クリエイターエコノミー・ケーススタディ #2 xcopy【前編】
2023年02月06日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- ケーススタディ #2|xcopy
- Q1:xcopyの1/1NFTはいつから、何をきっかけに高い評価額で取引されるようになったのか?取引相場の転換期を調査し、その要因を探索する。
- 総括
前提
本シリーズ「クリエイターエコノミー・ケーススタディ」は、アート、音楽、ファッション、映画などの分野でWeb3技術を活用し、一定の成果をあげた起業家、クリエイター個人に焦点を当て、彼ら彼女らの過去の活動履歴を振り返りながら、スモールビジネスとしての戦略性、特徴を紐解き、Web3ベースの小規模ビジネスの展開を検討している個人に対するインサイトを提供することを目的にします。
今回の#2ではクリプトアート界隈で「生きる伝説」と形容されることもあるロンドンを拠点に活動するクリプトアーティストxcopy氏の活動履歴を取り上げます。同氏がクリプトアーティストとして活動を始めたのは2018年ごろ。2018年に制作された代表的な作品の一つ「Right-click and Save As guy」の当時のドル建てでの取引価格はわずか$90、それからおよそ2年後の2021年12月には驚きのおよそ$7,000,000の評価を受けて二次流通しています。今回はxcopy氏の初期の活動履歴から執筆時点までの活動を追いながら、その転換期に影響したであろう要因を探索していきます。
※なお本レポート「#2 xcopy」は二本立てで構成しています。今回はその【前編】です。
【クリエイターエコノミー・ケーススタディ関連レポート】
ケーススタディ #2|xcopy
【xcopy】
twitter:https://twitter.com/xcopyart
discord:https://discord.com/invite/y3TFzusNkt
website:https://xcopy.art/
dune analytics:https://dune.com/cat/xcopy
twitter:https://twitter.com/xcopyart
discord:https://discord.com/invite/y3TFzusNkt
website:https://xcopy.art/
dune analytics:https://dune.com/cat/xcopy
xcopy氏の簡単な略歴についてまずは概説します。
【略歴と執筆時点での市場での作品評価傾向】
SuperRareによるインタビュー記事によると、氏が暗号資産に出会ったのは2017年末ごろ、Bitcoinを購入したのがきっかけであったと語っています。ブロックチェーンベースのデジタルアート(コレクティブ)との出会いも同時期であり、Bitcoinベースの今は亡きAscribe.ioを用いて1作品数ドルで販売し始め、その後2018年初頭に現SuperRareにつながるサービスのベータ版で作品を展開し始めたとされています。
【執筆時点の市場での作品評価傾向】
Ethereum上でデジタルアートの制作を始めた2018年当初から1/1デジタルアートNFTの制作と複数部限定のデジタルアートNFTの制作販売の両方を積極的に行っており、執筆時点でのNFT作成鋳造総数は1/1NFTのみですと計150、複数部数版を含めると計12,798です。
過去30日間のセカンダリーマーケットでの取引件数490件、過去30日間取引高は1,426ETH(約$2.3M)とNFT市場全体の取引数が減少した執筆時点でも個人クリエイターが作る月間の市場規模としては好調であるように窺えます。
では今度は過去1年間の取引高推移(上グラフ)を参考に過去30日間取引高(2022年末から2023年初頭)と過去1年間の取引傾向を観察し、幾つかのファクトを抽出してみましょう。
-
【過去30日間の取引傾向】
2022年末あたりから取引高が上昇し始め、2023年1月初頭にピークを迎えている。
-
【灰色(All Others Editions)が占める割合】
2022年後半から2023年1月後半にかけての取引は灰色(All Others Editions)が多くを占めている。それ以前の週あたり取引高の多くをグレー部分が占めている週が多いことを確認できる。
-
【黒色(1/1NFT)が占める割合】
2022年12月に黒色(1/1NFT)が大きく占める週がある。過去1年間を観察すると所々に一件当たりの取引単価の高い黒の取引があることが確認できる。なお2022年12月22日に取引された作品は「Utopia」、販売価格は325ETH($393.1k)。
-
【緑色(Max pain)とピンク色(Grifters)が占める割合】
過去30日に目を向けると2022年12月12日の週、2023年1月2日の週の取引高が通常よりも緑色(Max pain)が占める割合が高い。過去一年に目を向けると、緑色(Max pain)が発売された2022年春頃に取引高が活発化していることが確認される。ピンク色(Grifters)は2022年初夏に取引高が活発化している週がある。緑色(Max pain)とピンク色(Grifters)を合わせるとグレー(All Others Editions)同様に毎週の取引高の一定割合を占めていることがわかる。
以上のファクトから得られる示唆
- まず1.の事実から過去30日間の取引高1,426ETH(約$2.3M)は2022年8月以降の落ち着いていた取引高傾向よりは高い。ですから今後も安定して続く平均的な取引高(ロイヤルティフィーによる収益源)ではなさそうだと推断されます。しかしながら過去一年を振り返ってみても週の取引高が50ETH($80k)を下回る週は一度もありません。2.4.の事実からわかるように、比較的単価の低い複数部限定で販売したコレクション(グレー、緑、ピンク)が毎週の取引高の安定化(底上げ)に寄与していると考えられます。
- xcopyの複数部限定で鋳造されたコレクションは全てを合わせておよそ13,000点、所謂ジェネレーティブNFTとして10,000鋳造が一般的であったPFP NFTプロジェクトに近い数のNFTを個人アーティストとして鋳造しています。なお、xcopyは多種多様なコレクションを制作してその全体像を成しているわけですからPFP NFTプロジェクトとはその内訳が全く異なります。その作品群の多様性がホルダーの多様化につながり、上述の収益安定化を支えている可能性があります。
- 3.の事実からxcopyの1/1NFTは1作品$数M(高いものでおよそ$7M)で取引されていた2021年後半頃と比較すると一件あたりの取引価格は落ち着いてきてはいるものの、未だに高い市場価値を有していることがわかります。執筆時点でのxcopy1/1NFTは150作品ですから、同氏の全コレクションの鋳造数12,798のおよそ1.2%を占める程度であり、頻繁に取引されるようなコレクションではありませんが、一件あたりの評価額が高いため、年間で数件であったとしてもそれが年間取引高に占める割合は多いこと、加えて取引発生がある種のイベントとなり、更なる認知拡大につながっている可能性があります。
以上、ここ数ヶ月の取引傾向からも窺えるように、xcopyの作品群は未だに高い市場価値を保っていることがわかります。以下、本レポートの論点と調査する問いの一覧です。今回の【前編】ではQ1の問いを前提に進めていきます。
論点:「Xcopyの成功要因を探り、これからの個人クリエイターが参考にできるインサイトを抽出する」
Q1:xcopyの1/1NFTはいつから、何をきっかけに高い評価額で取引されるようになったのか?取引相場の転換期を調査し、その要因を探索する。【前編に記載】
Q2:取引高/週の安定化に寄与していると考えられる「Grifters」「Max pain」は収益安定化に寄与しているのか。xcopyコレクションを構成する作品の多様性、価格帯の幅広さが、ホルダーの多様化につながっているかを調査する。【後編に記載】
Q3:xcopyの成功要因を知り、それを実践すれば、新規の個人クリエイターがxcopy同様の成果を挙げられるかといえば、その成功確率は非常に低いと思われる。それを前提にした上で、なお今回のリサーチを通じて個人クリエイターが参考にできるものがあるとすれば何だろうか?【後編に記載】
Q1:xcopyの1/1NFTはいつから、何をきっかけに高い評価額で取引されるようになったのか?取引相場の転換期を調査し、その要因を探索する。
今回のレポート【前編】ではxcopyがブロックチェーンベースのデジタルアート制作を始めた2018年頃から現在までを振り返りながら、現在のような市場価値に至るまでに通過してあろう幾つかの重要なマイルストーンを特定、調査し、そこから得られる洞察の提供を試みます。
【2018年~2019年後半に制作、一次販売された1/1NFTの取引傾向】
上表はxcopyがEthereumベースのデジタルアートの制作販売を始めた2018年から2019年末にかけての販売された1/1NFT作品の一部を筆者がまとめたものとxcopy作品のユニークホルダー数の推移を示したグラフです。
以上の表、グラフから得られる2018年~2019年末までのファクトを部分的に抽出します。
- 2018年4月9日、xcopyは複数の1/1NFT作品をこの日に同時鋳造しています。鋳造後すぐに一次販売された作品はDeath Dip(0.7ETH、$410)、Some Asshole(0.5ETH、$315)の2作品です。
- 1.の販売以降、2019年末頃までのxcopyの1/1NFT一次販売価格は(ここに含まれていない作品もありますが)おおよそ$90~245の間を推移していることがわかります。
- 2019年12月29日制作、31日に販売された作品「D I S O R D E R」の一次販売価格が5.5ETH($725)とそれまでの傾向とは異なる高値で取引されています。
- 2018年末時点でのxcopy作品のユニークホルダー数は12~14アドレス、2019年12月31日時点では102アドレス。
以上のファクトをベースに示唆を求めます。
xcopyがEthereum上でデジタルアートを販売し始めた2018年は、2017年末に話題となった「CryptoKitties」NFTの高騰を受け、ICOに続くEthereum上のキラーアプリとしてNFTが着目され、その規格の整備、NFT規格を活用したdApps(アプリケーション)やゲームアプリといったコンセプトの理解が進み、国内外でdApps開発が進み、NFTのマーケットプレイス等々、例えばopenseaや現SuperRare等が始まった年でもあります。(※当時の空気感は当時執筆された「NFT(Non-Fungible Token)の現状とこれからの応用例(2018年版)」の描写が参考になります。)
またこの2018年はそれ以前のICOブームによる暗号資産界隈の熱狂から醒めた人々が徐々に抜け始めていた時期であり、2018年初めに生じたNFTに対する期待感の高まりはある意味で前回の幻滅期(2018~2020年初頭までを指しています)の始まりを告げる当時最後の誇大広告だったのだと、時が過ぎ去った今だからこそ、その当時をそのように形容することができます。
以上を踏まえて改めてxcopyの一次販売価格に目を移すならば、NFTベースのデジタルアート市場は当時の市況の影響を大きく受け、最初に売れた二つの作品以降は2019年末頃まではほぼ$90~245で取引されており、これだけを収益源に生計を立てられるような市場ではなかったことが伺えます。 またユニークホルダー数の推移にも着目すると2018年4月から作品販売開始しているにも関わらず、2019年1月4日時点でのユニークホルダー数は12~14アドレスと非常に少ないことにも気が付きます。つまり、この時期のxcopyはほぼ無名であり、小さな市場の中の一部の仲間内だけで取引がなされていた可能性すらあります。その後2019年に入ってからは上述したように一次販売価格は決して高くはなかったものの、その年の暮れ、つまり制作開始から2年が経過してようやくユニークホルダー数100アドレス以上となります。
また補足として上の表では示していない情報を一点追記します。「xcopyは自身の作品をオファーされた通りに安売りをしていたわけではない」ということも各作品の販売履歴からは読み取ることができ、筆者が観測する限りにおいては意図的に一作品$90以上のオファーは受諾するものの、それ以下のオファーは受け付けてはおらず、売れなかったものに関しては他のアドレスに転送(譲渡)するなどをして自身の評価額以下での販売を避けています。
デジタルアートNFTという価値があるのかないのか、xcopyの作品に市場価値があるのか否かを多くの人々がまだ理解できていなかった時期にあって、自身の作品に対する評価額を意図的に定め、その価格以上で売ることを守っていたことはその価値があると認めてくれたコレクター、もしくはスーパーファンのみを取り込むことにも繋がっていたとも考えられますから、この点の振る舞いもまた今日のxcopyブランドが成功する要因の一つであったと捉えることともできるでしょう。
ちなみにですが、この当時に鋳造販売された1/1NFTのセカンダリーマーケットでの執筆時点までの最終流通価格は上記オレンジ枠の通りです。
特に大きな取引となった作品は2018年4月9日に鋳造されたAll Time High in the Cityと、2018年12月7日鋳造のRight-click and Save As guyの二作品です。前者は2018年後半にわずか$91のオファーを受諾して一次販売され、2022年1月3日に1,600ETH($6.1M)で二次流通、後者は2018年後半に$90のオファーを受けて一次販売され、2021年12月9日に1,600ETH($7M)で二次流通しています。
たられば、はありませんが、もし2018年当時にデジタルアートに着目していれば、なんてことを考えてみたくなります。ちなみに2019年後期、この辺りを境にxcopyの1/1NFTの一次販売価格が少しづつ上昇していきます。次節ではこの2019年後期を一つのマイルストーンとして捉え、当時の1/1NFT販売傾向を観察していきます。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。