パブリックチェーンとプライベートチェーンにおけるインセンティブ・必要条件・付加価値・相互運用性の違い

目次

  • 前提
  • パブリックチェーンとネイティブコイン
  • プライベートチェーンのコスト構造

前提

基礎講座シリーズでは「専門的なレベルまでは深堀りしたくないけど、1時間だけ真剣に学んで最低限の理解を確保しておきたい」という方を対象に、ブロックチェーンを調べたり説明したりすることを専門にしている我々が情報共有を行っていきます。
今回は「パブリックチェーンとプライベートチェーンの違い」を解説します。

パブリックチェーンとネイティブコイン

『データを物質化させるブロックチェーンとは何か』では主にBitcoinをはじめとするパブリックチェーンについて述べました。ここでも上の表をベースにパブリックチェーンについて概観しましょう。

ネイティブコインの意味とブロックチェーンの成立条件

パブリックチェーンは中央集権的な運営者が不在ですが、誰かがネットワークを維持しなければならないため、ブロック生成者に経済的インセンティブを与えています。このインセンティブが日本円やUSドルの形で銀行口座に振り込まれるのではなく、ブロックチェーンのアドレスに直接、そのネットワークのネイティブコインが支払われるのが大きな特徴です。
Bitcoinの場合、BTCが支払われます(※ブロックチェーンのことをBitcoin, そのネイティブコインのことをBTCと呼ぶことにします)。BTCはブロック生成者に対する報酬として支払われる他、ユーザーがBTCを送金するときに手数料としても使用されます。
パブリックチェーンは一般に、TPS(秒間トランザクション数)がプライベートチェーンよりは小さいです。これはブロックサイズに上限があり、ブロックタイムが固定されているためです。
インターネット回線にデータ通信量の物理的限界があるように、ブロックチェーンにも単位時間あたりに生成されるブロックスペースに限りがあります。Bitcoinの場合、平均して10分おきに1ブロックが生成され、1ブロックあたりの容量はBlock weightという概念で4MBです。
ブロックチェーンは台帳技術です。ブロックチェーン上での送金は、台帳データの書き換えです。書き換えはトランザクションによって行われ、ブロックのスペースを消費します。このスペースはブロックタイムごとに新しく誕生しますが、スペースの容量は一定です。多くのトランザクションが発生した場合、このスペースに対する需要が供給を上回り、緊急度の高い送金には高い手数料が付けられます。
高い手数料が付けられる理由は、マイナーは自身の経済的利益を最大化するために手数料の高いトランザクションを優先してブロックに格納し、ブロックを生成するためです。マイナーは、ブロック生成時に、ブロック報酬に加えて利用者が支払う手数料を獲得します。
上記の手数料は、送金するときに支払う手数料で、台帳の書き換え時に要求されます。

ネイティブコイン保有の手数料

では、例えばBitcoinを保有するだけで、送金しない場合、つまりSoV (Store of Value)としてBitcoinを保有し、当面は動かさないと決めている場合、この保有者は何の手数料を払わずにBitcoinのセキュリティや利便性を享受できるでしょうか。
結論からいえばNoです。Bitcoinには2100万BTCという発行上限があるため、無制限に発行され続けることはありませんが、今でも10分ごとに12.5BTCが発行されています。1BTCが100万円の場合、1日で1250万円、1年で6570億円相当のBTCが新規発行され、既存のBTCの価値が希釈されます(単なる新規発行によって時価総額自体は増えないため)。
この数字が大きいですが、Bitcoinの時価総額の3.5%程度です。つまり、BTCをただ保有しているだけの場合、年間で3.5%の価値の希釈に晒されていることになります。当然、BTCを保有している人は、このインフレを考慮しても、BTCからキャピタルゲインが得られると考えています。

プライベートチェーンのコスト構造


先程の表を再掲します。
プライベートチェーンにネイティブコインは必要ありません。なぜならブロックチェーンを使うとしても、ネットワークの維持を行うのは固定されたメンバーだからです。この固定されたメンバーが運営にかかるコストを負担します。
どのような業界でどのようなブロックチェーンの利用が画策されているかは無料でダウンロードできる業界レポートでも紹介していますが、いずれの場合も、「複数の主体が分散的に共同で運営できる統一された場」を作ることで、業務にかかるコミュニケーションコストを下げることを目的としています。
Bitcoinは国家に依存しない新しいアセットを創造し、少なくとも市場で価値がついている資産を、ネットワークへの参加にパーミッションを必要しない形で、トラスト(信用)の方向性に多様性を持たせた上で誕生させた点に特異性があります。ブロックチェーンはBitcoinを構成する要素の一つとして生まれましたが、企業向けのブロックチェーンにはパーミッションが必要ですし、トラストの扱い方も従来とは大きくは変わらず、参加メンバーの方を向いています。

情報のサイロ化を防ぐ

ちなみに一つの共通の場を作ることだけを目的にしている場合、中立的な機関を作ることでも達成できます。以前にレポートを配信した欧州のT2S (TARGET2-Securities)では各国の証券保管振替機関がT2S専用の資金口座を持っており、そこでクロスボーダーの資金決済が行われています。業務の効率化という点ではこれでも十分に思えます。
問題は金融領域以外でも、このような強い規律を持った中立機関が果たして持続的に成立するのか、各参加者がネットワークでやりとりされるデータの全てを保持しないことで情報のサイロ化が起きてしまわないか等の課題が依然として存在することです。
ドイツ証券取引所とドイチェバンクが提案した証券決済におけるブロックチェーンの応用では、オフチェーンの資産をブロックチェーン上でトークン化し、各参加者が分散的に統一の場である台帳を管理する方法が採用されています。

プライベートチェーンのインセンティブ

前置きが長くなりましたが、プライベートチェーンはこのように各業界の非効率性を改善するために使用されることがほとんどであるため、ブロックチェーンの運営を行う主体が直接的に利益を得ます。故に、それが経済的なインセンティブになる場合にのみブロックチェーンが採用されるので、別途経済的インセンティブは必要ありません。
プライベートチェーンの管理者は常に身元が明らかであり、パブリックチェーンのように身元不明の誰かに普遍的なインセンティブとしての金銭的価値を提供する必要がなく、結果的にブロックチェーンの寿命は参加者が限定されている企業連合に依存します。
誰もがブロック生成者の候補として参加できるパブリックチェーンと違い、プライベートチェーンは初期メンバーとして選ばれたり、既存メンバーに推薦されたりしなければ管理者としては参加できないため、必然的に公共性は低くなります。故に、仮にプライベートチェーンにネイティブコインが内蔵されていたとしても、BTCやETHのようなコモディティにはならないでしょう。

チェーンのONとOFFを繋ぐ

代わりにプライベートチェーンで資産性のあるものを使う場合は、BTCやETHのようにブロックチェーン上で生まれ、ブロックチェーン上で消費される地産地消型の資産ではなく、既存金融の世界で発行された証券や法定通貨ペッグ型のステーブルコインなど、ブロックチェーンの外で生まれ、資産性を持っているものをトークンとして表現して使います。
つまり、オフチェーンの資産とオンチェーンのトークンをブリッジする必要があり、その接続を保証する認証機関が必要であり、そのための法規制と監査機関が必要です。
やや話は逸れますが、BitcoinはBTCそのものに資産性があるため地産地消型であるといえるわけですが、ブロックチェーンのセキュリティを維持するためのシビル攻撃対策にはブロックチェーン外の資本である電気が大量に使われており、外部の電気を暗号学を通してブロックチェーンのセキュリティに転換しているという点に特徴があります。PoSの場合は、ブロックチェーン上で作られたネイティブコインにセキュリティを依存しているため、内部に閉じた構造になっています。
それはさておき、パブリックチェーンであってもネイティブコイン以外のアセットは、同様の規制が必要になるケースがあります。例えばUSDにペッグされたステーブルコインとしてパブリックチェーンで実利用されているUSDTやUSDCは、オフチェーン資産であるUSDをトークンとして表現したものです。現状、USDTやUSDCが既存金融と同じレベルの規制の対象になっているとは言い難く、BTCやETHの資産性に比べると、USDTやUSDCのそれは不安定なものと言わざるを得ません(価格は今のところステーブルではありますが)。

細分化されたプライベートチェーンは結局サイロ化するか

業界ごとにコンソーシアムを作り、共同でプライベートチェーンを運営したとしても、結局、参加企業の選抜が恣意的になったり、カルテルが結ばれるなどして運営が行き詰まるのではないかという懸念があります。 
また、企業間の垣根を取っ払うためにコンソーシアムチェーンを作ったのは良いが、今度は業界の垣根や国境の垣根が障壁として立ちはだかるのではないか、あるいは複数の業界に跨って事業を行う企業が増えていくことで業界別のコンソーシアムの組成が難しくなったり、一社で複数のコンソーシアムチェーンに参加せざるを得なくなり、運用コストが高くなってしまったりする可能性もあります。 
これに対してはコンソーシアムチェーン同士に相互運用性を持たせる方式や、企業利用であってもEthereumのパブリックチェーンを使う方式が考えられますが、いずれも開発段階です。パブリックチェーンを利用する場合、機密情報のやり取りにはゼロ知識証明等の秘匿化技術の実用化が前提となっているため、実利用のための全てのパーツが揃うまでにはまだ時間がかかります。 
故に、0か100かという発想ではなく、将来的な運用には柔軟性をもたせるつつも当面はコンソーシアムチェーンを利用するケースが多いです。 
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