米国株式トークン化市場、Ondo Global Marketsのビジネスモデルの構造・コンプライアンス体制を読み解く
2025年09月08日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- はじめに
- Ondo Global Marketsの概要
- 提供アセットとプロダクト内容
- ユーザーにとっての仕組みとメリット
- ビジネスモデル
- DeFiとの相互運用性
- スマートコントラクトと技術的基盤
- コントラクトのロジック
- コンプライアンス体制と投資家保護
- 発行体の法的構造
- 法規制と販売形態
- 資産の保全管理
- 投資家への情報開示と監督
- 日本人の利用可否について
- 総括
- 参考文献
はじめに
本レポートは、Ondo Global Markets(OGM)がオンチェーンで米国の株式・ETFエクスポージャーを提供する仕組みを、実務の意思決定に直結する観点でコンパクトに解説します。
レポートでは、プロダクト概要から、DeFiとの相互運用性を含めたスマートコントラクトと技術基盤、コンプライアンス体制や投資家保護の状況について、ドキュメントを参照し詳述しています。
Ondo Financeの既存プロダクトについては、以下のレポートで解説しています。
Ondo Global Marketsの概要
Ondo Global Markets(OGM)は、ブロックチェーン上で米国の公開市場に上場する証券(株式やETFなど)へのエクスポージャーを提供するトークン化プラットフォームです。
米国株式市場へのアクセスが制限されがちな米国以外の投資家を主な対象とし、数千種類に及ぶ米国の株式・ETFへの投資機会をオンチェーンで提供することを目指しています。
トークン化によって伝統的な金融資産をブロックチェーン上で扱えるようにすることで、透明性・効率性・アクセシビリティといったメリットをもたらし、次世代の金融サービスの基盤となることを狙っています。
また、提供されるAPIやSDKを通じてサードパーティ開発者がOGMを組み込んだアプリケーションを構築することも可能です。
Ondo Global Markets全体像|筆者作成
OGMが発行する「Ondoトークン化株(tokenized stocks)」は、例えばエヌビディア株なら「NVDAon」という形式で命名されるERC-20トークンで、対応する実際の株式やETFと経済的価値が連動するよう設計されています。
https://app.ondo.finance/assets/nvdaon
https://etherscan.io/token/0x2d1f7226bd1f780af6b9a49dcc0ae00e8df4bdee
具体的には、各トークンは対応する実株一株分の価値と、その株式が生み出す配当を税引後ベースで再投資したトータルリターンを追跡する「トータルリターントラッカー型」です。
具体的には、各トークンは対応する実株一株分の価値と、その株式が生み出す配当を税引後ベースで再投資したトータルリターンを追跡する「トータルリターントラッカー型」です。
そのため、時間の経過とともに配当再投資分だけトークンの価値が蓄積し、必ずしも「1トークン=原資産1株」の価格にはならない点に注意が必要です。例えば配当が発生すると、その分トークンの価値に反映(再投資)され、結果としてトークン価格は基礎となる株式価格と乖離することがあります。
提供アセットとプロダクト内容
現在、OGMでは100銘柄以上の米国株式・ETFがトークン化されており、テスラやNVIDIAといった人気企業株や、NASDAQ100指数連動のQQQ・S&P500指数連動のSPYといった主要ETFが利用可能です。
https://app.ondo.finance/
利用には、アカウント作成、ウォレット接続が必要です。執筆現在は、利用申請は行えますが、実際の取引は行えません。
利用には、アカウント作成、ウォレット接続が必要です。執筆現在は、利用申請は行えますが、実際の取引は行えません。
債券や金利資産についても、直接の国債そのものではなく米国債券に投資するETF(例:米国長期国債ETFのTLT、インフレ連動国債ETFのTIP、米国総合債券市場ETFのAGGなど)がラインナップに含まれており、これらを通じて米国国債等の利回りに間接的にアクセスすることができます。
さらに今後数ヶ月でトークン化対象を何千種類にも拡大する計画があり、米国市場以外の海外株式への展開も視野に入れています。
ユーザーにとっての仕組みとメリット
Ondoのトークン化株式は、ユーザーが手軽に少額から利用できるよう設計されています。最低投資額は1ドルからで、小数点以下の端数株にあたる量のトークン購入も可能です。例えば高額な株式であってもトークンなら1ドル相当から買えるため、分散投資や細かい資金管理が容易になります。また、Mint(購入)やBurn(償還)時の手数料は一切不要で、提示された見積価格どおりの金額で売買できます。
ユーザーがプラットフォーム上でトークンを購入すると、単一のオンチェーントランザクションの中で即座に実行が完了し、トークンがユーザーのウォレットに配布されます(売却時も同様に即時決済で安定価値のステーブルコインに戻ります)。
このように発行・償還がリアルタイムかつ自動化されているため、従来の証券取引に比べて決済待ち時間がなく迅速です。
売却(トークン償還)の際にはこの逆で、トークンの裏付株式が売却されてUSDonに変換され、そのUSDonがUSDC等にスワップされてユーザーに支払われます。このUSDonはOGMプラットフォームが発行する独自のドル建てステーブルコインで、米国の証券口座に保管された実際の米ドルによって1:1で裏付けされています。
なお、売買時はプラットフォームがUSDC⇄USDonのスワップを原子的(アトミック)に処理しますが、ユーザーが任意にUSDC⇄USDonを直接スワップすることは既定では許可されておらず(ホワイトリスト要)、即時完了可否はスワッパーの在庫状況にも依存します。さらに、現時点でこのスワッパーにUIはない(コントラクト直接操作)ことも明記されています。
OGMにおけるトークンの購入フロー|筆者作成
USDonを仲立ちにすることでオンチェーン上での取引と現実世界の証券売買をアトミックに連結させ、ユーザーには一連の動作が単一のブロックチェーン取引として瞬時に完了するように見える仕組みになっています。このような設計により、オンチェーン上での取引は日本時間の月曜午前9時05分から土曜午前8時59分まで(ドキュメント規定:米東部時間では日曜20:05〜金曜19:59、24/5稼働)提供されます。土曜朝から月曜朝までの週末は完全に停止し、さらにセッションの切替時や配当処理などのタイミングで数分〜十数分の一時停止が発生する場合があります。
価格連動の仕組みもできる限り安定するよう工夫されており、流動性供給メカニズムによって実際の基礎市場に近い板厚・スプレッドでの約定を志向しています(裏で提携ブローカーを通じてリアルタイムに現物株の売買を行い、オンチェーン価格を裁定することでトークン価格の乖離やスリッページを最小化)。ただし、オーバーナイトセッションでは一般に流動性が薄く、ビッド・アスクが広がり、最大約定サイズが小さくなる場合があります。
その結果、Ondoのトークン株は他の類似プロジェクトに比べても流動性が高く価格安定性に優れるよう設計されています。
ビジネスモデル
Ondo Global Markets(OGM)のビジネスモデルは、投資家に対して「表面上は手数料無料」で利用できる仕組みを提供しながら、実際にはクオート(提示価格)と基礎資産の取得価格との差額を収益化する点に特徴があります。
具体的には、投資家が株式やETFをトークン化してミント(購入)または償還(売却)する際、OGMはミント手数料・償還手数料・管理報酬を一切請求しません。しかし、提示される価格と裏側でOndoが取得・処分する価格の間に小幅なスプレッド(流動性、市場時間帯、取引量など動的要因に応じて変化)が存在し、その差がOndo側の利益となります。
また、前述のとおりこれらのトランザクションでは必ず内部ステーブルコインであるUSDonが介在し、ユーザーがUSDCで支払う場合はアトミックにUSDonへ変換され、そのUSDonで資産がミントされます。この変換自体に明示的な手数料はありませんが、スプレッドを通じて収益が生まれる構造です。
二次市場で取引が行われる場合には、Ondoではなく取引所やDeFiプロトコル側の手数料が発生することもあります。さらに、Ondo全体の事業としては、短期米国債エクスポージャー商品(OUSGなど)における管理報酬も重要な収益源となっています。このように、OGMのビジネスモデルは「ゼロ手数料」を表向きに掲げつつ、価格スプレッドや関連運用商品のフィーによって持続的に収益を確保する設計です。
DeFiとの相互運用性
OGMの提供するトークンはDeFiとの親和性も重視されています。発行されたトークン化株式(例えばTSLAonなど)は通常のERC-20トークンと同様にウォレットで保管・送信でき、スマートコントラクトとも連携可能です。ただし、米国外での提供かつ各管轄の適格性・地域制限に従う範囲での移転・利用が前提です。
※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。