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データを物質化させるブロックチェーンとは何か

2020年03月01日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • インターネット×データで、情報は無限の広がりを得たが…
  • データの物質化とブロックチェーン利用について
  • 物質化の強度と分布からブロックチェーンを考える

前提

基礎講座シリーズでは「専門的なレベルまでは深堀りしたくないけど、1時間だけ真剣に学んで最低限の理解を確保しておきたい」という方を対象に、ブロックチェーンを調べたり説明したりすることを専門にしている我々が情報共有を行っていきます。
今回は「ブロックチェーンはデータの物質化を可能にすることで、ウェブ上に新しいユースケースを生み出した」ことを解説します。

インターネット×データで、情報は無限の広がりを得たが…

インターネットの登場により、パブリック空間で共有されるテキスト、画像、動画、ソフトウェアはデータの形で無限の広がりを得ました。これは情報やツールの民主化という形では社会に大きな恩恵をもたらしましたが、一方でデータとして表現されるものの希少性を守ったり、真贋判定を行ったり、違法コピーをコントロールしたりすることには大きな課題を残しました。
ブロックチェーンと暗号学の仕組みを組み合わせて作られたBitcoinは逆の性質を持ちます。
Bitcoinはコピーすることができません。Bitcoinは資産性を持つデータなので、コピーできれば供給が無限になり価値はなくなります。これは二重支払い問題といって、Bitcoinが登場するまでは、送金業務は企業や企業群の運営主体が独占的にトランザクションを処理する形で回避されていました。例えば、日本円を送金する場合、我々は銀行やそれに準ずる組織を介して送金することしかできません。
オンラインバンクから操作できる日本円は既にデジタル化されていますが、この日本円を操作できるのは銀行だけです。ユーザーが銀行と銀行ネットワークを信頼し、それらが一元的にトランザクションを管理することで悪意のあるユーザーによる不正利用を回避しているわけです。日常的な用途においては、我々がこの銀行を信用し続けられることを確信しているのであれば、基本的にはこれで問題ありません。
Bitcoinの革新性は、誰もがBitcoinの運営主体になれる(=マイナーやフルノード運営者としてネットワークに参加する)条件を保持したまま、二重支払い問題を回避し、更に日本円やUSドルとは全く異なるBTCという新しいアセットを生み出したことです。
※ブロックチェーンネットワークとしてのBitcoinと仮想通貨としてのBitcoinを区別するため、後者をBTCと表記します。
BitcoinはブロックチェーンネットワークでありBTCは資産性のあるデータです。この仕組みの鍵となるのは、暗号学によって安全性が保証されている公開鍵と秘密鍵です。我々はBTCが分散型台帳に記録されており、そこで所有権の移転が行われていることはデータの閲覧と検証から把握できますが、分散型台帳上のデータを秘密鍵なしに書き換えることはできません。つまり秘密鍵を保持していなければ所有権の移転を実行できません。逆に、秘密鍵さえ持っていれば、国家や銀行など誰の許可や検閲も受けずに、自由に所有権の移転を実施できます。
つまり、ブロックチェーンはデータで表現されていながら、データで表現されているBTCはコピーできないのです。希少性が保証されています。ゴールドは複製できず、生産(=採掘)にコストがかかるため、工業利用のための価値以上の価格で売買されています。一方でゴールドの真贋判定は素人には難しいという難点があります。
Bitcoinは、データでありながら物質の利点を引き継いでおり、且つ暗号学の力を使うことで真贋判定が容易になりました。言い換えれば、データでありながら希少性を持ち、攻撃するよりも防御するほうが圧倒的にコストが低いということです。これが、上の表の「データの物質化」という表現の理由です。
言い換えれば、ブロックチェーンはユーザーに分散型台帳に記載されている一部のデータ(そのユーザーが一定量のBTCを保有していることを記録しているデータ)を書き換える(所有者を変更する=送金する)権利を独占的に認めているということです。
以下にインターネットとブロックチェーンの性質の違いをまとめました。
ブロックチェーンは分散型台帳技術とも呼ばれます。この分散型台帳の中に、Aさん:10BTCのように表記されています。この10BTCの所有者を、Aさん:5BTC、Bさん:5BTCと書き換えることができるのは、この10BTCの秘密鍵を持っているAさんだけです。10BTCを上限として、Aさんは自由に所有者を変更することができます。上の例ではAさんが所有する10BTCのうち5BTCをBさんに譲渡しました。
この例に注目すれば分かるように、ブロックチェーンで扱われるデータは、つまるところ分散型台帳上に記録されているデータの書き換えであることが分かります。この分散型台帳を参加者で共同管理しながら、暗号学と経済的インセンティブによって不正を防いでいるのです。これは企業向けのブロックチェーンでも同様です。
ブロックチェーンの応用範囲には仮想通貨、オフチェーン資産のトークン化、決済、サプライチェーンなど様々ですが、いずれも分散型台帳上の複製できないデータをルールに準拠した順番で処理することによって実現する新たなツールのユースケースであると理解できます。この事実を理解すれば、ブロックチェーンを使うことで、それまでは十把一絡げにしか扱えなかったデータを個別に扱うことができ、あたかもそれが物質であるかのような取り扱いが可能であることが理解して頂けると思います。

データの物質化とブロックチェーン利用について

前節では、ブロックチェーンによるデータの擬似的な物質化について簡単に解説しました。Bitcoinは誰でも運営に参加できるパブリックなブロックチェーンであるにも関わらず、特定の主体に依存することなく二重支払いの問題を解決しており、Bitcoinのネイティブコインとして内蔵されているBTCは法定通貨とは異なる性質を持っています。
ここではパブリックチェーンであるBitcoinを例に出していますが、基本的には他のブロックチェーンでも同様で、単一企業が利用するプライベートチェーンや複数企業のコンソーシアムチェーンでも同じことが言えます。
ポイントは、複製できず、それぞれに判別可能なデータをトークンやアドレスとしてやり取りしている点です。コンソーシアム形式で、複数の企業が共同でブロックチェーンを運営する場合、一つの分散型台帳を共同で運用・監視することで、ブロックチェーンという共通規格をベースにコミュニケーションしたり、不正が発生していないこと互いに検証しながらのデータ利用をしたりすることが可能になります。
この「複数の企業によって共同運用される単一の場」を運営することで得られる利益と費用のバランスが既存のものの10倍以上優れていれば時間の経過とともにブロックチェーンが採用されていきます。
このような性質を持ったブロックチェーンを利用して、貨幣やゴールドに近いものを作ったのがBitcoinです(厳密には、Bitcoinを実現するためにブロックチェーンの仕組みが考案されました)。Ethereumの場合、Ethereumブロックチェーンで構成されるWorld computerを利用するための利用料として使用されるEtherを生み出しました。Etherは貨幣やゴールドよりも石油に近い性質があります(実際、ガス代という表記が使われます)。
コンソーシアムチェーンで、サプライチェーン領域で使われるのであれば、トークンはトレーサビリティを向上させる目印として使われますし、アート領域で使われるのであれば所有証明書として使われます。いずれの場合も、トークンをコピーすることはできないため、データに与えられた個性が希釈されることはありません。

物質化の強度と分布からブロックチェーンを考える

前節まではブロックチェーンがデータに物質の性質を持たせることを説明しましたが、物質化の強度と物質化されたデータの分布はブロックチェーンの性質にとって大きく異なります。
物質化が最も進んでいるのはBitcoinです。Bitcoinは10兆円以上の時価総額であり、日本の企業でBitcoin以上の時価総額を持つのはトヨタのみです。NTTドコモやキーエンス、ソフトバンクよりも大きいのです。
BitcoinのマイニングにはASIC(特定用途向け集積回路)が使用されています。Bitcoin用のASICはSHA256という方式に特化したもので、EthereumやMoneroなどのその他の仮想通貨マイニングには使用できません。Bitcoinと同様のアルゴリズムを採用している仮想通貨にはBitcoin Cashがあります。換言すると、SHA256用のASIC資源は、BitcoinとBitcoin Cashにほぼ独占されているということです。
CPUやGPUでもマイニングは可能ですが、ASICに比べると計算速度が非常に遅いため勝負にはならず、GPUを数千台集めて、Bitcoinを採掘しようとすることに意味はありません。Bitcoinでマイニングを行う場合、それ用に作られたASICが必要であり、その他のハードウェアを使ってマイニングシェアを奪うことはできません。将来的に量子コンピュータが開発された場合には状況は変わるかもしれませんが、現時点では汎用性のあるハードウェアでBitcoinをマイニングすることはできず、これがBitcoinのセキュリティに大きく寄与しています。
Bitcoinのマイニングは有力マイナーの寡占が進んでいるとはいえ、BTCの保有や開発者の所属は最も分散されており、大企業や一国の政府であってもBitcoinを破壊することはできません。この事実は、BTC保有者にとって非常に心強いものです。
パブリックチェーンであっても、ハッシュパワーが小さかったり、時価総額が小さかったりすると、攻撃コストが低くなり、自身が保有するネイティブコインの価格が毀損される確率が相対的に高くなります。Proof of Workであれ、Proof of Stakeであれ、攻撃コストはコインの時価総額に比例していくため、最も時価総額の高いBitcoinは最も攻撃コストが高いことになります(厳密には、仕様によって攻撃コストの計算方法は変わるため、時価総額の順位と攻撃コストの順位が完全に一致するわけではありません)。
次に分布を考えてみましょう。Bitcoinはプレマインがありません。プレマインとは、一定量のコインを誰にいくら分配するかを決定しておき、最初のブロックでそれらのコインを配布する方法です。プレマインされたコインは生成コストがゼロであるため、仮に市場で価格が付けば、売却額が全て利益となります。
Ethereumの場合、約65%が最初のブロックで生成され、初期投資家や開発者に分配されました。
Bitcoinのようにプレマインなしで、新規発行分のコインが全てマイナーに分配される方式を採用しているコインは実はほとんどなく、最近だとMimblewimbleという仕組みを利用したGrinが挙げられます。
言い換えると開発チームや初期投資家が大口ホルダーとなる設計になっているものがほとんどであり、公平性や透明性、合理性の観点から批判されることが多々あります。開発資金を調達するためにはプレマインされたコインを開発チームに割り当てておき、そのコインの売却益で開発を続ける必要があるとはいえ、どの程度の資金をどのような用途のために開発チームや投資家に分配すべきかは議論が難しいのです。
開発チームや投資家への分配が多すぎれば、上場ゴールの形で分配されたコインを売り抜けることで継続的な開発なしに経済的なリターンを獲得することができますし、逆にリターンが期待できなければ、オープンソース開発へのボランティアのような形で無償労働にのみ依存した開発になってしまいます。
その意味でBitcoinは、プレマインがなく、ブロック報酬は全てマイナーに分配され、初期のコインの大部分を採掘したSatoshi Nakamoto自身は姿を消し、Satoshiが獲得したBTCも大部分が動かされてはおらず事実上死蔵しているという、複数の希少な性質を帯びているわけです。つまり、BTCは最も公平に分配された可能性が高く、開発体制も分散されており、初期の参加者がリスクに見合わないほど大きなリターンを得ているわけではないのです。
上の議論をまとめると、Bitcoinは最も攻撃コストが高く、最も公平に分配されているコインであるということです。物質化に話を戻すと、物質化の強度が高く、更に分布が散らばっていると表現できます。これらの事実はBitcoinの公共財としての性質を強化します。
特定の企業によって運営されるプライベートチェーンでも同様にデータの物質化は可能ですが、その物質化の強度と物質化されたデータの分布はBitcoinのそれとは大きく異なります。これは善悪や優劣の話ではなく、ブロックチェーンの性質が物質化されるデータのパラメータに大きく影響するということです。
Bitcoinの場合は、誰にも邪魔されない所有権の移転とその媒介となるBTCの実現という目的がありましたが、企業がブロックチェーンを利用するときには、それぞれに固有の目的がありますので、その目的に合致したブロックチェーンの使い方をすることが重要です。

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