Microsoft のブロックチェーンに対する取り組みとサービス全体像の概観②

目次

  • 前提 
  • エンタープライズ向けブロックチェーンアプリケーションを開発する上で必要なものは何か? 
  • Microsoftのブロックチェーンサービス詳細 
  • ソリューションアーキテクチャ
  • 事例
  • 【参照】

前提 

Microsoftは、ビッグテックと呼ばれるIT巨大企業(Google、Facebook、Amazon、Appleなど)の中でも最も早くブロックチェーンに取り組んでおり、ブロックチェーン技術に継続的に注力している企業です。このレポートでは前編と後編の2回に分けて、Microsoftのブロックチェーン関連の取り組みについて、またMicrosoftが提供しているブロックチェーン関連サービスの全体像について概観します。
前編では、Microsoftのミッション「Empower every person and every organization on the planet to achieve more.」(地球上のすべての個人とすべての組織がより多くのことを達成できるようにする)を元にOSSやブロックチェーンへの取り組み、ブロックチェーンに対する思想について概観しました。
前編:Microsoft のブロックチェーンに対する取り組みとサービス全体像の概観①
https://hashhub-research.com/articles/2020-08-24-microsoft-blockchain-services-01
今回の後編では、Microsoftのブロックチェーンサービスの詳細と事例について概観していきます。

要点

  • ブロックチェーンは組織の境界を超えるデジタルトランスフォーメーション(DX)に力を与える技術である
  • ユーザーが豊富な選択肢の中から自由にブロックチェーン技術にアクセスできるプラットフォームを提供している
  • ユーザーが素早くブロックチェーンを試すことができ、ブロックチェーン技術のイノベーションを加速するための手段を提供している
  • ブロックチェーン開発をいくつかの過程に分割し、各過程で開発者を支援するサービス・プロダクトを提供している

エンタープライズ向けブロックチェーンアプリケーションを開発する上で必要なものは何か? 

企業がブロックチェーンを利用したアプリケーションを開発しようとしたときに何が必要になるでしょうか?
前編でも述べましたが、ブロックチェーンは課題に対するソリューションの重要なコンポーネントかもしれませんが、ソリューション全体の中で占める割合はごく一部となります。ユーザーが洞察や価値を得るためには、ブロックチェーンが他のシステムに接続することも必要になります。 
エンタープライズ向けのブロックチェーンアプリケーション開発に必要となるコンポーネントは下記が考えられます。
  • ブロックチェーンのクライアントノード
  • Webまたはモバイルなどのクライアント
  • APIゲートウェイ
  • ユーザー管理および認証基盤
  • データベース
  • ストレージ
  • 鍵管理
  • コンソーシアムの管理
  • 既存システムとのデータ連携および統合
  • モニタリング
  • バックアップ 
例えば多数の企業間での利用を想定すると、パブリックなインターネットにAPIを公開するが、許可されていないユーザーからのAPIアクセスは防ぎたいというケースは多いでしょう。そのような場合はAPIゲートウェイと認証基盤を組み合わせてAPIを開発する必要があります。
また、ブロックチェーン上にあるデータを利用する場合、ブロックチェーンから直接データを取得するよりもデータベースを利用した方が良いケースがあります。例えば、特定のERC20トークンの残高が一定以上あるアドレスをリアルタイムに取得する、ある期間中のトランザクションの回数を条件としてデータを取得するなど、対象データの条件が複雑になるほどブロックチェーンからの直接取得は難しくなります。Solidityのコントラクトで複雑な検索メソッドを作成するのは難しく、さらに一度デプロイしたコントラクトの検索メソッドを後から柔軟に変更することはできません。このような場合、ブロックチェーン上のデータをリレーショナル・データベースに格納し、アプリケーションはデータベースからデータを取得するという方法を採用することが多いです。
その他にも、ブロックチェーンを利用したアプリケーションやシステムでは秘密鍵を安全に管理する手段を必ず用意する必要がありますし、他の業務システムとの連携・統合を行うためにAPIやMQ(メッセージキューイング)の開発・利用も必要となるでしょう。
さらに、ブロックチェーンの開発はいくつかの過程に分割することができ、各過程で必要なスキルも変化します。
Microsoftは上記を網羅し、迅速なブロックチェーンアプリケーション開発を支援するためのサービス群を提供しています。

Microsoftのブロックチェーンサービス詳細 

次にMicrosoftが提供している各サービスの詳細を見ていきましょう。

Azure Blockchain Service

Azure Blockchain Serviceは、Microsoft Azureで提供されるマネージドブロックチェーンサービス(Blockchain as a Service)です。執筆時点ではパブリックプレビュー版として提供されています。
  • コンソーシアムブロックチェーンの構築と管理ができる
  • ハードウェア、OS、ノードの運用(OSのセキュリティパッチ当てや、クライアントソフトウェアのバージョンアップなど)をMicrosoftがやってくれるので、ユーザーはアプリケーションやビジネスロジックの開発に集中できる
  • コンソーシアムブロックチェーンのデプロイは10分程度で完了する
複数のブロックチェーン/分散台帳技術(DLT)のプロトコルをサポートするよう設計されており、執筆時点ではQuorumとCorda(申請ベースで利用が可能なプライベートプレビュー)が利用可能となっています。
Quorumは、米銀行大手のJPモルガンが開発したEthereumベースのエンタープライズ向けブロックチェーンで、2020年8月にはConsenSys(コンセンシス)に買収されたことでも話題になりました。Quorumにはコンソーシアムブロックチェーンに適したコンセンサスメカニズムが複数用意されていますが、Azure Blockchain Serviceでは執筆時点でIstanbul Byzantine Fault Tolerant(IBFT)のみが利用可能となっています。また、オリジナルのEthereumにはないプライバシー機能などが実装されています。
出典:https://github.com/ConsenSys/quorum/
Cordaは、企業間取引での利用を想定した分散台帳技術(DLT)でプライバシーや処理性能を重視しており、R3社により開発されています。

アーキテクチャ 

本レポートではQuorumを中心に概観していきます。まず、Azure Blockchain Serviceのアーキテクチャですが、Azure Blockchain Service - Quorumは下記構成となっています。
出典:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/service/data-security
  • バリデーターノード:ブロックの生成と検証を行う
  • トランザクションノード:トランザクションを送信する際のエンドポイントを提供
  • リバースプロキシ:認証や通信のTLS暗号化を行うNginxリバースプロキシ
  • Azureストレージ:ユーザーデータを暗号化して格納
  • 仮想ネットワーク:ブロックチェーン環境をネットワークレベルで隔離

セキュリティ

クライアントはバリデーターノードとは直接通信することは出来ず、トランザクションノードと通信することになりますが、トランザクションノードにRPC(リモートプロシージャコール)でアクセスする際には下記のいずれかの認証方法を選択できます。 
  • 基本認証
  • アクセスキー
  • Azure Active Directory 
また、ファイアウォールを使用してIPアドレスによるアクセス制限も可能となっています。

モニタリング

運用面では、Azure Monitorサービスを利用した組み込みのモニタリングが用意されており、デフォルトでブロック数やトランザクション数、ペンディングトランザクション数、処理済リクエスト数といった情報をモニタリングすることができます。

ブロックチェーンエクスプローラー

ブロックチェーンエクスプローラーは執筆時点で下記の2つが利用可能です。ブロックチェーンエクスプローラーを用いることで、トランザクションやブロックの情報をより詳しく調べることができます。

ブロックチェーンデータマネージャー  

ブロックチェーンデータマネージャーとは、Azure Blockchain Serviceのトランザクションやブロックのキャプチャ、変換、配信を行うツールで、ブロックチェーンと他のAzureサービス群を連携・統合することができます。
ブロックチェーンデータマネージャーからAzure Event Gridサービス経由でイベントを配信することで、ブロックチェーンデータをオフチェーンで格納することや、リアルタイムで状態の変化に対処することができます。将来的にはEvent Gridを介さず、ブロックチェーンデータマネージャーから直接データベースやストレージへ配信することも可能になる予定です。
出典:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/service/data-manager

Azure Blockchain Workbench

Azure Blockchain Workbenchは、ブロックチェーン環境やアプリケーションの開発、システム構築に必要なコンポーネントを迅速にクラウド上で展開できるサービスで、特にプロトタイプ開発で力を発揮します。執筆時点ではパブリックプレビュー版として提供されています。
また、執筆時点で対応しているブロックチェーンはEnterprise EthereumとQuorumの2つです。また、上記のAzure Blockchain Serviceとの関係ですが、Azure Blockchain ServiceはAzure Blockchain Workbenchで作成されるサービス群の一つ(Azure Blockchain Workbenchを使ってブロックチェーンを新規作成するときにAzure Blockchain Serviceを選択できる)となっています。

アーキテクチャ

Azure Blockchain Workbenchのアーキテクチャは下記の図のようになっています。 
出典:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/workbench/architecture
 
各コンポーネントは下記の機能・役割を担っています。 

ID管理(認証)

ID管理基盤としてはAzure Active Directoryが用意されており、以下の機能を提供します。
  • ユーザーや管理者のアカウント管理
  • アプリケーションへのアクセス許可
  • コンソーシアム内の組織を跨いだ認証(フェデレーション)

クライアントアプリケーション

Azure Blockchain Workbenchのクライアントアプリケーション生成機能を利用することで、ブロックチェーンアプリケーションのプロトタイプを高速に開発することができます。
  • Webおよびモバイルのフロントエンドアプリケーションの自動生成
  • スマートコントラクトのメタデータに基づきUIを自動生成

APIゲートウェイ

Azure Blockchain Workbenchはコントラクトの構成情報を元にRESTベースのAPIゲートウェイを作成することができます。フロントエンドは独自に開発して、バックエンドのAPIだけ利用することが可能です。また、このAPIを利用してブロックチェーンアプリケーションを既存のアプリケーションやシステムと統合することが可能です。

受信メッセージブローカー(Azure Service Bus)

Azure Service Busは受信したメッセージをキューとして蓄積して非同期に処理することができるクラウドメッセージングサービスです。下記のようなユースケースではService Busを利用すると良いでしょう。
  • IoTデバイスから大量のメッセージを受信し、キューに溜めて非同期処理を行う
  • Service Busに対応する既存システムとの統合

送信メッセージブローカー(Azure Event Grid)

Azure Event GridはAzure上で発生したイベントを検知して、イベントハンドラーやWebhookに通知を行うことで、イベント駆動での処理を実現するサービスです。下記のようなユースケースに適しています。
  • ブロックチェーン上で発生したイベントを元に、オフチェーンのSQLデータベースへデータを格納する
  • ストレージへのファイルアップロード時に、ファイルのハッシュ値を取得してブロックチェーンやデータベースへハッシュ値を格納する

メッセージコンシューマー

メッセージコンシューマーはService Bus経由でメッセージを取得し、処理を行った上で後続のコンポーネントにメッセージを配信します。Azure Blockchain Workbenchは3種類のメッセージコンシューマーを作成します。
  • 分散型台帳(DLT)コンシューマー:トランザクションのメタデータを受け取り、Transaction BuilderとSignerへメッセージを配信する
  • データベースコンシューマー:受け取ったデータをデータベースへ配信する
  • ストレージコンシューマー:受け取ったデータをストレージへ配信する

Transaction Builder / Signer

Transaction Builder / Signerは分散型台帳(DLT)コンシューマーから配信されたメッセージを受け取り、トランザクションのビルドと署名を行います。Signerがトランザクションに署名するための秘密鍵は鍵管理専用のサービスであるAzure Key Vaultで安全に管理されます。また、トランザクションの署名が完了すると後続のトランザクションルーターへメッセージとして配信します。 

トランザクションルーター

トランザクションルーターはTransaction Builder / Signerから配信された署名済みトランザクションをメッセージとして受け取り、それを適切なブロックチェーンネットワークに配信します。

DLT Watcher

DLT Watcherはブロックチェーンで発生しているイベントを監視し続けます。ブロックチェーン上で発生したイベントはDLT Watcherによりキャプチャされ、送信メッセージブローカー(Event Grid)に渡されます。DLT Watcherを使用することで、オンチェーンのデータをオフチェーンのSQLデータベースに書き込むことができます。

Azure SQL Database 

Azure Blockchain Workbenchではデフォルトで下記のデータをデータベースに格納します。
  • スマートコントラクトの定義情報
  • 構成メタデータ
  • ブロックチェーンデータのレプリカ
データベースに直接アクセスすることによって、これらのデータを簡単に照会、視覚化、または分析することができます。たとえば、Microsoft ExcelやPower BIを使ってトランザクションデータを視覚化することができます。
(参照:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/workbench/data-excel) 

Azure Storage

Azure Blockchain Workbenchではデフォルトで下記のデータをストレージに格納します。
  • スマートコントラクト
  • スマートコントラクトに関連付けられたメタデータ
  • コンテンツ
コンテンツデータの例としては下記のようなものが考えられます。
  • 発注書や船荷証券などのドキュメント
  • ニュースや医療画像に使用される画像データ
  • 警察のボディカメラや映画などの動画データ 

モニタリング

Application InsightsやAzure Monitorといったモニタリングサービスにより、構築された環境が正常に稼働しているか監視を行います。
  • アプリケーションの監視
  • インフラ/プラットフォームの監視

アプリケーションのデプロイ方法

Azure Blockchain Workbenchで環境を構築すると、そこでスマートコントラクトとアプリケーションを簡単にデプロイすることができます。 
  1. スマートコントラクトのソースコードと構成メタデータのファイルを用意します。構成メタデータは、ブロックチェーンアプリケーションの大まかなワークフローと対話モデルを定義したJSON形式のデータです。
  2. Azure Blockchain WorkbenchのWebサイトに管理者としてログイン
  3. Azure Blockchain Workbenchのアプリケーション新規作成画面でスマートコントラクトのソースコードと構成メタデータのファイルを指定してデプロイを実行
  4. アプリケーションのロールに対して Azure Active Directoryのユーザーを割り当て(使用できるユーザーを定義) 

サンプルアプリケーション

GitHub上にあるサンプルアプリケーションを使うことで、Azure Blockchain Workbenchを試したり、これらをカスタマイズして独自のユースケースに適応したアプリケーションを開発したりすることができます。

Visual Studio Code

Microsoftが開発したコードエディターで、拡張機能(プラグイン)としてSolidityのコンパイラが用意されており、スマートコントラクトの開発環境として使用できます。

Azure Blockchain Development Kit for Ethereum

Visual Studio Codeの拡張機能として提供されているツールです。Azure Blockchain Development Kit for Ethereumを利用することで、開発者はスマートコントラクトのコードを作成、コンパイル、テスト、デプロイやブロックチェーン環境の管理をVisual Studio Codeから実行することができるようになります。
また、デプロイ先のブロックチェーンネットワークとしてはAzure Blockchain ServiceまたはパブリックのEthereumネットワークを選択することができます。
さらに、下記のEthereum開発のエコシステムとの接続が容易で、Azure上でのエンタープライズ向けブロックチェーンアプリケーションの開発用途にとどまらず、パブリックEthereumのアプリケーション開発にも利用可能なツールとなっています。
  • Truffle:Ethereumのアプリケーション開発フレームワーク
  • Ganache:ローカルでEthereumブロックチェーンをシミュレーションできるツール
  • OpenZeppelin:スマートコントラクトコードのライブラリ

Azure DevOps

Azure DevOpsはチームでのアプリケーション開発や運用支援するサービス群で、ソースコードのリポジトリや、継続的インテグレーションと継続的デリバリー(CI/CD)、バックログなどが含まれており、スマートコントラクトとアプリケーションのバージョン管理と更新を簡素化することができます。

Azure Logic Apps 

Azure Logic Appsはローコーディングでさまざまなサービスを連携させてアプリケーションを作成できるiPaaS(Integration Platform as a Service)サービスです。同様のサービスとしてはIFTTT(イフト)などが有名です。Azure Logic Appsを利用することで、サーバーレスで簡単にスケーラブルなエンタープライズ統合ソリューションを構築することができます。
下記ページ(英語)にAzure Logic Appsと連携可能なサービスの一覧がありますが、Microsoftのサービスだけでなく、Salesforce、SAP、AWS、Asana、Box、IBM DB2、Google、Kintone、MySQL、Oracle、PagerDuty、PostgreSQL、ServiceNow、SendGrid、Slack、Stripe、Twilio、Twitter、Facebook、Zendeskなど多様なサービスとの連携させることができます。
https://docs.microsoft.com/ja-jp/connectors/connector-reference/
また、Azure Logic AppsのEthereumブロックチェーンコネクタを使用して、ブロックチェーンやスマートコントラクトと連携するアプリケーションやワークフローを容易に作成することができます。
例えば、スマートコントラクトでメソッドの呼び出しなどのイベントが発生した場合に、イベントトリガーを使用してメール送信などの処理を実行することができます。
出典:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/service/ethereum-logic-app
上記画面で下記パラメータを設定するだけで、ブロックチェーン上のスマートコントラクトのイベントを監視し、別途定義した後続のアクションを実行することができます。
  • コントラクトABI
  • コントラクトアドレス
  • イベント名
  • 間隔と頻度
さらに、Ethereumブロックチェーンコネクタで用意されているアクションを使用することで、Azure Logic Appsに特定のHTTPリクエストが来たときにスマートコントラクトのメソッドを呼び出すマイクロサービスを作成することができます。
例えば、HTTPリクエストを受けてスマートコントラクトの特定の状態変数の値をHTTPレスポンスで返すようなサービスを、ほとんどコードを書かずに作成できます。
出典:https://docs.microsoft.com/ja-jp/azure/blockchain/service/ethereum-logic-app
上記画面で下記パラメータを設定するだけで、特定のスマートコントラクトのメソッドを実行することができます。
  • コントラクトABI
  • コントラクトのバイトコード
  • コントラクトアドレス
  • 実行したいコントラクトのメソッド名
  • メソッドに渡すパラメータ(必要に応じて設定)

ソリューションアーキテクチャ

MicrosoftはAzureを利用した各種ソリューションのアーキテクチャを公開しています。ここではブロックチェーンのソリューションアーキテクチャを概観してみましょう。

ブロックチェーンワークフローアプリケーション 

受発注業務や請求・入金業務など、大抵の企業は他の組織と共有するワークフローがあるはずです。ブロックチェーンを利用して、このようなワークフローをデジタル化することができます。ここでは汎用的なユースケースとして、関連するインターフェースからイベントやデータを取り込み、コンソーシアムブロックチェーン上でデータを共有することで組織をまたがるワークフローを実現するようなアプリケーションのアーキテクチャを例示します。
  1. 関連するアプリ、デバイス、データソースから受信メッセージブローカー(Azure Service Bus)にイベントまたはデータが送信されます。
  2. 分散型台帳(DLT)コンシューマーがAzure Service Busからデータを取得し、トランザクションビルダーに送信します。
  3. トランザクションビルダーがトランザクションを作成し、Azure Key Vaultに保管されている秘密鍵を使用してトランザクションに署名します。
  4. 署名されたトランザクションは、Azure Blockchain Serviceにルーティングされます。
  5. ブロックチェーンデータマネージャーは、Azure Blockchain Serviceのトランザクションノードからブロックとトランザクションデータを取得し、イベントとプロパティをデコードしてから、データを送信メッセージブローカー(Azure Event Grid)に送信します。
  6. 送信メッセージブローカー(Azure Event Grid)は、台帳データを関連するビジネスアプリケーションとオフチェーンデータベースに送信します。
  7. Power BIからオフチェーンデータベースに接続して、情報の分析、レポーティングによる可視化を行います。

サプライチェーンの追跡とトレース

こちらはIoTを利用してサプライチェーン上の資産を監視するようなアプリケーションのアーキテクチャになります。例えば、食品や薬剤などの傷みやすい商品の冷蔵輸送が典型的なユースケースです。このシナリオでは、サプライチェーン上で遵守しなければならない契約条件(湿度や温度など)を依頼元の企業(小売店など)が指定します。いずれかのポイントでIoTデバイスによって範囲外の温度または湿度が検知されると、スマートコントラクトの状態が更新され、コンプライアンスが遵守されていないことがブロックチェーンを通じて即座に関係者に伝達されます。また、イベントをトリガーにして必要な処理を自動実行することも可能です。
  1. IoTデバイスがAzure IoT Hubと通信します。Azure IoT Hubは関連付けられたAzure Service Busにメッセージを送信します。Service Busに新しいメッセージが追加されると、Azure Logic Appsのメッセージ変換処理(後続処理で扱えるようデータ形式を変換)がトリガーされます。
  2. 分散台帳(DLT)コンシューマーがService Busからデータを取得し、トランザクションビルダーに送信します。
  3. トランザクションビルダーがトランザクションを作成し、Azure Key Vaultに保管されている秘密鍵を使用してトランザクションに署名します。
  4. 署名されたトランザクションがブロックチェーン(Ethereumコンソーシアムネットワーク)にルーティングされます。
  5. DLT Watcherがブロックチェーン上のトランザクション承認を検知し、承認済みトランザクションを送信メッセージブローカー(Azure Event Grid)に送信します。
  6. DBコンシューマーが承認済みトランザクションをオフチェーンデータベース(Azure SQL Database)に送信します。
  7. Power BIからオフチェーンデータベースに接続して、情報の分析、レポーティングによる可視化を行います。
  8. 送信メッセージブローカー(Azure Event Grid)は、台帳データを関連するビジネスアプリケーションに送信します。

事例

Microsoft:XBOXのロイヤリティ情報の共有と管理

この事例では、Xboxのプラットフォームで販売したゲームの収益を各ゲーム開発企業に報告する時間が45日(従来は表計算で処理していた)から数分に短縮され、システム全体の人的コストが40%削減されたとしています。また、紙の契約をスマートコントラクトに置き換えることで、契約締結も15分程度で完了するようになったとのことです。
本事例でのプロセスは以下の通りです。
  1. パブリッシャー(ゲーム開発会社)とディストリビューター(Microsoftなどのデジタルコンテンツ販売事業者)は、スマートコントラクトで契約を行う。
  2. 一般の消費者がXBOXプラットフォームを通じてデジタルコンテンツを購入すると、その情報が共通のブロックチェーンに書き込まれてゲーム開発会社と共有される。
  3. ゲーム開発会社は自社のデジタルコンテンツの売上データとロイヤリティ収益をリアルタイムで閲覧できる。また、プライバシー機能により自社の売上データは他社から閲覧できないようになっている(他社の情報を閲覧することも不可)。
これによりゲーム開発会社はリアルタイムにマーケティングなどの意思決定が行えるようになりました。
Microsoftは2017年にゲーム開発会社の1社であるUbiSoftと実証実験を行い、その後は複数社との分散台帳の運用を行い、2018年から本番環境で運用しています。2020年の執筆現在まで稼働しており、ブロックチェーンはAzure Blockchain ServiceのQuorumを利用しています。 

3M:医薬品の真正性証明

近年、医薬品のサプライチェーンで不正取引による偽造医薬品が混入するリスクが世界的に増大しています。途上国では流通量の1割から3割が偽造医薬品となっており、偽造医薬品の使用によって毎年百万人以上の人々が亡くなっているという報告もあります。また、偽造医薬品は医薬品メーカーのブランドや収益にも多大な影響をもたらします。
3Mでは偽造医薬品対策として、改ざん防止ラベルとブロックチェーンを組み合わせてサプライチェーン上の医薬品を追跡するサービスを構築しており、Azure Blockchain Workbenchを利用しています。
改ざん防止ラベル(Tamper Evident Labels)とは、ラベルを取り除こうとすると表面が破損するようになっており、ラベルが取り除かれたことが明らかになる3Mのセキュリティ製品です。
改ざん防止ラベル
本事例でのプロセスは以下の通りです。
  1. 医薬品メーカーは生産した薬剤をパッケージ化する際に、マルチレイヤQRコードを印刷した改ざん防止ラベルで密封する。
  2. 運送業者や倉庫業者は各ステップでQRコードを確認しながら薬剤の移動や保管を行う。QRコードの確認結果はスマートコントラクト上で追跡ができる。
  3. もし小売店に到着した時点のチェックでスマートコントラクト上で追跡している数量と不一致があれば、運送業者は違約金を支払う義務が発生する。
これによりサプライチェーン上の各社はリアルタイムに医薬品の真正性を確認でき、偽造品では無いか迅速に証明することが可能となっています。

ステラエックス株式会社:island

ステラエックス株式会社はSNS型のオリジナル(独自)コイン発行アプリケーションであるislandを開発している企業です。islandアプリケーションはAzure上で構築されており、ブロックチェーンはAzure Blockchain ServiceのQuorumを利用しています。
アーキテクチャ図
問い合わせ窓口:https://lp.theisland.jp/form.html

株式会社Ginco:blockchainBASE

株式会社Gincoは、デジタル資産のプラットフォームを目指して、個人・法人向けの暗号資産ウォレットやブロックチェーンサービス基盤を提供している企業です。ブロックチェーンノードのフルマネージドサービスを含むミドルウェアプラットフォームであるblockchainBASEではAzure Blockchain ServiceとAzure Kubernetes Serviceを利用しています。
これらのサービスは国内の暗号資産取引所やエンタープライズ企業に導入され、実稼働しております(暗号資産取引、デジタル証券取引、データの真正性証明、著作権管理など)。
アーキテクチャ図
問い合わせ窓口:https://service.ginco.co.jp/contact

株式会社Nayuta:Ptarmigan

株式会社NayutaはBitcoinのセカンドレイヤーであるLightning Networkのプロトコル開発からアプリケーション開発までを行っている企業で、Lightning Networkの仕様(BOLT)に準拠したソフトウェア実装であるPtarmiganを開発しています。また同社は、PtarmiganをAzure上で簡単にデプロイできるように「ptarmigan for Azure」をAzureマーケットプレイスで公開しています。
アーキテクチャ図
問い合わせ窓口: https://nayuta.co/ja/business

ラブロック株式会社:データ改ざん検知・トレースサービス

ラブロック株式会社ではブロックチェーン技術を基盤としたデータ改ざん検知及びトレースを行う基盤サービスを提供しています。本サービスのユースケースとしては公共関連文書やIoTにおける収集データ、物流におけるトレーサビリティのイベント情報などの改ざん検知が想定されています。また、ブロックチェーン基盤はAzure Blockchain ServiceもしくはRablock Platformを選択できるようになっています。
アーキテクチャ図
問い合わせ窓口:https://www.rablock.co.jp/contact

【参照】