトにおける垂直統合は最終形というより、ネットワークを立ち上げるための強力な手段として捉えた方がしっくりきます。
そうしたことを踏まえて本稿では、Baseの3年間とRobinhood Chainの現在地を振り返りながら、なぜクリプトでは垂直統合が立ち上げに強く、その先ではネットワーク効果を取りに行くことが重要になるのかを考えていきます。
なぜBaseは「Baseを使わせる」のをやめるのか
さて、このタイミングで改めて考えたいのが、Base appとBase Chainの関係です。
というのも、2026年に入ってから、Base appは方向性をかなり絞り込んできました。たとえば、2月にはFarcasterを使ったソーシャルフィードを終了し、取引をアプリの中心に据える方針へ転換。さらに7月には、ソーシャルやクリエイターコインを軸にしたこれまでの取り組みを見直し、Base appの責任者をJesse PollakからCobieへ交代しました。一方のPollakは、Base Chainに軸足を戻し、取引やステーブルコイン決済、AIエージェントなどの基盤づくりに集中している状況です(参考:https://www.theblock.co/news/ecosystems/2026-07-15-coinbases-jesse-pollak-hands-base-app-leadership-cobie-social-bets-fell-short-408504)。
そして、Cobie体制になってからというもの、Base appとBase Chainの役割分担はさらに分かりやすくなりました。Base appの方は、Base上の資産だけにこだわらず、他のチェーンにある資産や機能も取り込みながら、幅広い市場へアクセスできる取引アプリを目指しています。それに対してBase Chainは、Coinbaseのアプリから優先的に利用を回してもらうのではなく、資産の質や流動性、約定品質を高め、数あるネットワークの中から選ばれる側に回ります(参考:https://www.theblock.co/news/ecosystems/2026-08-06-jesse-pollak-base-app-become-less-base-centric-cobie-builds-trading-platform-411023)。
普通に考えると、これは少し不思議な話です。Coinbaseは自前のアプリもチェーンも持っているのですから、Base appのユーザーをなるべくBase Chainへ流した方が、短期的にはBase上の取引量や手数料を増やしやすいはずです。
ところが、取引アプリとして考えると話が変わります。Solanaに魅力的な資産があり、別のチェーンにより深い流動性があり、別の市場でより良い価格が出ているのであれば、ユーザーにとって重要なのは「Baseを使えること」ではなく、「一番良い条件で取引できること」であり、そこでBaseだけを優先してしまえば、今度はBase appそのものの商品力が落ちてしまいます。
だからこそ、今回の動きで面白いのは、Base appとBase Chainを同じKPIで最適化しようとしていないことだと筆者は考えています。つまり、Base appはユーザーにとって最良の取引の入口を目指し、Base Chainはその選択肢の中で選ばれる市場を目指す。今回の変更からは、アプリとチェーンを同じKPIで最適化するのではなく、それぞれを別々に強くしようとする意図が見えてきます。
また、筆者がここで重要だと思うのは、Baseが自社チェーンへの送客を捨てたというより、「送客されなくても選ばれるチェーン」へ移ろうとしている点です。
もちろん、このやり方が成功するかはまだ分かりませんし、Base appが他のチェーンへ取引を流すようになれば、Base Chainにとって短期的な機会損失になる可能性もあります。それでも、アプリから無条件にユーザーを送り込んでもらう状態を続けるより、資産や流動性そのものを理由に選ばれる方が、ネットワークそのものの競争力は強まりやすいでしょう。少なくとも執筆時点のBaseは、そうした方向へ賭け始めたように見えます。
なお、ここでもう1つ疑問が出てきます。自社の顧客接点、アプリ、チェーンをすべて持つ垂直統合は、いつまで競争優位として機能するのでしょうか。
Base自身も最初から今の形だったわけではありません。Coinbaseのユーザーや資産を足場にネットワークを立ち上げてきました。だとすれば、垂直統合そのものが弱いのではなく、ネットワークの成長段階によって、その役割が変わっていくと考えた方が自然です。次章では、この点をもう少し掘り下げます。
垂直統合はクリプトでも強い
ここまでの話だけを読むと、クリプトでは自社サービスを囲い込むより、最初からオープンなネットワークを作った方が良いようにも見えます。ただ、実際にはそう単純ではありません。むしろ、ネットワークを立ち上げる最初の段階では、垂直統合がかなり強い武器になります。
新しいチェーンを作ったところで、そこにユーザーが来るとは限りません。ユーザーがいなければ流動性も集まりにくく、取引機会が少なければ、さらにユーザーは来ません。当然、開発者にとっても、誰も使っていないチェーンに時間と資金を投じる理由は弱くなります。
要するに、ネットワークは参加者が増えるほど便利になる一方で、最初の参加者をどう呼び込むかが一番難しいわけです。いわゆる「コールドスタート問題」です。
そこで効いてくるのが、すでに事業を持っている企業の力です。Baseの場合、Coinbaseにすでに顧客がいて、資産があり、法定通貨からクリプトへ入る導線もあるため、ゼロからユーザーを探す必要はありませんでした。そのうえ、開発者から見てもCoinbaseのプロダクトやユーザーへ接続できますから、Baseはこうした既存の強みを足場にして、ネットワークの立ち上がりを早めることができたと言えます。
そして、この構図がいま最も分かりやすく表れているのが、Robinhood Chainです。
というのも、Robinhoodは2026年7月にRobinhood Chainの公開メインネットを立ち上げましたが、そのスタート地点にはすでにRobinhoodの証券取引サービスやウォレット、顧客基盤があります。さらに、「Stock Tokens」をRobinhood Chain上で取引できるようにしつつ、UniswapやChainlink、Alchemy、BitGoといった外部事業者も最初から参加させているのです。
ここが面白いところで、Robinhoodは何もない場所に「自由に使ってください」とチェーンだけを置いているわけではありません。まずは自社のユーザーと金融商品を持ち込み、そこで最低限の需要を作り、そのうえで外部の取引所や流動性、開発者が入ってこられる余地を開いています。
こうした流れを見ると、かなり垂直統合的な立ち上げ方のように思えますが、目的は自社だけで完結することではなく、その先にネットワークを育てることにあります。
そのため、ここで押さえておきたいのは、垂直統合とネットワーク効果は必ずしも対立するものではないということです。むしろネットワークがまだ小さい段階では、自社のユーザーや商品、顧客接点をまとめて投入した方が、最初の回転を作りやすい。垂直統合は、ネットワーク効果が働き始める前の「0→1」に強いのです。
少なくともその点においては、BaseもRobinhood Chainもよく似ています。違いが出てくるのは、ネットワークがある程度育った後であり、立ち上げに使った垂直統合をそのまま維持するのか、それとも外部へ開いていくのか。Baseがいま直面しているのは、まさにその次の問題だと言えます。
成功すると垂直統合そのものが制約にも
前章で見たように、垂直統合はネットワークを立ち上げる「0→1」ではかなり強い戦略ですが、ネットワークが育った後まで同じやり方を続けると、今度はその強みが足かせになることがあります。Baseで分かりやすいのが、Base appとBase Chainの関係です。
というのも、Base Chainから見れば、取引や流動性を自社チェーンに集めやすくなるので、Base appのユーザーがそのままBase上で取引してくれる方が都合は良いでしょう。ところが、Base appの側からすると話は少し違います。Solanaに魅力的な資産があり、別のチェーンにより深い流動性があり、そこでより良い価格で取引できるのであれば、ユーザーをBaseだけに閉じ込める理由は薄くなります。
つまり、ある程度までネットワークが育つと、チェーンにとっての最適解と、アプリにとっての最適解がズレ始めるのです。
アプリ側が優先したいのは、どのチェーンを使ったかよりも、ユーザーが欲しい資産にアクセスでき、良い条件で取引できることです。一方、チェーン側としては、自分たちの上に資産や流動性が集まってほしい。この2つを無理に同じ方向へ向けようとすると、「Base Chainを伸ばすために、Base appの商品力を落とす」という逆転が起こりかねません。
それを踏まえて、今回のBaseの動きが面白いのは、このズレを無理に解消しようとしていない点です。Base appは、Base以外のネットワークも含めて良い取引機会を探しており、Base Chainは、その選択肢の中で資産や流動性、約定品質を磨いて選ばれることを目指す。Jesse Pollakが、Base appは以前より「less Base-centric」になり、Base側も資産、流動性、約定品質で競争していく必要があると話しているのは、その方向性をよく表しています(参考:https://www.theblock.co/news/ecosystems/2026-08-06-jesse-pollak-base-app-become-less-base-centric-cobie-builds-trading-platform-411023)。
ここからは筆者の見立てですが、これはBase Chainにとって決して楽な変更ではないと思います。なぜなら、自社アプリから優先的にユーザーを送り込んでもらえる方が、短期的には事業を伸ばしやすいからです。それでも内部優遇を弱めるのであれば、Baseは「Coinbaseが使わせるチェーン」だけに留まるより、その外側からも選ばれるネットワークを作ろうとしている、と考えた方がしっくりきます。
「自社アプリから送客されるから使われるチェーン」から、「送客されなくても選ばれるチェーン」へ。
この違いは小さく見えて、かなり大きいと思います。前者の競争力はCoinbaseという企業の顧客接点に依存しますが、後者まで進めば、外部のユーザーや開発者、資産、流動性がBaseを選ぶ理由そのものが競争力になります。
だからこそ、垂直統合を捨てるか、維持するかという二択で考える必要はなさそうです。立ち上げ時には自社の顧客や商品を使って最初の需要を作る。一方で、ネットワークが育ってきたら、自社プロダクトへの囲い込みを少しずつ緩め、外から参加する人にとっても使いやすい場所にしていく。
垂直統合の強みが、成長とともに「囲い込みのコスト」へ反転する瞬間がある。 Baseはいま、その境目に差しかかっているのかもしれません。
なぜこの現象がクリプトでは特に起きやすいのか
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