Fusakaで何が“実務的に”変わるのか
2025年12月11日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 0.【前提整理】Fusaka以前のBlob市場は、どのような歪みを抱えていたのか
- 1. L2は「安い」から「大量業務トラフィック対応」へ移行
- 2. ETHの価値回収設計が「ようやく正常運転に戻る」
- 3. L1は“高速化競争”ではなく“安定化”を選んだ
- 4. 事業・制度サイドから見た評価
- 総括
Fusakaの技術仕様やプロトコル変更の中身については、すでに別稿で解説しているため、本稿ではあえて触れない。本稿で焦点を当てるのは、「L2を使って事業を組む側、ETHに投資・関与する側、そしてノードや清算インフラを運用する側の前提が、このアップデートでどう変わるのか」という点である。特に、清算コスト、運用安定性、検証負担、そして機関・事業者が“実務として”バリデータ運営や清算インフラに関与できる条件がどう変わるのかという観点から、Fusakaの意味を整理する。
結論
- Fusakaは、イーサリアムを「L2の実験場」から「L2を前提に業務システムを乗せられる清算基盤」へと引き上げるアップデートである。
- 処理速度を競うためのアップグレードではなく、コスト、詰まり、検証負担、価値回収という運用上のボトルネックを同時に解消しにいく“基盤調整フェーズへの本格移行”を意味する。
0.【前提整理】Fusaka以前のBlob市場は、どのような歪みを抱えていたのか
まず前提として、Fusaka以前のイーサリアムにおけるBlobの利用条件は、Dencun以降しばらくの間、「Target=3 / Max=6」という設計のまま運用されていた。この構造は、平常時は1ブロックあたり3Blobを目標とし、それを超えると混雑扱いとなってEIP-1559型の価格調整が発動し、最大6まで追加容量が許容されるという設計である。
図表1.Fusaka以前のBlobの状態
2024年末〜2025年春にかけては、平均のBlob使用量がこのTarget=3付近に長期間張り付く状態が続いた(図表1上段チャート参照)。当時のBlobは、3つ以上が送信されるとピーク負荷時のEthereumガスと同様に価格が上昇し、価格上昇と引き換えに最大6まで追加容量を確保しつつ、目標値である3Blobへの収束を促す設計となっている。
この結果、Target=3超過が恒常化したことで、Base Feeが下がる局面を失い、Blob手数料は構造的に高止まりした(図表1下段チャート参照)。重要なのは、この高騰が「Max=6に物理的に詰まったから」ではなく、「Target超過が常態化したことによる“設計通りの手数料価格上昇”」だったという点である。
この結果、Target=3超過が恒常化したことで、Base Feeが下がる局面を失い、Blob手数料は構造的に高止まりした(図表1下段チャート参照)。重要なのは、この高騰が「Max=6に物理的に詰まったから」ではなく、「Target超過が常態化したことによる“設計通りの手数料価格上昇”」だったという点である。
一方で同じ時期、Dencunによってロールアップのデータ投稿が従来のCall dataからBlobへと急速に切り替えられた結果、L2側のコストは大幅に低下した一方、実行レイヤー由来のETHバーンが大きく減少し、ネットワーク全体としては実質的にインフレ基調へと傾いた(図表2参照)。
なおこの間、Blob市場“単体”ではTarget張り付きによる価格高騰が発生していたが、それはEthereum全体のバーン増加には直結しない構造であった点が重要である。すなわちこの時期のBlob市場は、
なおこの間、Blob市場“単体”ではTarget張り付きによる価格高騰が発生していたが、それはEthereum全体のバーン増加には直結しない構造であった点が重要である。すなわちこの時期のBlob市場は、
- 「Target張り付きによるBlob手数料の高騰」と、
- 「Call dataへのデータ投稿減少によるETHバーンの低下・インフレ化」
という、二重の歪みを同時に抱える状態にあった。
この矛盾は、「手数料単価を引き上げればETHは燃えるが、L2の事業コストを圧迫する」「コストを下げればL2は伸びるが、ETHは燃えず供給が増える」というトレードオフ構造として顕在化した。その結果、単価だけを引き上げて解決するのではなく、長期的にはBlobの“流通量そのもの”を拡張し、薄利多売型の回収構造へ移行せざるを得ないという認識が市場と開発側の双方で共有されていくことになる。
2025年5月のPectraアップデートにおけるTargetおよびMaxの引き上げは、こうした方向性を将来のPeerDAS実装を見据えて先行的に反映した「前段のパラメータ調整」に位置づけられ、上記の矛盾を一気に解消する“本丸”というより、短期的な混雑緩和と段階的拡張への橋渡しとしての性格が強い。
実際、Pectraアップデート直後のBlob需要は、新しいTarget=6を大きく下回る水準にとどまった(図表1.2参照)。EIP-1559型の価格調整ロジックでは、実使用量がターゲットを下回る限りBase Feeは継続的に引き下げられるため、この期間、Blob手数料は事実上“無料に近い水準”まで急低下した。ロールアップが支払うBlobオブジェクト費用は無視できる水準にまで落ち込み、Ethereum側のデータ可用性レイヤーとしての価値回収は一時的にほぼ停止した状態となった。
この局面では、ETHのバーン量もさらに大きく減少し、ネットワーク全体としては明確なインフレ基調へと移行した。すなわち、Dencun期には「Target張り付きによる高騰」、Pectra直後には「Target未達によるほぼ無料化」という、正反対の歪みが同一の価格調整メカニズムのもとで振り子のように連続して発生したことになる。
一方でこの期間、ノード側の負担だけは一方向に増加し続ける構造も同時に進行していた。Pectra以降、ロールアップが購入するBlob数は増加した一方で、Blob手数料は極端に低下したため、ノードは40〜50GB規模のBlobデータを最低18日間保持する義務を負いながら、その負担に見合う経済的リターンをほとんど得られない状態が続いた。
このような「コストだけが増え、収益やインセンティブが伴わない」状態が長期化すれば、経済合理性に基づく健全なノード参入が鈍り、検証インフラが“善意依存”へと傾いていく。その結果、ノード運営の集中、運営品質の低下、あるいは軽量・簡易ノードの増加を通じて、ネットワーク全体の検証分散性や堅牢性がじわじわと毀損されていく「経済的セキュリティ(Economic Security)」上のリスクを内包する。
その後、ロールアップの投稿量は再び増加に転じ、平均Blob使用量は新しいTarget=6へと徐々に収束しつつある。すなわち、Pectraは「高騰→無料化→再逼迫」というサイクルを一時的に巻き戻したにすぎず、この振り子構造そのものは依然として温存されたままである。
Fusakaは、この
「Target張り付き→構造的な手数料高騰→パラメータ引き上げによる一時的無料化→再び逼迫」
という循環モデルそのものを、PeerDASを中核とする“物理レイヤー側の拡張”によって断ち切りにいく段階に位置づけられる。これは単なる価格調整や目標値変更ではなく、ETHの価値回収、ノードの経済的持続性、ネットワークの分散性とセキュリティを同時に成立させ直すための構造レベルの再設計に踏み込むものと評価できる。
ここまでで、Fusakaに至るまでのBlob市場とETH経済の歪みを整理してきた。以下では、これらの構造問題に対して Fusakaが実務レベルで何を変えにいくのか という論点に踏み込んでいく。
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