Robinhood Chainは成功したのか|TVLでは測れない企業独自チェーンの実需

2026年07月23日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提|企業がチェーンを持てば、意図した需要は生まれるのか
  • Robinhood Chainで起きていること
  • なぜトークン化株式よりミームコインが先行したのか
  • TVLと出来高だけでは成功を判断できない
  • 企業自社チェーンを評価する5つの指標
  • 自社チェーンと既存チェーンをどう選ぶべきか
  • 総括

前提|企業がチェーンを持てば、意図した需要は生まれるのか

2026年に入り、金融・決済企業はブロックチェーンを利用する側から、自ら運営する側へ移り始めています。例えば、StripeとParadigmが開発する決済特化型レイヤー1「Tempo」が3月にメインネットを開始し、Circleも独自レイヤー1「Arc」の本番稼働を準備しています。
こうした企業が自前のチェーンを持つ狙いは、手数料収入の獲得だけにとどまりません。処理速度や取引ルールを自社の商品に合わせやすくなり、外部ネットワークの障害や仕様変更に左右されにくくなるほか、既存顧客を自社のオンチェーン金融サービスへ直接誘導できるようになります。つまり、自社チェーンはインフラ投資であると同時に、顧客接点と収益構造を自社で握るための事業戦略でもあるのです。
その流れのなかで、Robinhoodは2026年7月1日、Ethereumのレイヤー2であるRobinhood Chainを公開しました。中核に据えたのは、株式の値動きに連動するStock Tokensを24時間取引できる仕組みです。対象地域は120以上に広がる一方、米国居住者は利用できません。また、保有者が原株の株主権を得る商品でもありません。それでも、Robinhoodは2026年5月末時点で、口座への入金実績がある顧客を約2,770万人抱えています。そのため、既存の巨大な顧客基盤をオンチェーン金融へ移せるかどうかが、Robinhood Chainを評価するうえで最大の焦点になります。
出典:https://investors.robinhood.com/static-files/fba0ca81-7ab8-4ffe-b979-ef477c569fbb
もっとも、本稿で扱うのは、メインネット稼働から約3週間までの初期データです。したがって、現時点でRobinhood Chainの成否を結論づけるのは早計です。むしろ注目すべきなのは、チェーン全体のTVLや出来高が伸びたかどうかよりも、Robinhoodが本命として掲げたトークン化株式に継続的な利用が生まれているかだと筆者は考えています。しかし、後述するように、実際に初期の市場で強い注目を集めたのはミームコインであり、資金流入の受け皿としてはステーブルコインの存在感が大きくなりました。
こうしたことを踏まえ、本稿では、Robinhood Chainでトークン化株式よりもミームコインが先行した背景を整理したうえで、TVLや出来高だけでは捉えにくい初期実需の質を検証します。さらに、企業が自社チェーンを立ち上げる際に、どのような指標を用いて成否を判断すべきかを考察します。

Robinhood Chainで起きていること

Robinhood Chainは、立ち上げ直後から大きな資金と取引を集めました。最初の1週間におけるDEX出来高は約31億ドルに達し、DEX活動では上位5チェーンに入りました。また、約6万5,000人のトークン保有者が確認され、ステーブルコイン残高も約3億ドルまで拡大しています。したがって、新興チェーンとしての初期集客には成功したと評価できます。一方で、同じ時点のトークン化株式は約1,300万ドルにとどまり、チェーン全体の盛り上がりが、そのまま本命商品の利用につながっているわけではありません。(参考:Robinhood Chain draws over $3 billion in weekly DEX volume to join top five chains: Bernstein - The Block
むしろ、初期の市場で強い注目を集めたのは、猫を題材にしたミームコイン「CASHCAT」でした。7月13日時点では、7日間で2,158%上昇し、時価総額は一時約1億5,600万ドルに達しています。これに対して、同時点のRWA残高は約1,281万ドルで、そのうちトークン化株式は約1,068万ドルでした(参考:Robinhood built a blockchain for tokenized stocks. Memecoins took over - CoinDesk)。つまり、市場の関心という面では、Robinhoodが本命に据えたトークン化株式よりも、単一のミームコインが先行したことになります。
出典:https://x.com/vladtenev/status/2074695821896065360
ただし、この比較を読む際には、指標の性質を分けて考える必要があります。というのも、ミームコインの一種であるCASHCATの時価総額は、市場で成立した価格に発行量を掛けた数値であり、限られた取引によって価格が上昇した場合でも大きく膨らみます。一方、RWA残高は、実際にオンチェーンで発行・保有されている資産の規模を示す指標です。そのため、両者を並べて利用規模の大小を判断することは適切ではありません。
それでも、この比較に意味がないわけではありません。利用量の厳密な比較には使えないものの、立ち上げ初期の市場の関心と投機資金がどこへ向かったのかを捉える材料にはなりますし、CASHCATの急騰は、Robinhoodが本命に据えたトークン化株式よりも、ミームコインの方が先に市場の注目を集めたことを示しています。
出典:https://defillama.com/chain/robinhood-chain
その後もRobinhood Chainへの資金流入は続き、7月22日時点では、DeFiのTVLやステーブルコイン残高に加えて、RWA残高も拡大しています。ただし、RWAにはMapleのプライベートクレジット商品「syrupUSDG」も含まれます。そのため、RWA全体の増加をStock Tokensの普及と同一視することはできません。現時点では、チェーン全体へ資金が流入する一方、Robinhoodが看板に掲げたトークン化株式は、まだ中心的な需要を形成する規模に達していないと整理できます。

なぜトークン化株式よりミームコインが先行したのか

まず背景にあるのは、Robinhood Chainが誰でもアプリやトークンを展開できる、開かれたネットワークだという点です。Robinhoodがトークン化株式を中核に掲げていても、参加者まで同じ目的で動くとは限りません。むしろ、短期的に利益を狙いやすい商品があれば、資金はそちらへ向かいます。要するに、企業がチェーンの用途を打ち出すことと、実際の需要をその方向へ誘導することは別の課題なのです。
加えて、ミームコインとトークン化株式では、商品を市場へ投入するまでの速さが大きく異なります。ミームコインは短時間で発行でき、価格の上昇そのものが宣伝となって、次の買い手を呼び込みますが、一方でトークン化株式には、発行主体や裏付け資産、カストディ、価格情報、償還、本人確認、提供地域の管理など、多くの仕組みが必要です。そのため、24時間取引という利便性があっても、十分な商品数と流動性を整えるまでには時間がかかります。
Robinhood Chainでは、ローンチパッド「Noxa.fun」がトークン発行のハードルを下げたことで、この速度差が一段と目立ったと考えられます。CASHCATが急騰すると、その成功を追う短期資金が流れ込み、Robinhoodを題材にした類似銘柄の発行と取引も連鎖的に増えていきました。その他にもVirtuals ProtocolのAIエージェントなどいくつか要因は見受けられますが、ミームコインが先行した直接的な要因は、発行の容易さとCASHCATの成功を追う短期資金に求めるのが自然だと考えられます。
一方、前述したように、Stock Tokensは米国ユーザーへ提供されておらず、原株とも法的な性質が異なります。そのため、Robinhoodの巨大な顧客基盤をそのまま取り込める状況にはなく、商品の違いを理解してもらうための説明と信頼形成にも時間がかかります。
出典:https://robinhood.com/us/en/newsroom/robinhood-accelerates-global-expansion-robinhood-chain-mainnet-stock-tokens-agentic-trading/
また、立ち上げ直後の取引には、インセンティブの影響も含まれています。というのも、Robinhoodは最初の90日間、対象ユーザーがRobinhood Wallet経由で行うスワップやStock Tokensの取引、ブリッジなどのガス代を負担しています。さらに、LighterはRobinhoodコミュニティ向けに1,100万ドル相当のLITを用意し、パーペチュアル取引で得たポイントをLITへ転換できる仕組みを導入しました。加えて、Robinhood Wallet経由ではポイントが2倍になるため、初期の取引を後押しする設計となっています。
こうした施策は利用開始の摩擦を下げる一方、報酬を目的とした短期的な取引も呼び込みやすくするため、初期の出来高には、自然に生まれた需要とインセンティブによって押し上げられた需要が混在している可能性があります。
出典:https://robinhood.com/us/en/newsroom/robinhood-accelerates-global-expansion-robinhood-chain-mainnet-stock-tokens-agentic-trading/
もっとも、投機的な需要が先に立つこと自体を、直ちに失敗と捉える必要はありません。ミームコインは、人や資金、ウォレット、取引ツールを短期間で呼び込む起爆剤になり得ます。ただし、Noxa.funが短期間で約1,200万ドルの手数料を生み出した後、低品質なトークンの増加を理由に新規発行を停止したように、その勢いには不安定さもあります。したがって、重要なのはミームコインが集めた利用者と流動性を、トークン化株式やRWAの継続利用へ転換できるかどうかです。

TVLと出来高だけでは成功を判断できない

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