search-icon
academy-icon

「仲介者(発行者)に優しい」ミームコイン発行プラットフォームの皮肉な現実|カルト的人気を博したBase上のPump.funクローンのイマ

2025年02月28日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 1.【前提の共有】Clankerエコシステムの概要
    • 1.1.初期Clanker市場の熱狂
    • 1.2.「pump.fun」にヒントを得つつも独自色のあるClankerのビジネスモデル|出来高に応じて発行者も儲かる仕組みの採用
  • 2.「仲介者(発行者)に優しい」モデルの皮肉な現実
    • 2.1.異なる要因が重なって生まれた「トークン発行数が増えた一方で出来高が落ち込んだ」現象
  • 総括:「仲介者(発行者)に優しい」モデルが招いた予想外の早期終焉──サードパーティアプリが増えても過疎化に歯止めがかからない理由
    • 『ミーム×ソーシャル×AIエージェント』という組み合わせ、皆さんはどう感じているでしょうか。
『ミーム×ソーシャル×AIエージェント』という組み合わせ、皆さんはどう感じているでしょうか。一種の社会実験と見ることもできる反面、ブーム当時にあふれていた(ポジティブがすぎる)曖昧な主張だけでは物足りなさを覚える方もいらっしゃるかもしれません。オンチェーンデータがそれなりに蓄積されている今、一度データを整理して、実際にあの実験はどのような結果になったのか、またこのポジションならどの程度の収益が見込めたのか、といった分析をしてみてもよいのではないかと思いました。そこで、昨年暮れに一世を風靡したBase上のあるPump.funクローンのビジネスモデルについて、私見を交えた考察をコラムとしてまとめることにした次第です。
まずは、今回取り上げる「Clanker」というプロジェクトの概要や、最初のブームがどのように盛り上がったのかを次節で整理しておきたいと思います。そのうえで、本題としてブームが落ち着いた後のClankerについて、オンチェーンデータを解析してみるとわかった「仲介者(発行者)に優しい」Clankerモデルがもつ、やや皮肉めいた現実を共有していきたいと思います。

1.【前提の共有】Clankerエコシステムの概要

Clanker(クランカー)は、2024年11月に登場したBaseチェーン上のミームコイン発行プラットフォームです。Farcaster(分散型ソーシャルメディア)のフルスタックエンジニアであるジャック・ディシュマン氏(Jack Dishman)と、FarcasterエコシステムRDの@proxystudio.ethによって11月8日に立ち上げられたFarcasterネイティブのAIエージェントでもあります。(※注: FarcasterはWeb3版Xのような存在です)
ユーザーがFarcaster上で@clankerにメンションし、発行したいERC-20トークンの名称やティッカー、概要(画像も含め可能)を指示すると、Clankerが自動的にBase上にトークンをデプロイしてくれるというもので、わずか投稿一つでミームコインが生まれるという、未来的かつカオスな「投稿でミームコイン鋳造」体験を実現しています。

1.1.初期Clanker市場の熱狂

図1:Clankerの取引手数料推移|出所:https://dune.com/clanker_protection_team/clanker-fees
このように手軽かつ実験的なトークン鋳造方式を採用したClankerは、稼働開始後わずか2〜3週間(11月8日〜26日)という短期間でBase上に4,215種類ものトークンを発行し、それらのDEX取引市場を通じて約63万ドルの手数料収入を得ることに成功しました(図1)。ビジネスモデルについては後述しますが、手数料収入の4割をLP提供ユーザーに、残り6割をClankerに分配。つまり、Clankerチーム(2名~)はこのわずか2〜3週間で$37.8M/約56億円の手数料収入を得たことになります。ちなみにですが、この手数料収入の他、Clanker経由で$CLANKERトークン(執筆現在の時価総額およそ$60M)を発行していますので、そこからの収入もあります。
図2:稼働開始後2〜3週間(11月8日〜26日)にデプロイしたUniswap v3プールの取引状況の可視化(ドーナツグラフ出所:Etherscanを元に筆者作成)
さて、これら手数料収入を生んでいるDEX取引量の内訳はどうなっているのでしょうか。ミームコイン発行プラットフォームではありがちなように、$CLANKERや$ANON(Vitalik Buterinが購入したことで話題に)、$LUMといった当時話題となった一部の注目銘柄が取引を占有しているのではないか、という疑問もありました。実際、一部の注目銘柄が取引の多くを占めてはいたのですが、稼働開始後の最初の2〜3週間に作成されたミームコインの取引プールアドレス(計4,215件)のERC20 Transferデータをよくよく調べたところ、なんと約91%にあたる3,851件でWETHの移転が確認されました(図2)。
「WETHの移転記録がある」というのは、プールのペアとなるWETHが取引プールアドレスを介してやり取りされたことを意味します。Clanker経由で発行されたミームコインの取引プールはUniswap v3で片側流動性によって作られるため、実際に取引が行われなければWETHの転送履歴は残りません。逆に言えば、最低でも1回の転送があったということは、ほぼ確実に取引が成立していたとみなせるわけです(※手数料請求時などにもWETHは動きますが、大半は取引によるものと考えられます)。
一方、WETHの移転記録が全くないプールは364件(全体の8.6%)しかなく、これは「トークンはデプロイされたものの、誰も取引しなかった」ということを意味します。
さらに、初期に作成された取引プールアドレスを取引量別に分類してみると、WETHの転送記録が10回未満(おそらく発行者だけのやり取り)が全体の15.2%(642件)、10回以上50回未満が30%(1,263件)、そして50回以上(発行者以外も加わっている可能性が高い)が46.2%(1,946件)という分布になりました(図2)。
これらの数字から、「(いくら稼げるかは出来高次第ですが)ひとまずトークンを発行しておけば、少なくとも半数程度は発行者以外からの取引も発生しうる」ことが推測でき、さらに後述するようにClankerモデルは発行手数料が実質無料であり、かつBase上ではガス代が非常に安価だったことが手伝って、当時のClanker市場は発行数・取引数ともに相当な熱気に包まれていた様子がうかがえます。(もちろん人間だけでなく、bot取引も多く含まれていたかとは思いますが。)

1.2.「pump.fun」にヒントを得つつも独自色のあるClankerのビジネスモデル|出来高に応じて発行者も儲かる仕組みの採用

Clankerのビジネスモデルは、Solana上のミームコイン発行プラットフォーム「pump.fun」にヒントを得つつも独自色があります。Clankerではトークン発行そのものに手数料はかかりません(※1)。代わりに、発行されたトークンの取引に対して1%のトランザクション手数料を徴収するモデルを採用しています。その1%手数料の収益配分は40%が発行リクエストをしたユーザー(=トークン発行者)に還元され、残り60%がプラットフォーム側の取り分となります。
※1)ユーザーがトークンを発行する際、手数料は発生しないと述べましたが、正確には発行トランザクションでレシーバー(Clankerのコントラクト)が発行したトークンのごくわずか(実質0に近い)を徴収し、その残りをUniswap v3の取引プールに片側流動性として投入してプールを作成しています。

図3:トークン発行時のTxフローとトークンバランスの変化(参考Tx:0x3ab4c4ffa07993a85f96052afc51c6485adde996f890ed43c0fdd59e1140d97e)
要するに、実質的な金銭コストはほぼゼロでアイデアを提供するだけにもかかわらず、トークンが取引されるほどに0.4%相当の手数料収入を得られる、「トークン発行者に優しい」仕組みが導入されているわけです。こうした利用者への還元によってコミュニティへの参加を促すモデルは、ある意味「ユーザーと収益をシェアしながら成長するDAO的プラットフォーム」とも呼べるでしょう。
一方、比較対象となるpump.funでは、トークン作成に0.02SOL程度の小額料金が必要で、さらにDEX上の取引手数料1%はすべて運営側が取得し流動性供給などに回されるモデル(※2)でした。これに対し、Clankerは収益の一部をユーザーに還元してインセンティブを高めることで、より分散的・コミュニティ志向のビジネスモデルを目指しており、「手数料収入の40%を仲介者に渡すことで守りを固める」という独自の戦略をとっている点は、評価に値するといえます。
※2)比較対象となるpump.funモデルでトークン発行者が利益を得る手法はpump.funクローンの儲けのからくりを解説した「TRONの躍進、Sun.pumpによる儲けのからくりを解説」レポートで触れています。興味がある方は併せてご参考ください。
図4:Farcaster経由で生まれたトークン群の取引ボリューム推移(※一部トークンの出来高に限定されています。)|出所:https://dune.com/queries/4076475/6864083
こうしてClankerは、「AIエージェント×ミーム×ソーシャル」という新しさと独自の収益分配モデルを武器に、一種のカルト的人気を獲得し、「投稿に@clankerと書くだけで勝手にコインが誕生する」という手軽さとインパクトが口コミ(Vitalik Buterinによる言及も手伝い)で広がり、Farcasterコミュニティのみならず暗号資産全体から大きな注目を集めるに至ったのです。その結果、Farcaster発のトークン群(Farconomyと呼ばれる)の取引高は2024年11月におよそ10億ドル規模に到達。同年4月にFarcaster関連で話題をさらったコミュニティ報酬トークン$DEGENに次ぐ出来高を、Clankerエコシステムの銘柄($LUM、$CLANKER、$ANONなど)が占めるほどの大きな成果を残しました。このようにClankerは短期間で「Base上のマルチミリオンダラーミーム工場」と称される存在へと駆け上がったのです。


....さて、ここからが本題です。あのブームから数ヶ月──果たしてClankerはいま、どのような様子なのか。
前掲したチャート群をご覧になれば察せられるかと思いますが、執筆時点の2025年2月からClanker市場の出来高を振り返ると、2024年11月のサービス開始からの2〜3週間をピークとして、その後はそこそこの水準で推移している(というよりも過疎化が進んでいる)状況が見えてきます。かつては「ひとまずトークンを発行しておけば、少なくとも1/2くらいの確率で発行者以外の取引が期待できる」と言えるほど熱気に包まれていたのに、いったい何が起こってこうなってしまったのか……。
ということで、次節からは、その後のオンチェーンデータを解析してみてわかった「仲介者(発行者)に優しい」Clankerモデルの皮肉な現実について語りたいと思います。

このレポートは有料会員限定です。
HushHubリサーチの紹介 >
法人向けプラン >

※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。