NEARの『インフレ半減』――価格安定か、分散性崩壊か

2025年10月27日
この記事を簡単にまとめると(AI要約)

目次

  • NEARの出発点:ETHキラーから始まり、Solana躍進の陰に埋もれた「次世代L1」
  • NEARの転換期:2024年、NEARは「次世代L1」からDA・AI基盤へと進化
  • 市場評価を取り戻すための直球策――インフレ抑制
  • インフレ抑制案――「Halving Upgrade」の概要と直面している課題について
  • 残り二つの提案「小規模バリデータ支援とveNEARインセンティブ強化」について、の現状と課題の整理
  • 総括:これは単なるアップグレードではなく、NEARというネットワークそのものの持続性を試す分水嶺
NEARは2020年のメインネット稼働から、すでに約5年が経過。
 「ETHキラー」の一角として期待された出発点から、いまやクロスチェーン流動性、プライバシー資産、そしてオンチェーンAI経済の土台へ――役割は大きく広がりました。節目の5周年を機に、エコシステムは新たなトークノミクスを提示しています。
今回の柱は三つです。
  1. インフレ率の抑制:現行約5% → 2.5%へ。
  2. 小規模バリデータ支援
  3. veNEARインセンティブ強化
しかし、インフレ抑制は万人にとって「善」ではありません。歓迎する立場もあれば、痛みを受ける立場もある。とりわけバリデーターやステーキングプロバイダーにとっては、インフレ率の半減はすなわち報酬の半減(※1)を意味します。反発の声が上がるのは必然でしょう。
※1.年間インフレ率5%のうち、9割がバリデータへの報酬、残り1割はプロトコル/トレジャリーに分配されます。
本稿の論点はシンプルです。
「インフレ抑制策は果たして受け入れられるのか。それとも、フォークのように望ましくない結果を招くのか。」
この問いに解像度を与え、NEARの行方を見通すことが本稿の狙いです。
 そのために、以下の流れで論じていきます。
  • これまでの戦略の軌跡を手短に振り返る
  • 現状の課題を洗い出す
  • その帰結としてのインフレ抑制策を整理する
  • さらに利害関係者の立ち位置を描き出す
では、なぜNEARはいま、この提案に踏み切ったのか。
答えを探るために、まずは出発点から見ていきましょう。

NEARの出発点:ETHキラーから始まり、Solana躍進の陰に埋もれた「次世代L1」

図表1.ETHキラー銘柄の時価総額の変化[2021年→2025年10月現在]
NEARのメインネットが稼働したのは2020年後半。
売り文句は明快でした。Nightshadeシャーディングによる高いスケーラビリティ、高速かつ低コストのトランザクション処理。そしてRustやAssemblyScriptで書ける開発者フレンドリーな環境。
当時はSolana(2020年前半ローンチ)、Avalanche(同年後半ローンチ)、さらに先行して存在感を確立していたPolkadotと肩を並べ、「次世代L1」として注目を浴びました。特にSolanaはNEARと同時期に登場した直接のライバル。比較は避けられませんでした。
しかし結果は明らかです。(図表1参照)
SolanaはDeFi、NFT、ユーザーベース拡大で圧倒的な成功を収め、時価総額を急拡大させました。一方でNEARはその影に隠れ、次第に存在感を失っていきます。
数字は雄弁です。
  • Solana時価総額:およそ1,060億ドル(106B)
  • NEAR時価総額:およそ29億ドル(2.9B)
その差はおよそ37倍。 2025年10月現在のNEARの市場規模は、Solanaのわずか1/37にすぎません。

NEARの転換期:2024年、NEARは「次世代L1」からDA・AI基盤へと進化

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