【20年9月版】暗号資産マーケットレポート

目次

  • 前提
  • 8月マーケットの概観
  • 注目しているファーミング
  • 結論
https://hashhub-research.com/articles/free-report-for-limited-time

前提

今月のマーケットレポートでは引き続き、BTC, ETH, BNB, SNX, HTの先月の動きを見返しながら、盛り上がっているファーミングを投資分析の観点から簡単にまとめます。ファーミングについてはDeFiマーケットレポートでも取り上げる予定です。各DeFiの構造は過去のレポートへのリンクを貼っていますので、少しずつ理解頂ければ良いと思います。
筆者が保有していたポートフォリオには大きな変化があり、SNXとHTの利確がありました。BTC, ETH, BNBは引き続き保有しており保有数も増えていますが、一方でマクロ経済への警戒度も高めており、ステーブルコイン運用の比率を引き上げました。
後半では注目しているファーミングとしてCOMP, BAL, CRV, Kavaを取り上げます。
過去のレポートはこちらからご覧いただけます。
【20年4月版】暗号資産マーケットレポートhttps://hashhub-research.com/articles/2020-04-02-market-report
【20年5月版】暗号資産マーケットレポートhttps://hashhub-research.com/articles/2020-05-05-crypto-asset-market-report
【20年6月版】暗号資産マーケットレポートhttps://hashhub-research.com/articles/2020-06-09-market-report
【20年7月版】暗号資産マーケットレポートhttps://hashhub-research.com/articles/2020-07-04-crypto-asset-market-report
【20年8月版】暗号資産マーケットレポートhttps://hashhub-research.com/articles/2020-08-02-market-report
※免責
本レポートは、投資を助言または推奨するものではなく、情報提供と教育のみを目的としています。お客様が本レポートで参照される暗号資産または関連するアセットに関して投資判断を行う場合は、事前にご自身でリサーチ及びデューデリジェンスを実施していただく必要があります。

8月マーケットの概観

BTCは横ばいを再開


結論:ホールドだが縮小の準備も
8月に大きく上げたBitcoinですが、9月は$12,000を一度は超えたものの再び$11,000台で推移しています。一ヶ月間上抜けしない動きを見せているものの底も固く大きな下落は見せていません。また、ハッシュレート、開発、コミュニティの動向においても特に懸念はありません。
懸念があるとすればマクロ経済の悪化を警戒している企業が増えてきている点でしょうか。
Accenture Layoffs 2020: 25,000 Job Cuts Possible
https://www.channele2e.com/business/talent/accenture-layoffs-2020/
アクセンチュア、インドで数千人解雇か
https://www.nna.jp/news/show/2087111
金融緩和の出口を探す動きと不況への警戒によって、市況が悪化すれば暗号資産市場も無関係ではいられず、3月12日同様に大きな下落を見せる可能性もあります。上述の通りBitcoinに直接関わるファンダメンタルズは特に心配はないものの、マクロ経済の動向を注視しながらポジションを縮小させる準備も事前にしておくべき状況だと考えています。

EthereumはDeFiの波に乗ってか大きく上昇

結論:ホールドだが縮小の準備も
ファーミングの流行によってガス代が高騰し換金性の高い用途以外ではまともに使える状態ではないEthereumですが、DeFiブームのプラットフォームとしての存在感は大きくETHの価格は大きく上昇しています。マイナーに支払われる手数料はブロック報酬(2ETH)を超え、Ethereum上で発生するトランザクション手数料はBitcoin上のそれを継続して上回る状況が続いています。
トランザクション手数料は需要と供給で決まるため、換金性の高いユースケース(需要)と有限のブロックスペース(供給)が組み合わされば当然のごとく手数料は高騰しますので、これを理由にEthereumが破綻していると主張することはできません。手数料の高騰やブロックチェーンの詰まりは需要あるブロックチェーンの宿命であり、過去にはBitcoinでも発生していた問題です。
DeFiの盛り上がりで再評価できるのはEthereumのComposabilityでしょう。Ethereum Foundationが主導せずともウォレットやエクスプローラーなどのツール、Ethereum上のアプリケーション、金融商品が開発され、バグの可能性を知ってか知らずかリスクを負ってでも利用するユーザーがおり、コミュニティドリブンで改善されていくエコシステムを持っていることがEthereum最大の強みです。当然のように使っているウォレットやブラウザエクステンションは、その他のブロックチェーンでは当たり前ではありません。
今回の上昇相場ではPolkadotのDOTやCosmosのATOMも大きく時価総額を上げていますが、スマートコントラクトのプラットフォームとしてEthereumは依然として圧倒的な地位を誇っており、追随するブロックチェーンはEVM互換・Ethereum開発ツール互換であることが標準になりつつあります。

BNBはゆっくりと上昇

結論:ホールド
上昇相場で出来高が絶好調なのがBinanceです。久々にIEOを行い、一時はIEO価格の10倍の価格をつける高騰を見せました。またBinanceでIEOを行っており、Binance Chain同様にCosmosベースで開発されているKavaがBNBを担保にUSDXを発行することでKavaが付与されるキャンペーンを行っています。これによってBNBをホールドしたままの運用手段が登場しました(付与されたKavaには1年間のロック期間あり)。
https://www.kava.io/overview
EthereumやDeFiトークンほどの急激な上昇は見せていないものの、異なる値動きを見せながらも継続した上昇を見せており、ポートフォリオに含めるには良い値動きを持ったトークンであると言えます。
また取引所としてのBinanceは現物市場では2位のOKExに圧倒的な差をつけて1位の地位を完全に確立しており、デリバティブ市場でもHuobiに迫る勢いです。BinanceがEthereumベースのDeFiを競合として警戒していることは確実であり、CeFiがDeFiに負ける未来を見据えて経営資源を振り分けていることが予想されます。
その際にもBNBは中核となる働きを果たすはずで、これはBNBにとってもポジティブ材料です。ただし、まともに監査されていないDeFi系のトークンをBinanceに上場するなど、取引所経営ではなりふり構わない手法が目立っており(以前からBinanceは弱小コインも含めて積極的に取り扱いをしていましたが)、移り変わりの早い領域に対応しようとする過程で綻びが生じる可能性は数少ない懸念として挙げられます。

SNXは前月比で倍近くまで上昇

結論:大部分利確
先月末は$3.9であったSNXですが、8月は$7.5まで上昇しました。SNXの上昇要因はSynthetixの開発が進んでいることもありますが、ファーミングの道具としてSNXを採用するプロジェクトがいくつかあった点が大きいと思います。これはSNXを含んだトークンのペアで流動性提供を行うことでDeFiトークンが得られるもので、Synthetixと直接関係があるわけではありませんが、道具としてのSNXの需要は高まります。
先月のマーケットレポートにも「ここからどこまで上がるか分からない」と記載しましたが、今のマーケットは予測が極めて難しく、強い上昇相場であるので売却や空売りが極めて難しい局面です。これからSNXが上がり続け、その他の大型DeFiプロジェクト同様に時価総額で$10億を超えていく可能性もあるでしょう。
しかし、SNX以外にも運用先があること、ポートフォリオ全体としてバランスを取る必要があったこと等を理由に筆者は一部のSNXを残して利確を行いました。Synthetixの構造的な課題である「合成資産は常にDebt poolのその他のアセットとのペアトレードになっているので、自分の合成資産の値動きをDebt poolの構成要素が大幅にアウトパフォームした場合、それだけで大きな損失が発生してしまう」点が解消されたら、再びSynthetixに強気になれる可能性もあります。 

HTは全売却

結論:全利確
ずっと上値が重かったHTですが、 ようやく$5を超える局面が何度かありました。HTの投資判断は7月版のマーケットレポートに書いたこととほとんど変わっていません。デリバティブ市場は世界一の地位をBinanceに奪われそうではありますが、未だにOKBやFTTに比べると割安感があります。
ただし、Binanceの影響力が更に強まっている点、Huobiビジネスの先物依存が更に強くなっている点、その他に魅力的な運用先が増えている点などを理由にHTは全て利確しました。この上昇相場においてはほぼ全ての取引所にポジティブに働くはずで、メジャー取引所であるHuobiの業績も今まで以上に良くなるでしょうが、その役割を担わせるのはBNBで良いというのも判断材料の一つです。

注目しているファーミング

DeFiマーケットは別途でレポートを提供する予定(利用者編、ファーミング編)ですが、マーケットレポートでは投資の観点から筆者が注目しているファーミング機会を紹介します。ファーミングはコードのバグやハッキング等、通常よりも高いリスクがあるので利用の際にはくれぐれもご注意ください。
*参照レポート:Q&Aで徐々に学ぶDeFi
https://hashhub-research.com/articles/2020-08-27-learn-about-defi
*参照レポート:DeFiのリスク構造を正しく理解するための延焼度という指標
https://hashhub-research.com/articles/2020-08-10-defi-risk-model

COMP(Compound)


※6月からのチャートです。
筆者はInstadappのレバレッジ機能を使ってCOMPのファーミングを2ヶ月程度行っていましたが少し前にファーミングを解除し、後述のCurveに振り分けました。ファーミングで獲得したCOMPは今も保有しています。
現時点でどの程度の貸し借りをCompound上で行えば、どの程度のCOMPをファーミングできるかは以下のサードパーティ製のツールで確認できますが、レバレッジなしでも10%以上の利回りが期待できます。
http://www.predictions.exchange/compound/None
Compoundは取り扱うトークンの種類を厳しく限定しており、安定して稼働している点が大きな利点です。単純な利回りのみで比較すればCompound以上の数値を示すものもありますが、この安定感がCompoundファーミングの魅力と言えるでしょう。
*参照レポート:レンディング最大手Compoundの独自トークンCOMP 概要とレンディングマイニングの戦略
https://hashhub-research.com/articles/2020-06-16-comp-overview

Balancer(BAL)

プール構造の自由度が高いUniswapとでも表現できるのがBalancerです。Balancerファーミングの一番の特徴は様々なトークンのペアでファーミングに参加できることで、BALがなくともWBTCやWETH、USDCを使ってファーミングを行うことでBALを獲得することができます。
ただし、BAL factorという係数によってファーミングの効率性が決められており、「BALを含むプールは優遇する」、「ソフトペッグ同士のトークンペアは冷遇する」などルールがあります。どのペアでどの程度のBALを得られるかは以下のサードパーティ製のツールで確認できます。
https://pools.vision/
現時点のWETH/WBTCペアのプールは60%程度の利回りです。Factorが変わったり、ファーミング競争が激化することで利回りは減少する可能性があります。
*参照レポート:AMMの概要及びBancor、Uniswap、Balancerによる新たな動向
https://hashhub-research.com/articles/2020-04-01-amm-overview

CRV(Curve)


非常に複雑な構造ではあるものの、USDソフトペッグトークン同士やBTCソフトペッグトークン同士のペアで流動性提供できるのがCurveファーミングの特徴です。USDソフトペッグ系プールの一つであるsUSDプールにDAIを預け入れるとDAI/USDC/USDT/sUSD間の取引手数料を得ながら、それに加えてCRVが獲得できます。
利回りが100%を超えているものもあり魅力的に映りますが、効率よくファーミングを行うにはCRVを一定期間ロックせねばならず、初期費用としてCRVのロックが必要でありファーミング開始までに複数のトランザクションが必要であるためガス代が高く、インフレ率が非常に高いため常に売り圧が生じる点には注意が必要です。
Uniswapキラーとして名を挙げているプロジェクトがいくつかある(Balancer, Mooniswap, DODOなど)一方で、Curveのようにソフトペッグトークン同士の交換をサポートしているプロジェクトは少ないので、CRVの価値が上がらないシナリオはあるもののCurveは当面の間使われ続けるのではないかと予想しています。
*参照レポート:ソフトペッグ系トークンの最良レートを提示するCurveとCRVの概要
https://hashhub-research.com/articles/2020-08-19-curve-crv-overview
*参照レポート:Curveのリワード構造を理解して効率的なファーミングを実施する
https://hashhub-research.com/articles/2020-08-31-about-curve

Kava(Kava)

BNBを使ってUSDXを発行すると、発行したUSDXの量に応じてKavaが付与されるインセンティブプログラムです。付与されたKavaは1年間のロック期間がありますが、BNBを保有したまま追加の報酬が得られる上に、このインセンティブプログラムが決定した時点に比べてKavaの価格が大幅に高くなっているため、利回りもその分だけ向上している点に特徴があります。
EthereumではなくCosmosベースのチェーンであるBinance ChainとKava Mainnetを使うためMetaMaskでは対応できません。Cosmostation等のウォレットが必要です。現時点でガス代はほとんどかかりません。
https://medium.com/kava-labs/mint-usdx-with-your-bnb-using-cosmostation-wallet-33d06b8a9b4d
Kava MainnetにデポジットできるBNBの量や発行できるUSDXの量には上限があるため早い者勝ちですが、最近では常時数%以上(数千万円程度)の空きがあります。利回りは現時点で30%程度ですが、こちらもKavaの価格やプラットフォーム全体のロック数にも依存しますので将来に確定する実利回りは不明です。

終わりに

筆者は実験と調査のためにここに紹介したもの以外にもいくつかのファーミングに参加していますが、大半は他人に勧めるどころか紹介することさえできないものです。高利回りのように見えて実際には二束三文にしかならずガス代のほうが高くつくものやファーミングのために独自トークンを購入して流動性提供していたところ価格下落によって資産が損なわれるもの等、被害が生じるシナリオには枚挙に暇がありません。
また、ここで紹介しているものも極めてリスキーなものであることを再度強調しておきます。筆者はファーミングの構造を理解していますが、理解したところで軽減できるリスクには限りがあり、理解が損失の回避を約束することもありません。

結論

クリプトらしい相場になり界隈が浮き足立っていますが、何よりも重要なのは損失を限定し資産を大きく失わないことです。マルチ商法に近いDeFi系のプロジェクトの中には仕組みとしては面白いものもあるので、金銭的なリターンばかりを得ようとせずに、知的好奇心を満たしながら人間の欲望を理解したり、新しい形のインセンティブ提供の理解を深めたりしても良いでしょう。