【特集:年越し選書】HashHubチームがこの年末年始に読んでいる、またはオススメの書籍

この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • はじめに
  • 【意思決定と構造を考える本】
    • 謙虚なるコントラリアン投資家 ――予測不能な市場で優位性を見つける方法
    • Ergodicity(エルゴード性)
    • 思想の中の数学的構造
    • 課税と脱税の経済史
    • 「コーポレートガバナンス入門」 太田洋著
  • 【経営・起業・組織のリアル】
    • サム・アルトマン:「生成AI」で世界を手にした起業家の野望
    • The Nvidia Way エヌビディアの流儀
    • 勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術
  • 【視点を広げる/肩の力を抜く本】
    • 「22世紀の資本主義」やがてお金は絶滅する
    • 本なら売るほど
    • 「流星と吐き気」 金子玲介著
    • 水田の小言を熟読するほど一生ものの自炊力が身につく いちいちうるさい定番レシピ
    • 43歳頂点論
  • 編集後記

はじめに

2025年は、クリプトに限らず、投資・技術・経営・個人のキャリアにおいても「正しそうに見える判断」が簡単に裏切られる一年でした。
成長、効率、成功事例――そうした言葉があふれる一方で、現実の意思決定は常に不確実性と隣り合わせです。
この特集では、HashHubメンバーが年末年始に実際に読んでいる、あるいは今このタイミングで読む価値があると考えた書籍を紹介します。
単なるおすすめ本の羅列ではなく、それぞれの選書の背景には「どう考え、どう判断し、どう生き延びるか」という問題意識があります。

数冊を通して読むのもよし、気になった一冊を拾い読みするのもよし。
一年を振り返り、来年の判断軸を静かに整えるための読書リストとして、参考にしてもらえれば幸いです。

本特集の読み方

本特集では、書籍を以下の観点で紹介しています。
  1. 意思決定と構造を考える本
  2. 経営・起業・組織のリアル
  3. 視点を広げる/肩の力を抜く本
ジャンルや難易度は意図的に揃えていません。
年末年始という時間に合わせ、読み手自身の関心やコンディションに応じて選んでもらうことを前提にしています。

意思決定と構造を考える本

謙虚なるコントラリアン投資家 ――予測不能な市場で優位性を見つける方法


推薦者:Junya Hirano
新著の投資本としては、2025年に読んだ本で最も学びがあった。
人間に予測できないという前提のもと、ポートフォリオ構築時に「予測変数」を排除または最小化して、 データ主導の因子選択とリスク評価ルールの整備という考え方は、自己管理能力が問われるが、投資の基礎とも言えるだろう。
腐らない内容がほとんどだが、新著なので、なるべく早くに読むことをお勧めしたい。

Ergodicity(エルゴード性)

推薦者:masao i
この本は、一言で言うと「一発アウトがある世界で、どう賭け続けるか」を考える本です。
世の中には成功談があふれていて、目立つのはいつも、うまくいった結果ばかり。でも同じ判断をして、表に出てこなかった人がどれだけいたのかは、ほとんど語られません。本書は「エルゴード性」という概念を手がかりに、現実の世界が必ずしもエルゴード的ではない、つまり集団や平均で見れば正しそうな判断が、同じ人に時間をかけて当てはめると、取り返しのつかない失敗につながることがある、という前提から話を組み立てています。非エルゴード的な世界では、問われるのは勇気や根性ではなく、失敗しても退場しない意思決定の構造や賭け方の設計です。
本書は「どれだけ儲かるか」よりも、「壊れずに何度も次の判断を下せる状態を保てるか」を基準に据えています。投資やキャリア、責任ある立場での意思決定において、あとから静かに効いてくる視点が詰まっている。一年を走り切って少し立ち止まる年末に読むと、厳しい現実を直視したうえで、来年はもう少し賢く向き合えそうだと思わせてくれる一冊です。

思想の中の数学的構造


推薦者:最近は構造主義な男
数学は理系のもの、あるいは小難しいよくわからないものと思っている人が多いのではないでしょうか?
ですが実際には数学はどこにでも現れるし、人文系のテキストにも多々見られます。
この本は、10本のオムニバス形式で、人文系の中に宿る数学的構造の話を取り上げており、しかもそのその内容は一貫しています。
つまり、「思想・哲学、あるいは人間・生物の振る舞いや歴史の中には、必ず何らかの構造が見てとられ、それらは数理的な扱いが可能である」ということです。
それのみを延々と様々な観点から教えてくれます。
(いわゆる構造主義的な考えですね)
レヴィ・ストロースの「未開の民族が高度な数学を利用していた!」って話が一番有名で面白い話です。
なんだかんだ自由なんてものは存在しなくて、社会の構造や組織の構造に支配されてるなーと、感じる方にこそおすすめです。

課税と脱税の経済史


推薦者:masao i
本書はタイトル通り、税の歴史を扱った本です。章ごとに見ると、税の制度や課税方法、脱税や回避の工夫、税収をどう確保してきたかといった、いわば税制史の話が並びます。ただ、読み進めるうちに、「税の話」というよりも、「人はどこで制度を信じなくなるのか」を考えさせられる一冊だと分かってきます。
印象的なのは、必ずしも増税や重い負担そのものが反発を生んできたわけではない、という点です。むしろ、国家や制度を設計する側から見れば合理的で正しいはずの仕組みが、実際に税を払い、その影響を受ける人たちからは「これは自分たちのための制度ではない」と受け取られた瞬間に、怒りや抵抗へと変わっていく。その象徴的な例として、減税であったにもかかわらず反発を招いたボストン茶会事件などが描かれます。
ブロックチェーンの仕事をしていると、プロトコル設計者や運営側の視点では筋が通っているはずのルールが、実際に使うユーザーや事業者からは納得されない場面に出会うことがあります。本書は、そうした「設計する側の正しさ」と「ルールに従う側の納得」がどこで食い違うのかを、税制史という具体例の積み重ねの中で理解させてくれます。未来を予測する本ではありませんが、「正しそうな判断が、どの立場から見ると裏切りに変わるのか」を見極める視点を与えてくれる。年末年始、少し立ち止まって、制度や意思決定の足元を整える読書として、ちょうどいい一冊です。

「コーポレートガバナンス入門」 太田洋著

推薦者:加藤諒
コーポレートガバナンスの重要性を理解している人は多いですが、なぜ重要なのか?という問いに対して、簡潔明瞭に答えられる人は少ないと思います。
日本のM&Aプラクティスの第一線にいらっしゃる太田洋弁護士が書いた本書を読むことにより、その答えを知ることが出来ます。姉妹本である「敵対的買収とアクティビスト」も併せて読むことをお勧めします。

経営・起業・組織のリアル】

サム・アルトマン:「生成AI」で世界を手にした起業家の野望


推薦者:Junya Hirano、Hiroki Morita
[文責:Junya Hirano]
OpenAIのサム・アルトマンの取材本である。各所でお勧めされているという点で、目新しさはないが、まさにAI投資大時代の立役者であり、ビッグテックを投資競争に引きずりこんだ人間の人物像は、誰にとっても無関係ではいられない。
スティーブ・ジョブズを彷彿させるという現実歪曲フィールドや、圧倒的自信に裏打ちされた彼のセールス能力や資金調達能力、人と人を繋げコミュニティのキーパーソンでいることのレバレッジなどには感嘆するばかりである。また彼の強みは、技術力やプロダクトを磨き上げる力などとは、少なくとも本書では指摘されていない。彼の強みとされる「セールス能力」「資金調達能力」「コミュニティのキーパーソンでいることのレバレッジ」は、創業起業家にとっては圧倒的に必要な資質であることも理解できる。
[文責:Hiroki Morita]
本書で、OpenAI創業者のサム・アルトマンの来歴について知ることは、ChatGPTの登場から始まった、生成AIがもたらすビジネス革新・マーケット影響を予測することに繋がるでしょう。個人的には、赤字を継続しながらも時価総額を伸長し続け、多大なる資金調達を実現していく彼のやり方に、少し不安を覚えてしまいました。創業から10年が経過し、ビジネスも人員の規模も拡大していく中で、今後のOpenAIの持続性は、唯一無二の起業家を支えるメンバーらに託されているかもしれません。ビジネスマン及び投資家において必読書とも言える一冊です。

The Nvidia Way エヌビディアの流儀

推薦者:Lawrence
半導体、AIという2つの重要な産業をおさえ、名実ともに世界随一の企業となったNVIDIAの「なぜこれほどまでに強いのか?」という問いに応える一冊。半導体産業の不安定性をどのように乗りこなしたのか、なぜNVIDIAだけがAIブームの波に乗れたのか?そもそも、技術的な優位性とはなにか?など、CEOジェンスン・フアンの生い立ち、事業戦略、過酷な労働文化など、スタートアップから大企業に至った生々しい背景が鮮烈に語られています。

勝負眼 「押し引き」を見極める思考と技術


推薦者:でりおてんちょー
この本の著者は、言わずと知れたサイバーエージェント社長の藤田 晋さんだ。麻雀や競馬、ネットビジネスの現場で培われた「押し引き」の感覚を、具体的な事例とともに言語化してくれた本はあまりないと個人的に感じた一冊である。『麻雀と経営は似ている』と言及されているが、要するに勝ちにいく局面でどれだけ踏み込み、分が悪いときにどこまであっさり引くべきか、その見極めを「勝負勘」ではなく、再現可能な思考プロセスとして描こうとする姿勢が印象的であった。私は以前、著者の師匠である桜井章一さんの本を紹介したことがあるが、本書を読みながら「藤田さんもさすが桜井さんの弟子だ」と何度も感じた。成功者がよくやりがちな運の話に逃げるのではなく、状況認識と決断の基準を徹底的に自分の中で鍛え上げようとするストイックさにも、師弟の共通する空気がにじんでいる。本書にあるどのエピソードも、派手な成功物語というより「なぜそこでリスクを張り、なぜそこで撤退したのか」を後から冷静に検証する読み味が強く、ページを追うほど自分の過去の選択まで振り返らされるような感覚になる。相場であれキャリアであれ、ここぞという場面での押し引きに悩んだ経験がある人なら、クリプトの世界にいるかどうかに関わらず、大いに示唆を受ける一冊として薦めたい。

【視点を広げる/肩の力を抜く本】

「22世紀の資本主義」やがてお金は絶滅する

推薦者:加藤諒
幣が消滅し、産まれてから現在までの全てのデータに紐づいたトークンにより経済が回る社会を、思考実験しているのが本書です。
発想としては面白いし、納得いく部分もありましたが、私有財産(例えば、資本主義においては土地が最もプリミティブな私有財産)とそれを換価する手段としての貨幣が果たしてなくなるかは疑問です。
また、データ資本主義の具体的な在り方についても、もう少し詳細な設計を詰める必要があるやにも感じました。
とはいえ、議論の叩き台として、良書であり、年末年始の暇つぶしに最適な一冊です。
※成田先生へのオマージュを少しだけ入れた文体にしましたが、成田先生を批判する意図は一切ございません。

本なら売るほど


推薦者:Hiroki Morita
古本屋を営む青年、そこへ訪れる様々なお客さん。オムニバス形式で紡がれる人間模様は、読書好きに刺さること間違いなし。雑誌「ダ・ヴィンチ」の「BOOK OF THE YEAR 2025 コミックランキング」では、第1位に選ばれました。
読後は、本屋に出掛けたくなります。作中に出てくる書籍を購入してしまいます。年末年始、読書モチベーション爆上がりです。

「流星と吐き気」 金子玲介著


推薦者:加藤諒
誰しも「気持ち悪い自分」や「後ろ暗い感情」を抱えて生きていると思いますが、短編集である本書の主人公達はそういった感情を炸裂させており、読み進める間は決して爽快とは言い難い本書ですが、読後は少し爽快になっている不思議な一冊です。短編集でありながら、各話の主人公達が交差・関連するのも構成として秀逸です。
本書の著者は、公認会計士で、大手監査法人を辞めて専業となった新進気鋭の小説家です。推薦者の高校・大学の後輩であるため、HashHub Researchで紹介するのは公私混同と思い控えていましたが、何か利害があるわけではないので、今回紹介しました。年末年始のエンターテインメントとして、ぜひお読みください。

水田の小言を熟読するほど一生ものの自炊力が身につく いちいちうるさい定番レシピ


推薦者:不器用すぎて料理のできない男
「料理は化学だ」──ドラマ「ガリレオ」の福山雅治演じる、天才物理学者「湯川学」のセリフを想起させるレシピ本に出会ってしまった。
10年来料理というものをしてこなかった私に、少しはやってみてもいいかと思わせるぐらいの出来だ。しかし、ただのレシピ本と侮ってはいけない。元和牛の漫才師、水田信二の料理哲学がふんだんに詰まっており、口に出して読みたくなるようなフレーズが散見される。
まるで化学の論文のごとく、誰にでも再現できるように、火加減を10段階で表現し、弱火や中火のような曖昧さを許さない。
和牛の漫才や普段の彼のキャラクター通りの本となっており、私が確認した限り、まるで抜け目がなく、小姑のように重箱の隅をつつくことは出来ない。
やはり文章には本人の魂が乗る、そう思わされて仕方のない1冊であった。
重箱の隅をつつくのではなく、今年はおせちに挑戦してみてはどうだろうか?
注意:おせちっぽい料理はこの本には載っていなかった気がします。あくまでダジャレです。 

43歳頂点論

推薦者:でりおてんちょー
私はまだ30代前半の身ではあるが、『43歳』という年齢を、単なる人生の通過点ではなく「ピークであり、同時に曲がり角でもある臨界点」として描き出しているのが、本書のおもしろさであると思う。極地という極端な環境に身を置いてきた著者の語りは、若さの勢いだけでは突破できなくなる瞬間と、経験によって初めて見えてくる景色を、生々しい身体感覚とともに伝えてくれる。自分の「伸びしろ」と「もう取り戻せないもの」の両方を同時に意識せざるをえない世代にとって、ここで語られる葛藤や達観は、そのまま自分自身のこととして響くはずだ。年齢やキャリアのピークをどう捉えるかに悩んでいる人、これからの10年をどうデザインするか考えたい人、そしてスタートアップやクリプト、投資の世界に身を置く人にも静かに効いてくる一冊として薦めたい。なお、本書を契機に角幡唯介に興味を持たれた方は、ReHacQなどYouTubeにも多数出演されているので、ぜひご覧いただきたい。(個人的には、登山家・服部文祥さんも大好きです)

編集後記

今回紹介した書籍に、共通する一つの答えがあるわけではありません。
投資でも、経営でも、人生でも、「これをやればうまくいく」という万能な判断軸は存在しません。
ただし、共通する問いはあります。
それは、「一度の判断で終わらないために、どう考え、どう決め、どこで引くか」という問いです。
正しさや合理性を追い求めること自体が悪いわけではありません。けれど、それらを信じすぎた結果、次の判断ができなくなってしまうのであれば、本末転倒です。壊れない答えを探すよりも、立ち止まり、考え直し、また選び直せる余地を残しておくこと。その方が、長い時間軸では現実的なのかもしれません。
何を選ぶか以上に、何を選ばずに済むか。
この特集で紹介した本たちが、来年の意思決定を少しだけ慎重に、そして少しだけ長く続けるための材料になれば幸いです。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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