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【2022年夏の選書】HashHubリサーチチームがこの夏読んでいる、またはオススメの書籍

目次

  • 前提
  • The Cryptopians: Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze
  • 人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小
  • 会社という迷宮――経営者の眠れぬ夜のために
  • 7つの習慣
  • THE MODEL
  • PLG プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ
  • 経済学史
  • 経済数学の直観的方法 確率・統計編
  • 文字はこうして生まれた
  • The Moral Character of Cryptographic Work
  • おいしいごはんが食べられますように

前提

クリプト、市場、経済学、社会課題、経営、歴史、哲学、小説など、HashHubリサーチチームのメンバーがこの夏読んでいる本やおすすめの本をご紹介します。

学習や娯楽のための休暇中の読書をお探しの方、クリプトを学んでいる方々のご参考になれば幸いです。

The Cryptopians: Idealism, Greed, Lies, and the Making of the First Big Cryptocurrency Craze


文責:平野 淳也
Ethereumの創業ストーリーを描いた書籍です。クリプト業界の人気Podcast「Unchained,」を運営するLaura Shin氏が、Vitalik ButerinをはじめとするEtheruemの共同創業者や、初期コミュニティに取材をして、Ethereumがどのように誕生したかを描いています。
副題は「理想の追求・強欲・嘘」とあるように、Ethereumの創業チームは決して順風満帆ではありませんでした。創業チームには、利益重視の人物・裏切って情報を持ち出し自分のプロジェクトを立ち上げる人物・仕事をしない人物など様々存在しました。
今ではEthereumはスマートコントラクトプラットフォームとして他の追随を許さない存在感を示してますが、そのコンセプトが出た当初懐疑的な意見が多くあったことや、セールで販売したETHはセール価格を割ったこともあったことは私自信よく覚えています。
そしてその裏側ではEthereumのプロジェクトチームでは様々なごたごたがありました。恐らく今日創業されているスタートアップや暗号資産プロジェクトも似たような状況でしょう。その中でも発起人であるVitalik Buterinはビジョンやこだわりを捨てませんでしたし、ConsenSysのJoseph Lubinなど何人かのメンバーはEthereumのビジョンをサポートし続けたことが書かれています。
Ethereumはもはやインターネットのコモディティであり新しい公共財のような性質ですが、それも無から生まれたわけではなく、様々な人間ドラマと努力の上で築かれたものであると理解できます。そしてそこにはビジョンとそれを捨てない諦めの悪さが不可欠だったこともよく分かる一冊です。
Bitcoinの初期コミュニティに関する本は『デジタル・ゴールド』がありますが、本書籍はそのEthereum版と言えるでしょう。

人口大逆転 高齢化、インフレの再来、不平等の縮小


文責:平野 淳也
イングランド銀行のエコノミストによる未来予測本です。未来予測は往々にして難しいですが、最も確度が高い未来予測の一つは、生産年齢人口をベースにした予測で、本書はまさに人口をベースにした未来予測です。
日本では特に顕著でしたが、過去30年超に渡り世界はデフレ傾向でした。物の値段はそこまで高くなることなく、それでも品質が向上していくというのは実感に近いでしょう。
ただしそういった時代は次の10年では転換点を迎えると本書は予測しています。今までデフレだった要因は中国が沢山の労働者をグローバル市場に供給していたのが大きな要因です。しかし中国も少子高齢化が進み、また反グローバリズムの流れもあり今までの労働の過剰供給がスローダウンして、賃金上昇が行われインフレが再来するだろうというのが本書の主張の核です。これは賃金が上昇する労働者にとっては望ましく格差も是正されるのではないかと主張しています。
しかしながら、インフレは金利上昇を誘発し、それによって国債価格は下落、非金融部門の企業や政府が抱える過剰債務は債務返済、住宅ローンなどの市場には大きな影響があるだろうとも予測しています。こういった予測を様々な数値データとともに示す説得力のある未来予測を展開する本です。

会社という迷宮――経営者の眠れぬ夜のために

文責:平野 淳也
経営コンサルタントによる新著です。とはいえ、本書は
経営者は常に迷っています。迷いながらも様々なことを意思決定しなければいけないのが仕事であると言えます。その中で「成長」「戦略」「利益」「価値」「市場」とは?その本質的な意味とは何か?を問う内容になっています。
例えば、成長の項目について著者は以下のように述べています。
「企業の売上や組織規模などは体格の大小に過ぎない。体格の大きい人が善い人であるわけでないのと同様に、体格の大きい企業が善い企業ではない。場合によっては、積極的な「体格の縮小」さえ辞さない覚悟でなければならないであろう。それが、自分の「会社」にとって本当の意味での「成長」であると考えるのであれば、それでよい。何が自分の「会社」にとっての「成長」であるのかを判断するのが、経営者自身の仕事である。」
経営者は多くの場合、潜在意識下の強迫観念で、より売上・利益をあげて組織を成長させなくてはいけないというプレッシャーに晒されます。しかしそれは真の意味で「成長」という言葉を表しているのかと言えば恐らくそうではありません。
他にも企業経営やビジネスの場では当たり前に使われる言葉の本質的な意味を見出そうとして、襟を正してくれる良書です。

7つの習慣

文責:Da- (Daisuke Kido)
仕事、組織論、家族など様々に応用できるロングセラー。人間関係のテクニックで人を操ろうとし、自分がテクニックに操られていないか。自分の人格を確立する事で相手を受け止め、勇気と思いやりのバランスをもって人に接しているか。相手の話を聞いてるふりをしながら、おじさんの経験談を話す準備をしていないか。家族が大事と思っていながら、仕事の事は考えるのに家族の事を流されるままにしていないかなど、読み返すたびにハッとさせてくれる良書。なお私は全部できてないので読むだけではダメなようです。

THE MODEL

文責:Da- (Daisuke Kido)
SaaS時代のセールスとマーケティングの成長戦略のバイブル。マーケティング、インサイドセールス、アウトサイドセールスを縦割りで分け、KPIを見える化する事でプロセスの課題を見つけPDCAサイクルを回すモデル。理想的な状況にするのは難しいですが、理想とするモデルと比較して自分のどこに課題があり具体的なアクションに繋げられるかは、小さな組織でも考えられます。最先端の本とは言えませんが今でもとても参考になります。

PLG プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ

文責:Da- (Daisuke Kido)
ZoomやSlackなどがヒットした理由として、プロダクトが広告宣伝を兼ねてプロダクトを売っていく顧客獲得単価の低い仕組みがあります。顧客は説明される事を嫌い、自分で情報を集め体験した後に判断する事を好むため、自分で説明をしたがる企業は淘汰される方向にあります。ただこの方法にも向き不向きがあり、LTVが低い、ボトムアップで導入が進む、フリーミアムモデルと課金の兼ね合いを考えながら導入する必要があります。

経済学史

文責:岡島 大悟
非中央集権を志向するステーブルトークンプロトコルやDeFiなどは経済の歴史や非近代経済学など参考にメカニズムが構築されていることがあります。そのような過去の事象や経済学の歴史を学ぶのにおすすめの一冊です。この本は経済学や過去に起きた出来事を網羅するのみならず、その事象を学ぶことの意義なども提示されており、経済学を初めて学ぶ初学者にとってわかりずらい学派による意見の相違点などを把握することにも役立ちます。

経済数学の直観的方法 確率・統計編

文責:岡島 大悟
DeFiエコシステムにおいてデリバティブ商品を提供するプロトコルが増えていますが、デリバティブを理解するにはブラックショールズモデルや統計学の考え方が必要になります。数学が苦手だと統計学と聞いただけでアレルギーが出てしまいますが、昨今の金融商品を理解する上では逃れることができません。初学者向け解説書は往々にして正規分布や標準偏差などが定義や計算方法などの記載はあるものの腑に落ちないことが多いと思います。この本は初級者向けの本と高度で難しい専門書の中間的な位置づけになる内容になっており、直観的に難解な「伊藤のレンマ」、「確率微分方程式」などを理解しつつ、最後にはブラックショールズモデルまでつなげることで、もやもやしたものが解消される良書になります

文字はこうして生まれた

文責:Masao Yanari
考古学的な視点から文字の起源に迫り、計算・記録装置、官僚制、権力構造の成り立ちに関する仮説を提示した書籍です。
第一部は証拠資料の提示が主ですから少し退屈かもしれませんが、第二部以降の著者考察は先史時代におけるシンボルの進化、トークンの社会的意義、トークンのありようから垣間見える社会構造の変化等々の仮説は、トークンとは何であったかを理解する上で参考になります。
私たちが調査対象とするFT/NFTも先史時代から続くトークンの流れを汲むものであり、その基本機能にはかつてのそれと共通する部分も多々あります。本著では先史時代でのトークンの役割を1.経済、2.政治構造、3.数学、4.コミュニケーションの4つに分類して解説していますが、現代のFT/NFTのユーティリティを考えてみてもおおよそこの4分類に該当することが多いように思います。
FT/NFTを介して実現する社会構造の変化は一体何が新しいのか、本著は直接それを指し示すものではありませんが、本著を通じて得られる知見と私たちが今実際にFT/NFTを介して接している風景に対する知見との差分を理解することで、FT/NFTに対する気づきが得られることもあるのではないかと思います。

The Moral Character of Cryptographic Work

文責:Masao Yanari
書籍ではなく暗号技術のモラル如何を綴ったエッセイの紹介です。暗号技術の入門書として暗号技術入門-秘密の国のアリスをお勧めしますが、倫理的な視点で暗号技術が可能にすることは何を意味するかを改めて問い直すものとしては本エッセイをお勧めします。
我々が(些か楽観的に)期待を寄せる暗号技術、クリプト界隈にはよくわからないが何だか凄そうだ、未来は明るくなりそうな感じがする、のような技術的楽観主義の様相を帯びていることは否めません。それ自体が技術開発に活力を与え、テクノロジーの急進的な発展に貢献する重要なエンジンであることは確かではありますが、それを制御するためのハンドルをつけ忘れていないか、そんなことを改めて意識させる良エッセイです。

おいしいごはんが食べられますように


文責:Masao Yanari
ごはんの話を活字を通じて味わうことが好きなので、そういう類のほっこりした話だろうなと思いながら手に取った小説。ごはんの話であることには間違いなかったのですが、ごはんを通じてよくある職場の人間関係を心理的に描写したホラーと言った方が正しい小説だったのかもしれません。ある文脈の中でこぼれ落ちるように描かれたある登場人物の心の声「ほんまにうれしいんかそれ、」は、現実社会のさまざまな文脈の中でひっそりとこぼれ落ちていそうだなと感じました。
儀式みたいにムダな会議、宗教の不可思議など人間の不効率な行動(戦略的不合理)の謎に迫った書籍「人が自分をだます理由」を同時期に読んでいたのですが、こちらも併せて読むことで描写の解像度が高まりさらに面白く読めました。学習のためというよりも休暇中の娯楽としておすすめの本です。

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