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J.P.モルガンが預金トークン「JPMD」をパブリックブロックチェーンに展開する背景

2025年06月20日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 伝統金融とデジタル資産の融合:JPMD on Base
    • 主要プレイヤーとその役割
    • ターゲットは機関投資家
  • J.P.モルガンのブロックチェーン戦略と技術的基盤
    • Project EPIC:パブリックチェーンの課題を克服する技術的処方箋
  • 預金トークンという選択:JPMDの革新性とパブリックL2「Base」採用の戦略的意図
    • 預金トークン vs. ステーブルコイン:決定的な違い
    • 機関投資家にとっての「キラーフィーチャー」
    • なぜプライベートではなくパブリックL2「Base」なのか?
  • JPMDが直面するシステミックリスクと規制の壁
    • システミックリスク:加速するバンクランと権力の集中
    • 規制の難関:前例なき領域
    • 運用・サイバーセキュリティリスク:拡大する攻撃対象
  • 金融市場の構造変革とトークン化経済
    • TradFiの巨人たちの戦略(競合の動向)
    • ステーブルコイン市場への挑戦
    • 長期的ビジョン:実物資産(RWA)トークン化の触媒として
  • 総括
  • 参考文献
世界最大級の金融機関であるJ.P.モルガンが、自行の預金トークン「JPMD」をパブリックブロックチェーンである「Base」上で試験的にローンチすると発表しました。
Bloombergによれば、JPモルガンのブロックチェーン部門Kinexys by JPモルガンのグローバル共同責任者であるナビーン・マレラ氏はインタビューで、数日以内に行われると予想される取引で、JPモルガンは一定額のJPMDを同行のデジタルウォレットから米国最大の暗号通貨取引所であるコインベース・グローバルに移す予定だとされています。

https://www.bloomberg.com/news/articles/2025-06-17/jpmorgan-to-pilot-deposit-token-jpmd-on-coinbase-linked-public-blockchain


このニュースは、単なる新商品発表にとどまらず、伝統的金融(TradFi)の巨人が、本格的にオンチェーン経済、すなわちブロックチェーン上で価値が直接やり取りされる世界へと舵を切ったことを意味すると筆者は考えています。
この動きは、約10年にわたるJ.P.モルガンのブロックチェーン技術への研究開発の成果の一つです。これまで「ウォールドガーデン」と呼ばれる閉鎖的なプライベート環境で実績を積んできた同行が、なぜ今、オープンなパブリックブロックチェーンへの進出を決めたのでしょうか。そして、この一手は、ステーブルコイン市場、競合他社、さらには資本市場全体の構造に、どのような地殻変動をもたらすのでしょうか。
本レポートでは、この「JPMD on Base」イニシアチブの全貌を多角的に解き明かします。金融機関実務に携わる方々、そしてデジタル資産市場の未来を見据える読者にとって、次なる戦略を構想するための一助となれば幸いです。

伝統金融とデジタル資産の融合:JPMD on Base

今回の発表の核心は、規制下にある銀行預金をトークン化し、それをCoinbaseがインキュベートしたパブリックなレイヤー2(L2)ブロックチェーンであるBase上で利用可能にする点にあります。
これは、これまで機関投資家向けのブロックチェーン活用において主流であった、閉鎖的なプライベートネットワークから、オープンなエコシステムへの戦略的な大転換を意味します。

主要プレイヤーとその役割

この歴史的な試みは、それぞれの業界を代表する二つの巨人のパートナーシップによって実現しました。

https://www.jpmorgan.com/kinexys/index
  • J.P.モルガン: 発行体として、米ドル建ての商業銀行預金に裏付けられた預金トークン「JPMD」を生成・管理します 。同行のブロックチェーン部門「Kinexys」が、その基盤技術と運用ノウハウを提供します 。JPMDは、同行のバランスシート上で直接発行・償還され、価値は常に1米ドルに固定されます。
  • Coinbase: インキュベートしたL2ネットワーク「Base」を通じて、パブリックブロックチェーンのインフラを提供します 。また、Coinbase自身もJ.P.モルガンの長年の機関投資家クライアントであり、この提携はごく自然な流れであったと言えます 。初期のユースケースとして、Coinbaseの機関投資家クライアントがオンチェーン取引の決済にJPMDを利用することが想定されています。
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ターゲットは機関投資家

JPMDパイロットプログラムは、明確に機関投資家をターゲットとしています 。主な用途として、デジタル資産のオンチェーン決済や、国境を越えたB2B(企業間)取引が挙げられています 。これは、既存のSWIFTシステムなどが抱える速度、コスト、24時間365日稼働といった課題を直接的に解決するものです 。例えば、トークン化された証券の取引において、JPMDを決済手段として利用することで、カウンターパーティリスクを排除したDVP(証券の引き渡しと代金の支払いの同時履行)が瞬時に可能になります。

このイニシアチブは、単一の決済トークンを市場に投入するという話ではありません。これは、J.P.モルガンが未来のトークン化された資本市場の基盤となる「決済レイヤー」を構築し、その標準を確立しようとする戦略の一歩とも捉えることができるでしょう。

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