「BTCにとってゴールドの時価総額を超えることは通過点に過ぎない」というナラティブが生まれる理由
2024年12月04日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- 「BTCにとってゴールドの時価総額を超えることは通過点に過ぎない」というナラティブが生まれる理由
- 1,Bitcoinの希少性はゴールド以上である
- 2.Bitcoinの方が敵対する国家から凍結や没収を回避しやすい
- 3.Bitcoinの方が準備資産としての透明性が高い
- 総括
前提
米大統領選挙の結果が開票されて1ヶ月近くが経過しました。その後のマーケットの雑感は下記レポートで書いた通りですが、特に重要度が高いのは米政府がビットコインを準備金として購入する計画があることです。
各主要の中央銀行あるいは政府は米国債以外の準備通貨としてゴールドを保有しています。アメリカはゴールドを世界で最も保有する国家であり、8000トンを保有していると言われています。今回のビットコイン備蓄計画は、Bitcoinがゴールドと同じような扱いで準備資産として政府に保有される未来が近づいていることを示しています。
現在、Bitcoinの時価総額はゴールドに対して、約1/10です。なお既にシルバーは超えています。
またこの政府による備蓄計画が現実味を帯びてきてから、Bitcoinの目標価格はゴールドの時価総額と同等だ、あるいはゴールドの半分程度だ、とゴールドをベンチマークにする意見が増えたと感じます。
実際、ゴールドの時価総額と同等に並んだら凄いことですが、恐らくもう一つ生まれるナラティブ・モメンタムは、「BTCにとってゴールドの時価総額を超えることは通過点に過ぎない」という風潮です。また筆者も個人的には時間軸を限定しなければ、いずれBTCはゴールドを超える可能性が高いと考えています。(なおその時間軸は10年やそれ以上かかる可能性もあるだろうことと、筆者はゴールドにも投資していることを免責しておきます。)
関連レポート:ジパングコインの概要 Bitcoin投資家が金をポートフォリオに組み込むことの検討
関連レポート:ジパングコインの概要 Bitcoin投資家が金をポートフォリオに組み込むことの検討
Bitcoinとゴールドは差異はありながらも、共通点が多くあります。その詳細は下記のレポートで整理していますが、要約すると以下のような性質が共通しています。
- 希少価値がある
- 偽造が出来ない
- 本物の証明確認が出来る
- 分割しても、その価値の合計は減らない
- 採掘にはコストがかかる
- 劣化しない
しかしながら、Bitcoinはゴールド以上に備蓄通貨として優れている要素がいくつかあります。マーケットもゴールドとの比較が進めば進むほどに、そのナラティブを折り込み、ゴールドとの時価総額の差を縮めるタイミングがあると考えます。
本レポートでは、それらの要素について解説します。
「BTCにとってゴールドの時価総額を超えることは通過点に過ぎない」というナラティブが生まれる理由
Bitcoinはゴールド以上に備蓄通貨として優れている要素は主に以下の3点です。
1,Bitcoinの希少性はゴールド以上である
そもそも様々な角度からのファクトとして、Bitcoinの希少性はゴールド以上です。
2024年現在、新規マイニングによるBitcoinのインフレ率は年間で1.7%です。それに対して、ゴールドの年間供給増加率は歴史的に約1.5%~2%です。ゴールドの価格や、エネルギーコストによって損益分岐点に見合う新規鉱山の開発が行われて、毎年新しく採掘されたゴールドが市場に供給されます。
つまり今日現在において、Bitcoinとゴールドのインフレ率はおおよそ同じ程度です。しかし将来においては異なります。2028年の半減期には、Bitcoinのインフレ率は0.8%程度になり、ゴールドのインフレ率を下回ります。またBitcoinの供給量は2100万枚と完全に固定されていますが、ゴールドは異なります。
つまり今日現在において、Bitcoinとゴールドのインフレ率はおおよそ同じ程度です。しかし将来においては異なります。2028年の半減期には、Bitcoinのインフレ率は0.8%程度になり、ゴールドのインフレ率を下回ります。またBitcoinの供給量は2100万枚と完全に固定されていますが、ゴールドは異なります。
ゴールドの希少性は確かですが、これまでも度々技術開発や新しい発見によって新規鉱山が見つかってきましたし、それはこれからも変わりません。最近では真偽は不確かという専門家が多いものの、2024年11月、中国国営新華社通信は、湖南省平江県で40本以上の金鉱脈を発見したと報じました。埋蔵量は1千トン以上、資産価値は6千億元(約12兆8千億円)に上る見通しと報道されています。
この点においてBitcoinは、総供給量がハードフォークなどで強制的なソフトウェアアップデートをしない限りは2100万枚で固定されており、より希少なアセットであると言えます。また既に採掘されたBitcoinのおおよそ20%は秘密鍵を紛失してアクセスできないと推定されており、これも希少性を後押ししています。
2.Bitcoinの方が敵対する国家から凍結や没収を回避しやすい
西側諸国と非西側諸国の緊張が高まる現代において、敵対する国家から凍結や没収を回避できるアセットという観点は重要です。西側諸国はロシアがウクライナ侵攻した際に、ロシアが保有する米国債をはじめとする資産を凍結しました。結果として、世界の中央銀行は外貨準備としてのドルを徐々にゴールドに移す試みを始めています。特に中国は今回のロシアの状況を精緻に分析していると報道されています。
ゴールドは、高い時価総額と流動性を有しながら、敵対する国家から凍結や没収を避けられるほとんど唯一の資産です。しかしながら、この点においてもBitcoinはゴールド以上の優位性を備えていると考えます。
国家が敵対国家から凍結されるリスクを避けてゴールドを備蓄する場合は、現物として保管する必要がありますが、過去にはこの観点で様々なトラブルがありました。例として、2013年、ドイツ連邦銀行(Bundesbank)は、アメリカやフランスに預けた金準備をドイツ国内に返還する計画を発表しましたが、返還プロセスの透明性や速度が議論を呼びました。金が本当に存在するのか、返還が遅れる理由は何かが国民やメディアで疑問視され、この返還は最終的に5年を要しました。
最近でもインドはイギリスに保管していたゴールドを自国に返還しました。これまでイギリスで保管していたのは、金を安全に保管するのには伝統的にイギリスが都合が良いと考えていたものの、最近の国際情勢から方針を改めたと言えます。つまるところ、現物の金の保管にも一定の苦労を伴います。
この点においてBitcoinは国家がマルチシグなどを管理さえできれば、第三者の国家に頼らずとも、現物を保管できます。
3.Bitcoinの方が準備資産としての透明性が高い
歴史を振り返ると、中央銀行や政府がゴールドを保持しているかどうかをめぐって資産証明で苦労したり、トラブルに発展した例はいくつかあります。例えば以下のような代表的事例があります。
・フォートノックスのゴールド準備疑惑(アメリカ)
アメリカ政府は、ケンタッキー州のフォートノックスに世界最大級の金準備を保管しているとされています。しかし、長年にわたりその量や存在を疑う声がありました。ゴールドの実在を確認するための独立した監査が非常に稀であり、透明性が欠如していると批判されました。
アメリカ政府は、ケンタッキー州のフォートノックスに世界最大級の金準備を保管しているとされています。しかし、長年にわたりその量や存在を疑う声がありました。ゴールドの実在を確認するための独立した監査が非常に稀であり、透明性が欠如していると批判されました。
・ナチス・ドイツの金準備(第二次世界大戦中)
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは占領した国々の金準備を略奪し、自国の中央銀行に保管しました。 戦後、この金がどこに保管されているか、どの程度が合法的に回収可能かを巡り、多くの国がトラブルに巻き込まれました。戦後の国際的な金融秩序において、金の出所を証明するための新しい仕組みが必要になりました。
第二次世界大戦中、ナチス・ドイツは占領した国々の金準備を略奪し、自国の中央銀行に保管しました。 戦後、この金がどこに保管されているか、どの程度が合法的に回収可能かを巡り、多くの国がトラブルに巻き込まれました。戦後の国際的な金融秩序において、金の出所を証明するための新しい仕組みが必要になりました。
このようにゴールドの資産証明は困難を伴うことがあり、準備資産の証明としては透明性にかける部分があります。
最近ではBRICSがゴールドを準備通貨にして、新しい決済通貨を開発することも計画されていますが、この取り組みも実際に始まって長く続けば、そのゴールドは本当に所有しているか?という声が陰謀論も含めて出てくることもあるでしょう。筆者の視点としても、実際のところBRICS諸国の政治腐敗などを懸念する妥当性も一定あると思えるので(もちろん西側諸国も然りであるが)、確かにゴールドを備蓄を疑うことになるでしょう。このような事態の対策として、インドのようにより国際的に信頼されている他の国の金融機関にゴールドを預託し、その機関が第三者として資産証明をするという方法もありますが、そうすると敵対時の凍結問題が浮上するのは前述した通りです。
この点、Bitcoinであれば秘密鍵で署名をブロードキャストするだけで資産証明ができます。準備資産の透明性という観点では、Bitcoinはゴールド以上です。
総括
上記の要素を考慮すると、「BTCにとってゴールドの時価総額を超えることは通過点に過ぎない」というナラティブが生まれることは予想がつきます。実際にはBitcoinにも秘密鍵保管の問題や、将来的な量子コンピュータリスク、悪意あるコア開発者の介入など、ゴールドにはない特有の問題もあります。
それでもBTCがゴールドとの時価総額を縮める理由にはなるでしょう。また既に述べたように、時間軸を限定しなければ、筆者はBitcoinはゴールドを超える可能性が高いと考えています。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。