イーサリアムの新トランザクションメカニズム『シールドトランザクション』とは|Anders Elowsson氏の提案を解説
2025年03月11日
リサーチメモ(masao i)
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
※免責事項:このレポートは生成AIで作成されており、査読は行われていますが必ずしも正しいとは限りません。重要な情報は確認するようにしてください。
Ethereum(以下、イーサリアム)のコミュニティで提案されたMEVからトランザクションを保護するトラストレスな仕組みとして提案(2025年3月)された「Sealed Transactions(シールドトランザクション)」という新しい提案について、まだ馴染みのない方にも伝わるような解説が必要だと感じ、小難しい数式は抜きにその開発動機とメカニズム、何を目的にした提案なのかを提案者資料をもとにざっくりとまとめました。筆者自身、特定の立場やサービスを推奨する意図はなく、あくまでも一視点として情報を整理・紹介することで、読者の皆様がより公平な視点からこの仕組みを知り、考えるきっかけになればと思っています。
開発の動機:従来のトランザクションの課題とは?
イーサリアムで取引(トランザクション)を行う際、現在の方式では取引内容がネットワーク上に公開された状態で待ち行列(メンプール)に並びます。例えば、あなたが分散型取引所でトークンを交換しようとすると、その要求はブロックチェーン上で誰からでも見えてしまいます。その結果、悪意あるボットや上級トレーダーがあなたの取引情報を先回りして利用し、あなたより有利な注文を出す「フロントランニング」や、取引を前後から挟み撃ちにする「サンドイッチ攻撃」などが発生することがあります。
このように第三者にトランザクションの詳細を読まれて順序を操作されることで引き出される追加利益のことをMEV(最大抽出可能価値)と呼びます。多くのユーザーが知らないうちにこうしたMEV被害に遭っているとも言われ、ブロックチェーン上の深刻な問題となっています。
※関連有料レポート:図でわかるMEV入門
では、現状この問題に対処する方法はあるのでしょうか?現在一般的な対策としては、取引を公開メンプールに乗せずに特定のバリデータやプライベートな取引経路(例:Flashbotsのようなサービス)を利用して直接取引を渡す方法があります。こうすることで第三者に内容を見られないようにするわけですが、これは裏を返せば特定の仲介者を信頼しなければならないことを意味します。その仲介者が取引を正しく扱ってくれるか、あるいは取引を握りつぶしたり検閲しないか、といったリスクもゼロではありません。
実際、イーサリアムには現在、MEVからトランザクションを保護する信頼不要(トラストレス)な仕組みが存在せず、こうした私的な注文フロー(プライベートオーダーフロー)に頼らざるを得ない状況があります。しかしこの方法では、一部の信頼されたアクターがネットワーク上の取引情報を握ることになり、イーサリアムの分散性の低下や検閲耐性の低下を招く恐れがあります。
この課題を解決し、誰もが安心して取引できるようにするために考案されたのが、Anders Elowsson氏による新たなメカニズム「Sealed Transactions(シールドトランザクション)」です。
- 「Sealed Transactions(シールドトランザクション)」:https://ethresear.ch/t/sealed-transactions/21859
- 提案者|Anders Elowsson氏(@weboftrees):https://x.com/weboftrees
主な仕組み:シールドトランザクションはどう動作するのか?
シールドトランザクションとは、その名のとおり取引内容に「シールド」をかぶせて隠し、ブロックチェーン上で一旦封印(シール)してから後で開封する仕組みです。平たく言えば、通常の取引が誰でも中身を読める「ハガキ」のようなものだとすれば、シールドトランザクションは内容を書き込んだ紙を「封筒」に入れて投函するイメージ(図1)です。
中身が処理されるまで封筒は開封されないため、途中で他人に覗き見されることがありません。実際の提案では、暗号化されたメンプールを使って取引を扱い、あるブロックで取引のコミット(約束事としての封印)を行い、次のブロックでその内容を公開することでMEVを軽減しようとしています。
仕組みをもう少し具体的に見てみましょう。まずユーザーは、自分のトランザクションの内容(送金先や金額、コントラクト呼び出しなど)からハッシュ値という特殊な指紋のような情報を作り出し、それを取引の一部としてネットワークに送ります。これが「シールドされた取引」の送り出し段階です。
仕組みをもう少し具体的に見てみましょう。まずユーザーは、自分のトランザクションの内容(送金先や金額、コントラクト呼び出しなど)からハッシュ値という特殊な指紋のような情報を作り出し、それを取引の一部としてネットワークに送ります。これが「シールドされた取引」の送り出し段階です。
シールドされた取引にはハッシュ化された取引情報のほかに、ユーザーが自分の取引をブロック内の先頭に入れてもらうための特別な手数料(トップ・オブ・ブロック・フィー、f_ToB)も含まれています。ただし、この時点では本来の取引内容(宛先アドレスや金額など)は伏せられており、ネットワーク上の他の人からは分からないようになっています。言い換えれば、「封筒の中身」の代わりに「中身のハッシュ(封筒の外からは分からない封印)」と「優先度のための料金」だけを提出する形です。この封印済み取引がまずブロックAに記録されます(図1)。
次に、その封印された取引がブロックAに無事含まれたことをユーザーが確認したら、ユーザーは実際の取引内容(これを「アンシールド(開封)された取引」と呼びます)をネットワークに公開します。先ほど提出したハッシュ値と内容がちゃんと一致するか、ガス代の支払いが担保されているかなどをバリデータ(検証者)たちが確認します。正しく公開(開封)された取引は、続くブロックBにおいて実行されますが、その際ブロックBの中では先ほどユーザーが提示していたトップ・オブ・ブロック・フィーの額に基づいて優先的にブロックの先頭へ並べられる形で含まれます。
こうしてユーザーの取引は内容が明かされた後すぐに実行されるため、他の誰かがそれを見て差し込みの取引を入れる余地はありません。もしユーザーが所定のタイミングまでに取引を開封しなかった場合、その取引は無効になりますが、あらかじめ担保(デポジット)として支払っておいた手数料やガス代相当額は焼却(バーン)されてしまう仕組みになっています。これは、不正やミスで取引を放置しないようユーザーにペナルティと動機付けを与えるためです。
このようにシールドトランザクションでは、1つの取引を二段階に分けて扱う点が通常のトランザクションと大きく異なります。最初のブロックで「取引があったこと」だけをコミットし(内容は隠す)、次のブロックで実際の内容を公開して処理するという流れになっているのです。言い換えれば、「今からこんな取引を出しますよ」という宣言と保証だけ先にチェーン上に載せておき、詳細は後から明かすというコミット&リビール(Commit & Reveal)方式になっています。この仕組みにより、処理前に取引内容が漏れることがないため、悪意ある第三者は取引に介入できなくなります。
実現されること:ネットワークやユーザーへのメリットは?
シールドトランザクションによって期待される最大のメリットは、ユーザーの取引がMEVから保護されることです。取引内容がブロックに取り込まれるまで秘匿されるため、先述したようなフロントランニングやサンドイッチ攻撃を防ぐことができます。ユーザーにとっては、例えばDEX(分散型取引所)でのトークンスワップでも、途中で価格を操作されて損をするリスクが減り、より公正なレートで取引できるようになるでしょう。事前に設定したトップ・オブ・ブロック・フィーは取引の優先度を決めるために使われますが、この料金は焼却される設計であるため、誰か特定の利益者に渡るものではありません(言い換えれば、悪意ある人がその情報を利用してもうける余地がなくなるのです)。
さらに、この仕組みはイーサリアムのプロトコルレベルで提供される信頼不要な保護手段である点も重要です。従来必要だったような特定のバリデータやプライベートな取引経路への依存を減らせるため、ネットワーク全体の非中央集権性を維持しつつユーザーが安心して取引できる環境づくりにつながります。要するに、シールドトランザクションはブロックチェーン上に「みんなで使える透明な金庫」を用意し、その中でだけ取引内容を一時的に秘密にできるようにするイメージです。これによって取引の公平性が保たれ、結果的にネットワークの健全性とユーザー体験の向上が期待されています。
もっとも、シールドトランザクションはまだ提案段階のメカニズムであり、実現するためにはプロトコルの改良やハードフォークが必要になるでしょう。そのため実際にイーサリアムで使えるようになるまでには議論と検証が重ねられる必要があります。しかしアイデアとしては、イーサリアム研究者コミュニティでも注目され始めており、他の暗号化メンプール案(例えば閾値暗号学を用いるShutterize案など)と並んでMEV問題を解決する有力なアプローチの一つとみなされています。今後このシールドトランザクションの概念が発展し、採用されれば、より安全で公平なブロックチェーン取引が誰にとっても当たり前になるかもしれません。公正な未来の取引ネットワークに向けたこの試みに、ぜひ注目してみてください。
参考文献・情報源:Anders Elowsson氏「Sealed Transactions」提案 (Sealed transactions - Proof-of-Stake - Ethereum Research)