UXD Protocolの概要

目次

  • 前提
  • デルタニュートラルとは
  • UXD Protocolの仕組み
  • 総論

前提

本レポートではSolana上で展開する予定のUXD Protocolの概観を行います。UXD ProtocolはUXDというステーブルコインを発行しますが、ステーブルコインの生成手法がEthereumのDAI(Maker)やLUSD(Liquity)、あるいはUST、AMPLとは異なっており、Solana上のデリバティブを利用してUSDにペッグされるステーブルコインを発行します。創設者は稲見建人氏で、UXD ProtocolはAlameda Research、Multicoin Capital、Solana Foundation等から資金調達を行っています。MulticoinによるUXD評価のレポートはこちらです。

デルタニュートラルとは

UXDはトレーダー界隈でデルタニュートラルと呼ばれている手法を使って発行されます。一般にこの界隈におけるデルタニュートラルとは、BTCを担保にBTCをショートすることで、BTCの値動きに対してニュートラルなポジションを取ることを指します。ここではBTCの現物を担保に利用しているため、BTCの価格が上昇した場合にはショートポジションの損失は膨れ上がりますが、同時に担保資産としての現物BTCの評価額も上昇しているため清算されない点に注意してください。
デルタニュートラルポジションが脚光を浴びた理由の一つは、Funding Rate(以下FR)の偏りにあります。FRは先物取引においてBitMEXを始めとして、BinanceやFTX、更にはDeFi系のデリバティブプラットフォームにも導入されている概念で、先物市場の価格を現物価格周辺に収束させることを目的に導入されています。
これは無期限契約という満期日の存在しない金融商品が成立するための必要な仕組みです。満期日が存在する場合には、満期時の現物価格にて決済が行われますので、必然的に先物と現物の価格がある一点に収束することになります。満期日が存在しないということは、この必然性を備えた性質を持たないということですから別の仕組みが必要です。そこで、先物価格と現物価格の乖離を拡大させる側のポジションを持っている者から、乖離を縮小させる側のポジションを持っている者に対して支払われる手数料が導入されました。これがFRです。
具体的には現物価格が$1,000のときに先物価格が$1,100の場合、先物価格の方が高いため、先物を売ることで先物価格が下落し、現物価格に近づく(乖離が縮小する)働きがあります。この場合、先物の売り(ショート)ポジションを持っている者に対して、ロングポジションを持っている者からFRが支払われます。乖離が大きければ大きいほどFRが高くなります。FRの支払い頻度はプラットフォームによって異なりますが、1時間から8時間に1回のところが標準的です。
また、このFRには「ショート側がFRを受け取ることの方が多い」という過去データがあります。BTCを担保にBTCをショートし、1年を通してショート側が受け取る手数料が保有しているポジションに対して年利10%換算である場合、BTCをショートすることでBTCの値動きに関係なく、FR分の収益を得ることが可能です。これがデルタニュートラルが注目される最大の理由です。

Q「ショート側が受け取りではなく支払う場合もあるのか」

あります。年間で均せばショートが受け取っている場合が多いというデータがありますが、特に下落相場において先物価格が現物価格に先んじて下落している場合にはFRがショート側の支払いに傾くこともあります。
UXD Protocolでは保険基金を作成し、ショート側が支払いになっている場合に発生する損失を保険基金の出動によって相殺する予定のようです。この基金はローンチ当初はトークンセールによって調達される資金によって準備され、ローンチ後はFRによって発生する収益の一部によって充当される見込みです。
保険基金が底をついた場合には、UXD Protocolの独自トークンが追加発行され、FRによる損失を補います。つまり独自トークンの保有を検討している人間は、UXDによって発生するプロトコル収益とトークンの追加発行による価値の希釈を天秤にかけて独自トークンの価値を算出することになります。
Makerの収益がDAIの発行者からの手数料によって成り立っているのとは対象的に、UXD Protocolの収益はデリバティブ市場においてロングポジション保有者が支払ったFRを、UXDの保有者と共同で分け合っている点に特徴があると言えるでしょう。
Q「USDを担保にBTCをショートした場合でも同じ効果が得られるか」
得られません。USD担保BTCショートの場合、レバレッジ1倍であってもBTCが大きく値上がりした場合にはポジションが清算されてしまいますし、USD建ての評価額もBTCの値動きに応じて変化します。

UXD Protocolの仕組み

UXDは前節のデルタニュートラルを用いて発行されます。具体的にはSolana上のBTC(SPL規格のBTC)を担保にデリバティブマーケットのMangoでBTCのショートポジションを作り、$1に対応するトークンとしてUXDを発行します。例えば$1,000分のUXDを発行したいと考えるユーザーは「$1,000分のBTCのショートを行う。ただし、現在価格からX%以内のスリッページを許容することとし、それ以上に価格が滑る場合は発行を行わない」という条件を付与してTXを発行します。これはUniswapや1inch等のDEXでのスリッページ許容度設定と同等のものであると予想されます。
UXDは$1相当のBTCショートポジションを紐付けられますが、これに加えて正負のFRとMangoのテイカー手数料がポジション数量に影響を与えます。前節の通り、担保資産とショート対象資産が同一の場合、資産の値上がりによるショートポジションの損失は担保資産の値上がりによって相殺されるため清算が必要ありません。
また、$10,000分のBTCからは$10,000分のショートポジションが作られ、更に$10,000分のUXDが発行できるため、清算を避けるための余剰分が必要ないという利点があります。これに対してMakerでは発行するUSDステーブルコイン100%に対して、145%の担保資産を預ける必要があり、資本効率性の低さが指摘されます。
ただし、Makerの場合はショートポジションを作るわけではないので、DAIの発行のために担保資産であるETHの所有権を手放す必要はなく、発行したDAIに利子をつけて返せば元のETHはそのまま取り戻すことができます。ETHを所有した状態を保てるため、ETHが値上がりした場合には、値上がり分の利益を受け取ることが可能です。逆に担保資産が短期で大きく下落した場合には担保資産を失うリスクを内包しています。このように同じステーブルコインのプロジェクトでありながら、その背景にある仕組みが全く異なるため、ある一つの機能に焦点をあてた優劣の判断は適当ではありません。

Mango Marketについて

Mango Marketはレンディングによるレバレッジ取引と無期限先物取引の両方に対応しているデリバティブマーケットで、複数のトークンを担保資産として利用したり、借り入れたりすることができます。上記ではBTCを例に説明しましたが、Mango Marketの対応と流動性次第では、SOLやSRMでも同様のことが可能でしょう。
Mangoは比較的新興のプラットフォームであるため、上記のように板は厚くありません。それ故にUXDの生成や償還に伴ってショートポジションの作成や解消を行うUXD Protocolでは、単位時間あたりに発行・償還できるUXDの数量をMango Market上の流動性に応じて制限しながら調整すると予想されます。
以前のレポートではSolanaの流動性はSerumに集約される動きがあり、現物市場においては取引所たるSerumとブローカーたるフロントエンドで役割分担がなされていると説明しましたが、デリバティブの流動性が数ヶ月レベルの近い将来に現物市場と同様に集約されるとは考えづらいため、Mango以外のデリバティブプラットフォームが台頭する可能性もあります。その場合は、流動性に応じて発行経路を振り分ける形で複数のプラットフォームに跨ってUXDが発行される可能性もあるでしょう。

総論

本レポートでは日本人の創設者によって開発されるUXD Protocolの概観を行いました。著名なVCからの出資を受けており、また勢いのあるSolanaで展開されるということもあって国内外から注目を集めています。実際、Solana上で活きる構造になっており、Solana上のステーブルコインとしてポジションを形成する可能性があります。ただし、ローンチ時点ではSolanaのネイティブトークンではないBTCのショートポジションを利用することが示唆されている通り、Solanaの非ネイティブトークンのカストディの役割を果たすFTX等の主体の存在を前提としており、ステーブルコインのトリレンマ(価格の安定性、資本効率性、分散性)を解決するためにはSOLやSRM等のネイティブトークンに軸を移していく必要がありそうです。

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