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DeFiレンディングの現在|アダプティブサプライモデルは次世代の標準か?MorphoとAave V3、論文「A Curationary Tale」が示す理論的優位性と現実の課題

2025年06月09日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 1. はじめに:DeFiレンディングの進化と本レポートの意義
  • 2. 論文:「A Curationary Tale」の主張 – なぜアダプティブモデルは優れているのか?
  • 3. 主要プロトコルの詳細解説
    • 3.1. Aave V3:確立された大手レンディングプロトコル
    • 3.2. Morpho Blue:新世代のアダプティブレンディング基盤
    • 3.3. Euler:アダプティブモデルの先駆者とその教訓
  • 4. 収益性と金利の比較:理論と現実
    • 4.1. 理論上の優位性
    • 4.2. 実際のデータ比較の課題
    • 4.3. 入手できたデータの範囲での考察
    • 4.4. Morpho Optimizer(旧モデル)の成功事例
  • 5. リスクプロファイルの比較
    • 5.1. Aave V3のリスク
    • 5.2. Morpho Blueのリスク
  • 6. 他のアダプティブなアプローチとDeFiレンディングの将来的展望
  • 7. 結論
本レポートは、DeFiレンディングプロトコルにおける「アダプティブサプライモデル(市場状況に応じて供給量や金利を動的に調整するモデル)」、特にMorpho(モルフォ)や過去のEuler(オイラー)のようなプロトコルが、Aave V3(アーベV3)のような伝統的モデル※と比較して、本当に優れた収益性と金利を提供できるのか、という命題について、学術論文「A Curationary Tale: Logarithmic Regret in DeFi Lending via Dynamic Pricing (arXiv:2503.18237、以下「注目論文」と表記)」 の理論的洞察を解説します。
※本レポートでは、伝統的モデルは、学術論文「A Curationary Tale」の指摘を踏まえ、独立した第三者キュレーターによるリアルタイムの市場最適化を積極的には介さず、主にガバナンスと事前に定義された金利カーブによって運営されるモデルを指します。

エグゼクティブサマリー
  • DeFiレンディングにおいて、Morphoのような「アダプティブサプライモデル」は、理論上、市場変動に迅速に適応し資本を効率的に活用することで、Aave V3のような伝統的モデルより機会損失を抑え、収益を最大化できる可能性が学術論文で示されています。これは、専門の「キュレーター」が金利を動的に設定するためです。
  • モデルの違いとキュレーターの役割:
    • Morpho Blueは、独立した貸出市場を誰でも作成できる基盤です。金利はアルゴリズムで自律調整され、リスク管理はMetaMorphoのような外部ボールト(キュレーターの役割)に委ねられます。
    • Aave V3は、DAOガバナンスとアルゴリズムで金利・リスクを管理する実績あるモデルですが、市場ごとのリアルタイムな最適化という点ではMorpho Blueと特性が異なります。
  • 収益性とリスクの現実:
    • Morpho Blueの特定ボールトが高い瞬間的APYを示す例はありますが、これはキュレーターの戦略やリスク許容度に大きく依存します。Aave V3の金利も変動するため、リスク調整後の長期的なリターン比較はデータ不足により困難です。
    • Aave V3はDAOによる包括的リスク管理で安定性を提供します。一方、Morpho Blueはリスクを個々の市場やキュレーターに分散・外部化するため、ユーザーによる慎重なキュレーター選定とリスク評価が不可欠です。
  • Eulerの教訓と結論:
    • 過去のEulerの事例は、アダプティブモデルの可能性と、スマートコントラクトのセキュリティリスク対策の重要性を示しています(ハッキングは金利モデルの欠陥ではありませんでした)。
    • 結論として、アダプティブサプライモデルは理論的に大きな可能性を持ちますが、その持続的な優位性を判断するには更なる運用実績データとリスク調整後リターンの比較分析が必要です。投資家は、機会と固有リスクを慎重に評価し、自身の戦略に適合するか見極める必要があります。

1. はじめに:DeFiレンディングの進化と本レポートの意義

DeFi(分散型金融)の中核をなすレンディング(貸付・借入)プロトコルは、銀行などの中央集権的な仲介者を介さずに暗号資産の貸し借りを可能にする革新的な仕組みです。AaveやCompoundといったプロトコルは、アルゴリズムによって金利を決定し、長年にわたり多くのユーザーに利用されてきました。これらは本レポートで「伝統的モデル」と呼びます。
伝統的モデルは、主にガバナンスと事前に定義された金利カーブによって運営され、独立した第三者キュレーターによるリアルタイムの市場最適化を積極的には介さない特徴があります。
しかし近年、これらの伝統的モデルが持つ資本効率や金利設定の柔軟性に対し、さらなる改善の余地があるとの認識から、よりダイナミックで効率的なアプローチを目指す新しいプロトコルが登場しています。その代表格が、本レポートで焦点を当てるMorphoや、かつて注目されたEulerです。
これらのプロトコルは、「アダプティブサプライモデル」や「ダイナミックプライシング(動的価格設定)」といった概念を導入し、市場環境の変化により迅速かつ効果的に対応することで、貸し手と借り手の双方にとってより魅力的な条件を提供することを目指しています。

図解1:伝統的モデルとアダプティブモデルの比較(筆者作成)


本レポートは、学術論文「A Curationary Tale: Logarithmic Regret in DeFi Lending via Dynamic Pricing 」で提示された、「キュレーター(市場の目利き役)を介した動的な金利設定が、伝統的なモデルよりも優れた成果を上げる」という理論的洞察を基点とし、この主張が現実にどのように現れているのかを検証します。そのために、特にMorpho BlueとAave V3を中心に、それぞれの仕組み、潜在的な収益性、金利形成、そしてリスクプロファイルについての洞察を解説します。

2. 論文:「A Curationary Tale」の主張 – なぜアダプティブモデルは優れているのか?

Gauntlet社のTarun Chitra氏による論文「A Curationary Tale」 は、DeFiレンディングにおける金利設定の新しいアプローチをオンライン学習の枠組みで分析し、その理論的優位性を論じています。
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