search-icon
academy-icon

イスラエル中央銀行の「デジタル・シェケル」CBDC初期設計案の概要|主な導入動機と他国CBDCとの違い

2025年03月06日
リサーチメモ(masao i)
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

※免責事項:このレポートは生成AIで作成されており、査読は行われていますが必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください。

2025年3月、2017年ごろからCBDC(中央銀行デジタル通貨)導入を検討し続けてきたイスラエル銀行がリテールとホールセールの両方の目的に用いられる「多目的CBDC」を謳ったデジタルシュケル(DS)の初期設計文書を公開。そのページ数なんと136ページ。
ということで、その要点だけを掴む目的でデジタルシュケル(DS)の初期設計文書を参考にその導入動機と他のCBDCとの主な違いについての基礎調査をAIを活用して実施しました。以下、その結果を共有致します。
なお、イスラエル銀行は以前から「欧州がCBDCを導入するのであれば」との条件付きで開発を進める方針を示しており、本稿執筆時点においても技術仕様を考慮しないハイレベルな構想段階の発表にとどまっています。仮に開発が進められる場合でも、技術仕様の検討、規制整備の変更等々を伴う可能性が高く、その実現には相応の時間を要すると考えられます。あくまで構想段階である点をご留意ください。

デジタルシュケル(DS)の初期設計案

はじめに:デジタルシェケル構想とは

イスラエル中央銀行(イスラエル銀行)は、自国通貨シェケルのデジタル版である「デジタルシェケル」について、将来発行する場合の初期設計案をまとめた136ページに及ぶ文書を公開しました。これは現段階ではあくまで予備的なアイデアであり、正式に発行するかは未定と強調されています (Bank of Israel Unveils Possible Design of "Multipurpose" Digital Shekel CBDC)。デジタルシェケルはいわゆる中央銀行デジタル通貨(CBDC)で、家計や企業が利用する小口決済から、銀行間の大口決済までカバーする「多目的CBDC」として構想されています。つまり、現金のデジタル版として一般消費者が日常で使えると同時に、金融機関同士の決済システムもアップグレードする狙いがあります。以下では、デジタルシェケル導入の背景にある6つの主な動機と、他国のCBDCと比較した際の技術面・プライバシー面・国際送金面での特徴について、最新の設計案に基づきわかりやすく解説します。

デジタルシェケル導入の6つのモチベーション

イスラエル銀行がデジタルシェケル検討にあたり掲げる主な目的(モチベーション)は6つあります。
第1に「競争促進」です。イスラエルでは銀行間の競争が十分でなく手数料やサービス面で課題があると指摘されてきました。中央銀行がデジタル通貨を提供することで、新たな決済サービス事業者やフィンテック企業の参入を促し、民間銀行中心の市場に競争原理を働かせる狙いがあります。結果的に、消費者や企業はより低コストで便利な送金・決済サービスを享受できる可能性があります (Israel releases preliminary CBDC design for digital shekel)。
第2に「決済イノベーションの推進」です。デジタルシェケルをきっかけに、スマートフォン決済やプログラム可能なお金(条件に応じ自動支払いができる機能)など、新たな金融サービスのイノベーションを促進したい考えです。中央銀行が土台となるプラットフォームを提供すれば、民間企業はその上で様々な付加サービスを開発でき、結果として国内のデジタル経済の発展につながると期待されています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
第3に「決済システムの強靭性向上」、すなわちバックアップとなる代替手段の確保です。現在の決済インフラ(クレジットカードや銀行の送金ネットワークなど)が障害やサイバー攻撃で機能不全に陥った場合でも、デジタルシェケルという別経路があれば決済を継続できます。災害時や緊急時にも使える信頼性の高い決済手段を用意しておくことは、経済の安定に寄与します (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
第4に「国際送金の円滑化」があります。海外との送金は従来、時間とコストがかかる課題がありました。デジタルシェケルを導入し他国のCBDCや国際ネットワークと連携することで、個人送金や企業の国際決済をより迅速かつ安価に行える可能性があります。実際、イスラエル銀行はノルウェー中銀やスウェーデン中銀等と共同で、小売型CBDC同士をハブ経由で接続する「プロジェクト・アイスブレーカー」という実験にも参加しています。このように将来各国のCBDCが標準化されていけば、デジタルシェケルを使って海外送金が現在より格段にスムーズになることが期待されています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
第5に「デジタル時代におけるプライバシーの向上」です。現金(紙幣や硬貨)は取引の記録が残らず匿名性が高い一方、クレジットカードやモバイル決済は利用履歴が金融機関や事業者に蓄積されプライバシーが制限されます。デジタルシェケルでは後述するように、小額取引において現金に近いプライバシーを確保しつつ、従来の電子決済より利用者の個人情報保護を強化することが目標とされています (Israel releases preliminary CBDC design for digital shekel) 。
第6に「地下経済(ブラックエコノミー)対策」が挙げられます。匿名性が高い現金は脱税や犯罪収益の洗浄などに悪用されやすい側面があります。デジタルシェケルは大口の取引については記録が追跡可能なデジタルデータとなるため、不正取引や闇経済の抑止に繋がると期待されます。つまり、第5のプライバシー確保と両立させつつも、不透明な巨額現金取引の縮小によって健全な経済活動を促すバランスを目指しています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。

技術的特徴:二層構造・オフライン機能・高機能化

デジタルシェケルの設計は、多くの国のCBDCと共通する点もありますが、いくつか独自の特徴も示されています。基本的な流通モデルは他国と同様、中央銀行がデジタル通貨を発行し、民間の銀行や決済事業者を通じてユーザーに提供する「二層構造」を採用します (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
この方式では、中央銀行が直接一般利用者とやり取りすることはなく、既存の金融機関やフィンテック企業が仲介します。イスラエルの場合、設計案では仲介業者を3種類に分類している点が特徴です。すなわち、(1)デジタルシェケルへのアクセスやウォレット機能を提供する決済サービス提供者、(2)主に銀行などデジタルシェケルへの換金(現金や預金との交換)を担う資金供給機関、(3)予算管理アプリや高度な決済サービスなど付加機能を提供する追加サービス提供者に分け、それぞれの役割で民間事業者の参加を想定しています。一つの企業が複数の役割を担うことも可能とされ、民間の創意工夫でユーザー体験を向上させる余地を残しています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
技術面では、現時点で特定のプラットフォーム(例えばブロックチェーンを使うか否か)は「テクノロジー中立(アグノスティック)」とされています。つまり、既存の銀行間決済システムを拡張する方法も、ブロックチェーンなど分散型台帳技術(DLT)を活用する方法も排除せず、最適な選択肢を今後検討する姿勢です。ただし文書では、デジタルシェケルに「スマートな」機能を持たせる構想が語られています。例えば「コンポーザビリティ(組み合わせ可能性)」や「プログラマビリティ(プログラム可能性)」といった高度な機能です (Bank of Israel Unveils Possible Design of "Multipurpose" Digital Shekel CBDC)。これは、デジタルシェケル上でプログラムに従った自動支払い(条件付き支払)や、他のデジタルサービスとの連携を可能にすることを意味します。これらはブロックチェーン技術で実現されることが多い機能であり、将来的にCBDCにスマートコントラクト的な仕組みを導入する可能性を示唆しています。
さらに、デジタルシェケルのオフライン取引機能も重要な技術要件です。ヨーロッパのデジタルユーロ構想では、小額であればインターネットに繋がらない環境でも直接やり取りできる「オフライン決済」の実現が検討されていますが、イスラエルも同様にオフラインでの少額決済を可能にする計画です。これにより、通信障害時や電源のない場所でも現金と同様に使える利便性が確保されます。またイスラエル案がユニークなのは、「小額であればオンライン上でも匿名性を維持できる取引」を検討している点です。後述するように、一定金額以下の取引については利用者の身元情報を記録しないしくみをオンライン送金にも適用しようとしています。このような柔軟なプライバシー配慮は他国にはない特徴です(Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
決済スピードや利便性の面でも、最新技術を生かした性能向上が目指されています。デジタルシェケルは即時決済(インスタント決済)が基本となり、送金と同時に相手側で即座に受け取りが完了する仕組みです。また銀行預金やクレジットカードなど他の決済システムとも連携し、ユーザーが意識しなくてもデジタルシェケルと他の手段との間でシームレスに支払いが行える相互運用性も重視されています。報告書によれば、たとえ取引の相手がデジタルシェケルを使っていなくても、こちら側がデジタルシェケルで支払い・受取りできるようにすることが目標とされています (Israel releases preliminary CBDC design for digital shekel)。
例えば、片方のユーザーがデジタルシェケルのウォレットしか持っておらず、もう片方は従来型の銀行口座しか持っていない場合でも、間に入るサービス提供者が自動的に両者間の交換(デジタルシェケルと銀行預金の変換など)を行い、結果としてどちらも自分の持つ形態のまま送金を完了できる、というイメージです。これは専門的には「相手方が同じデジタル通貨を使っていなくても利用可能」なネットワーク効果を生み出す設計と言えます (Israel releases preliminary CBDC design for digital shekel)。デジタル通貨が広く普及するにはユーザー全員が導入しなくともメリットが感じられることが重要であり、イスラエルの設計案はその点も考慮されています。
また、他国の多くのCBDC構想では銀行預金からの過度な資金移動を防ぐため、保有上限額を低め(例えば数十万円程度)に設定することが議論されています。しかしデジタルシェケルでは、比較的高い上限額を許容する方向でシミュレーションが行われています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。企業が月々の給与支払い全額をデジタルシェケルで実行できる程度の上限を想定しているとも報告されており、これは他国に比べて大胆な設計です。背景には、仮にデジタルシェケルに利子を付与した場合でも(後述)、銀行から一気に預金が流出しない範囲を見極めつつ、利用者には十分な利便性を提供したい狙いがあると考えられます。

実際、デジタルシェケルには利子を付与する可能性も示唆されています。現行の紙幣や硬貨は利子(インタレスト)が付かないのが普通ですが、CBDCの場合、中央銀行がその気になれば残高に対し金利を付けることができます。イスラエルの中央銀行は、近年市中銀行が中央銀行の利上げに応じて預金金利を十分上げなかったことに不満を表明しており、デジタルシェケルに一定の利子を付けることで銀行預金より有利な選択肢とし、民間銀行にも適正な金利競争を促す意図があるようです (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。

もっとも、そのような強力なCBDCが登場すれば銀行の資金が大量に中央銀行に移ってしまう恐れもあります。そのため、平時は利子を付けず有事にのみ付与するといった慎重な運用が検討されると見られます。このようにデジタルシェケルは、技術面・制度面で他国にない柔軟な設計を模索している点が特徴です。

プライバシーと匿名性の設計方針

デジタルシェケル構想の重要な論点がプライバシー(取引の私的保護)と匿名性です。

中央銀行デジタル通貨というと、「国家が国民の取引をすべて把握して監視するのでは」という懸念もあります。しかしイスラエルの設計案では、中央銀行自らは個人の取引データや個人情報にアクセスしない仕組みを明確に打ち出しており、法律上も技術上も、利用者の氏名や口座番号など個人を特定できる情報をイスラエル銀行が直接取得できないようにする方針です。

では誰が取引情報を管理するかというと、前述の決済サービス提供者など民間の仲介事業者が担います。例えばユーザーがデジタルシェケルで支払いをするとき、決済アプリや銀行が裏で本人確認や残高管理を行いますが、中央銀行は匿名化された取引台帳だけを処理し、個々の名前などは知らないままとします。さらに、仲介役の事業者に対しても個人データの不正利用を禁止する規定を設け、商業目的でユーザー情報を勝手に分析・販売するといったことができないようにします。これは現在のクレジットカード会社やフィンテック企業によるデータ活用よりも厳格なプライバシー保護と言えます (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。
加えて、小口の取引に限って匿名性を認める仕組みも検討されています。欧州のデジタルユーロ案では、例えばオフライン環境で50ユーロ以下の支払いは記録を残さず匿名で行えるようにするといった議論がありますが、イスラエルはそれに類似しつつ一歩踏み込んで、オンライン環境であっても少額なら匿名取引を可能にすることを目指しています。具体的には、一定の上限額までの取引については送金時にユーザーの身元情報を記録せず、追跡不可能な「現金に近い」扱いにするというアイデアです。こうした匿名取引枠を設ければ、日常の小さな購買や個人間の少額送金においては利用者のプライバシーが守られ、まるで現金を手渡ししているかのような感覚で使えるでしょう。一方で、その上限を超える大口の取引は通常どおり記録・報告されるため、不正な巨額資金移動は監視できます (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。

この二段構えにより、「小口は匿名・大口は追跡可能」というバランスを取る方針です。もちろん完全な匿名を許す以上、犯罪悪用のリスクとのトレードオフがありますが、設計案では上限金額や利用頻度に制限を設けるなどしてリスクを抑える前提です。いずれにせよ、デジタルシェケルは現行の電子決済よりプライバシーが強化される一方で、現金ほど無制限に匿名ではないという、中間的な特徴を持つことになります。中央銀行デジタル通貨のプライバシー問題に対する一つの解決策として、国内外から注目される部分です。

国際送金への対応と他国CBDCとの関わり

デジタルシェケル構想では、国際送金や他国のデジタル通貨との相互運用も重視されています。前述したように、導入の動機の一つに「国際送金の効率化」が挙げられており、イスラエル銀行は自国だけでなく海外でも使いやすいCBDCを目指す姿勢を示しています。実際、同銀行副総裁は「デジタルシェケルを発行するならば、グローバルな標準に則って、イスラエル人がそれを使ってクロスボーダー(国境を越えた)送金をできるようにすることが極めて重要だ」と述べています (Project Icebreaker concludes experiment for a new architecture for cross-border retail CBDCs)。これは、将来各国のCBDC同士がスムーズに交換・送金できるよう、国際標準や技術仕様の調整に積極的に関与していく意図を示したものです。
イスラエル銀行が参加したBIS(国際決済銀行)主催の「プロジェクト・アイスブレーカー」では、異なる国の小売型CBDCシステム同士をハブ(中継役)で繋ぐことで、数秒以内に安価なクロスボーダー送金を実現できることが実証されました。この実験では、各国のCBDCは自国のシステム内に留まり直接国外には持ち出さず、ハブを介して相互接続する方式を取っています。複数の外国為替業者がハブ上でレートを提示し、最も安いレートで自動的に両替・送金が行われる仕組みにより、中継銀行が少なく流動性不足や手数料高騰のリスクを抑えられることが確認されました。

イスラエル銀行はこうした国際的な試みに積極的であり、デジタルシェケルも将来的にこのような多国間ネットワークに接続できる設計を志向しています。報告書でも、デジタルシェケルが他の支払システムやデジタル資産ネットワークと相互運用可能になることが重要だと強調されています。例えば、将来イスラエルのCBDCと欧州のデジタルユーロ、米国のデジタルドル等が標準化されたプロトコルで繋がれば、為替手数料や送金待ち時間が大幅に削減されるでしょう。デジタルシェケルのユーザーが外国に送金したり、逆に海外からデジタルシェケルを受け取ったりすることもワンクリックで可能になるかもしれません。国際送金のみならず、将来の商取引において各国通貨のデジタル版が即時に交換できれば、貿易決済や観光客の支払いも便利になります。イスラエルは小国ながらスタートアップが盛んな「イノベーション国家」であり、国外との経済交流も活発です。そのため、自国のデジタル通貨が国際的なデジタル経済の一部として機能することを強く意識していると言えるでしょう。

おわりに:今後の展望

デジタルシェケルの初期設計文書は、技術仕様を最終決定するというより、関係者や専門家からのフィードバックを集めることを目的としています。イスラエル銀行は今後2025年から26年にかけて、この構想の経済的影響を詳しく分析し、技術的オプションを検討するとしています。その上で必要な法整備や実現までのロードマップをまとめ、最終的に発行の是非について判断する予定です。

現時点でイスラエルがデジタルシェケル発行に踏み切るかは未定ですが、欧州中央銀行など主要国がCBDC発行に動けばそれに追随する可能性が高いと示唆されています (Israel releases prelim report on digital shekel CBDC design - Ledger Insights - blockchain for enterprise)。いずれにせよ、今回示されたデジタルシェケル構想は、デジタル時代におけるお金のあり方を模索する上で興味深い事例です。競争促進やプライバシー保護といった難題に挑むその設計は、イスラエル国内に留まらず世界のCBDC議論にも一石を投じるものと言えるでしょう。今後の議論と実証実験の進展によって、デジタルシェケルが現実のものとなるのか、その動向が注目されています。

有料プランではより多くのレポートがお読みいただけます。

法人プランではチャットでの質問やスポットコンサルも可能です。

あらゆるクリプトリサーチをキュレートした

HashHubアカデミーもぜひご活用ください。


このレポートの関連記事

レポートが存在しません。