Polygonのガス価格上昇をどう読むか――予測市場需要、処理可能量の拡張、パブリックチェーン手数料の不確実性
2026年09月25日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)
目次
- Polygon上の手数料は、どのように計算されるか
- まず、Polygonチェーン全体でガス価格は上がっていたのか
- JPYCの直接送金では、実費はどれだけ変わったか
- まず、各局面でgasを多く使った宛先を特定する
- 対象のPolymarketコントラクトは複数あり、途中で切り替わっている
- チェーン全体で、平常時のgasを誰が使うようになったのか
- 総括:需要の変化は、共有ネットワーク全体へ波及する
- 調査方法と限界
- 参照先・再現データ
調査対象:Polygon PoSのガス価格・ブロックスペース利用(2025年1月1日〜2026年9月22日)
JPYC標本:今回は現行のJPYCコントラクト(0xE7C3…3c29)の直接ERC-20 transferのみを対象とする(2025年8月以降)。旧前払式JPYCは契約と利用期間が異なるため対象外とした。
JPYC関連のSNS投稿を眺めていると、Polygonチェーンの手数料が高かったという趣旨の言及を見かけた。その投稿だけでは、何と比べたのか、どの操作で支払ったのか、いつの話なのかが分からない。したがって、ここから手数料の高低を結論づけるつもりはない。ただ、春先にPolygon上でNFTをmintしている事業者からも、最近はガス代がかなり高いという話を聞いていた。思い返せばそのとき、チェーン全体を少し見ただけでも、予測市場関連のコントラクトが相当量のgasを使い、同時にPolygon側が処理能力を上げようとしていることは見えていた。
しかし、ある画面で大口利用者を見つけたことと、それがガス代上昇を説明することは別である。大口アプリがいつ、どの程度ブロックスペースを使うようになったのか。ネットワークはその間にどれだけ拡張されたのか。そして、利用者が実際に払う費用は、以前と比べてどれほど変わったのか。気配で済ませず、そこを一度きちんと分解しておきたかった。
本メモは、そのための一次調査である。主題はJPYCではなくPolygonのガス代であり、JPYCの直接送金は、ネットワーク側の変化が小さな決済操作にどう表れるかを見るための標本として使う。ここで書くのは完成した因果推定ではない。Polymarketがガス価格を何gwei押し上げたかまでは推定していないし、内部callを含む全アプリの利用量を帰属させてもいない。それでも、共有ブロックスペースの使われ方が変われば、「低コストなチェーン」という前提の中身も変わる。その変化を、観測できた範囲で追っていく。
Polygon上の手数料は、どのように計算されるか
Polygon上でJPYCのようなトークンを動かすとき、利用者が払うネットワーク手数料はJPYC建てではなく、POL(旧MATIC)建てである。取引が確定した後の実際の支払額は、transaction receiptに記録される二つの値から計算できる。
実支払額(POL) = gasUsed × effectiveGasPrice
円換算の手数料 = 実支払額(POL)× 取引日のPOL/円レート
gasUsedは、その取引を実行するために実際に消費した計算量である。トークンを一つのアドレスから別のアドレスへ移すだけなら比較的小さいが、承認、交換、入出金、スマートウォレット経由の実行、NFT mintのように呼び出す処理が増えれば大きくなる。これが、同じ「送金」という言葉でも費用が異なり得る一つ目の理由だ。
effectiveGasPriceは、取引が実際にブロックへ取り込まれたときの、一gasあたりの最終単価であり、gweiで表される。EIP-1559型の取引では、ブロックごとに決まる基本料金と、取引を先に取り込んでもらうための優先料金を合わせたものがこの単価になる。ウォレットは支払ってよい上限をあらかじめ指定するが、今回の集計に用いたのはその上限ではなく、receiptに記録された最終単価である。EIP-1559の仕様とEthereumのgas解説は、この取引形式の用語と計算を説明している。
ネットワークが一時に処理できる量も、当然この単価に影響する。一つのブロックに入れられる計算量の上限をblock gas limit、ブロックを作る間隔をblock timeと呼ぶ。本メモでは後段で、block gas limit ÷ block timeを「一秒あたりの最大処理可能量」として使う。先に必要なのは、個別取引の実費がgasUsed × effectiveGasPriceで決まること、前者は操作の複雑さ、後者は共有ネットワークの状態を反映すること、この二点である。
まず、Polygonチェーン全体でガス価格は上がっていたのか
出発点になった言及の真偽を判断したり、後で費用の具体例として用いるJPYCの直接送金を見たりする前に、まず2025年1月から2026年9月までのPolygon全体の日次ガス価格を確認した。図1の上段は日次平均ガス価格、下段は一秒あたりの最大処理可能量である。下段を一緒に置いたのは、ガス価格の変化を需要だけで説明せず、ネットワーク側が処理可能量を変えた時期も同時に読むためである。
2025年前半の価格帯は低い。年後半に入ると急騰日がまとまって現れ、2026年1〜2月には日次平均でも1,000 gweiを大きく超える日が出た。その後、極端な急騰は落ち着いた。これは需要が自然に消えたとだけ読むべきではない。Polygonは、2026年に一つのブロックへ入れられるgas上限を段階的に引き上げ、ブロック生成間隔も短縮した。図1下段の一秒あたりの最大gas枠が約20Mgas/秒から100Mgas/秒超へ上がっているのは、その変更を反映している。Polygon自身も、需要増加、とりわけ予測市場の大規模利用を見据えて処理能力を高めたと説明している。2026年2月の説明と、同年6月の技術対応の説明を参照されたい。
注:block gas limitの引き上げとは別に、2026年3月にはそれまで実効容量を名目上のgas上限より低く制限していた料金計算の仕組みが撤廃され、需要急増時にpriority feeが急騰しやすかった構造自体も変わっている。2026年3月の公式説明を参照。以降「処理可能量の拡大」と述べる箇所は、断りがない限りblock gas limit・block timeで決まる物理的な処理枠を指し、この料金計算ルールの変更とは区別する。
ただし、山が落ち着いた後も、2026年半ば以降のガス価格は2025年前半の低い帯に戻らず、おおむね数百gweiの帯にとどまっている。そこで以降の分析では、図1から次の三つの観測期を分けて用いる。① 2025年の低価格期――急騰前の通常的な低いガス価格の時期、② 2026年1〜2月の急騰日――日次平均ガス価格が突出した日、③ 処理可能量の拡大後の直近――上限引上げとブロック間隔短縮が段階的に実施された後、急騰は落ち着いたがガス価格の水準は以前より高い時期、である。
つまり、これは「普段は安いが、たまに異常に高い」というだけの変化には見えない。2025年後半から2026年初の急騰を挟み、通常時に支払うガス価格の水準自体が一段上に移ったように見える。では、その変化は利用者の実費に現れているのか。次に、この三つの観測期でJPYCの直接送金を比べる。
JPYCの直接送金では、実費はどれだけ変わったか
JPYCをコントラクトへ直接送るERC-20 transferだけを取り出し、前節で定義した三つの観測期を比べた。見る操作を一つに固定したのは、gas価格の変化と、取引そのものが複雑になったことを混ぜないためである。
換算時点に関する注記:Polygonscanの取引ページに併記されるUSD額は、閲覧時点のPOL/USD評価であり、取引時点のUSD額ではない。そのため本表と以下の検算では、receiptに記録されたPOL建て手数料に、各取引日のPOL/USD日次値とUSD/JPY日次値を掛けている。POL価格が取引後に大きく動いていれば、Polygonscanの画面表示と当時のUSD換算額は大きく乖離し得る。
2025年にガス価格が低かった時期と比べると、急騰日の中央値は約4.8倍、処理可能量を拡大した後の直近の中央値も約4.5倍である。Polygon全体で見えた価格水準の変化は、直接送金の実費にも素直に現れている。
もっとも、単純な直接Transferに限れば、急騰日の最大値でも約6円である。相対的に上がったことは明らかだが、これだけをもって「直接JPYC送金が決済として高額になった」とまでは言いにくい。むしろこの結果は、「Polygonの手数料が高い」と感じる操作は、送金以外の処理を含んでいる可能性を示す。承認、スワップ、入出金、スマートウォレット、NFT mintでは、同じgweiでも消費するgas量が大きい。円換算にはPOL価格と為替も効く。今回の標本は、直接Transferという一つの操作でネットワーク側の変化を掴むためのものなので、すべてのJPYC操作や個別の体験へ一般化してはいけない。
検証可能性のため、標本内の最大取引も残しておく。①は2025年10月31日の取引で、実費は0.03652 POL、同日のPOL/USDは0.18、USD/JPYは154.18円であり、計算値は0.00657(¥1.01)となる。②は2026年1月6日の取引で、0.27630 POL、0.13、156.44円、計算値は0.03592(¥5.62)。③は2026年9月17日の取引で、0.10910 POL、0.10、155.69円、計算値は0.01091(¥1.70)である。いずれも抽出標本内の最大値であり、全期間の最大値ではない。なお、換算は各取引日のPOL/USDとUSD/JPYの日次値を用いた。探索画面に表示されるUSD額ではなく、この換算値を表と本文の基準にしている。
ここまでで、「Polygon全体のガス価格は以前より高い水準に移り、その変化は単純な直接送金の実費にも出ている」ことは確認できた。次の問いは、その水準を変えたチェーン全体の需要と、Polygon側の対応である。
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※免責事項:本レポートは、いかなる種類の法的または財政的な助言とみなされるものではありません。