香港出張報告② 伝統金融の静かな焦燥と構造変化の行方

2026年02月25日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • ①オンチェーン化・トークナイゼーションの潮流は本物であり、伝統金融はWeb3の「R&D」段階から「取り込む」段階へと移行しつつある
  • ② 伝統金融の静かな焦燥はロビーイングとM&Aに表れ、業界再編を加速させる
  • ③ 日本は過度に悲観する必要も、安易に楽観する必要もない
2026年2月10日、Consensus Hong Kong におけるInstitutional SummitのRound Tableにスピーカーとして参加いたしました。
本稿では、当日の議論および現地での多数の対話を通じて得られた示唆を記します。なお、Round Tableでの議論はChatham House Ruleの適用下にあるため、発言主体の特定につながる情報は伏せさせていただきます。

①オンチェーン化・トークナイゼーションの潮流は本物であり、伝統金融はWeb3の「R&D」段階から「取り込む」段階へと移行しつつある

香港滞在の2日間で、立ち話を含め約100名の機関投資家と議論を行いましたが、既存金融商品のオンチェーン化およびトークナイゼーションは、一過性のテーマではなく構造的かつ不可逆的な変化であるという認識が広く共有されていました。

象徴的な事例として挙げられたのが、Broadridge Financial Solutions が提供するDistributed Ledger Repo(DLR)プラットフォームです。同社は分散型台帳技術を活用し、米国債等を担保とするレポ取引の決済を効率化しており、月間取扱高は約6兆ドル規模に達していると報じられています。ここで重要なのは、これは暗号資産市場の拡大を示すものではなく、既存の機関投資家向けレポ市場という巨大な実需をDLT上で処理している点にあります。すなわち、トークン化は実験段階を越え、既存金融インフラの内部に実装され始めているということです。

また、New York Stock Exchange や NASDAQ も、デジタル資産関連インフラやトークナイゼーション領域への戦略的関与を進めています。あるグローバル投資銀行の幹部は、「今、我々がトークナイゼーションの基盤企業を取り込まなければ、10年後には我々が買収対象になる可能性すらある」と述べていました。伝統金融はWeb3を研究対象として扱う段階から、自らの競争力維持のために積極的に取り込み、統合する段階へと移行しつつあると感じられました。

② 伝統金融の静かな焦燥はロビーイングとM&Aに表れ、業界再編を加速させる

この構造的プレッシャーは、米国における法案審議にも顕在化しています。現在審議が進む Digital Asset Market Structure Clarity Act(いわゆるClarity Act)では、ステーブルコインの利回り設計が重要な争点の一つとなっています。議論の中では、単なる保有に対する利息支払いを制限する一方で、決済利用や流動性提供などの活動に紐づくリワードを一定範囲で許容する設計などが検討されています。

銀行業界は、高利回り型ステーブルコインが預金流出を招く可能性を懸念しており、より厳格な制度設計を支持する傾向にあります。他方、暗号資産業界は、競争制限的であるとして反対姿勢を示しています。高利回りステーブルコインが実際にシステミックリスクを生むかどうかは未知数ですが、少なくとも米国銀行業界がそれを現実的な脅威として認識していることは事実です。

筆者は、この緊張関係が今後数年のうちに、伝統金融による暗号資産プレイヤーへの資本参加や買収を加速させると考えています。対象領域としては、①暗号資産取引所、②ステーブルコイン関連事業、③トークナイゼーション基盤が中心になる可能性が高いでしょう。これはかつてGAFAMが潜在的競合を早期に取り込んだ構図と類似しており、競争は市場内での再編という形で進展すると見ています。

③ 日本は過度に悲観する必要も、安易に楽観する必要もない

日本については、冷静な評価が必要であると感じました。筆者は、これまで、日本における一連の法改正が市場規律を高め、機関投資家が参入可能な環境を整えると主張してきました。渡航前は、暗号資産ETF解禁の遅れや市場規模の制約から、日本市場への国際的関心は限定的ではないかとの懸念もありましたが、実際には想定以上に高い関心が寄せられていました。

アジアにおいては、規制を強化したシンガポールや韓国、中国本土の制限的政策、そして実験場的ポジションを取る香港という構図の中で、日本は派手さこそないものの制度安定性を備えた市場として評価されている印象を受けました。

RWA市場においても、世界のオンチェーンRWA残高(ステーブルコインを除く)が約250〜260億ドル規模とされる中、日本のセキュリティトークン残高は30億ドル超と推計されており、保守的な制度設計の下でも一定の残高を積み上げてきた点は評価に値します。

もっとも、ガラパゴス化のリスクは現実的な課題です。今後2年で、機関投資家向けに収益特性を明確化した商品設計を行い、ETFや投資信託、ファンドラップ等への暗号資産の組み込みを進めるとともに、グローバル規格との整合性を確保できるかどうかが分水嶺になるでしょう。日本は決して劣後しているわけではありませんが、制度整備という優位性を実体的なプロダクト開発と市場形成に結び付けられるかが、今後の成否を左右すると考えます。

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。

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