【論考・後編】クリプトが主役ではない時代の需要設計|報酬の先に、何を残すか
2026年08月21日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- 外発的インセンティブと内発的インセンティブ
- 報酬を「参加の入口」にする
- 考察|クリプトが主役ではない時代をどう使うか
- 総括
- 参考文献
前提
【論考・前編】クリプトが主役ではない時代の需要設計|アテンションを参加へ変え、価値を誰に戻すかでは、低アテンション期の事業戦略として、「誰の関心を取り込み、どのような参加を生み、その貢献に対して何を返すのか」について考えました。そして、そこで整理したのが、「アテンション」「参加」「価値分配」を一つの循環として捉える考え方です。
また前編では、トークンやポイントによってユーザーを集めても、報酬を止めると利用まで止まり、同じ利用水準を維持するために次の配布が必要になる状態を「インセンティブ負債」と呼びました。つまり、報酬施策を見るうえで重要なのは、一時的にどれだけ利用を増やせたかではなく、配布後にどのような価値が残ったかです。
ただし、ここにはまだ一つの問いが残ります。それは、報酬をきっかけに参加したユーザーは、その後、報酬以外の理由でもプロダクトを使い続けるようになるのか、ということです。
実際、ポイントをきっかけに始めた行動が習慣として残ることもあれば、報酬の終了とともに消えることもあります。それと同じように、経済的なメリットを求めて参加したユーザーが、やがてサービスそのものに価値を感じる場合もあれば、より大きな報酬を求めて別のサービスへ移ることも考えられます。だとすれば、問題は報酬を使うこと自体ではなく、その報酬によって始まった行動を、次の利用理由へつなげられるかどうかにあります。
そこで後編では、外発的な報酬をいくら、どのように配るかという設計から一歩進みます。外発的インセンティブによって始まった行動を、報酬が弱まっても残る利用理由へどう接続するか。そして、その移行をあらかじめ事業の中へどう組み込めるのかについて考えていきます。
外発的インセンティブと内発的インセンティブ
まず、トークンやポイント、エアドロップ、手数料還元など、行動とは別のところに用意された報酬を目的として参加する場合、その動機は外発的なものになります。一方、行為そのものが面白い、上達することが楽しい、人との交流自体に価値を感じるといった場合は、行動そのものが参加理由になっています。
ただし、ここで両者を「外発的な動機は悪く、内発的な動機は良い」と単純に分けると、クリプト事業の実態を捉えにくくなります。たとえば取引や投資、流動性提供では、経済的な利益を求めること自体が自然な参加理由です。したがって、問題は外発的インセンティブを使うことではなく、それしか利用理由が残らないことです。
この違いを考えるうえでは、自己決定理論の「内在化」という考え方が参考になります。外発的な動機は一枚岩ではなく、報酬があるから仕方なく行動する状態から、その行動の価値を自分で理解し、自分の目的として選ぶ状態まで幅があります。つまり、最初は外から与えられた理由で始めた行動でも、その意味を自分なりに見いだすことで、より自律的な動機へ近づく余地があります。
この点は、クリプトのインセンティブ設計を考えるうえでも重要であり、目指すべきなのは、すべてのユーザーを金銭的な動機から純粋な「楽しさ」へ移行させることではないのです。たとえば、使い続けるうちに利便性を実感したり、自分の技能や評判が蓄積したり、コミュニティとの関係に価値を感じたりするようになれば、報酬以外にも利用を続ける理由が生まれます。厳密にはこれらすべてが内発的動機に当たるわけではありませんが、報酬だけに依存した状態から離れていくという点では共通しています。
そして、こうした移行を後押しするうえでは、自分で行動を選んでいる感覚や、参加を通じて上達している感覚、他者とのつながりを持てる環境も重要になります。報酬額だけを高くしても、ユーザーの手元にこうした体験や蓄積が何も残らなければ、配布終了後まで参加を維持することは難しくなります。
反対に、報酬をきっかけとして、ユーザーがその行動自体の面白さや、自分にとっての実用性、技能、評判、関係性などを発見できれば、参加理由は徐々に複線化していきます。インセンティブ設計で見るべきなのは、報酬によって何人を動かせるかだけではなく、その参加から「次の利用理由」が生まれるかどうかです。
では、最初から強い利用理由を持っていない人に、その価値をどう体験してもらえばよいのでしょうか。次章では、この「次の利用理由」を生む入口として、報酬をどう位置づけるかを「STEPN」から考えます。
報酬を「参加の入口」にする
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