Active Validated Services Eigenlayerの期待と失望、あるいは希望に関する考察
2024年10月02日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- 導入
- Shared Securityプロトコルの目的とEigenLayerの役割
- AVSの現状と課題
- EigenLayerの「AWSモーメント」アナロジーとその課題
- AVSの多様化と具体的なユースケースの必要性
- 総括
導入
大きな注目を集めハイプを形成したEigenLayerを代表とするリステーキンプロトコルは、現在そのハイプのピークを過ぎつつあるように見えます。
この背景には、将来のトークンインカムゲインを見込んだポイントインセンティブの配布が実施されはじめ、その具現化によって得られる利益に天井、あるいはコスト・リターンの正体が明らかになってきたことが一つの要因と考えられます。
他のプロトコルによるエアドロップも残されていますが、EigenLayerを大幅に上回る時価総額を持つ見込みは現時点では薄いように見えます。
このような状況下で、Eigenlayerが本来目指していたことを再評価し、リステーキングナラティブが今後どのように変化する可能性があるかを考える意義があるように思います。
結論からいえば、Eigenlayerの将来性は、AVSの提供価値・普及が重要であり、その進展にはいくつかの課題があります。
研究が進められていますが、未成熟であり現時点では発展を要すると言わざるを得ません。しかし、既にいくつかのプロジェクトが仮説検証をはじめており、そのようなAVSがマーケットフィットしていくかどうかがEigenlayerの本来の価値を評価するために重要な点となるはずです。
本レポートでは、Eigenlayerの本来の役割、AVSを取り巻く現状と課題、今後どのようなAVSのポテンシャルがあるか、について解説を行います。
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Shared Securityプロトコルの目的とEigenLayerの役割
EigenLayerなどのプロトコルが目指していたのは、ブロックチェーンプロジェクト(以下の図でいうActive Validated Services:AVS)が独自のバリデータセットを構築せずに、既存のステーキングリソースを再利用することで、初期のセキュリティをどのように調達するかという問題を解消することです。
一般的に、Shared Security Poolという概念で説明されることがあります。全体像のイメージは以下のようになります。
これにより、新興プロジェクトはセキュリティの確保のために、独自にバリデーターの参加を促すためのリソースにかかる時間とコストを大幅に削減し、プロダクトやサービスの開発に集中できます。
EigenLayerは、オペレーター(バリデーター)とAVSを結びつけるプラットフォームを提供し、既存のセキュリティとバリデータリソースを活用します。
しかし、このモデルが真価を発揮するためには、有益なAVSの存在が不可欠です。
AVSの現状と課題
AVSは、EigenLayer上で展開されるデータアベイラビリティ(DA)レイヤー、オラクル、ブリッジなどのミドルウェアプロトコルを指します。しかし、現時点でのAVSの採用は限定的であり、以下の課題が存在すると考えています。
市場からの信頼と差別化の難しさ
既存のミドルウェアソリューションは、既に市場から高い信頼を得ています。例えば、Chainlinkのようなオラクルや、LayerZeroなどのブリッジソリューションが存在する中で、新規のAVSがこれらの領域で特別な優位性を直ちに見出すのは困難です。
現在のweb3は金融アプリケーションを中心に発達しており、セキュリティは最も重要なファクターです。そのため、十分な信頼を得られていないAVSの普及が進まず、EigenLayerのShared Securityモデルが十分に活用されていない状況です。
報酬の魅力が乏しいことがセキュリティのボトルネックに
AVSはユーザーから手数料を徴収し、その手数料をオペレーターとリステーカーに現時点では1:9の割合で報酬として分配します。
Eigenlayerが展開するEigenDAは、この報酬をETHで行うことを表明しています。報酬はAVSが調整できますが、独自のトークンの設定も行うことができます。EigenDAは、オペレーターのオペレーションコストに見合う報酬を行うことを目指しており、他のAVSのモデルケースになろうとしています。
Eigenlayerが展開するEigenDAは、この報酬をETHで行うことを表明しています。報酬はAVSが調整できますが、独自のトークンの設定も行うことができます。EigenDAは、オペレーターのオペレーションコストに見合う報酬を行うことを目指しており、他のAVSのモデルケースになろうとしています。
しかし、報酬の価値や安定性が保証されない場合、オペレーターやリステーカーを引き付けるのは難しいです。また、AVS自体が十分なユーザートラクションを持たなければ、報酬も限られたものになります。
この結果、AVSをサポートするオペレーターが集まらない、オペレーターが少ないのでデリゲートされるオペレーターが集中化するリスクがある、もしくは十分なセキュリティを提供するための担保が集まらないなどの問題も発生することになります。
EigenLayerの「AWSモーメント」アナロジーとその課題
Eigenlayerの目的を理解するうえで、わかりやすい例えにAWSとの比較があります。
2000年代初頭、Amazon Web Services(AWS)はクラウドコンピューティングを普及させ、インターネット企業の立ち上げに必要なコストと労力を大幅に削減しました。同様に、EigenLayerもWeb3における「AWSモーメント」として、分散型プロジェクトに対するセキュリティリソースの共有を通じて、ブロックチェーンエコシステムを支える役割を果たすと期待されています。
しかしながら、筆者はこのアナロジーに対して肯定的である一方、疑問を抱く部分もあります。
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