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地方創生×Web3【概要編】|「農具をWeb3に持ちかえたら何ができるのか」NFTを活用した仮想山古志村プロジェクト

2022年07月19日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • 1.地方創生の前提を理解する
    • 1-1.なぜ地方創生が叫ばれるのか?
  • 2.地方創生はなぜうまくいかないのか
    • 2-1.サンプルは母集団を代表しているか?
    • 2-2.よくある落とし穴|交絡による誤った課題解決策
  • 3.【農具をWeb3に持ちかえたら考察】NFTを活用した「仮想山古志村プロジェクト」
    • 3-1.グローバルな資金調達
    • 3-2.パイの奪い合いを避けた仮想「二重住民票」の導入
    • 3-3仮想空間を活用した知識の集積

前提

本レポートでは国内外の「地方創生×Web3」事例を概観し、その主な動機と手法を整理し、その特徴を概説します。Web3技術はあくまでも道具に過ぎませんが、もし農具のようにWeb3を地域住民が活用することができるなら、それは地方にどのような可能性を示すものになるのでしょうか。本レポートはそんなことを考えるきっかけとなることを目的とします。なお、本レポートは【概要編】と【ユースケース考察編】の二本立てで構成しています。

【要旨】

今回の【概要編】の要旨は以下の通りです。
  1. 地方創生の前提を理解する
     国策としての地方創生とは何かをまず最初に整理します
  2. 地方創生はなぜうまくいかないのか 
    過疎とは何か、どのような目線で取り組まれるものなのかを整理しながら、地方創生がうまくいかない理由を考察します。
  3. 【農具をWeb3に持ち替えたら考察】NFTを活用した「仮想山古志村プロジェクト」
     Web3技術を用いた地方創生に取り組む旧山古志村の取り組みを考察します。Web3技術は道具でしかありませんが、農具同様に使い方次第でうまく地方を耕すことができるのかもしれません。Web3農具の具体的な活用例を概説し、道具がもつクセを解説します。
なお、本レポート後編となる【ユースケース考察編】ではWeb3技術と地方創生事例を考察します。

【地方創生×Web3シリーズ】
【Web3地方創生の成功パターンと注意点シリーズ】

1.地方創生の前提を理解する

人口急減・超高齢化という我が国が直面する大きな課題に対し、政府一体となって取り組み、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指します。

参照:https://www.chisou.go.jp/sousei/mahishi_index.html
まず前提となる地方創生の意味、目的、そして現状の課題について整理します。その意味については上記引用文の通りであり、その課題は少子高齢化、人口減少、東京圏の過度な人口集中にあり、その是正のために地域の住環境整備、雇用創出、リソース再分配を行い、地方経済圏を活気づけようという試みが地方創生の大まかな意図です。
具体的な施策としては、昨今であればテレワークの推進、企業の地方移転促進、ふるさと納税などがその例として挙げられます。
またこのような地方創生の取り組みは国や地方自治体によるトップダウンで行われるものが全てではなく、民間企業または官民連携によるボトムアップの施策もあります。例えば地域限定のポイント(地域通貨)導入や地域活性化イベントなどがその例として挙げられます。また公的支援の形としてはPPP(パブリック・プライベート・イニシアティブ/官民連携)の一種であるPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)だけでなく規制緩和による支援なども含まれるでしょう。

1-1.なぜ地方創生が叫ばれるのか?

そもそもなぜ地方創生が国の政策課題となったのか、この背景を辿ってみましょう。地方創生が国の政策課題として言及され始めたのは2014年秋第二次安倍政権からですが、その言葉は唐突に現れたわけではなく、その前段階として2013年末から2014年6月にかけて日本創成会議・増田寛也氏らのレポート「消滅可能性市区町村」や「地方消滅」の話題提起があり、一般的にはそれらを背景に地方創生が謳われはじめたと考えられています。
つまり「現象としての人口減少」→「地方消滅」という危機感の醸成→「地方創生」の順に展開されたものですから、人口減少や地方消滅に対する危機感から地方創生という取り組みは生じていると言えます。
以上は国策として掲げられる地方創生とは何かを示すものですが、この地方創生という言葉は「地方を良くしよう」のような善意のオブラートに包んだ表現で報道されることがしばしばですから、その解釈は実態ではなく表層の一部を切り取った現象として解釈されてしまうこともしばしばです。このため主張する人の立ち位置如何で「地域おこし」をしたいのか「商売」を活性化したいのかも区別されないままに物事が進んでいることもあり、「結局何を目指して動いているのかがわからないケースが多い」というのが地方創生に対して筆者が抱いている正直な印象です。

2.地方創生はなぜうまくいかないのか

筆者が「何を目指しているのかわからない」と感じる理由を整理すると以下のようになります。
  1. 主張者の立場によって地方創生の意味や目的が異なる 
    それを主張しているのは国か地方自治体か、コンサルか、都市部の住民か、それとも該当する地方住民か、そこを離れた住民か、もしくは未来の住民か等々、立場によって認識している利害が異なります。主に情報の非対称性に課題があると言えますが、この点の整理がなされていないままに走っている地方創生プロジェクトは少なくないように感じます。

  2. 1.の結果として実行者と利害関係者でコンセンサスが取れていないため、主張するペインが錯綜している
     「地獄への道は善意で敷き詰められている」という言葉があるように主観的な「利」こそあれど、全てのものにとって「利」があって「害」がないものはほぼ存在しません。もちろん争いのない状態は存在しますが、それは「うまくいっていると皆が感じている時」に限定される現象ではないでしょうか。そしてうまくいっていないからこそ、地方創生が叫ばれているわけですから、社会がもつこの前提を踏まえて課題とするペイン(危機)と対策を関係者間で合意形成しておく必要があるのではないかと思います。この点を蔑ろにしたまま地方創生を何かを守る「べき論」として語られ、押し殺された声に気づかないまま事だけが進んでいるということもあるのではないでしょうか。

2-1.サンプルは母集団を代表しているか?

「各主張者が認識するサンプルは母集団を代表しているのか」は少なくとも課題提起前に整理しておく方がベターであり、この点を疎かにすると偏ったサンプルをもとにして課題解決に向かうことになってしまいます。その課題はサイレントマジョリティの声を反映しているのか、異なる視点の立場の方がいることを踏まえて課題が設定されているのか。社会と向き合う以上は合意形成は重要でしょう。
主張者ごとの視点の違いについてもう少し具体的に整理しておきたいと思います。
「撤退の農村計画」の編著者である林直樹氏は飯田泰之著「地域再生の失敗学」のなかで過疎を測るための五つの指標があると主張しています。
  1. 個々人の生活から見た過疎度
     例)通院、生活に必要な買い物はできるかという側面からの過疎度
  2. 住民の共同活動から見た過疎度
     例)近所の助け合い、または行政サービスによる補助の程度という側面からの過疎度
  3. 帰属意識から見た過疎度
     例)集落や家に対する帰属意識の強弱からの過疎度
  4. 財政から見た過疎度 
    例)自治体財政の財政力指数や実質赤字比率で測る過疎度
  5. 産業としての農林業から見た過疎度
     例)耕地面積や大消費地からの距離で測られる過疎度
参考:飯田泰之著「地域再生の失敗学」
以上、林直樹氏が指摘するように「過疎」の要因は複数あり、それぞれの地域によってその危機の度合いも異なります。これは「地域が抱える課題に関係する変数は一つではない」ことを示す好例です。
また別の視点として山下祐介著「地方創生の正体」で指摘しているイチエフ苛酷事故による被災地住民の区分も地方創生を考える上で参考になります。
  1. 早期帰還(戻り)
  2. 移住(移り)
  3. 超長期待機・待機(待ち)
  4. 遠隔往来(通い)
参考:山下祐介著「地方創生の正体」
上記の住民区分は被災地を例にしたものですが、今後のまちづくりを考える上でこれらの区分に「属する住民の状態が変数として関与している可能性」も意識されるべきであり、この変数と課題に因果関係を見出せるのであれば二重住民票などの仕組みを整備していくことも重要になるでしょう。

2-2.よくある落とし穴|交絡による誤った課題解決策

地方創生はなぜうまくいかないのか、この点を指摘した資料や文献はさまざまあり、ある文献には経済性の観点から「選択と集中」の必要性を指摘をしていたり、また別の文献では経済的な「選択と集中」「競争の促進」を批判する観点から指摘していたり、そもそも「何もしないという選択肢」や「撤退」の必要性を説くものまでさまざまです。
なぜ主張が錯綜しているのかと言えば当然の話であり、前節で説明したように各地域が抱える課題や住民の状態に関係する変数がバラバラだからです。
このため2変数xとyの相関を見つけて、そこから課題を導こうとしても、そこには隠れた変数zやその変数zそのものが交絡(こうらく)していることもあり、相関があるように見えても因果関係はない、または因果関係はあっても要因が一つではないため、課題に対するソリューションを読み違えるなんてこともしばしばです。
抽象的な話になってしまいましたので、もう少し具体的にお話しします。

2-2-1.相関は相関であり、因果関係を必ずしも意味するものではない

そもそもの話ですが、相関とは相関を示すものであり、相関があるから因果関係があるということを意味しません。
例えば40代の未婚率(x)と医療費(y)に正の相関があると仮定します。このような相関から「40代の未婚率が上昇する(要因)と医療費が増加する(結果)」を因果関係にあると導くと「医療費を抑える(課題)ために40代未婚率問題を解消しよう」という冗談のような解決策が提案されかねません。
実際にこれと似たような提案で地方創生プロジェクトが進んでいる事例も少なくはありません。当然ながらこの変数xと変数yに相関はありますが、因果関係は見出せませんので40代未婚率問題を解消しても医療費問題の解決とはならないでしょう。
このチグハグな論理思考は第三の変数への「共応答」と呼ばれる現象で説明できることがあり、例えば変数xとyの両方を上昇させる要因となる第三の変数zに「年齢」を当てはめてみるともう少し妥当な因果関係を説明できるようになります。つまり、年齢(x)が上がると医療費(y)も上がることには因果関係はありそうですから、未婚の40代(x)は未婚の20代よりも医療費が高くなる傾向を示すことができるかもしれません。
以上のように「2変数xとyの間に相関がある」は即ちxがyの原因であるとは限りません。隠れた第三の変数zの影響によってxとyの相関が生まれたのかもしれないですし、場合によってはxではなくyが原因でxが起きている場合や、ただの偶然で相関しているだけの可能性もあります。
統計や数値はある部分を切り取ったデータでしかなく、それを使う人、読む人次第で尤もらしく見せることも見えることもありますが、それは傾向を示唆するものではあっても、断定できるものでは決してありません。データは見た目の尤もらしさで合理性を欺きますから、振り回されないように注意しましょう。

2-2-2.現実社会では第三の変数zがしばしば交絡している

前節では変数xとyの相関は第三の変数zが共応答している可能性があることを指摘しました。
この変数zは現実社会では単一の変数ではなく、複数の変数が複雑に絡み合って影響し、結果を導いていることがしばしばです。
この二つ以上の変数(要因)が複雑に影響して因果関係の判断を惑わせてしまう状態を「交絡(こうらく)」と呼びます。インターネットで交絡という言葉を検索すると前述した共応答のことを交絡と解釈しているものもありますが、筆者の理解では交絡とは二つ以上の要因が異なる度合いで影響することで、因果関係をわかりにくくしている状態を指して用いています。
例えば喫煙と肺がんの関係性を調べようとしても、実際には喫煙以外の飲酒などの別の要因が関係している可能性もあります。この場合、飲酒による影響を排除しながら喫煙と肺がんの因果関係を特定しないと喫煙と肺がんの関係性を正しく検証できません。
このような交絡の問題は今回テーマとして掲げている地方が抱える課題とその原因の因果関係にも当てはまります。例えば人口流出一つとっても、仕事がない、手軽に買い物ができない、娯楽がないなど複数の要因が関係している場合もあり、各変数の危機の度合いも異なります。
前述したように地方創生という言葉で語られる危機は一様ではありません。よくある失敗例として他地域での成功事例や話題となった事例を自分達の地域で実行してしまうことを挙げることができますが、これはまさに「地方創生(人口減少、地方消滅)という現象を見て、実態を見ない」を体現していると言えるでしょう。
少なくとも地方創生は今の正解をもとにして「べき論」で語られるものではなく、将来世代の選択肢にも配慮しながらその目的を整理し、あえての人口減、(一時)撤退、というカードも含めた複数の選択肢をもって戦略的に実施されるものではないでしょうか。「何に取り組むのか」を決めるときに重要なのは、まずは「何が自分たちの地域の課題なのか」を認識し、地方創生事業に携わるチームが「何から取り組めるのか」という視点を持つことが重要ではないかと感じます。
次節以降はWeb3技術を活用した地方創生事例を概観していきます。一事例として筆者の目線で考察を加えていきますが、あくまで参考程度にご覧いただければと思います。

3.【農具をWeb3に持ちかえたら考察】NFTを活用した「仮想山古志村プロジェクト」

出典:https://nishikigoi.on.fleek.co/


Nishikigoi NFTを活用した電子住民票というコンセプトで地方創生に取り組む仮想山古志村プロジェクトについて考察します。
なお、どのような経緯で本プロジェクトを立ち上げたのかという点については本レポートでは触れません。この点は本プロジェクトを推進している山古志住民会議による「世界初。人口800人の限界集落が「NFT」を発行する理由」をご参考ください。

同地域の課題は主に以下の点にあると推察されます。
  • 課題:2004年中越大地震に伴う人口減少および山古志地域の民族知消滅の危機

仮想山古志村プロジェクトで使用されている代表的なツールは以下の通りです。
  • NFT(デジタル村民を表すNishikigoi NFT)
  • Discord(デジタル村民とのオンライン交流、議論の場)
  • NeosVR(自由度の高いソーシャルVRサービス、なお暗号資産NCRをネイティブトークンとして実装しており内部で経済圏を構築可能) ※参考:NeosVRで仮想山古志村プロジェクト

山古志住民会議による仮想山古志村プロジェクトの取り組みについて筆者が着目したポイントは主に以下3点です。
  1. グローバルな資金調達
  2. パイの奪い合いを避けた仮想「二重住民票」の導入
  3. 仮想空間を活用した知識の集積
順に説明していきます。

3-1.グローバルな資金調達

特に深掘りをする必要はないと思いますので、この点は軽く触れる程度にします。
資金調達の民主化はWeb3技術以前のクラウドファンディングが成したことですが、NFTはこの近年生まれた習慣をなぞる形で手軽に資金調達できるツールとして活用される向きもあります。従来のクラウドファンディングとNFTによる資金調達の違いはいくつかありますが、主な違いとしてはクラウドファンディングがアカウント登録(個人情報の提供)が必要であるのに対して、NFTの場合は匿名仮名のままでもアクセス可能である点が挙げられます。このため、グローバルネットワークでの資金調達を行いやすいことを一つの特徴とします。
NFTによる資金調達はインターネットスケールで資金調達できるため、国の助成金に頼らずに地域のボトムアップで地域創生事業を開始させるための一手段になり得ます。助成金目当てのプロジェクトが悪いというわけではありませんが、不確実性が高く、未来の出来事に柔軟に対応しながら施策を打たなければならない社会環境のなかで、助成金の承認を得るためだけに設定されがちなKPIは施策を固定的にしてしまうリスクもありますし、場合によっては標準化されたタスクが地域住民の「自分ごと化」「自主性」を打ち消す可能性もありますから必ずしも良い結果をうまないこともあります。
NFTによる資金調達にも投資家から調達する資金の使途を示す計画書は必要でしょうが、メンバーシップNFTとして販売し、資金調達する場合には資金の使途をメンバーと一緒に決める場合もありますから、計画書はあればベターではあっても、必須条件にはなりません。
一方、デメリットにもなり得る部分もあります。少なくともアプローチできるのはWalletで秘密鍵管理ができる層に限られることはデメリットと言えますし、NFTホルダーが匿名(保有者が何者かわからない)であるということが社会的に裏目に出るケースもありますから、一長一短と言えるでしょう。
ただし、NFTによる資金調達は次節以降の2.3.の利点、特にWeb3ならではのホルダーの「参加」「関与」が見込めるという点は抱える課題如何では有意義に働くと考えられます。
【NFTによる資金調達の特徴】
メリット
  • インターネットスケールの資金調達が可能
  • 国の助成金依存を軽減→ボトムアップで自主的な施策を打てる(情報の非対称性を解消する可能性)
  • 支援の形を参加型にすることも可能
デメリット
  • アプローチできる層は秘密鍵管理を行えるWeb3ネイティブが主
  • 匿名・仮名アカウントから調達する場合、公序良俗に反するものと関係する可能性 ※発行主体がオフラインの主体に紐づく場合、一般的にホワイトリスト化で解消されます。最初期の事例としては不動産トークンなどが挙げれられます。 参考レポート:不動産関連タグ

3-2.パイの奪い合いを避けた仮想「二重住民票」の導入

FT/NFTをあるリソースへのアクセス制御に用いる事例は主にSocial DAOやSocial Tokenという概念から生まれたユースケースが多く、これらは主に社会資本を中心にして価値づけられるケースが多いと筆者は感じています。

これを言い換えるとコミュニティを「閉じる」ユースケースと言えます。

一方でDeFiプロトコルDAOのようにガバナンストークンによるインターネットスケールの資金調達を行い、DeFi領域で連携しながら様々なユースケースを作り、経済的資本を中心に外のネットワークと連携しながら拡張するDAOも存在します。Social DAOの場合も他DAOコミュニティとガバナンストークンのユースケースをシェアすることで、コミュニティを外に拡張しています。

これはつまりコミュニティを「開ける」ユースケースです。

(中略)

「DAO=地球規模、グローバル」という言葉から力が外に向かって働く印象もありますが、そうではなくて「外側と内側両方に向かう力が働き、インターネット上で分散する参加者の点を紡ぎながらスパイキーなソーシャルネットワーク」を形成しています。

筆者はこのような「メタ・ソーシャルネットワーク」を「メタ部族社会」という言葉で言い表しています。

NFTの普遍性と個別性【後編】|メタ部族社会(またはDAO)とプログラマブルNFT
上記引用レポートにて以前述べたようにNFT/FTはグローバルネットワークと繋がる新たな閉じた社会を作ることができる技術だと筆者は考えています。
今回取り上げた仮想山古志村プロジェクトは上記のような考え方をNishikigoi NFTを通じて実現しようとしているプロジェクトです。
Nishikigoi NFTを地方創生という文脈から捉えると「二重住民票」の仕組みをNFTで代替する提案と言えるでしょう。

3-2-1.地域活性化失敗の要因「集積と過疎の分化」への対応

エリア内での人口集積に失敗してきたことが、かつての地域活性化失敗の大きな要因と言えますが、そもそもなぜ人口集積は難しいのでしょうか。人口集積が進む地域ができるということは、少子高齢化が進む現代において、人口減少にさらに拍車がかかる地域が出てくるということに他なりません。この「集積と過疎の分化」が大きなハードルとなっていることは疑いの余地はありません。
初期の地方創生対策として考えられていた「二重住民票」とは夜間・定住人口だけでなく、昼間・交流人口も住民と見なせる仕組みとして考えられていました。数値上の問題を解決する一案とも言えたわけですが、大きな利点は限られた人口のパイを奪い合うことなく、疑似的に人口を集積できるという点にありました。
パイの奪い合いは地方創生の初期ユースケース「ゆるキャラ」に見られた現象ですが、これは強者の戦い方にはなり得ても、弱者の戦い方にはなりません。またゆるキャラに投資をして互いのパイを奪い合うものですから国内全体でみると不毛な戦いと言わざるを得ないところがあります。
国内の人口減がこの先半世紀は減少することが見込まれる中で、パイの奪い合いを避けて仮想空間のなかのデジタル村民という区分けで国内外にアプローチをして現地のガバナンスに関与してもらう仕組みを作ったことは社会実験として興味深い事例と言えるでしょう。
特にこのようなアプローチは地域活性化で不足しがちであると言われる以下の点を地域外のリソースで補う目的で有効でしょう。
デジタル村民のメリット
  1. システム構築ノウハウ不足を地域外のナレッジと繋いで解消
  2. 地域活性化イベントを推進する人材不足の解消
  3. リソースの問題ではないが、移住者や遠隔往来者を地域につなげるツールにもなり得る
一方で課題となるのは以下の点ではないかと推察されます。
デジタル村民のデメリット
  1. 関係者間でのビジョンの共有が困難
     地域内住民と地域外住民の情報の非対称性が課題となり不和が生じる懸念があります。地域復興は分断を招かないための「コンセンサスがすべて」と言っても過言ではありませんから、この点の調整は必要でしょう。

  2. 地域内住民の新たなIT技術導入への抵抗 
    ユーザー自身がトークン保有に伴う秘密鍵管理を行う必要があること、加えてトークン取引の誤執行を取り消すことができない生のブロックチェーンを利用する仕様はカスタマーサポートが充実する現代社会では一般的に受け入れ難い仕様だと考えられます。加えてブロックチェーンはプライバシー保護に優れていると考えられる向きもありますが、不慣れな住民をサポートする際に匿名アドレスと現実社会のヒトを紐づけすることにもなりかねず、仮にそのような状況に陥った場合にはチェーン上の全ての活動や保有資産が筒抜けになり、プライバシー云々どころの騒ぎではありません。場合によっては信用できる主体による秘密鍵管理や導入サポートも必要になりますから経常コストが発生する場合もあるでしょう。この点の習慣に乗り換えることは地域規模が大きいほどに困難になります。

  3. ガバナンス参加者の多くが若年層が占める 
    少子高齢化が進む民主主義社会では高齢者の影響力が全体の中で占める割合が相対的に高いことが課題であると指摘されますが、それと同じことがWeb3技術を用いた民主的な議決の場に対しても言えます。Web3技術に精通し、NFTを当たり前に使いこなす層は若年層が占める割合が多く、結果として行われる民主的な合意形成は高齢者の視点を欠いたものとして現れる可能性があります。国内選挙に不毛感を募らせる若年層同様に、実質的に影響力を持てない議決権は無いに等しく不毛に感じさせますから如何に全体のパワーバランスを調整するかが問われます。

3-3仮想空間を活用した知識の集積

3-3-1.オープンな社会は形式知を開きながらも暗黙知で閉じていく

Web3はオープンな社会、フラットな社会を実現するという声を耳にしますが、この考え方は初期のインターネットカルチャーやWeb3界隈に見られる発言であり、文書化されたものですと2005年刊行のベストセラー書籍トーマス・フリードマン著「フラット化する世界」に近しいビジョンと言えます。
当時話題となった本著の主張は世界中にモノ、ヒト、カネ、情報がまんべんなく行き渡るようになり、世界は均等化していくというものでした。しかし、実際に情報化が進んでオープンになった社会はフラットではなく、一部に情報や知識が集積するスパイキーな社会こそが私たちが現実として見ている世界の姿だと言えます。
Web2の社会では知識や情報が一部で独占されており、それが格差を生む要因であると指摘されることもありますが、Web3技術と格差是正には直接の因果関係はないように筆者は思います。あるとするならばデータ化、文書化できる形式知のフラット化(オープンソースプロトコルの普及)です。
筆者の理解ではオープンなものはデータ化、文書化できる「形式知」が主ではないかと考えており、一方の形式化することもコピーすることもできない「暗黙知」については引き続きどこかへ集積して偏在していくのではないかと考えています。 ※暗黙知とは「経験や勘、直感などに基づく知識」「簡単に言語化できない知識」などを指します。
なぜ暗黙知は一部に集積するのでしょうか。オープンな社会とは玉石混合の情報網になりますから、ある個人にとっての面白いものを発見する確率は社会全体がその個人にとって面白いことを発信する力を上げなければ、面白いものに出会う確率は変化せず、情報量だけが増え、情報収集はますます非効率になっていきます。
何かを創造する際に共同体が形成されたり、特定の層とつるんだりするのは、形式知を共有するだけが目的ではなく、暗黙知を共有し、面白いものに偶然出会う確率を高めてアイデアを閃くためと言える側面もあります。
あくまで仮説でしかありませんが、少なくともヒトという変数を踏まえ、「クリエイティブとは偶然の重なりの発見とその選択」だと仮定するとオープンな社会は集積する方向へと向かうのではないかと筆者は感じています。
仮想山古志プロジェクトはNFT、Discord、VRサービスを用いることで、グローバルな形式知を集める場だけではなく、仮想空間で暗黙知を集積し、それを具体的な成果物に落とし込むということを行えているように客観的には伺えます。この点は公式Twitterや公式によるマンスリーリキャップ(例:5月分)が参考になるでしょう。
今後の方針については以下の資料が参考になります。
仮想山古志プロジェクトは一つの社会実験ですから、実際に仮想空間がうまく機能し、それが物理空間にどのように影響するのか、また地方の持続可能な仕組みになり得るものなのかは現時点ではわかりませんが、この先の同活動が生み出す成果物は他の地方の参考にはなるでしょう。

出典:https://drive.google.com/file/d/1AXx9N1wkxLB7xCmRrSYD9fphKhejDQ5R/view

参考

【地方創生×Web3シリーズ】
【Web3地方創生の成功パターンと注意点シリーズ】

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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