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Coinbase創業者によるクリプトスタートアップ11のアイデアの解説

2023年09月29日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • Coinbase創業者によるクリプトスタートアップ11のアイデア要約
  • 総括

前提

本レポートでは、Coinbase創業者によるクリプトスタートアップ11のアイデアの解説します。
同氏は「2023年にクリプトのスタートアップを作るならば?」というテーマで11のアイデアを披露するブログを公開しました。CoinbaseはCVCも展開しており、その潜在的な投資先に呼びかける意味合いも込められています。

参照:Request for Builders: Startups I Would Build Today
米国最大の取引所となったCoinbaseは創業から約10年が経過しており、起業家としての彼がもし新しいプロジェクトをゼロから立ち上げるならば何をするかは気になるところでしょう。
今回は同氏のアイデアを要約して、筆者コメントも付け加え解説します。また次回のレポートでは同氏に見習って私のクリプトスタートアップ10のアイデアを執筆します。
レイヤー1およびレイヤー2のインフラストラクチャが整いつつあると同時に、DeFiやNFTの課題が明らかになったり、成長できないプロジェクトも撤退する中でアイデアに悩む人も少なくないでしょう。1つの参考になれば幸いです。

Coinbase創業者によるクリプトスタートアップ11のアイデア要約

1.フラットコイン(購買力指数に連動した通貨)

Bitcoinはインターネットにおける金本位制を体現するような暗号資産です。そのため価格変動が大きく、支払いには不向きです。一方でステーブルコインは支払いに利用可能であるものの、法定通貨と連動しているため、インフレーションにより実質購買力ベースで減価をします。
いずれの課題も解消したクリプトプロジェクトとして、分散的でかつ消費者物価(例えば米国のCPI)をトラッキングする新しい通貨モデルを開発出来ないかというアイデアです。CPIを追跡するためには資産のバスケットを裏付けするか、アルゴリズム的なアプローチを使う方法が考えられます。
筆者コメント:
アイデアの需要があることは理解ができます。現存する該当のモデルとしてはFRAXが展開するFPIがありますが、スタンダードとはなっておらず流通量はあまり多くありません。
一方で、完全にCPIにトラッキングするわけではないものの、米国債はインフレーションによる実質購買力減価を回避する最も現実的な資産のアロケーション先です。クリプトの世界においてもRWAを通して米国債にエクスポージャーを持つことが可能になりつつある今、複雑であると同時に攻撃可能性も高くなるフラットコインを広めるハードルはそれなりに高いと言えるでしょう。

2.オンチェーンレピュテーション

ENSによって分散型IDは広まりましたが、それを使ってレピュテーションの実現はしていません。誰を信用するべきか、評判の良いマーチャントを探したり、本物のアーティストかを見極める手段として分散型IDはまだ機能していません。
オンチェーンデータに基づいた分散型レピュテーションプロトコルは実現出来ないでしょうか。これはPageRankが着信リンクのグラフと関連するメタデータに基づいてすべてのウェブサイトにスコアを付けるのと似ています。潜在的には、融資(分散化されたFICOスコア)、マーチャントの評価(Yelp)、詐欺防止(リスクのあるアドレスに送る前にウォレットが警告してくれる)、VIPへのエアドロップなどに利用ができる可能性があります。
筆者コメント:
オンチェーンレピュテーションは長らく業界で探索されているテーマで、過去に数々のプロジェクトが生まれてきました。ですが、いずれも普及には至っていません。
それには様々な理由はありそうですが、筆者が考えるに、結局のところのオンチェーンだけに裏付けされたレピュテーションはどこまで行っても最後は捨てることができる、だからこそクレジットとして機能しないのではないかと仮説を持っています。

どれだけオンチェーン上で信頼されていても、その人に無担保で1億円を融資できるでしょうか?結局のところそのアイデンティティは放棄可能なのです。私ならばオンチェーンと現実世界のIDやレピュテーションを組み合わせるアプローチを模索することを考えたいと感じる領域です。

3.オンチェーン広告

Web2における最高のビジネスモデルは広告でした。Web3においても広告は一定の規模になり得るでしょう。
Web2においては、CPM (pay per thousand impressions) からCPC (only pay if someone clicks the ad)へ移行したことがイノベーションでした。Web3ではCPA(Pay Per Action)が実現できるかもしれません。つまりオンチェーン上で誰かがアクションをしたときだけ広告費を支払うというモデルでしょう。
もしスマートコントラクトが呼び出される度に、特定のアドレスに対して報酬金を送金できる関数を設計できたらどうでしょう。多くのユーザーを抱えるウォレットやアプリは、どの広告やリファラルリンクにリクエストを送るかを選択できて、ユーザーを送客するとアップサイドを分け合うことができます。さらにリアルタイムオークションの仕組みも導入すれば、最適な価格を見つけるのに役立つでしょう。Web 3における広告の出現方法には他にもバリエーションがあるかもしれないが、上記はほんの一例に過ぎません。
筆者コメント:
オンチェーン広告は有力な領域でしょう。
そもそも業界内にすっかり定着したエアドロップという慣習も広告の一つであると筆者は理解しています。新しくローンチした●●DEXというプロジェクトが、既存のDEXであるUniswapユーザーに対してエアドロップして新しいプロダクトの使用を促すことができるということはオンチェーンならではの広告活動です。より現実的なブランドに当てはめて考えれば、例えばある新興スニーカーメーカーがNIKEのNFT保持者に対してインプレッションを得ようとすることもオンチェーンデータを活用すればWeb3が普及した世界で出来ることです。

4.オンチェーンによる資本調達

ICOブームには、詐欺や未登録証券問題などいくつかの大きな課題がありました。世界的にクロスボーダーにおける資本調達の摩擦がまだ高すぎるからです。
しかし、資本はいまだ偏在しています。ブダペストやバンガロールに住んでいる起業家は、シリコンバレーやクリーブランドに住んでいる起業家よりも資本にアクセスできる可能性が低いです。資金調達がもっと簡単であれば、スタートアップはもっと増えているはずです。スタートアップだけでなく、実際の人々が集合住宅のために資金を調達することも含みます。
合法的で信頼されるICOの次のステップはどのようなものでしょうか?Web3のStripe AtlasとAngelListを組み合わせたようなものを想像できないでしょうか。会社やアイデアの登録(各国での書類提出など)だけでなく、アイデアのための資金調達もサポートしてくれるというものです。各アイデアには、ピッチデックやビデオ、ディスカッションや評価、参加者の評判、チェーン上の透明な資金の流れがあります。資金調達を民主化することで、世界中に潜在する膨大な起業家のポテンシャルを活かすことができます。
筆者コメント:
このアイデアは単純に株式型クラウドファンディングのプラットフォームに過ぎないのではないかというのが筆者の印象です。しかしながら、単純な株式型クラウドファンディングプラットフォームをWeb3やオンチェーンの文脈に載せて、成長や資金調達を目指すことはあり得ることのようにも思います。

5.クリプトのタスク市場

世界には、クリプトに投資できるだけの可処分所得を持つ人の数は限られています。しかし、ほとんどすべての人が生計を立て、基本的な生活ニーズに収入を費やす必要があります。よりグローバルな雇用市場に対する大きな障壁は、国境を越えて個人への支払いを行うことの難しさです。クリプトで支払われる仕事や作業を掲載できるようにし、従業員や請負業者がそれらを見つけられるようにすることで、よりグローバルで自由な労働市場を作るというアイデアです。
筆者コメント:
報酬をクリプトで受け取る仕事としては、クリプト企業またはDAOでの役職、あるいはバグバウンティなどが真っ先に思いつきます。まずこれらの領域で仕事マッチングのプラットフォームとして有力なポジショニングを取ることが必要でしょう。
いきなり広い仕事エリアでクリプト支払いの仕事のプラットフォームをしても、リソースは分散して減速します。まずは既にクリプト払いの慣習はある仕事をまとめ上げて、少しずつクロスボーダーのIT関連業務委託などの仕事も掲載するなど領域を広げていくことが重要のように思えます。

6.レイヤー2のプライバシー

レイヤー2はクリプトのスケーリングに貢献しています。しかし、ほとんどの取引はまだパブリック・ブロックチェーン上で行われています。透明性はありますが、人々はほとんどの取引が公開されることを望んでいません。レイヤー2のソリューションにプライバシーをもたらす正しい方法とは何か、そしてここで構築されるビジネスはあるのかは可能性がある領域です。
筆者コメント:
Ethereumはパブリックブロックチェーンとして発展して、それに対して様々な特徴を持ったレイヤー2が展開されるというのはEthereum発展におけるメインシナリオです。その中でもプライバシー性能を持ったレイヤー2(あるいはレイヤー3)は最も重要な領域でしょう。
同時にプライバシー要件を満たしながら、コンプライアンス適用することも求められ、それに現実的な解を示せるプロジェクトは業界に求められています。

7.オンチェーン化されたP2P市場

暗号資産のP2Pの交換は、新興国市場において重要なオンランプとオフランプを提供しています。しかし現存のP2P取引所は中央集権的な組織によって運営されており、閉鎖を迫られる可能性があります。エスクロー、レピュテーション、仲介機能を備えつつ、完全にオンチェーンで運営される分散型P2P取引所を構築する方法はあるでしょうか。
筆者コメント:
多くの日本人には馴染みはありませんが、アフリカや東南アジアの新興国ではLocalBitcoinsなどのP2P取引所が利用されることは少なくありません。有名なP2P取引所はそれなりにトランザクションボリュームがあり、収益性があります。これらをオンチェーン化するというアイデアはありえるでしょう。顧客は日に何回もトレードをするトレーダーではないのでスループットも求められません。

8.オンチェーンゲーム

私(Coinbase創業者)はゲーム構築の専門家ではありませんが、クリプトがゲームとどのように交わることができるかについては、業界はまだ表面しか見ていないように感じます。プレイヤーがゲーム内で収集し、使用するアイテムを実際に所有するにはどうすれば良いのでしょうか。これらのアイテムがメタバースで生き続け、より複雑な相互作用や経済を生み出すにはどうすれば良いのでしょう。Dark Forestのような初期の事例は刺激的でした。
おそらく、各オンチェーンゲームの戦利品を使ってもっと多くのゲームを作ることができるでしょう。大作ゲームである必要はなくA Dark Roomのようなシンプルなゲームであっても、他のプレイヤーとの永続的な仮想世界において、プレイヤーが所有することになるNFTのゲーム内アイテムを使用するように適合させることができるでしょう。
筆者コメント:
同じくゲームの専門家ではありませんが、オンチェーンゲームがより発展できるだろうという考えには筆者も同意見です。大作ゲームである必要もないという点も同意します。Dark ForestやLootのようなオンチェーンゲームやオンチェーン創作は面白かったものの、短命なブームで終わってしまう傾向は否めません。
より多くの人に遊ばれるオンチェーンゲームの具体的な姿は想像出来ませんが、より進化できることは確かでしょう。

9.現実世界の資産のトークン化

USDCのような1:1に裏付けされた不換紙幣のステーブルコインは、現実世界の資産 をオンチェーンで実現した最初の実例です。 プログラマビリティ、コンポーザビリティ、24時間365日のグローバルな流動性、信頼最小化決済という特性を備えた新たな金融システムです。現在、多くのプロジェクトが、負債証券、国庫短期証券、コモディティ、売掛金、さらには高級品に至るまで、この分野でのアプローチに取り組んでいます。
筆者コメント:
リアルワールドアセットは2023年に顕在化したトレンドとして間違いないでしょう。
一方で、個別のプロジェクトを見れば、実際は証券法に違反していることや、脱法MMFであったりという事例も相当数見かけられます。コンプライアンスに準拠をしながら、コンポーザビリティなどを活かしてオンチェーン上の投資家を惹きつけられるプロジェクトが長期的に繁栄するはずです。

10.ネットワーク国家の立ち上げと管理のためのソフトウェア

Balaji Srinivasanによる著書『The Network State(ネットワーク国家)』は、新興都市やネットワーク国家への動きを加速させるのに役立っています。より多くのネットワーク国家が設立され、投票、統治、資金調達、市民権、徴税、サービス提供などを管理するツールが必要になるでしょう。このようなソフトウェアはさまざまなタイプの新興都市やコミュニティにとって役に立つかもしれません。
筆者コメント:
このテーマで最初に思い出すのはMiamiCoinやその基盤のCitycoins Protocolです。一時期盛り上がりを見せていましたが、その後失速しました。地域コインは小さいコミュニティーで熱量を保ち続けることがとても難しいといえます。
私が日本でこういったテーマに取り組むのならば、ふるさと納税の制度と組み合わせて考える可能性が高いです。合法的により多くの納税を集めて納税者にインセンティブを与えられる世界的に見ても数少ないフレームワークです。これにトークンを組み合わせることは面白い取り組みができるはずです。

11.Web3 プロフェッショナルネットワーク

Web3版LinkedInのようなアイデアです。

これによって、オンラインプロフェッショナルネットワークを再構築することができます。企業は雇用形態や履歴を確認するために、Soul Bound Tokenや他の形態の譲渡不可能なトークン標準をユーザーウォレットに発行することができます。教育プログラムでも、コースやブートキャンプの修了を確認するためにNFTを発行することができます。さらに、あらゆる種類の専門機関がさまざまなタイプのオンチェーン認証情報を発行するための標準を開発することもできます。フロントエンドのアプリケーションは、これらのオープンスタンダードに基づいて構築され、プロフィールを検索したり閲覧可能にもできます。このモデルではユーザーがプロフェッショナルネットワークグラフを所有し、収益化することになります。正式な職歴だけでなく、様々な種類の貢献や業績、一緒に働いたチームなどを通じて「オンチェーンの履歴書」を作ることができるというコンセプトです。
筆者コメント:
この類のプロジェクトはどのようにしてスランダードになるかが非常に難しいでしょう。恐らく様々なプロトコル同士のアライアンスによって標準化を試みるのが筋が良いのではないかと思います。
ゼロからスクラッチしてこのようなプロジェクトをスタートすると、十分な規模がないうちにコピープロジェクトが登場していずれも重要な影響度を得ないまま失速するというケースが最も考えられます。これは他者のプロダクトをコピーするのが容易というWeb3における特徴のようにも思います。

総括

今回は、Coinbase創業者によるクリプトスタートアップのアイデアの解説しました。
いずれもテーマ自体は目新しくはありません。つまり暗号資産業界で長らく期待されていたり、課題と認識されてきたテーマです。それでも普及に至っていないのには何かしらの理由があると考えるべきでしょう。そのハードルの特定と、それを乗り越えられる策があるならば真剣に検討する事業テーマになり得るかもしれません。
次回は筆者のアイデアをまとめてレポート化する予定です。
※関連レポート:今クリプト領域で起業するならどのようなテーマを選ぶか? 10のアイデア

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