NFTはなぜ「ゴルフ場のない会員権」に見えたのか——所有という形式の再配置

この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 告白
  • ゴルフ会員権を見る
  • 所有の4つの顔と、NFTが足した履歴
    • NFTを当てはめる
  • 履歴は残る、だが歴史にはならない
  • 余談——文脈をオンチェーンに積み増そうとした試み
  • なぜ多くは崩れたのか
    • なぜ一部は残ったのか
  • おわりに——所有の再配置
  • 参考文献
    • 次に読むなら
連載「今更聞けないWeb3」第4回

告白

NFTって結局なんなの、と聞かれて、答えに詰まる。
「デジタルアートでしょ」と言いかけて止まる。アートというなら、絵の話なのか、所有の話なのか、どちらの話なのかが曖昧だ。「ブロックチェーン上の所有権だよ」と言いかけて止まる。所有権というなら、何の所有権なのか。画像なのか、リンクなのか、それともリンクへのリンクなのか。

毎回ここで詰まる。同じ場所で、毎回。

そして、もう一つ喉に引っかかっている小骨がある。
画像なら、右クリックで保存できる。スクリーンショットでも、いくらでもコピーできる。元の画像と寸分違わない複製が、自分のローカルにも、別の誰かのスマホにも残る。それなのに、誰かが「これは自分のものだ」と言い、その言葉に何千万円、何億円という値段がついた。
複製可能なものを所有する、というのが、どうしても腑に落ちなかった。
連載の第1回で書いたBitcoinは、法定通貨への不信任票だった。価値の根拠を、人間ではなくコードに置き換えようとした最初の実験だった。第2回で書いたEthereumは、信用の置き場を、国家や銀行からコードへ移そうとする試みだった。第3回で書いたステーブルコインは、それ自体は新しい何かを生まなかった。ただドルという既存の救済を、ブロックチェーンの上を24時間走る配管に乗せ替えた——「決済の再配置」だった。
価値、信用、決済。それぞれ、何かが再配置されてきた。

ではNFT(non-fungible token、ブロックチェーン上に記録される一意で代替不可能なデータ単位)は、何を再配置しようとしたのか。

まずは、推した側の言い分を並べてみる。
クリエイターが、ギャラリーや出版社という中間搾取を介さず、直接ファンと繋がる。二次流通のたびに、ロイヤリティが永久に自動で還流する。ブロックチェーンが「これが本物だ」を保証することで、デジタル作品にも来歴が宿る。PFP(Profile Picture)を掲げれば、新しい形の所属と自己表明が可能になる。一握りのエリートが独占していた美術と所有の世界が、誰にでも開かれる。
そう書かれていた。そう語られていた。聞き心地は、よくできていた。そうなんだ、と聞いていた。
今回はその問いと向き合う。ただし、いつもと違って、思想家から入らない。読者がすでによく知っている、もっと俗っぽいものから入る。ゴルフ会員権だ。

ゴルフ会員権を見る

ゴルフ会員権、と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
バブル期の象徴。1980年代後半、東京近郊の名門コースの会員権は、一枚で数千万円、ものによっては億を超えた。サラリーマンが住宅ローンを組むかわりに、ゴルフ会員権ローンを組んだ。会員権相場誌が書店に並び、株式と並ぶ投資対象として扱われた。バブル崩壊後に多くは大暴落したが、それでもなお、現在も一部の名門コースの会員権は資産として機能している。霞ヶ関、小金井、相模、東京ゴルフ倶楽部——名門と呼ばれる会員権は、価格を維持し、相続され、譲渡され、市場で売買されている。
ここで素直に立ち止まってしまう。なぜ「権利」が資産になり得るのか。
ゴルフ会員権は、モノではない。会員証は渡される。だが、紙だ。コースが手に入るわけでも、土地が手に入るわけでもない。手に入るのは、「この特定のコースでプレーする権利」と「会員として遇される立場」だ。それだけだ。それだけが、何千万円もの値札を背負っている。

少し角度を変えて考えてみる。所有とは何だろうか。
普通に考えれば、所有とはモノを持つことだ。車を所有する、家を所有する、本を所有する。非常に明快だ。だが、ゴルフ会員権の場合、所有しているモノが存在しない。あるのは、コースとの関係、クラブとの関係、他の会員との関係、市場との関係——関係の束だけだ。それでも、それは確かに資産として成立する。
19世紀末、経済学者のThorstein Veblen(ソースタイン・ヴェブレン)が『有閑階級の理論』で書いたことを思い出す。人は使うためだけに所有しない。見せるためにも所有する、と。実用価値だけで所有を説明しようとすると、説明しきれないものが必ず残る。残るのは、「他者の目」だ。誰かに見られていて、誰かが「あの人はあれを持っている」と認識する——その認識の総体が、所有を成立させている。所有は、自分とモノとの関係ではない。自分とモノと他者との、三項関係だ。
ゴルフ会員権は、その三項関係の塊だった。プレーするという実用、クラブの一員であるという立場、それを他者が認識するというステータス、そして売買できる市場。これらが揃って、初めて「権利」が資産として立ち上がった。
ここで一つ仮置きしておきたい。ゴルフ会員権は、ゴルフ場がある会員権だ。当たり前のことを当たり前に言っているように聞こえる。だが、この当たり前の話に後半でもう一度戻ってくる。

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