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「鳴かず飛ばずながらもソーシャルグッドなDeFi群」特集

2021年07月23日

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「鳴かず飛ばずながらもソーシャルグッドなDeFi群」特集

2019年前後のソーシャルグッドなDeFiが注目されていた時代をふりかえって「そういえばそんなのもあったよね」「そんなのもあったんだ」と感じていただける市況の変化に疲れを覚えた皆様の箸休めとなるようなお話をお届けします。

今回ご紹介するプロジェクトは現存する2つのDeFiプロジェクトです。そのプロジェクト自体は有名ですので、ご存知の方も多いかと思いますが、結局それは何のために存在しているのか、どのような活用が期待されていたのかはあまり知られていないところなのかもしれません。

これらプロジェクトが誕生した2019年あたりはDeFiが今よりもニッチだった時代です。その当時のDeFiプロダクト群はどのように収益化するかの明確な答えがない中で、ただひたすらにその可能性を暗中模索していたような時代だったとも言え、それゆえに「ビジネス」というよりも「ソーシャルグッドな何か」という色合いが強いプロダクト群が目立っていた時代でもありました。

そのため、「金融包摂」や「環境保全」というような言葉とともにDeFiの必要性が語られるのが割と一般的で、巷で魔界と称されるようになった今のDeFiのイメージからはかけ離れた「爽やかさと未熟さが同居した何か」でした。

例えばrDAIというプロトコルは寄付プロトコルのように扱われて環境保全(rTree)やチャリティ(Givetogether)の文脈での活用が期待され、デジタル遺産相続手続きを可能にするものとしてDC Walletのようなものがハッカソンで注目されるなどしていました。

当時存在したこれら多くのプロダクトの吐息を今となってはほとんど感じることもなくなりましたが、ソーシャルグッドな文脈で語られてきたこれらプロジェクト群のなかには未だ息をしている稀有なプロジェクトも存在しています。今回はそんな中から2つのプロジェクトをピックアップしてご紹介します。DeFiの異なる一面と眠れる可能性を感じて頂ければ幸いです。

【紹介レポート①】
PoolTogether Protocolおよび独自トークンPOOLの概要 DeFiで構築される損失のない宝くじのプロジェクト

PoolTogetherといえば、No-loss-lottery(損失なし宝くじ)というコンセプトで有名なDeFiプロダクトです。2019年当時、このコンセプトを謳い文句に颯爽と登場しましたが、そのビジネスモデルは金融包摂の文脈で従来から存在したPLS口座のweb3.0版ではないのかとその当時の筆者は捉えていました。

PLS口座(Prize-Linked Saving Accounts)とは「賞金付き預金口座」の意であり、私たちがよく見知っている普通預金口座のような口座ごとに金利が付与されるというものではなく、ランダムに選択された口座に対してのみ(宝くじのような)賞金が与えられるという預金口座です。

今回紹介しているレポートをご覧いただければPLS口座がPoolTogetherの「損失なし宝くじ」の考え方と何となく似ている部分があることに気づくのではないかと思います。

PLS口座は銀行口座を持たない人々を対象にしたサービスであり、特にアフリカを中心に研究されていた金融包摂の一手段です。主に以下二つの課題を解消する手法であると筆者は解釈しています。
  1. 貯蓄の習慣がない人々に宝くじという一攫千金の夢を与えて貯蓄を促す(貯蓄額が少ないと、金利は雀の涙ほどであるため動機付けが困難でもあった)
  2. 貯蓄額の少ない預金口座管理を簡素化して顧客口座の運営維持費を効率化する必要性(このコストは預金者に転嫁される)
PoolTogetherに照らすと1.の意味で似ていることがわかりますが、2.の意味では実は少し違います。なぜならDeFiプロトコル、当時でいうとCompoundに預金するのも、PoolTogetherに預金するのもその管理はスマートコントラクトで行っているため、どちらにせよ簡素化されており、運営側のコストはあまり関係がありません。むしろ「どのように公平に当選者を抽選するのか」という複雑さを抱えているPooltogetherの方がCompoundよりも管理コスト高であり、非効率ですらあるとも言えます。ですので、厳密にはPoolTogetherはPLS口座とまったく同じ課題を解消しているのではなく「損失なし宝くじ」という側面だけを切り取って価値提供した新ジャンルであると筆者は解釈しています。とはいえ、PLS口座をヒントにした可能性は十分にあり、ソーシャルグッドな文脈で誕生したDeFiプロジェクトではあることには違いないと筆者は感じています。

だから何?という話ではありますが、PoolTogetherが登場した当時は運用して得た利益を運用者本人に必ずしも振り向けなくても良く、むしろソーシャルグッドなことに向けていくことでDeFi独自の価値提供ができるよね、という風潮がありました。例えばCompoundで運用した収益の一部を支援したい誰かに向けるというようなことを可能にするrDAIプロトコルのようなものであったり、それを応用した補助的なサブスクリプションサービスの模索などが考えられていました。

このような考え方はyearnが伝統的な銀行のビジネスモデルと掛け合わせたモデルとして踏襲したとも言え、プロトコルに預けられた「アイドル状態の顧客資産」を運用して「プロトコルの収益」にするという形で引き継いだともいえます。これは現在あるDeFiプロトコル群の常識ともなりつつある手法であり、ガバナンストークンの価値を高めることでプロトコルと投資家(DAOコミュニティ)がwin-winになるという仕組みです。

ただし、このガバナンストークンの価値を高めるための「なんちゃって銀行モデル」は少し違和感を覚える点もあり、レベニューシェアの配当先が株のようなシンプルなセキュリティトークンであるというのであれば理解できますが、その認識を避ける形で金銭的価値のないDAOのガバナンストークンであると無理くり謳ってしまった得体の知れない奇妙なトークンに間接的または直接的に振り向けてしまっていることの気持ちの悪さはあります。つまり「トークンという名の一つの器に混ぜたことのない要素を一緒に盛ってしまっている」ことのセンスの如何は改めて問うてみても良いのではないか、そんな風に筆者は感じています。

なぜそのように感じるのかは、「投資家のように振る舞うDAOメンバー」と「社員のように振る舞うDAOメンバー」が単一トークン保有という同じ条件で同列の権限をもつことの違和感であり、この点は「はじめてのDAO【後編】」内の「【コラム④】「社会資本」中心と「経済資本」中心のDAO比較」で筆者の基本的な考えをまとめました。つまり、DAOが市場原理だけで動くものではなく、民主的な議論を必要とする組織である以上はヒエラルキーは必要であり、組織構造としての工夫は必要で、でなければそれは組織というよりも、多様な価値観がただぶつかり合う「烏合の衆」でしかなく、この奇妙な単一トークン統治の仕組みが今の衆愚政治を加速させているのではないのかという疑念を筆者は抱いています。
プロトコルが得た収益の分配先をガバナンストークン保有者に向けるのも一つの選択ではありますが、明らかに異なる動機で参加しているメンバーをDAO運営管理から緩やかに分離する(明確に分離するではない)ことは必要だと筆者は捉えており、そのために複数トークン(FTやNFT)で管理する、DIDでトラストスコアを紐付けるなどの工夫が今後でてくるのではないかと思っています。※【脱線します】DIDは地味ではありますが、パブリックブロックチェーンのような摩擦の小さなネットワークにとってはソーシャルネットワークの概念はとても重要であり、その意味でアイデンティティ管理は肝となる部分と言えます。DIDという表現が何を示すのか少し曖昧なところがあるため筆者はSSIという言葉でレポート化しています。興味のある方はぜひご高覧ください。

また収益の分配先は異なるプロジェクト先でもよいわけで、それによってパートナーシップを形成したり、エコシステムを拡張させたりといったことは考えられます。このような考えも「得体の知れない奇妙なトークン」をベースにして既に行われていることではありますが、この仕組みそのものの形を工夫することで更なる応用やより良い形の模索ができるのではないかと筆者は期待しています。忘れ去られつつある過去のソーシャルグッドなDeFi群の仕組みにそのヒントが眠っているのかも知れません。

【紹介レポート②】
Sablierプロトコル活用事例概観 リアルタイムファイナンスがもたらすユーザー体験の可能性考察

Sablierとはリアルタイムファイナンス、つまりストリーム決済を可能にするプロトコルです。Sablierの基本解説は「暗号通貨の給与支払いサービスSablier プログラマブルマネーであるからこそ可能なユーザー体験」で行っていますが、今回はSablierをソーシャルグッドな文脈でマネーレゴとして使うプロジェクトが当時は多く存在していたことに着目した「活用事例レポート」の方を無料公開しています。
公開レポートをご覧いただくと、その事例の中に暗号資産の遺産相続をSablierプロトコルで実現する提案がなされていることがわかるかと思います。
このような暗号資産の遺産相続ソリューションは冒頭でも触れているDC Walletが提案した「Dead’s man Swich」という機能が当時話題になり、記憶に残っている方もいるかと思います。これは一定期間、該当Walletが操作されなかったことをトリガーに、つまりそれを「保有者の死」と認識して遺産相続先アドレスにWallet内の暗号資産を自動的に送信するという仕組みでした。
そもそも暗号資産を管理するWalletの秘密鍵は皆さんご存知の通りに自分以外の誰にも開示しないことがとても重要であり、それがたとえ親族や親しい知人であったとしても原則として教えるべきものではないと筆者は考えています。
しかし、死は全ての人に平等に必ず訪れるものですので、いつかはその財産を他者に相続する日も来るのだと思います。人によっては財も一緒にバーン(焼却)します、という方もいるかと思いますが、基本的には他者へ相続するパターンが多いのではないかと思います。しかし、死がいつどのタイミングで訪れるのかは予測し難いので、実はこのような秘密鍵を開示しない形で、死の感知をトリガーにして(他人の思惑を排除して)Protocolが定めたルールに従い自動相続する仕組みは暗号資産Wallet管理をある程度一般化させる上で必要な機能の一つなのではないかと筆者は感じています。
Sablierはこの遺産相続を秒単位に分割してストリームすることも可能にしますが、その必要性についてはぜひ今回の公開レポートをご覧いただき、その中でどのような提案がなされているのか、そしてどのような課題があり、その実現のために何が求められるのかを考えるきっかけになればと思います。
ちなみにSablierはこのような使い方に限らず、さまざまな場面での活用方法を地味ながらも探索されているプロトコルでもあります。興味がある方は有料記事ではありますが「暗号通貨の給与支払いサービスSablier プログラマブルマネーであるからこそ可能なユーザー体験」をベースに、ストリーム決済の可能性を調べてみるのもお勧めです。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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