グローバル企業vs国家という観点でFacebookがイニシアチブをとる暗号通貨Libraを考察する

目次

  • 前提
  • 国家を超えるグローバル企業の象徴
  • Libraはアメリカの銀行産業の壁があったからこそ誕生している構想
  • Libraホワイトペーパー発表後の各国当局の反応
  • 総論

前提

本レポートでは、FacebookがイニシアチブをとるブロックチェーンであるLibraについてグローバル企業vs国家という観点で考察を試みます。
同プロジェクトに対する概要や技術的概観は、下記のレポートで取り扱いました。
*レポート:Facebookがイニシアチブを取る独自通貨およびブロックチェーンであるLibraの基本的要件の概観
https://hashhub-research.com/articles/2019-06-27-libra-overview
*レポート:Libraに関する技術的観点で知っておくべきポイント。データ構造・コンセンサスアルゴリズム・パーミションレス化など
https://hashhub-research.com/articles/2019-06-27-libra-overview-points
本コラムでは、当該プロジェクトに対する筆者の考察です。
本考察は2019年6月時点で明らかになっている情報を元に行っていることを免責しておきます。

国家を超えるグローバル企業の象徴

まず、Libraは、複数のグローバル企業の集まりによるブロックチェーンですが、5年後のマネタリーベースが国家級になると、いよいよ企業は国家を超えてくるだろうと推測できます。
GAFAに代表される企業の影響力は非常に大きいことは言うまでもなく、また、Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5社を合わせたキャッシュフローは、すでに日本国のキャッシュフローを上回っています。
Facebookは、いずれの国の人口よりも多い20億人以上のアクティブユーザーを抱えています。また、Amazonは、プライム会員が1億人を超えており、1億人から毎年予測可能なキャッシュフローが入ります。それは国家の徴税より前向きな課金であり、ほとんどの国家の税収より大きな規模になります。
これらは、すでに企業の力が国家に近づいていることを示していますが、Libraはこういったグローバル企業を本当の意味で超えていく可能性があります。経済力が強くない国では、その傾向はより顕著でしょう。
Libraによって5年後、途上国の法定通貨が現地で使われることが減ると予想できます。これは新しいお金が生まれると避けられない未来です。Libraとアフリカの小国の通貨なら、Libraを皆受け取りたいと思うのはイメージしやすいでしょう。ただそうするとその小国は金融政策ができなくなり、中期でこれは深刻かもしれません。
では、より先進国に対しては、どうでしょうか。
数年後、Libraがアダプションしたあとに担保資産を債券や法定通貨からFacebookやコンソーシアム企業の株式に移行していくことなど出来ることは想像に硬くありません。
Libraは裏付けでもある担保資産を「Low Risk Assets」に投資をするとしていますが、Low Risk Assetsとはいかようにも使える曖昧な定義です。もしかしたら、3年後には「Facebook株式もLow Risk Assetsです」という論理で、担保資産から法定通貨の割合が減りFacebook株が混ざっているかもしれません。
その場合、いよいよこれはグローバル企業が国家の通貨発行権に挑戦するようなシナリオになる可能性があります。
これは、Facebookらが実際にLibraに自分たちの株式を混ぜることを目論んでいるか否か、ということが重要なのではなく、Libraが広く使われる通貨のようなものになったときに、彼らには組入アセットを変更する力がある、それ自体が大きな問題になり得る可能性があります。

Libraはアメリカの銀行産業の壁があったからこそ誕生している構想

また、Libraの誕生の背景を考えてみましょう。
GAFAを含む米国IT各社は、金融業の代表である銀行を運営したいにも関わらず参入できずにいます。GAFAの中で最も金融業を行っているのはAmazonですが、同社もAmazonギフト券やクレジットカード、出店企業向けの融資にとどまっており銀行業は行っていません。
日本では比較的簡単に事業会社が銀行を運営したり買収したりする例がありますが、アメリカでは事業会社が銀行を運営することはできず、その規制はグループ会社まで及びます。Libraはそういう銀行産業の壁という規制があってこそ、生み出されようとしているイノベーションでもあります。
もしアメリカで事業会社が普通に銀行を運営できていたら、Facebookやこのコンソーシアムに参加している企業は、それぞれ銀行を運営していて、恐らくこのLibraの構想はスタートしなかったのではないかと思います。
そういった意味では、国ごとに様々な規制やペインがありますが、それを梃子(テコ)に画期的なものが生まれる例は探せばいくつもあり、Libraもその一つだといえるでしょう。
しかし、その一面がありながらも、なぜその規制が存在していたかを考えれば、事業会社が銀行業を兼業すべきではない合理的な理由、または金融事業が他業種に参入されたくはない理由のどちらか、もしくはその両方があるはずであり、今回のLibraの取り組みは相応の反発が予想されます。

Libraホワイトペーパー発表後の各国当局の反応

既に各国政府当局に準ずる機関からLibraについてのコメントは出始めています。
米FRB議長は、LibraについてFacebookと事前に協議を行っており、リスクとメリットを認識しているとコメントしています。(参照:https://www.crowdfundinsider.com/2019/06/148598-federal-reserve-chairman-jerome-powell-comments-on-libra-crypto-at-fomc-press-briefing/)
ですが、米下院の金融サービス委員会のMaxine Waters理事長は、FacebookにLibra開発の一時中止を呼び掛けています。同氏は「消費者を保護する必要がありLibraが米ドルの脅威になることを許さない」と述べています。
Facebookは7月16日に召喚され、本件についてヒアリングされる予定になっています。
フランスのFSAからは、Libraは法定通貨と置き換えるようなものであっては絶対にならないという主旨の明らかな嫌悪感が示されたコメントが出ています。
EU圏では、GAFA企業に対して風当たりが強く、Libraを簡単に許容するようには思えません。
FacebookやGoogleにアクセス制限をしている中国は言うまでもないでしょう。
インドでも使用は困難なのではないかという声も上がっています。
イギリスの中央銀行であるイングランド銀行については、適切な規制が必要としながらも、Libraに対してポジティブなコメントを寄せています。(参照: https://news.sky.com/story/bank-of-england-governor-mark-carney-welcomes-facebooks-libra-currency-11745745 )
ここで筆者が気になった点は、イングランド銀行総裁などの台詞を見るに、中央銀行のバランスシートにアクセス出来るエンティティが増えること、即ち国債の引受先が増えることを歓迎しているような印象を受けます。Libraは国債などをリザーブするので中央銀行からの視点でその点はメリットです。
一方で先述したように、Libraが将来に十分に使われる競争力がある通貨になったとき、そのリザーブから国債を減らしたり、企業の債券や株式を組み入れたりすることができる力も持ちえます。

総論

本レポートでは、グローバル企業vs国家という観点でFacebookがイニシアチブをとる暗号通貨Libraを考察しました。
こういった観点でも各国の当局から様々な反応や、メディアの論考が多くなるはずであり、注視されるべき視点であると言えます。