【論考】最も可能性の高い未来に従うな|予測市場を「未来をつくる装置」に変える

2026年09月17日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • 前提
  • 予測市場は「未来の天気予報」なのか
  • 予測が未来を変えてしまう
  • 「何が起きるか」から「何をすれば起きるか」へ
  • 「最も可能性の高い未来」に従ってはいけない
  • 考察|予測市場は「未来のプロトタイピング装置」になり得るのではないか
  • 総括
  • 参考文献

前提

予測市場を語るとき、どうしても「世論調査より当たるのか」「専門家より正確なのか」といった予測精度の話に目が向きがちです(もちろん、それ自体は重要です)。Polymarketのような予測市場では、参加者の売買によって形成された価格が、その出来事が起こる確率として表示されます。このように、ばらばらだった人々の予想を、一つの数字に集約して見せてくれるのが予測市場の醍醐味の一つだと言えるでしょう。
ただ、この「未来を数字にする」という便利さを見ていると、少し別のことも考えたくなります。
SF作家の樋口恭介氏には『未来は予測するものではなく創造するものである』という著書がありますが、同書で語られるSF思考(と銘打たれているが、実際にはその射程はビジネスにも広がっている)も、ひとつの未来を正確に言い当てるためのものというよりも、複数の「ありうる未来」を描き、その中から自分たちが望む未来を考えるための方法として位置づけられています。
そして、この発想を現在の予測市場に重ねてみると、その見え方も少し変わってきます。つまり、重要なのは「どの未来が当たるのか」だけではなく、示された未来を見て、私たちがその後どうするのかということです。
予測市場を未来の「答え」を早く知るための道具と考えるのか。それとも、未来について考え、選び、場合によっては変えていくための道具と考えるのか。予測市場の面白さは、実はこの後者にあるのではないか。そうした問題提起を踏まえて本稿では、予測市場を「未来を当てる装置」としてだけ見るのではなく、未来をつくるための道具として捉え直すことができないかを考えてみます。

予測市場は「未来の天気予報」なのか

出典:https://polymarket.com/ja
ここでは、これまで筆者が予測市場に関するレポートでたびたび取り上げてきたPolymarketを、今回も例に考えてみたいと思います。さて、Polymarketでは、参加者の売買によって形成された価格が、そのまま出来事の発生確率として表示されます。たとえば「Yes」が0.79ドルなら、市場はその出来事が起こる可能性をおおむね79%と見ている、という具合です。
こうした仕組みのおかげで、私たちは大量のニュースや意見を一つひとつ追わなくても、市場がいまどちらの未来を有力視しているのかを数字で把握できるため、現代の新しいメディアになるのではないかとも期待されています。
ただし、画面に表示された確率を、そのまま「未来の答え」と受け取るのは少し危険だというのが、執筆時点における筆者のスタンスです。
そもそも「市場価格」というのは、参加者が持つ情報だけで決まるものではなく、その時点における需給や流動性、注文の大きさなどによっても動きます。実際、2024年の米大統領選をめぐるPolymarketでは、あるトレーダーがトランプ氏の勝利に300万ドルを一度に投じようとしたことで、一時的にオーダーブックを食い尽くしたことがありました。その結果、大きなスリッページが発生し、約27万ドル分が99.7%相当という極端な価格で約定しています。しかし、その後は裁定取引によって、それまでの約64%の水準へすぐに戻りました。これは市場参加者全体が「トランプ氏の勝率は99.7%だ」と考えたというより、大口注文と薄い流動性によって、一時的に極端な価格がついた事例と見る方が正確です。(参考:Polymarket claims no evidence of market manipulation in US election bets, despite slippage issues: analysts - The Block)
とはいえ、本稿で考えたいのは、市場価格の精度や流動性の問題だけではありません。もう少し根本的な違いがあります。
というのも、天気予報で「明日は70%の確率で雨が降る」と聞いて、私たちが傘を持って出かけても、それによって雨雲の進路が変わることはありません。私が折りたたみ傘を鞄に入れたところで、雨雲が「あ、準備しているなら今日はやめておこう」と上空で引き返してくれるわけでもありません。ところが、選挙や政策、企業の経営判断となると話は変わります。なぜなら、「候補Aが70%で勝ちそうだ」「この事業の成功確率は20%しかない」といった予測を見た人が、その後の行動を変えるからです。
支持者が投票に行くかもしれませんし、寄付する人が増えるかもしれません。企業であれば、予算を追加することもあれば、逆に撤退を決めることもあります。そうした行動の積み重ねは、やがて予測されていた結果そのものにも影響していきます。
つまり、社会についての予測では、「未来を予測する人」と「未来をつくる人」をきれいに分けることができません。
予測市場の数字が精緻になればなるほど、そこに完成済みの未来があり、市場がそれを少しずつ発見しているようにも見えます。しかし、選挙も企業もテクノロジーも、まだ誰も知らない未来へ向かって動いている途中です。そして、その数字を見ている私たち自身も、その未来を動かす側にいるということを忘れてはならないのです。
予測市場を「未来の天気予報」と同じように扱えない理由は、まさにここにあると筆者は考えています。

予測が未来を変えてしまう

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