AirAsiaによる航空貨物スペースを有効利用するネットワークFreightchain概要・考察
2020年05月03日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 前提
- Executive Summary
- Freightchain概要
- 航空物流プロセスの現状と課題
- Freightchainによるソリューション|「モノ」ではなく「スペース」という情報をブロックチェーンで管理
- 総論
前提
本レポートでは航空会社AirAsiaのロジスティック部門Teleportが手掛けるブロックチェーンベースの航空貨物ネットワークFreightchain解説及び考察を行います。
航空関連ブロックチェーンの世界市場規模は2020年1月末時点のMarketsandMarkets社のマーケットレポートによると2019年の$421Mから2025年には$1,394Mと年平均22.1%成長すると予測されていました。
しかし執筆時点での航空会社各社の業績は新型コロナウイルス禍による旅客便需要減少に伴う悪化を如実に見てとれる状況であり、その予測通りにいかないであろうことは明らかです。
本レポートで取り上げる格安航空会社(LCC)として知られるAirAsiaもその例に漏れず、2020年3月後半に旅客便の大半を運休せざるを得ない状況となり、4月後半には一部国内線運行を順次再開するとしているものの、新型コロナウイルス終息の目処が立たない以上はその見通しも不透明であろうことが推察されます。
今回の新型コロナウイルスの影響により大企業のブロックチェーン領域含む新規事業への投資割合が減少していくと考えられますが、ここで懸念されるのは01年ITバブル崩壊、08年リーマンショック同様に「新規事業に取り組む企業」と「既存事業と共に縮小する企業」と2種類の企業が生まれ、その差が今回を期に大きく開いてしまうのではないかということです。
このような状況の中で筆者が航空業界で注目しているのは現状コントロールが難しい旅客便ではない分野でのイノベーションです。例えば今回取り上げる航空貨物部門は旅客便と比較すると減便はするものの現代社会に不可欠な物流インフラであることから運行は続けており、新型コロナウイルス禍による不確実性の影響を旅客便に比べると受けにくい領域と言えます。
運輸分析会社INRIXによる新型コロナウイルスの全米貨物輸送にあたえている影響を分析したレポート「COVID-19’s Impact on Freight」(2020年3月から5週間を調査)によると、個人のVMT(Vehicle Miles Traveled:車両走行距離)は46%減であるのに対して、貨物輸送(道路等も含む)は13%の減少にとどまっていることが示されており、現代社会における貨物輸送の重要性を示していると言えます。
もちろん道路、鉄道に比べると航空貨物はかなり割高であり物流市場全体のシェアは少ないのが現状です。現時点で航空輸送の対象となるのはスピードという点では他を圧倒するものがあるため緊急品や鮮度が要求される食品、また安全性と速さを求める高額商品などが対象となります。
しかし、その管理部門の効率化によるコスト構造改革や活用されていない航空機の貨物スペースを有効活用することができるならば航空輸送の欠点であるコストを削減できる可能性はあり、国際輸送での競争力強化やその対象範囲を広げられる可能性があります。またそれに伴う新たな顧客体験を提供できる可能性をこの機に模索し国際競争力をつけようとすることには一定の合理性があるように思います。
現在のような不確実性の高い状況下では、先に示したような2種類の企業も含め、その方法は異なれども、この機に市場変化に伴う収益構造改革(スリム化も含む)、管理部門の効率化、リモートワークのようなニューノーマルに適応した事業戦略の見直しを行う企業が増えてくることは十分に考えられます。
今回のAirAsiaによるブロックチェーン活用事例は新型コロナウイルス禍の影響が顕在化している中であえて立ち上げた新規事業として筆者は注目しています。不確実性の高い状況下でブロックチェーンに活路を見出すことができるのか、本レポートがその問いに対する一つの参考となれば幸いです。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。