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DAOとティール組織の比較考察〜高度なDAOの作り方〜|OpenLaw TributeDAOフレームワークの概要と考察【後編】

2021年07月28日

目次

  • 前提
  • 1.DAOは「自律分散型組織」なのか「インターネットスケールの部族社会」なのか
  • 2.なぜDAO統治の高度化にデジタルIDは必要なのか
  • 3.なぜ自律的な意思決定の仕組みを導入するべきなのか
  • 【コラム】DAO構築時の覚書|「意思決定はみんなの合意を得てなされるべきだ」という認識はどこから生じているのか
  • 総論

前提

前回のレポートではOpenLaw TributeDAOフレームワークの概要解説とそのヒエラルキー構造の必要性考察を行いました。後編ではTribute DAOフレームワークを用いたDAO形態を事業モデルとして捉えた場合の優位性、具体的にはDAOとティール組織を比較してその如何を考察します。
本レポートでの記載内容は以下の通りです。
1.DAOは「自律分散型組織」なのか「インターネットスケールの部族社会」なのか
現在のDAOの立ち位置を「ティール組織」の著者フレデリック・ラルー氏が描いた組織発展モデルに照らして、執筆時点でのDAOモデルの立ち位置を整理します。

2.なぜDAO統治の高度化にデジタルIDは必要なのか
ティール組織の一種である分散型組織ホラクラシーを例にして、DAOとの比較を行い、なぜホラクラシーではより高度な統治ができているのか。そもそもIDとはどのような役割があるのかを解説しながら、その必要性を解説しています。
3.なぜ自律的な意思決定の仕組みを導入するべきなのか
そもそもなぜ自律分散型組織を目指す必要があるのでしょうか。基本的なことになりますが、その目的を改めて整理します。
【コラム】DAO構築時の覚書|「意思決定はみんなの合意を得てなされるべきだ」という認識はどこから生じているのか
DAO構築時の課題の一つは、「意思決定はみんなの合意を得てなされるべきだ」という誤解を乗り越えることにあると筆者は感じています。何故このような誤解が生まれてしまったのか、考えられる理由と、そうならないための注意しておきたいポイントを整理した覚書です。

1.DAOは「自律分散型組織」なのか「インターネットスケールの部族社会」なのか

DAOとは一体何か?この問いに関する基礎的な情報は「はじめてのDAO」シリーズで記しました。
本シリーズ前編で少し触れたティール組織とは権限を個人・チームに分散している自律的な組織形態のことです。より簡単に言えば、蟻のコロニーのように個々が自律的に意思決定を行い形成される一つの生命体のような組織形態ということです。DAOは邦訳すると自律分散型組織という名称ですので、この名称からティール組織やホラクラシーのような組織像は連想されがちであり、実態はどうであれ、おそらくDAOの理想像はこのような組織形態に基づく部分もあると筆者は感じています。
フレデリック・ラルー氏著「ティール組織」で組織の進化を描いた組織発展モデルを参考いただくと、DAOの今の立ち位置がわかりやすくなるのではないかと思います。詳細はフレデリック・ラルー氏の著作をご参考頂きたいのですが、DAOの立ち位置を理解するために氏が描いた組織の発展モデルを簡易解説を加えて以下列挙します。
【ティール組織で描かれる組織の発展モデル】※色で組織形態を区別しています。
  1. 無色
    血縁関係中心の10人程度の小集団であり、自己と他者、自己と環境という区別のないコミュニティのことです。

  2. マゼンダ(神秘的)
    数百人程度で構成される部族社会。未だコミュニティの域であり、組織として個をまとめる目立った措置があるわけではありません。

  3. レッド(衝動型)
    最初の組織形態と言えます。数百人から数万人ほどの規模の組織形態であり、恐怖や力によって統治する形態です。「アメとムチ」でいうところのムチを多用するソーシャルガバナンスモデルと言えます。この形態は狼の群に例えられることもあります。

  4. アンバー(順応型)
    部族社会から農業、国家、官僚制の時代への移行を示す組織形態であり、計画性をもち規則、規律、規範によるヒエラルキー構造を持っています。

  5. オレンジ(達成型)
    「命令と統制(アンバー)」ではなく「予測と統制」を重視する組織形態であり、言い換えると不確実性の高い市場に対応するためにできた組織形態と言えます。多国籍企業やスタートアップに多い形態であり、複雑なヒエラルキー構造を有しています。

  6. グリーン(多元型)
    多様性、平等、文化を重視するボトムアップで意思決定を行うコミュニティ型組織です。ただし、オレンジと同じくヒエラルキーは存在します。

  7. ティール(進化型)
    一つの生命体のような組織に例えられる組織形態です。独自のルールに基づいた組織運営が行われ、意思決定に合意を得ることは必要とされず、個人またはチームに意思決定権があります。例えばヒエラルキーのないホラクラシーなどがティール組織の一形態として考えられます。
このように組織形態を並べてみると、インターネットコミュニティ型であるDAOは6.グリーンや7.ティールに近しい概念であるように感じます。
しかし、筆者の理解ではDAOはグリーンやティールのような最先端の組織形態になる可能性を秘めながらも、今はまだ上記のモデルに照らして捉えると「無色(血縁関係で成り立つ集団)、マゼンダ(部族社会)やレッド組織(狼の群れ)をインターネットスケールで展開した組織形態」であるように感じています。なぜそのようなことになっているのかは、【前編】で記した「単一トークン統治」に一要因があり、加えて高度な統治が難しいためにそのような傾向を示してしまうのだと筆者は解釈しています。
この点をもう少し深掘りして、DAOとティールやグリーン組織の違いを理解し、Q:「どうすればティール組織のようになるのか」を考えてみましょう。

ティール組織やグリーン組織の特徴はボトムアップで意思決定がなされるような仕組みを内蔵している点にあり、その結果として自律的な組織形態に近づけています。注目していただきたいのは、この意思決定される単位は「個やチーム」であり、それを実現するために個のレベルで意思決定ができるようなルール、またはタスクレベルにまで行動指針が落とし込まれているという点です。
一方の現在のDAOの意思決定はどのレベルでなされているでしょうか。意思決定はフォーラムやソーシャルネットワークで議論され、最終的にはオンチェーン投票など「単一のガバナンストークン保有者による民主的な投票」によって意思決定がなされています。
この「意思決定されるレベル(どこで誰がいつ意思決定しているか)」だけをみると、実はティール組織やグリーン組織と現在のDAOは似ているようで全く違う組織構造であることがわかります。
もちろんDAOはトークンを実装しているため、コミュニティに参加する個人の行動をトークンによって動機づけることができ、その意味では個人レベルで意思決定に参加することができます。ですので「ティール組織と同じではないか」というご意見もごもっともだと思います。ただし、そのような個のレベルで意思決定権は許可された部分に限定されています。加えて、その許可されたタスクはコアチームによってタスクレベルに落とし込まれたものであり、このタスク作成の権利をコミュニティレベルに移譲させないとスケールしません。つまり、タスクに参加したい人とタスクを作る人の数がちぐはぐであることが問題です。この点は「2.なぜDAO統治の高度化にデジタルIDは必要なのか」で後述します。
冒頭で筆者は現在のDAOは「無色(血縁関係で成り立つ集団)、マゼンダ(部族社会)やレッド組織(狼の群れ)をインターネットスケールで展開した組織形態」のように感じるということを述べました。その理由は意思決定レベルが無色、マゼンダ、レッド組織と似ていることからその様に述べました。つまり「参加者みんなで意思決定しましょう(無色、マゼンダ)」「みんなで決めると進まないからコアチームで勝手に決めます(レッド)」ということです。
この意味で現在のDAOを自律分散型組織と解釈するのは間違いであり、より俯瞰してDAOを捉えると「DAOという単位の個=ティール組織を構成する個人」という構図になっていることがわかります。ですので、現在のDAOを自律分散型ネットワークを形成する自律的な個として捉えることはできますが、DAOの中身そのものは残念ながら自律分散型とは言えないのが現状ではないでしょうか。

Q:DAOはどうしたらティール組織のようになるのか

最初の問いを回収します。
ティールの特徴は意思決定を個やチームレベルで行えるような仕組みがあることによって、全体として自律した生命体のように機能する組織形態です。現在のDAOの意思決定レベルは「みんなで意思決定する」となっており、個としての自律ではなく、DAOという名の個の自律を意味しており、DAOを構成する個そのものは自律できている状態ではありません。※「みんなで意思決定する」は内部にある金銭的資本の使途を対象とする、でありエッジで機能する人的資本の使途を対象とする、ではないと筆者は理解しています。基本的なことですが内部資本を持つAIとDAOは異なります。この点は【コラム】で後述します。

今回のTribute DAOフレームワークの複数トークン実装の仕組みを用いることで緩やかなサブグループにまで意思決定レベルを細分化することはできます。この性質を用いると2通りの方法でティール組織に近づけるのではないかと筆者は考えています。

A1:そもそも数年前のDAOネットワークはティール組織の一種だった|DAOの内部に10人程度で構成されるDAOを再構築する入れ子構造

1つはそもそも論になりますが、DAOのエッジを構成する最小単位は一般的に10人程度がちょうど良い(所謂Two-Pizza teams)とされており、仮にDAOがコアメンバー10人程度だけで意思決定されるものなのであれば、現在の民主的な意思決定を必要とするDAOよりも柔軟で素早い意思決定を行えるはずです。筆者が本来理解していたDAOとはこれら10人程度で構成される最小単位グループが一機能として働き、他の最小単位グループと相互に関係することで、DAOという生命体を作るものだと認識していました。つまり、ティール組織やホラクラシーでいうところのサークルという単位がDAOの最小単位だという認識でした。

DAOという言葉の解釈が困難な理由の一つは、このDAOを構成していた最小単位のチームとその他ガバナンストークン保有者から成る集団を指してDAOと呼んでいることです。この意味でDAOはDAOではなく、DAOという名のネットワークを構成する1グループであるという主張です。そして、実は現在DAOと呼ばれているものからなるDAOネットワークはティール組織の一種だと筆者は理解しています。なぜかというと、DeFi Protocolはコアチームが管理するマネーレゴであり、これらエッジに存在する複数のマネーレゴが相互に連携してイーサリアムという名のDAOを形成していたとも解釈できるからです。

しかしながら、ガバナンストークンによる資金調達というスキームが流行ったために、エッジの機能を構成するグループが10人以上に肥大化し、ガバナンストークンが何であるかが不明瞭であるが故に各ドメインのアクセス制御機能が混乱してしまい、側から見ると幾分ちぐはぐなグループのことを現在はDAOだと言い張っているように筆者は感じます。

ガバナンストークンによる資金調達から抜けだせないと仮定した場合、以上の発想をそのまま応用をしてDAOの内部にDAOを作る、つまりマトリョーシカのようにDAOを入れ子構造にすることでこの問題を解消できるのではないかと筆者は考えています。つまり、今DAOだと理解されている何かを細分化し、各ドメインを10人以下のサブグループ(DAO)にしてしまう、それは単一トークンではなく、異なるトークンでアクセス制御されるべきですが、そのような入れ子構造にすることで、少なくともDAOを再度DAOらしくなるのではないかと筆者は考えています。

もう1つの方法は、現状のDAOの形状のままでティール組織へ近づけるという方法です。これはデジタルIDの機能説明をする必要がありますので、次節で述べます。
今回の意思決定レベルの話以外にもDAOには欠けているものはありますが、この点は次節以降で(全てではありませんが)記します。それらも含めてDAO統治が高度化することで徐々にDAOは自律分散型組織らしさを帯びていくのではないでしょうか。

なお、本件とは関係がありませんがDAOを真にティール組織たり得るものにする、は理想ですがそのためには組織(ネットワーク)のトップがこれまで得ていた利益の一部、意思決定の権限を放棄することも同時に意味します。この権利を放棄するという決断は心理的葛藤から通常はできるようなことではなく、しかし、それを行わなければ自律分散型組織とはならないため、この意味において、ティール組織のような自律分散型組織にとって「組織のトップ層は従来型組織よりもはるかに重要な存在でもあり、はるかに重要ではない存在」でもあります。

この点の葛藤を乗り越えられるかはわかりませんが、「3.なぜ自律的な意思決定の仕組みを導入するべきなのか」で何故自律分散組織にする必要があるのか、この点を改めて整理します。
【まとめ】
  • ティール組織やグリーン組織のような、より高度な統治形態にするには意思決定レベルを個やチームレベルにまで落とし込む必要があり、そのためには何かしらの方法で参加者を識別し、サブグループまたは個のレベルまでコミュニティを細分化する仕組みが必要である
  • 現状は「DAOという単位の個=ティール組織を構成する個人」であり、自律分散型ネットワークを形成する自律的な個ではあっても、DAOそのものは自律分散にはなってはいない
【脱線|添付コラムについて】
ホラクラシーの概念に準じるような概念をDAOは語っているのに、なぜ現在のDAOは全ての内部資本の使途を「参加者みんなで意思決定しましょう(無色、マゼンダ)」という風潮が蔓延しているのでしょうか?これはあくまで筆者の憶測にすぎませんが、DAOコミュニティ内で「特定の個やチームレベルで意思決定がなされてはいけない」「みんなで意思決定するのが当たり前だ」という誤解が生じている可能性があるのではないかと感じています。本筋からは脱線しますので、この点は別途コラムで筆者の見解を述べ、ガバナンストークン発行時(DAO化を検討する際)に注意しておきたい覚書をコラムとして記します。
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