金融を消さず、役割を組み替えるオンチェーン化|金融機能を「どのLayerに置くか」を競う時代へ:リサーチチームが選ぶ今週の注目トピック 2026年9月28日号

2026年09月28日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • 今週のインサイト
  • 今週1週間分のニュースを紹介
    • ▍AIが削る「無知コスト」と金融仲介の情報格差
    • ▍RWA時代に再評価されるDeFi金融プリミティブの本命
    • ▍ステーブルコインからRWA・プライバシーへ連なる金融オンチェーン化論
    • ▍トークン化株式と永久先物が進める取引所の総合金融化
    • ▍韓国クリプト課税で問われる「税率」より制度の実装可能性
    • ▍弱気相場でも縮まなかったクリプト実需とブラジル首位
    • ▍銀行に「閉じたブロックチェーン」は本当に必要なのか
    • ▍RWA永久先物が1000億ドル市場へ拡大するオンチェーン取引
    • ▍商品貿易金融をUSDC利回りへ変えるKaminoのRWA設計

前提

本レポートでは、最新のクリプトやWeb3市場、オピニオンに関する記事やスレッドをまとめています。各記事の要点を把握し、トレンドやインサイトを効率的にキャッチアップできる内容となっていますので、ぜひご活用ください。

今週のインサイト

今週のトピックから見えてくるのは、金融のオンチェーン化が、既存の金融機能を消すのではなく、その役割分担を組み替え始めていることです。株式や国債をトークン化すれば終わりではなく、その周囲には板取引、RFQ、固定金利融資、レポ、オプション、FX、プライバシー、税務といった仕組みが改めて必要になります。取引所もクリプト専業から株式・商品・デリバティブを扱う総合市場へ広がる一方、「トークン化株式」と呼ばれる商品でも株主権や償還条件は大きく異なります。また、AIによって情報格差が縮小すれば、単なる知識仲介の価値も低下します。つまり今後問われるのは、金融機能をなくせるかではなく、信用、執行、情報、規制、権利を誰がどのLayerで担うのかです。よって今週は、ブロックチェーンが金融を代替するというより、金融の構成要素を分解し、再配置する動きが鮮明になった1週間だったといえます。

今週1週間分のニュースを紹介

▍AIが削る「無知コスト」と金融仲介の情報格差

要約

本稿は、金融、法律、デザインなどの専門領域で、知識がないことによって余計な手数料や費用を支払う状況を、著者が挑発的に「Retard Premium」と呼び、生成AIがその情報格差を縮小する可能性を論じたエッセイです。
出発点は、著者のパートナーの母親が銀行から提示された投資商品の手数料でした。債券商品に0.6%の手数料、別の商品には2.5〜3%の初期手数料と年1.2%の管理手数料が設定されており、著者は、同様のインデックス商品へ自分でアクセスできれば大幅に低いコストで済むと批判します。
こうした「知らない人ほど高く払う」構造は金融だけではありません。弁護士、デザイナー、各種サービスでも、適正価格や作業内容を知らなければ提示条件をそのまま受け入れやすい。著者は、生成AIによって専門知識の入口へ低コストで到達できるようになったことで、この「無知コスト」が縮小し始めていると捉えています。

重要ポイント

著者が問題視しているのは、単に手数料が高いことではなく、「利用者が比較できないこと」を前提に成立する価格差です。
たとえばCoinbaseでも、通常の購入画面を使う場合と、上級者向け取引画面から自分で注文する場合ではコストが大きく異なると著者は指摘します。金融サービスでは、仕組みを少し理解するだけで同じ経済的結果をより低い手数料で得られる場合があり、その差額が知識不足に対する事実上の追加料金になっているという見方です。
生成AIの価値は、この差をゼロに近づけることにあります。専門家になる必要はなくても、「これは何をしているサービスなのか」「一般的な相場はいくらか」「自分でもできるのか」といった基本事項を事前に確認できれば、提示された条件を無条件で受け入れずに済みます。
著者自身も、Claudeを使って株式ポートフォリオを構築したり、資産管理ダッシュボードを作ったり、デザイン制作の初期工程を自分で行ったりすることで、以前なら専門家へ全面的に外注していた作業を自力でかなりのところまで進められるようになったとしています。

読みどころ

本稿で特に興味深いのは、AIの価値を「専門家の代替」ではなく、「専門家と対等に話すための最低限の知識を得る装置」と捉えている点です。
著者は、AIに答えを聞いただけで理解した気になる危険性も認めています。重要なのは、質問を繰り返し、自分の言葉で説明できるところまで理解を深めることです。AIは知識を与えてくれますが、本当の優位性は「分からないことを分かるまで掘る能力」にあるとしています。
その意味で、今後価値が高まるのは単なる知識量よりも、自ら調べ、比較し、質問し、実行する「高い主体性」です。AIによって多くの既知の問題には解決策へ到達しやすくなったため、「答えを知っていること」以上に「必要な答えへアクセスできること」が差別化要因になるという考えです。
さらに著者は、その能力自体を他人へ提供することで新しい小規模な仕事も生まれると見ています。自分が専門家でなくても、AIを使って情報を整理し、周囲の人が不要な手数料やサービスを避けるのを助ければ、それ自体が価値になるという発想です。

示唆

本稿の最大の示唆は、生成AIが既存産業の「情報の非対称性」によって維持されてきた利益率を圧縮する可能性です。
銀行、法律、デザイン、コンサルティングなどでは、専門知識へのアクセスコストそのものが価格の一部になってきました。AIによって利用者が事前調査、相場確認、比較、草案作成まで自分で行えるようになれば、専門家には単なる情報提供ではなく、本当に高度な判断や最終品質が求められるようになります。言い換えれば、「知らないから払うお金」が減り、「専門性そのものに払うお金」の比重が高まります。
一方、著者の主張をそのまま「専門家は不要になる」と読むべきではありません。金融商品、税務、法律などは個別事情によって結論が変わり、AIの回答にも誤りがあります。著者自身が指摘するように、最大のリスクはAIから説明を受けただけで理解したと思い込むことです。
また、銀行商品の手数料が割高だったという個人的な事例や、AIを使って自分で作業できた経験は、すべての専門サービスが不当な仲介料を取っていることを示す証拠ではありません。本稿は体系的な市場分析というより、「AIによって消費者が価格や専門知識を検証しやすくなった」という体験ベースの論考です。
それでも、「AIによって誰もが専門家になる」のではなく、「専門家に丸投げする前に0から1まで自分で理解できる」という視点は重要です。情報へのアクセスが安くなるほど、今後の差は知識の有無よりも、疑問を持ち、自分で調べ、必要なら専門家へ適切な質問を投げられるかどうかに移っていく、というのが本稿の中心的なメッセージです。

▍RWA時代に再評価されるDeFi金融プリミティブの本命

要約

本稿は、Multicoin Capitalが「DeFi 2.0」という言葉で、RWAのオンチェーン化によってDeFiの中心的な金融プリミティブが変わると論じたものです。
DeFi 1.0は、BTC、ETH、SOL、HYPEのような高ボラティリティかつ無期限のネイティブ資産を前提に発展しました。そのため、AMM、永久先物、変動金利型レンディング、過剰担保型ステーブルコインなどが合理的でした。匿名ユーザーでも使え、流動性の薄い新規トークンでも簡単に市場を作れることが重要だったためです。
しかし、国債、株式、社債、商品、為替などのRWAは性質が異なります。価格変動が小さく、スプレッドが狭く、満期やキャッシュフローがあり、信用力の高い担保や実名の借り手も存在します。Multicoinは、こうした資産が増えるほど、板取引、RFQ、固定金利融資、レポ、オプション、期間付き先物、ダークプール、ポートフォリオマージンなどが重要になると主張しています。

重要ポイント

DeFi 1.0の仕組みは非効率だったのではなく、当時存在した資産に適していたというのが本稿の基本認識です。ミームコインでは数%のスリッページより値動きの方が圧倒的に大きいため、AMMの簡便性が優先されます。一方、国債やFXでは10bpsが取引収益の大部分を左右することもあり、執行品質がより重要になります。
そのためRWAでは、CLOB、RFQ、プロのマーケットメーカーが価格を提示するpropAMMなどが適しやすくなります。同様に、株式など比較的低ボラティリティの資産が増えれば、カバードコール、カラー、下落保護、ボラティリティ取引などオプション市場の有用性も高まるとしています。
信用市場でも変化が起こります。変動金利・無期限の融資は、短期のレバレッジ需要には合いますが、企業が3年間の資金調達をする場合には不向きです。固定金利・固定期間型市場が広がれば、3か月、6か月、1年といった期間ごとの金利が形成され、オンチェーンでもイールドカーブが生まれる可能性があります。

読みどころ

本稿で特に興味深いのは、「以前失敗したDeFi商品は、設計が間違っていたのではなく、対象資産が早すぎた」と捉え直している点です。
たとえば、FriktionなどのオプションヴォールトはSOLのような高ボラティリティ資産では使い勝手が悪かったものの、株式ならカバードコール戦略として自然です。Pendleの元本と利回りの分離も、これまではステーキング報酬やポイントが主対象でしたが、今後は国債金利、配当、信用スプレッドなどへ応用できます。
同様に、Morpho Midnightの固定期間融資、Pendle Borosの金利デリバティブ、RenegadeやSilhouetteの非公開取引、Project 0の統合マージンなど、既に存在する仕組みの対象市場がRWAによって大きく拡大するという見方です。
特にポートフォリオマージンでは、国債と金利先物、株式とオプション、商品と期間付き先物など異なるリスクを相殺できるようになれば、複数の似たクリプト資産をまとめる現在よりも資本効率改善の効果が大きくなります。

示唆

本稿の最大の示唆は、RWAの本当の成長余地が「資産をトークン化すること」ではなく、「その資産の周囲に金融市場を再構築すること」にあるという点です。
たとえばミームコインは現物、永久先物、レンディング程度で完結しやすい一方、国債なら現物取引、レポ、担保利用、金利デリバティブ、期間付き先物、構造化商品まで派生します。株式も現物だけでなく、証券貸借、オプション、先物、カバードコール、指数商品、ポートフォリオマージンへ広がります。つまり、オンチェーン化される資産総額が増えるだけでなく、「1ドルの資産から生まれる金融活動」そのものが増えるという考えです。
その価値は複数の層で捕捉される可能性があります。L1・L2は決済や注文更新によるブロックスペース需要を獲得し、取引所や融資市場は手数料や信用スプレッドを得ます。さらに、複数市場の担保や執行をまとめるオンチェーン版プライムブローカーや、顧客との接点を持って注文フローを配分するアプリも重要になります。
一方、本稿はMulticoin Capital自身がDeFi 2.0領域へ積極投資している立場からの投資論です。ExponentやProject 0などポートフォリオ企業も具体例として登場しており、「RWAが大規模にオンチェーン化する」「既存プリミティブの市場規模が急拡大する」という前提には強い方向性があります。
それでも、「DeFiの次の進化は新しい発明よりも、資産の性質に合った金融市場への再設計になる」という視点は重要です。RWAの第1段階が資産のトークン化だったとすれば、第2段階は、その資産を借り、貸し、ヘッジし、担保化し、組み合わせるための市場構造をオンチェーン上に作ることだというのが本稿の中心的な主張です。

▍ステーブルコインからRWA・プライバシーへ連なる金融オンチェーン化論

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