金融分野(銀行・証券・保険・不動産など)での ブロックチェーンの利用事例

目次

  • 金融分野でのブロックチェーンの活用
  • ブロックチェーン上で金融商品を取り扱うSecurity Token
  • 決済ネットワークをブロックチェーンで効率的に(国際送金・内国為替・証券決済など)
  • ブロックチェーンで実現するサプライチェーンファイナンス
  • 保険や証券、不動産などあらゆる取引の裏側にブロックチェーンが利用されプロセスコストの圧縮
  • ブロックチェーン普及後の全く新しい金融体験
  • 総論

金融分野でのブロックチェーンの活用

本レポートでは、金融分野でのブロックチェーンの利用事例を概観します。
金融分野という括り自体が曖昧であり、銀行や証券会社等の金融機関に加えて、保険業や不動産なども含むものとします。
また、ブロックチェーンの活用可能な分野として金融は最も活発であり、世界中のほとんどの主要金融機関が何かしらの形でブロックチェーンに関連するプロジェクトを立ち上げています。
網羅すべき事例が本来沢山あることから、本レポートのみではその全てを概観出来ないことを予め免責しておきます。

ブロックチェーン上で金融商品を取り扱うSecurity Token

はじめにここでのSecurity Tokenの定義を行います。Security Tokenは、証券をトークン化することを指します。
具体的には、株式会社の有価証券・証券化された不動産・債券・デリバティブ・証券化されたアートなどが含まれます。
暗号通貨とは異なり、従来から証券法の元で適切に規制されたアセットは、まずここに含まれます。これは日本国内においても例外ではなく、日本国内においては、2020年施行の金商法改正法案で、新たに「電子記録移転権利」という概念を導入して金商法の適用対象となるトークンの範囲を明確化されます。株券や社債券といった第一項有価証券をデジタルトー
クンに表示させたものの取扱いについて、同様に第一項有価証券として金商法上の開示規制が適用されることとなり、所謂Security Tokenと呼称されるものは、これを指すこととなります。よって日本国内において、資金決済法の区分で登録免許を有する仮想通貨交換事業者(取引所)は、それらSecurity Tokenを取り扱うことは出来ません。
Security Tokenが将来的にもたらすメリットは以下のようなものです。

1. 流動性

従来の証券取引所は、証券取引所の営業時間が決まっています。東京証券取引所であれば9-15時で、間に昼休みがはいります。
24時間のうち5時間しか市場は開いていないですし、グローバルの投資家は、東京のタイムゾーンに合わせるが必要があります。
しかし、トークン化をすることによって、Bitcoinなどと同じように、世界のどこでも24時間流動性を得られる可能性があると期待されています。これは流動性を引き上げることにつながり、投資家や市場運営者など多くのステークホルダーのメリットであると考えられています。

2. 証券決済の業務フローの簡略化

Security Tokenは、証券業務の業務を簡素化し、低コストにする可能性が期待されています。
例えば、ポストトレード業務がそれにあたり、証券取引において注文と約定がなされてから、最終的な権利の移転である決済が完了するまでに2営業日が必要とされ、これは所謂T+2と呼ばれます。この2営業日の間は、運用会社・信託銀行・証券会社が間違いなく取引が実施されアロケーションに不備はないかデータを突き合わせます。
運用会社・信託銀行・証券会社は共通化されたシステムが用いられているわけではなく、煩雑な業務が発生しています。ここでブロックチェーンを用いることで、データの共有・参照・更新を一元的なシステムで行うことができると考えられています。
暗号通貨の取り扱い慣れたユーザーであれば、あるブロックチェーン上に管理されたトークンがアトミック性を持って二重払いされることなく確実に交換されることは最早普通のことになっていますが、証券業務でもこれがシステム的に担保されることが期待されます。

3. スマートコントラクトによる配当や償還、およびコンプライアンスの自動執行

Security Tokenでは、スマートコントラクトによる配当や償還が期待されます。例えば、5年が満期の債券であれば確実に5年でプログラムが償還を実行、株式であれば配当業務をプログラム実行することが期待できます。
また、通常、証券に関わる業務、証券取引所のコンプライアンスには大きなコストが負担されています。ブロックチェーンという複数のエンティティが参照出来る台帳で、スマートコントラクトでコンプライアンス情報を制御出来るようになると、このコンプライアンス業務の負担が削減されるだろうと期待されています。例えば、xxの国のyyの基準を満たした投資家(ブロックチェーン上のアドレス)であれば、zzの証券取引所では株式を購入できるといった情報をスマートコントラクトで制御できます。
 他には、証券トークンにアクセスできる全てのアドレスはKYCされており、それを取引所や市場ごとに確認するコストが減る・適格機関投資家の基準を満たしたアドレスだけがアクセスできるトークンなどをスマートコントラクトで実装できる・ある国の投資家はアクセスができ、ある国の投資家はアクセスできないトークンなどをスマートコントラクト で実装できる・資産証明などが容易なことなどが考えられます。
これら上記のメリットは今の時点でのSecurity Tokenでは必ずしも実現していませんが、中長期の将来に技術的に実現する利便性として様々な関連プロジェクトが世界中で立ち上がっています。
*関連レポート:Security Tokenの概観 期待されるメリット・課題・主要プロジェクト(2020年版)
https://hashhub-research.com/articles/2020-03-03-overview-security-token
*関連レポート:日本国内におけるSecurity Token(証券のトークン化)の現状・課題およびその課題に対するアプローチ
https://hashhub-research.com/articles/2019-11-28-security-token-in-japan
*関連レポート:主要なアジアの国における暗号通貨取引所、Security Tokenの規制、方向性の概観
https://hashhub-research.com/articles/2019-09-26-security-token-regulation-in-asia

決済ネットワークをブロックチェーンで効率的に(国際送金・内国為替・証券決済など)

ブロックチェーンは決済ネットワークをより効率的にすることも期待されます。国際送金・内国為替・証券決済などあらゆる送金ネットワークでブロックチェーンは応用可能です。
これまで国際送金には1週間から1ヶ月の時間が必要でしたが、この時間が大幅に短縮出来ることが期待されます。
決済ネットワークにおいては、そのほとんどが様々な取引を纏めて、それを各銀行や証券会社などのエンティティで照合し、ネッティング、精算をするというプロセスがなされています。例えば異なる銀行間で決済が行われるのであれば、受け渡し金額に少しでも誤差があれば大問題であることは想像に難しくないでしょう。決済ネットワークはそのようなネッティングとグロス決済を実現するために稼働しています。
決済ネットワークと一括にしても様々ではありますが、多くの決済ネットワークはこの照合プロセスに時間を要しています。
上述のSecurity Tokenの章でも述べていますが、現在の証券決済に2日要していることがそれにあたり、その他の決済ネットワークでも近しい構造になっている場合が多いです。
分散型台帳であるブロックチェーンは、各コンピュータが別々に存在しながらも、全く同様のデータを検証可能な状態で保持出来ることが特徴です。また、その分散されたネットワークに検証可能なビジネスロジックを加えて、ネッティングなども自動化することが期待されます。結果として、決済ネットワークは従来のものより効率的になるとされています。
*関連レポート:
証券決済ネットワーク、ポストトレード業務におけるブロックチェーンの利用の概観
https://hashhub-research.com/articles/2020-03-08-post-trade-blockchain

ブロックチェーンで実現するサプライチェーンファイナンス

ブロックチェーンは、サプライチェーンファイナンス、より具体的にはファクタリング(請求書の現金化)、フォーフェイティング(貿易の信用状の現金化)の金融取引にも相性が良く、世界中で様々なプロジェクトやイニシアチブが組成されています。
いずれも、基本的なコンセプトはシンプルであり、電子署名済の請求書情報がブロックチェーン上にアップロードされ、一度アップロードされた情報は覆ることが困難であることから、その請求書の情報や署名情報の信頼性は高まります。プラットフォームに参加する貿易商社や企業は、その請求書の本来の入金日時より早期に現金化が行えます。
ブロックチェーンを用いていることで請求書の偽装が困難かつ検証性があること、それにより第三者が請求書を買取した際に少ない未払いのリスクで請求できることが期待されます。即ち企業は資金効率が向上し、銀行は新しい形の融資をリスクを限定した形で行えるようになります。加えてこのような署名済請求書をラッピングした新しい金融商品も将来的に開発されることも期待されます。
また、これらのファクタリングやフォーフェイティングは従来銀行が得意として来たファイナンスではなく、一部のグローバル企業が利用していたファイナンス手段でした。それがブロックチェーンを利用することで効率的に実行することが出来るようになることは、金融機関と利用企業の双方にとって新しい価値を生まれる余地は大きいと言えます。
*関連レポート:中国建設銀行の貿易金融領域でのブロックチェーン、5兆円(2019年時点)以上の取引を処理するファクタリングプラットフォームの概要・考察
https://hashhub-research.com/articles/2019-12-26-china-supplychain-finance
*関連レポート:EDI・B2B決済の大手Tradeshiftのブロックチェーン活用スマートインボイスやサプライチェーンファイナンスなど
https://hashhub-research.com/articles/2020-02-03-tradeshift-overview

保険や証券、不動産などあらゆる取引の裏側にブロックチェーンが利用されプロセスコストの圧縮

その他にも、保険や証券、不動産などあらゆる取引の裏側にブロックチェーンが利用されプロセスコストが圧縮するでしょう。
既に述べた通り、ブロックチェーンは分散ネットワークです。これは特定多数、または不特定多数で台帳を維持して、それを常に同期できることを意味します。加えて前述した二重支払いやスマートコントラクトなどの特性を持ちながら、ネットワークを同期できます。
複数の企業がネットワークを共有し、そこに更新される新しいデータは常に同期され、改竄耐性や共通のビジネスロジックを実行出来ることが大きな効果を生む分野はいくつもあります。これは例えば、あるドキュメントを複数企業で管理して複数企業がそのドキュメントに署名を行う作業や、ある複数の企業各社が持っているデータや残高が一致しているか照合する必要がある場合に、ブロックチェーンは非常に有用です。
ある銀行がKYCされた事実や、ある不動産や自動車の抵当権の証明などが信頼性の高い形で共有し、必要なときのみに開示がすることが可能になれば、様々なビジネスが円滑になることは言うまでもありません。
*関連レポート:Alibaba(アリババ)系金融会社・Ant Financial(アントフィナンシャル)のブロックチェーンの取り組みを概観する
https://hashhub-research.com/articles/2020-01-06-antfinancial

ブロックチェーン普及後の全く新しい金融体験

ここまで解説した一例のユースケースは、主にビジネスプロセスの圧縮やコスト削減が主でした。では、一般のエンドユーザーは新しい金融体験やブロックチェーンならではのプロダクトを享受出来ないかというと、そんなことはありません。そもそもコスト削減されること自体が、結局のところエンドユーザーのメリットになりますが、その他にもブロックチェーン普及後は全く新しい金融体験も生まれるでしょう。
暗号通貨コミュニティに目を向ければ、DeFi(分散型金融)は、Ethereumあるいはパブリックブロックチェーン上のアプリケーションの中で最も主要なユースケースになりつつあります。DeFiは、様々なオープンソースの金融プロトコルが関連しあい金融サービスを構築出来ることが特徴です。例えばMakerDAOのプロトコルで発行したStablecoinを、KyberNetworkのプロトコルを利用して他のトークンとスワップが出来たり、Compoundというプロトコルでレンディングが行えたり様々な単一機能のプロトコルを複合的に利用が出来、それらの金融サービスは極めて低コストで構築出来ます。
これらは2020年時点では暗号通貨の世界に閉じた小規模なものでギークの遊びと言っても差し支えありません。ただし、現在地点のDeFiはギークの遊びであっても、将来は企業活動や既存金融と結びつくことも十分にあるだろうと筆者は考えています。例えば、具体的には、現在企業のブロックチェーン活用でさかんなSecurity Tokenや売掛債権のトークン化はいずれ、DeFiの一部の機能と接合点を持つことは十分にあり得ます。
これらは一例ですが、アセット自体がプログラマブルになると言われる世界の金融体験は確実に存在し、それはブロックチェーン普及後の世界の体験であると言えます。
*関連レポート:今の時点で見えるDeFi(分散型金融)の実態と将来予想
https://hashhub-research.com/articles/2019-02-28-defi-overview
*関連レポート:使えるDeFiサービスとクリプト×カード決済サービスのまとめ
https://hashhub-research.com/articles/2019-11-21-defi-services-overview
*関連レポート:論考・Security Tokenが普及した後の金融体験を考える、DeFiは将来どのように企業活動や既存金融と結びつくのか
https://hashhub-research.com/articles/2020-03-11-future-usecase-security-token

総論

本稿では、金融分野(銀行・証券・保険・不動産など)でのブロックチェーンの利用事例を概観しました。ボリュームの関係から全てを網羅することは難しく、また一つ一つの事例紹介の深さも十分なものではなかったが、より深い調査はHashHub Researchの会員レポートで解説しており、継続的にアップデートを行っています。
金融はブロックチェーンの活用範囲として大本命であり、また、ブロックチェーンによってこれまで金融でなかったものが金融の世界に染み出すようなこともあるでしょう。様々なイノベーションによってコストが圧縮されエンドユーザーのメリットに繋がること、またこれまでは実現が出来なかったような金融商品の登場が今後期待されます。