パブリックブロックチェーンの基礎の基礎

目次

  • 仮想通貨とブロックチェーンは何を指している?
  • Q「誰もが、と言っても結局のところ誰が運営しているの?」
  • Q「そのようなコストを支払ってまでマイニングに参入する意味は?」
  • Q「それだけの報酬が得られるなら世界中の人がマイニングに参加したいはず。ブロックを生成する権利は、どのマイナーに割り当てられるのか?」
  • Q「Bitcoinのブロックチェーンを継続させるために、経済インセンティブとして使えるネイティブコインが本当に必要なのか?胡散臭い」
  • Q「ネイティブコインが必要なのは分かった。でもこのネイティブコインに価値があるかは別の話では?」
  • Q「BTCの価格付けが市場に委ねられているのであれば、BTCが今から1万円になることもありえる。そうなるとセキュリティは弱くなるのでは?」

前提

基礎講座シリーズでは「専門的なレベルまでは深堀りしたくないが、1時間だけ真剣に学んで最低限の理解を確保しておきたい」という方を対象に、ブロックチェーンを調べたり説明したりすることを専門にしている我々が情報共有を行っていきます。
今回は「Bitcoin等に使われているパブリックチェーンって何?」という疑問をお持ちの方を対象に、パブリックチェーンをベースにした仮想通貨(暗号通貨)と“ブロックチェーン”と表記されること多いプライベートチェーンの違いを明確にした上で、よくある疑問のうち半分程度を解消することを目指します。
現在、企業がメインで使っているプライベート/コンソーシアムチェーンについては別途解説を行います。

仮想通貨とブロックチェーンは何を指している?

Bitcoinをはじめとする仮想通貨はブロックチェーンの仕組みを利用していますが、ブロックチェーンは必ずしも仮想通貨を利用していません。例えば金融システムやサプライチェーンにブロックチェーンを利用する場合は基本的に仮想通貨をブロックチェーンの中に内在させる必要はありません。
仮想通貨の起源はBitcoinにあります。Bitcoinは中央銀行のような特定の組織によって運営されているわけではなく、誰もが(私もあなたも)Bitcoinのネットワークに参入し、ブロックを生成したり、データを検証したりすることが可能です。

Q「誰もが、と言っても結局のところ誰が運営しているの?」

A「専用の大規模なマイニング設備(計算マシン)を持っているマイナー(Miner)が共同で運営しています」

マイニング設備さえ用意できれば誰でもマイナーになることができるため、主要マイナーは仕様上固定されているわけではありません。ただし、多くの市場において時間の経過と共に主要プレイヤーが出揃うのと同様に、マイニングにおいても少数の主要マイナーの寡占が起きています。日本ではGMOが参入をしていますが、現時点でのシェアは低いです。
Bitcoin用のマイニングハードウェアは性能や発売時期によって異なりますが、一台あたり数万円~数十万円程度です。
より良いマシンを揃え、より安くで電気を調達できると、より安いコストでBitcoinを獲得できるため、有利な状況を作り出すことができれば、さらなる投資によってより大きなシェアを獲得することができます。大量のマイニングハードウェアを用意したデータセンターのような施設のことをマイニングファームと呼びますが、マイニングファームの運営にはマイニングハードウェアの購入や排熱の整備なども含めて数千万円程度の初期投資が必要になります。

Q「そのようなコストを支払ってまでマイニングに参入する意味は?」

A「優れたマイナーには新規発行されたBitcoinが支払われます」

私達はBitcoinをアドレスAからアドレスBにメールのように自由に送信することができます。これをトランザクションと呼びます。これらのトランザクションは定期的に一つの“ブロック”にまとめられ、既存の“ブロックたち”の先頭に“暗号学的に安全な形で”接続されます。
複数のトランザクションを一つのブロックに格納し、そのブロックを今までに生成されたブロックの連なりによって構成されているチェーンの先頭に繋げる役割を果たすのがマイナーです。マイナーはこの役割を果たすことによって、新しいブロックが生成される毎に新規発行されるBitcoinを受け取る権利を得ます。このBitcoinの市場価格が、マイニングにかかる費用よりも高い場合、マイナーはマイニングによって利益を出すことができます。
現在は10分ごとに12.5BTCが新規発行されており、1BTC=100万円の場合、12.5BTCは1250万円相当です。

Q「それだけの報酬が得られるなら世界中の人がマイニングに参加したいはず。ブロックを生成する権利は、どのマイナーに割り当てられるのか?」

A「計算競争に打ち勝って、最初に適切な答えを提示したマイナーが権利を得ます」

技術的な説明は省略しますが、ブロックを生成する権利は、計算競争の勝者に与えられます。強引にイメージ化すると以下のようになります。
「マイナーは全員、同じ太さの針を持っています。マイナーの目の前には正方形の板が一枚設置されています。この板は木で出来ていますが、一箇所だけ金で出来ている点があります。しかし表面は全て木で覆われているため、どこに金が隠されているかは事前に分かりません。マイナーは手に持った針で、板を刺し続け、金を見つけるまで続けます。金が最初に見つけたマイナーが勝者です」
より大きな計算力を保有しているマイナーは、より大きな勝率を持ちます。上の例での計算力とは「針を10秒間に何回刺せるか」です。針の大きさは同じなので、より早く刺せる人が、より早く正解にたどり着く可能性が高いわけです。
マイニングシェアの30%を保有しているマイナーが得る報酬は、長期的には全体の30%に収束していきます。
この仕組みは数学的に不正ができない形で構築されているため、計算力以外の要素で競争を出し抜くことはできません。つまり、中枢メンバーと親密な関係にあるために便宜を図ってもらえたり、利害関係を使って忖度してもらったりすることはできないということです。
マイニングによって利益が得られる限り、新規参入が起こり、コストやリスクを勘案した期待利益がゼロになるまで新規マイナーの参入が続きます。より多くの計算量が投入されればされるほど、単一の主体による攻撃は難しくなり、Bitcoinのブロックチェーンのセキュリティは強化されていきます。

Q「Bitcoinのブロックチェーンを継続させるために、経済インセンティブとして使えるネイティブコインが本当に必要なのか?胡散臭い」

A「Bitcoinの革新性は、中央銀行や認証機関など特定の組織に依存することなく、ブロックチェーンを持続的に運営できる点にあり、そのためには経済的なインセンティブが必要なのです」

例えばBTCなしで、ブロックチェーンを稼働させることを考えてみると、単一の組織や複数の組織グループが共同でブロックチェーンを運営することが考えられます。既存の金融ネットワークは銀行や証券会社によって運営されているので技術的には可能です。このブロックチェーンはプライベートチェーンと呼ばれます。
では、プライベートチェーンの“コスト”と“寿命”と“運営者”はどうでしょうか。
コストはネットワークを維持するコストです。コストが利益を上回ると利潤を追求する企業として、このネットワークに関わる理由はなくなります。
ネットワークの維持に関わるインセンティブがなくなればネットワークの寿命が短縮します。
運営者はどのようにして決めれば良いでしょうか。初期メンバーを有力企業で作り、既存メンバーの合意をもってメンバーの加入と脱退を認める方式が考えられます。これは一つの方法として有効ですが、コスト競争力のある新興企業をネットワークに加入させないインセンティブのある既存メンバーが力を持っている場合、ネットワークは高コスト体質の企業によって牛耳られてしまい、やがてはコスト増によってネットワークは寿命を迎えます。
つまるところ“コスト”と“寿命”と“運営者”はブロックチェーンの持続可能性と堅牢性に関わるものです。大事なのはセキュリティの高いブロックチェーンが持続されることであり、メンバーの繁栄ではありません。ブロックチェーンと運営者を分離して考えることは非常に重要ですが、プライベートチェーンでは実現が難しいのが現実です。
そこでネイティブコインであるBTCが導入され、誰でも参入でき、コスト競争力のあるマイナーがより多くのリターンを得られるような仕組みが作られたのです。
ただし、ネイティブコインが導入されているパブリックブロックチェーンであれば堅牢性が高く、寿命も長くなるというわけではありません。例えば開発者コミュニティが存在せず、継続的な開発が行われなかったり、マスアダプションが起こらずに、ユースケースの創出ができなかったりするとコインの価値は落ち、マイナーがコストを払ってネットワークの運営に携わる意味はなくなります。

Q「ネイティブコインが必要なのは分かった。でもこのネイティブコインに価値があるかは別の話では?」

A「その通りですが、問題ありません。問題にならないような仕組みが内蔵されています」

Bitcoinには理論的な価値の裏付けはありません。例えば株式であれば、利益をあげる企業の所有権が紐付けられているため、企業の利益から株価が算出されます。株価にも投資家の期待感が反映されるため、割安であったり割高であったりしますが、一応のベースは存在します。
Bitcoinの採掘には費用がかかりますが、費用が価値を裏付けるわけではないので、定量的にBitcoinの価格を算出することはできません。故に、せっかくブロックチェーンの持続可能性と堅牢性のためにネイティブコインを導入したのに、このネイティブコインの価値を決めるのはブロックチェーンの外側に位置する市場に依存していることになります。
ただし、BTCの価値が小さければ、マイニングに参入する業者が少なくなり、その結果マイニングの競争率が下がりますから、10万円分のBTCを手にするために1億円のコストがかかるということは(マイナーが経済的に合理的であれば)あり得ません。

Q「BTCの価格付けが市場に委ねられているのであれば、BTCが今から1万円になることもありえる。そうなるとセキュリティは弱くなるのでは?」

A「弱くなりますが、それもある種の合意です」

ここまでの話で以下のことが分かりました。
  • ブロックチェーンは持続可能性と堅牢性のためにネイティブコインが導入されている
  • ネイティブコインの価格を決めるのは市場である
  • マイナーはネイティブコインが欲しくてマイニングを行うので、どれだけ積極的にマイニングが行われるかはネイティブコインの価格によって決まる
これ以降の話を理解するには、「Bitcoinの採掘難易度は定期的に自動調整され、約10分間に1回ブロックが採掘される」仕組みを説明する必要があります。
“採掘”と表現していますが、“生成”のことです。
既に「ブロックを生成する権利を獲得するには、計算力競争に参加しなければならない」と説明しましたが、ではブロックチェーンに注がれる計算力が10倍になったら、10倍の速度でブロックが生成されるかといえばそうではありません。
短期的にはより高い頻度でブロックが生成されるようになるのですが、定期的に採掘難易度が自動で調整され、「現在、ネットワークに投じられている計算量で、10分ごとに正解が見つかる程度」の難易度に変化します。
最初の例では、「板のどこかにある一点の金を針で刺しながら見つける」ことを計算力競争のイメージとして出しましたが、採掘難易度の調整によって、この金の面積が大きくなったり小さくなったりします。面積が大きければ見つけるのが簡単になり、面積が小さくなれば難しくなります。この面積の調整をプログラムで自動に行っています。
まとめます。マイニングの採掘難易度は、過去に投入された計算量によって決まり、10分間に1回、正解が見つかるような難易度に調整されます。どの程度の計算量が投入されるかは、それぞれのマイナーのコスト競争力とBTCの市場価格によって決定されます。市場価格に理論的な裏付けはなく、市場参加者の期待によって形成されます。
採掘難易度が低ければ、比較的簡単にマイニングシェアを獲得できますから、寡占するためのコストが安くなっています。それは、セキュリティが弱くなっているとも言えます。つまり、上の説明を逆から読むと、市場価格が間接的にBitcoinのセキュリティに影響を与えていると言えるでしょう。これは決して逆ではないのです。因果関係としては、セキュリティが強固だから、市場で高い値が付くわけではありません。ただし、市場心理として計算力が強いために強固なセキュリティが確保されており、そのブロックチェーンのネイティブコインに高めの価格がつくこともあるでしょう。