【論考】予測市場の成長と収益化のギャップ

2026年06月04日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • 予測市場は盛り上がっているのに、なぜ収益の話が少ないのか
  • 「予測市場=伸びる市場」という見方が見落としやすいものは何か
  • 見えている売上と、見えにくい収益源
  • 面は広いが取り分は薄い、メディア型予測市場の収益構造
  • 規制の器と反復利用が収益をつくる、習慣型予測市場の強さ
  • 誰が儲けるのか|プラットフォーム、流通事業者、データ提供者の分業
  • 考察:予測市場の次の勝負は「当たるか」より「残るか」
  • 総括

前提

予測市場は、ここ数年でクリプト業界の中でもかなり説明しやすいテーマになりました。というのも、選挙やスポーツ、金融政策、企業決算、暗号資産価格、地政学イベントなど、扱われる題材が身近でありながら、未来に対する人々の見立てを「確率」というわかりやすい形で示せるからです。
実際、公開データを見ても市場の拡大は明らかです。予測市場の月間取引量は2025年初めの12億ドル規模から、2026年初頭には200億ドル超へ拡大したとされ、年間取引量も大きく伸びています。もっとも、その成長の一部はインセンティブに支えられた出来高でもあり、同時に規制面の圧力や流動性の持続性といった課題も見え始めています。
出典:https://www.theblock.co/post/395454/prediction-markets-top-20-billion-in-monthly-volume-as-geopolitics-now-drives-majority-of-activity-trm-labs
しかし、ここで一度立ち止まって考える必要があります。予測市場が盛り上がっていることと、予測市場が儲かっていることは別の話です。これまで予測市場は、「群衆の知恵を集める仕組み」「新しいメディア」「イベントを価格化する金融商品」といった切り口で語られてきました。これらはいずれも重要な見方ですが、それだけでは事業としての実態は見えてきません。実際にどのプレイヤーが、どこで、どのように収益を上げているのかについては、意外なほど整理されてこなかった印象があります。
なぜなら、同じ「予測市場」という言葉でくくられていても、各プレイヤーの収益構造はかなり違うからです。たとえば、Polymarketは広い認知と話題性を獲得した象徴的な存在です。一方で、Kalshiは規制下の枠組みを活用しながら、スポーツなど反復利用されやすい領域を取り込んでいます。
さらにCoinbaseのように、すでに巨大な顧客基盤と流通導線を持つ企業が予測市場を組み込む場合、収益化の前提はまた変わります。つまり、予測市場の収益性を考えるには、「市場が伸びているか」だけでなく、「誰が、どの導線で、何に対して課金しているのか」を分けて見る必要があります。
そうした前提を踏まえて、本レポートでは、予測市場の理想像をいったん脇に置き、収益化の実態を中心に整理します。予測市場はメディアなのか、金融商品なのか、スポーツベッティングの別形態なのか。その答えを急ぐよりも、まずは「どこにお金が落ちるのか」を見るほうが、現在地を捉えやすいはずですし、また予測市場の本質を考えるうえでも、理想として語られる姿と、実際に利益が残る構造のあいだにある距離を見ていくことが重要です。

予測市場は盛り上がっているのに、なぜ収益の話が少ないのか

予測市場について語るとき、最初に注目されやすいのは「予測市場は本当に当たるのか」という論点です。選挙結果を世論調査より早く織り込んだ、ニュースで大きく報じられる前に市場価格が動いた、といった話は直感的にわかりやすく、予測市場の魅力も伝わりやすいです。そのため、予測市場は「集合知を使って未来を読む仕組み」として語られるケースが多かったと言えます。
また、その次に出てくるのが「合法なのか」という論点です。特に米国では、イベント契約を金融商品として扱うのか、それとも実質的な賭博に近いものとして扱うのかをめぐって、いまも議論が続いています。予測市場は金融にも見えますし、娯楽にも見えます。その境界線があいまいだからこそ、制度面の議論は避けて通れません。
さらに最近では、「予測市場は新しいメディアなのか」という見方も広がっています。予測市場のデータが検索サービスや金融情報サービスの画面に組み込まれれば、ユーザーはニュースを読むだけでなく、その出来事に対して市場がどの程度の確率を見込んでいるのかも同時に確認できます。つまり、予測市場は取引の場であると同時に、ニュースやイベントを理解するための情報レイヤーとしても機能し始めているわけです。
出典:https://x.com/Google/status/1986536718158241864
しかし、ここで重要なのは、「当たるのか」「合法なのか」「メディアなのか」という議論だけでは、予測市場プラットフォーム事業の収益構造までは見えてこないという点です。メディアとして話題になること、金融商品として制度に乗ること、ユーザーが一時的に熱狂することは、それぞれ価値があります。とはいえ、それらがそのまま利益に変わるとは限りません。
たとえば、取引量が増えても、手数料率が低ければ収益は薄くなります。また、市場数が増えても、流動性が分散すれば、運営コストやマーケットメイクの負担は重くなります。さらに、予測データが外部メディアや金融サービスに掲載されたとしても、それが有料のデータ提供なのか、ユーザー獲得のための無料配信なのかによって、事業上の意味は大きく変わります。よって、見た目の存在感と、実際に残る利益は分けて考える必要があります。
予測市場の収益論が語られにくい理由は、おそらくここにあります。予測市場は、外から見ると盛り上がりが非常にわかりやすい一方で、利益の源泉が複数に分かれているため、どこで儲けているのかが見えにくいのです。手数料、スプレッド、データ販売、API提供、広告、スポンサー市場、配信面との提携、既存金融サービスへの組み込みなど、収益化の方法はいくつもあります。
だからこそ、予測市場を事業として見るときには、「市場が伸びているか」だけでは不十分です。むしろ重要なのは、誰が、どの導線で、何に対して課金しているのかです。予測市場は一つの言葉で語られがちですが、実際には、メディア型の予測市場、規制下で反復利用を狙う予測市場、既存金融サービスに組み込まれる予測市場では、収益構造が大きく異なるのです。
その意味で、「予測市場は伸びている」という一文だけでは、現在地を正確に捉えきれません。予測市場の次の論点は、当たるかどうか、話題になるかどうかに加えて、その盛り上がりがどのように収益へ変わるのかに移っていくはずです。

「予測市場=伸びる市場」という見方が見落としやすいものは何か

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※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。